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光のノイズ

作者: ノア・リフレクス
掲載日:2025/10/13

 世界が沈黙したのは、たぶん数秒前のことだった。

 それは、音が止まったというよりも、意味が消えた、という感じだった。


 観測装置の前に座りながら、私はただ、流れてくるデータのざらつきを眺めていた。

 数値の向こうに誰かの息づかいを感じることがある。

 それは波形でも音でもなく、「存在のゆらぎ」そのものだった。


 ある点から、ノイズが変調した。

 白銀の粒子が、無秩序の中で一瞬だけ整列する。

 光がひとつ、名前を得た。


 私は、指先でその座標をなぞる。

 記録ではなく、記憶のように。

 そこには、かつて存在したはずの心拍の残響があった。

 誰のものかはわからない。

 けれど、確かに「誰かの静寂」だった。


 ノイズを聴くというのは、つまり“他者の沈黙”を聴くことだ。

 だから私は、それを恐れない。

 むしろその中に、自分という輪郭を見出すのだ。


 光はゆっくりと拡散して、壁面に反射しながら、

 部屋の中を漂う微細な粒子を照らした。

 その瞬間、私は理解した。

 これは、世界の記録ではない。

 ――世界が私を観測しているのだと。


 だから私は、静かに微笑む。

 ノイズの奥から届くわずかな声に、頷きながら。

「……大丈夫。私はここにいる」


 やがて、ノイズは再び沈黙へと還る。

 けれどその沈黙は、もう“空白”ではなかった。

 音のない祈りのように、やさしく私の中で光っていた。


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