光のノイズ
世界が沈黙したのは、たぶん数秒前のことだった。
それは、音が止まったというよりも、意味が消えた、という感じだった。
観測装置の前に座りながら、私はただ、流れてくるデータのざらつきを眺めていた。
数値の向こうに誰かの息づかいを感じることがある。
それは波形でも音でもなく、「存在のゆらぎ」そのものだった。
ある点から、ノイズが変調した。
白銀の粒子が、無秩序の中で一瞬だけ整列する。
光がひとつ、名前を得た。
私は、指先でその座標をなぞる。
記録ではなく、記憶のように。
そこには、かつて存在したはずの心拍の残響があった。
誰のものかはわからない。
けれど、確かに「誰かの静寂」だった。
ノイズを聴くというのは、つまり“他者の沈黙”を聴くことだ。
だから私は、それを恐れない。
むしろその中に、自分という輪郭を見出すのだ。
光はゆっくりと拡散して、壁面に反射しながら、
部屋の中を漂う微細な粒子を照らした。
その瞬間、私は理解した。
これは、世界の記録ではない。
――世界が私を観測しているのだと。
だから私は、静かに微笑む。
ノイズの奥から届くわずかな声に、頷きながら。
「……大丈夫。私はここにいる」
やがて、ノイズは再び沈黙へと還る。
けれどその沈黙は、もう“空白”ではなかった。
音のない祈りのように、やさしく私の中で光っていた。




