その予言書曰く——。
仕事帰り、私は自販機の前に落ちていた予言書を拾った。
どうせ子供のいたずらだと思いはしたんだけど、無性に気になって紙袋にナイナイした後、そのまま自宅に持ち帰ってしまった。
早速その灰色の本を開く。
内心、異世界からの招待とかだったらいいなという願いも込めて。
『予言1・この本を拾う』
「舐めてんのか」
だってそうでしょ。
拾ったから見てるのに。
多少イラつきつつ、次のページを見る。
『予言2・あなたは今、これを読んでいる。※読んでいない場合、この予言は保留とする』
「なるほどな」
別に納得したわけではない。
人は理解できないものに対しても、反射的に相槌を打つ生き物なのだ。
特に空腹時。
ページをめくる。
『予言3・部屋にカップラーメンがある』
「……こういうので良いんだよ。予言ってのはこうでないとな」
確かに、8畳の薄汚い部屋の端にはカップラーメンが置いてある。
一昨日買った、期間限定のやつだ。
そういえば、まだ何も食べていない。
会社から帰ってきて、着替えもせずにこの予言書(笑)で時間を浪費している。
腹の虫はひとまず無視して、再びページをめくった。
『予言4・あなたは今、続きを読むかどうかで一瞬だけ迷う』
「……」
事実だったので何も言えなかった。
こう言うのが何気に一番くる。
だって当たってるから!
『予言5・あなたはこれにツッコミを入れるが、相手は改善しない』
「改善しろよ」
もちろん、改善される気配は無く、インクはインクのままだ。
これまでと違い、一文の下にまだ文字があるのに気付く。
『補足・腹減ってんじゃね?』
「あれ? こいつ急に口調変えてきやがったな…?」
唐突なタメ口に、つい怯む。
そんなにカップラーメンを食わせたいのなら良いだろう、乗ってやる。
プラスチックの膜のような包みを剥ぎ、お湯を沸かせて中に注ぐ。
俺のこだわりは、出来上がりの3分より早めに食べ始める、というものだ。
割り箸を用意して、また本の前に腰を下ろす。
そして戻ってくるなりページを捲る。
正直もう面倒臭くなってきた。
『予言6・あなたは"あれ?"と思う』
先ほどの自分の呟きが、今になって効いてくる。
「これは予言…なのか? 」
そしてパラリ。
『予言7・来月社内の気になる女性と交際を始める』
「えっ」
まさか……吹雪さん!?
憧れの、マドンナとか言われちゃってるあの?
喜びで少し舞い上がったが、このページにも補足が書かれていた。
『補足・あなたの友人の大伴君が、ね(笑)』
おーけー。
お前を燃やして大伴も燃やす。
怒り半分、無言でページをめくる。
『予言8・そろそろ飽きてきた』
「おっしゃる通りで」
『予言9・この本は信用に値しないと思っている』
『補足・大伴君がパッとしない人物だからでしょ? あ、悔しいんだぁ』
「こいつ…」
もうなんだか嫌になってきて、逆に「最後のページには何と書いているんだろう」と気になった。
一度本を閉じ、一番後ろのページを開く。
『あなたが知りたいことは31ページ目にあるのに』
「……大人しく読むか」
気が付けば、俺は無心でページをめくっていた。
あれ?俺は何が知りたいんだ?
そんなことが頭をよぎる。
どうせ、碌なことは書かれてない。
大伴と吹雪さんのことも、どうせデタラメ。
でも——なんか、気になる。
『予言32・あなたのカップラーメンは伸びた』
「あっ」
いや、驚きはしたが、これは32ページ目だ。
俺が本当に知りたいこと……これを誰が書いたのか、とかだろうか。
もしかしたら別のことかもしれない。
だって、どこの誰が書いたとしても、今の俺より暇なやつ、というだけだから。
そっと、左の白紙ページをめくる。
『予言31・あなたはこれを信じていないだろうから、答えを言う』
「んっ…」
『補足・予言はもれなく当たるよ。残念だけど、大伴君の件もね』
「はぁーっ」
深いため息と共に、胸の内から何かが湧き上がる。
「これ、一つくらいは大災害の予言とかあるんじゃないか?」
正直、信用はしていない。
けど万が一、自分が巻き込まれるような大事が起これば、きっと後悔する。
『予言35・靴が濡れる前に位置をずらすが吉』
ずらすが吉、じゃねえよ。
予言というより占いじゃねーか。
まぁずらすけどな?
仕事用の革靴1組しかないからずらすけどな?
『予言36・あなたはこれを誰かに話す勇気がない』
何で突然のディス?
遠回しに話すなって言ってる…?
『予言37・鳥肌立つと思うよ』
こいつ、ついに我が出てきたぞ。
てか何?
鳥肌?
こちらとしては、期間限定のカップラーメンをダメにされた分、もう読むのをやめられないというか。
『予言38・大伴君は君を消そうとしている』
はい?
こいつ、さっきから大伴への批判・偏見が酷いな。
『予言38・大伴君は君を消そうとしている』
『予言38・大伴君は君を消そうとしている』
何枚もページをめくるが、予言は38から一向に進まない。
気分の悪い脂汗が出てくる。
『予言38・・・』
もうやめよう。
後悔したっていい、もう見たくない。
俺は部屋の電気を付けてパン、と音を立てて本を閉じ、床に叩きつけた。
だが本は17ページを開いた。
『予言17・あなたは部屋の電気を付ける』
『補足・揶揄っただけだってば(笑) ごめんって。仲直りしよ?』
「信用できねー」
見る気は無かったのだが、どうしても偶然開いたページが気になって覗き込んでしまった。
『補足・私女だよ』
「そうやってまた……」
『予言18・明日の天気は雨』
……余計怖いだろうが。
さっきの大伴のくだりはどうなったんだよ。
『予言19・それが原因で雨漏れする』
だから靴をずらさせたのか。
『補足・カップ麺食べないの?』
それはもう補足じゃないって。
さっきまでの軽い雰囲気を返してほしい。
『予言20・あなたは異世界ハーレムに期待している』
そうだが?
欲望を曝け出したいが?
というか予言じゃないなそれ。
『補足・叶うよ』
あっそう。
ありがとうね。
『補足・何かが突っかかっている?』
そうだね。
怖いよ。
一人暮らしだし。
『補足・うんち』
女の子がそんなはしたない事を言わないでください。
つい、ぶりっ子ってワード思い出しちゃったよ。
『補足・さっき鳥肌立ったでしょ』
あれはお前の言う通り。
だから、当たってるのが一番効くんだって。
そして怖いって。
大伴の件が不安でさ。
『補足・吹雪ちゃんは君のことが気になってる』
待って。
それ全部が繋がっちゃうから。
「浜辺」
背後から声が聞こえた。
でも、来るのは知ってたし怖くは無かった。
「大伴……」
奴の右手にはナイフが強く、強く握られている。
「吹雪先輩は、僕のだぁ……ッ!」
顔がよく見えない。
けど——。
俺は、未来への希望を信じて、ページを何枚かめくった。
『予言39・あなたはハーレムを築く』
『補足・これは、残念じゃないでしょ?』
少し気が楽になった。
痛かったか、痛くなかったかも分からないけど。
身体に縦長の穴がぽっかりと開いた。




