序章 2
『カルチャー・カンパニー』(以下、KK)
戦後に創業後、今日までエンターテイメント市場を独占している大企業。
独創的なアイディアで世界を沸かす。
創業当時から発行している『雑誌カルチャー』は、各町ごとに編集部を置きその町で販売させる内容は編集部の自由という個性的な編集方法を取っている。
参考:『未来へ広がる社会資料集』 第十章 『世界へ羽ばたく日本企業』
家族、では無い。
友達、でも無い。
恋人? とんでも無い。私にそんな趣味は無い。
第一当の本人に失礼だ。
隣に座っている“当の本人”の野田創さんは相変わらずの綺麗な姿勢で本を読んでいた。
彼との出会いは、図書館であったと記憶している。
「七瀬真さん」
何故か突然フルネームで呼んだ後そのまま私の方に歩み寄って来る推定年齢二十代後半の男の人は、鉄紺色の背広を羽織り、背広と同じ色をした綺麗な瞳の色をしていた。
どうやらこの間無くしたと思っていた生徒手帳を拾ってくれたらしい。
「七瀬真です……よろしく」
私の瞳の色も鉄紺色だが、あそこまで綺麗な色じゃない。どちらかというと、どんより、濁っている。
身長は百八十センチ弱で、痩せている。その点私は身長百五十六センチのずんぐりむっくり体型だ。羨ましい。後にかなりの大食漢だと知り、驚く。羨ましい。髪は耳に掛かるか掛からないぐらいの長さで、サラサラだ。羨ましい。そして、それなりの容姿も持っている。羨ましい。
ちゃんとお洒落をしたら憂いのある美形になると思うのだが、残念な事に彼は何よりも仕事と本を優先する人物で服は二の次、三の次、四の次、五の次以上だ。
ここには親近感。最も私がお洒落なんかしたらただの気持ち悪い女だが。
その後は何かいろいろお話して野田創さんが私の祖父と知りあいなど様々な事が解り、いつの間にか彼の職場らしい『雑誌カルチャー守沢支部』とかいう所に遊びに行く様になった。
そこで、これまた頭が痛くなるほど素敵な人達とお近づきになった。
そして、ある事を学んだ。
この人達と関わっていたらいずれ非日常的な事件に巻き込まれるだろうと。
そして、直感した。
事件は、刻一刻と緩やかな形でこのKK守沢編集室に迫っていると。
「そうそう、真、お洒落の真ん中の字は酒とは全く別物の漢字ですからね。気をつけて下さい」
私が今まで創さんから教わった事項の九割は、このような無駄知識である。どんな質問にも素早く、的確に答えるその姿はまさに……思いつかない。
ま、どうでもいいけど。
そうだ、思いだした。確かこの前、創さんに質問したんだ。でも答えはまだ返って来てない。催促すると、ものすごい悲しそうな目で跳ね返される。
だから今度、もう一度聞いてみようと思う。
この世からの消え方を、教えて下さいって。