母樹と新たな拠点
chatgpt様様です
あれから三ヶ月ほどが経った。
癒しの館には連日、多くの人々が押し寄せ、信者の数も雪だるま式に増えていった。
森の光の口座には莫大なお布施が流れ込み、すべての管理は祥子が担っていたため、ヒロト自身はその金の動きをほとんど把握していない。
そんなある日のこと。
ヒロトはアパートの六畳間で、つまらなそうに韓国ドラマを眺めていた。
テーブルの上では、ヴィクトリアがリモコンをお尻の下に隠し、全力で死守している。どうやらこの猫、韓国ドラマの大ファンらしい。今日は久々の休みとあって、二人と一匹はのんびりくつろいでいた。
――が、その空気をぶち壊すように、勢いよくドアが開いた。
「ヒロト様!」
駆け込んできた祥子が息を弾ませながら言う。
「ようやく森の光の拠点を手に入れました。ぜひご覧いただきたいのですが、今からよろしいでしょうか?」
「はあ? 拠点なんて必要かよ?」
ヒロトは眉をひそめた。
「当然です」
祥子はきっぱりと言い切る。
そのまま三人は玄関を出る。そこに待っていたのは、この下町の景色にまったく似つかわしくない――超高級車だった。
「おい、この車は何だ?」
「もちろん、我々が使用する森の光の公用車です。資金に余裕がありましたので」
「一体どれだけ集まったんだよ?」
「現在のところ……五十億ほどです。半分は拠点の購入費に消えましたが」
「五十億!? ……マジかよ」
祥子は淡々と説明を続ける。どうやらあの田所総一郎という経済評論家の影響が大きかったらしい。
高級車のドアを開き、祥子は恭しく告げる。
「ではヒロト様、ヴィクトリア様、こちらへ」
数時間のドライブを経てたどり着いたのは――山奥に突如現れた、場違いなほど整備された広大な敷地。そしてその中心に建つ、重厚な洋館。
「……おい、なんだこれ。城じゃねえか」
「ふふふ。ここが森の光の拠点です」
祥子は胸を張る。
芝生の庭園、中央の噴水、豪奢な装飾が施された玄関扉。どう見ても宗教施設というより、裏社会のボスが住む館だった。
「大丈夫です。登記上は宗教法人の所有になってますから」
祥子は平然と答える。
「……やりすぎね。まるで悪徳貴族だわ」
ヴィクトリアの冷たい突っ込みに、ヒロトも肩をすくめるしかなかった。
さらに裏庭に回ると、広々とした空き地が広がっていた。
「……ここなら、母樹を植えるのにちょうどいいか」
「母樹……? 何です、それは?」
祥子が首をかしげる。
ヒロトは少し黙ったのち、真剣な顔で説明した。
「母樹ってのは、俺の能力で生やせる特殊な木だ。ひとつだけじゃなく世界中に植えられる。母樹同士を繋げれば、空間を飛び越えて転移できる」
「そ、そんなことまで……!」
「それだけじゃない。母樹を通せば俺の五感も共有できる。離れた場所でも、そこに立ってるのと同じように感じ取れる」
「……化け物じみた能力ね。国ひとつ支配できるんじゃない?」
「支配する気なんかねえよ。ただ、便利だろってだけだ」
そう言うとヒロトは手を地面にかざし、裏庭の中心に巨大な樹を生やした。数分のうちに、立派な巨木――母樹が天へと伸びていた。
「素晴らしい……! まさに神の御業です。この木を神樹として信者に崇めさせましょう!」
「大げさだな。俺にとっちゃ便利道具でしかない」
そうして一行は館の中へ。
巨大なシャンデリアが下がる玄関ホール、貴族の晩餐会のような食堂、結婚式場にしか見えない礼拝堂、空っぽの書庫――。最後に案内されたのは、ヒロト専用の部屋だった。
「……いや、六畳で十分なんだが」
「神に選ばれた御方に粗末な部屋は似合いません」
「勝手に決めんなよ……」
結局、数日後には引っ越しも完了し、アパート暮らしは終わりを告げる。
館に戻る途中、長蛇の列がヒロトの目に飛び込んできた。
「なんだこりゃ……」
「入信希望者と施術を受けに来た人々です。すでに拠点移転はホームページで告知済みですから」
「……そうか。早速仕事かよ」
「お疲れのところ申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
祥子にそう頼まれ、ヒロトは礼拝堂の玉座に座った。
その日だけで三百人を超える施術。すべてを終えた頃には、すでに夕日が館を赤く染めていた。