宗教始めます
完全にchatgpt頼りです
ヒロトのアパートに、家政婦・木内祥子がやって来てから二週間が経った。
聞けば、彼女は住んでいたマンションを引き払い、勤めていた広告代理店の仕事までも辞めたらしい。
「……とんでもない覚悟だな」
そう思わず呟いたのを、ヒロトはよく覚えている。
それからの祥子は、献身的にヒロトと子猫の世話をこなした。掃除、洗濯、料理……家事全般を完璧にやり遂げる。まるで本職以上の働きぶりだった。
ただ、一つだけ問題があった。
――寝るスペースである。
ヒロトのアパートは二人と一匹で住むには明らかに狭すぎた。まあ、猫の寝床は押し入れの中だから問題ないとして、問題は祥子の方だ。
年頃の若い女性が、男の自分と布団を並べて寝るのである。
最初の一週間くらいは、ヒロトも心臓がバクバクしてなかなか眠れなかった。
元は植物とはいえ、千年も人間の男をやってきたのだ。もはや心は完全に人間の男だった。
そして、同居しているといろいろと相手のことが分かってくるものだ。
子猫の女神時代の名前が「ヴィクトリア」だということも。
それを知って以来、祥子は子猫のことを「ヴィクトリア様」と呼ぶようになり、当然のようにヒロトのことも「ヒロト様」と呼ぶようになった。
祥子はヴィクトリアが元女神だったと知って、驚きを隠せないでいた。
――そんなある日のことだ。
仕事から帰ってきたヒロトは、祥子と子猫を前に切り出した。
「お前たちに話しておくことがある。……実は今月末で今の仕事を辞めることにした。もう上には話してある」
突然の報告に、祥子と子猫は同時に目を見開いた。
「何処か具合でも悪いのですか、ヒロト様?」
「いやそうじゃない」ヒロトは答える
「じゃあ何なの?」
二人の問いに、ヒロトは短く答える。
「新しいことを始めようと思う」
「新しいこと?」と祥子が首を傾げ、子猫――いやヴィクトリアが尻尾をぱたぱた揺らしながら詰め寄る。
「なによ、それ。はっきり言いなさいよ」
ヒロトは小さく息を吐き、覚悟を決めた。
「……宗教法人を立ち上げる。俺はそこで能力を使い、人々を癒す活動をしようと思う」
「はあ? 宗教法人ですって? 何言ってんのよ、あんた!」
ヴィクトリアは完全に意味不明といった顔。
「……何か理由があるんですよね?」
祥子も困惑気味に問いかけた。
「ああ、理由はある」
ヒロトは頷く。
「今の建設現場の給料じゃ、俺たち全員の生活費を賄えない。祥子、お前にだって給料を払わなきゃならないしな」
「給料なんて私は要りません! お二方のお世話ができれば、それで――」
「そんなわけにはいかないだろ」
ヒロトは遮った。
「会社を辞めてまで俺たちの世話を買って出たんだ。だったら俺には、お前に報いる義務がある」
祥子が言葉を失った隙に、ヒロトは続ける。
「それにな。俺には戸籍も、身分を証明するものもない。表立った仕事は基本的にできないんだ。今の現場仕事だって、拾ってもらったから成り立ってるだけだ」
ヒロトは一度黙り、二人の視線を受け止める。
「……だから、グレーな存在を許される“宗教”はうってつけなんだ」
「宗教、ねぇ……」
ヴィクトリアが冷ややかに鼻で笑う。
だがヒロトは真剣な表情で言葉を紡いだ。
「俺は千年近く、人間の生き方を見てきた。人間は不思議だ。弱いのに、必死に生きて、支え合って……時には信じてもいない神にすがる」
「皮肉ね」
「けどな。その“すがる場所”があったから、生き延びられた人間を、俺は何度も見てきたんだ。人は理屈だけじゃ動かない。心の支えが必要なんだよ」
「だから……宗教を?」
祥子が小さく呟く。
「ああ。ただの金儲けの宗教じゃない。俺は自分の能力を“奇跡”として見せる。それで人の心を軽くできるなら、それは意味があると思ってる」
「奇跡……」
祥子の瞳がわずかに揺れる。
「病気を治すこともできる。怪我を癒やすこともできる。だがそれだけじゃない。人の心に――『この世は生きるに値する』と思わせられるなら、それは救いだ」
「……でも宗教って、結局は信者から金を巻き上げるんじゃないの?」
ヴィクトリアが挑発するように言った。
「巻き上げたりはしない。ただ、活動資金は必要だ。寄付という形で募るが、強制はしない。それでも人が集まるなら――俺のやろうとしていることは正しい、ってことだ」
ヒロトの目は揺るぎなかった。
「つまり俺のやる宗教は、奇跡を見せて心を癒す“居場所”だ。偽物の神でも、誰かにとっての救いになれるなら――それでいい」