家政婦がきました
小学生の作文以下のレベルですが、よろしくお願いします
翌朝、午前六時。
スマホのアラームが鳴り響き、ヒロトは目を覚ました。布団から這い出すと、まずはトイレへ直行し用を足す。
その後、電気ケトルで湯を沸かし、インスタントコーヒーを淹れる。座椅子に腰を下ろし、テレビをつけると朝のニュース番組が流れていた。
《名脇役として活躍した俳優、死去》
「……また一人、消えたか」
ニュースを一通り見終えると、ヒロトは重い腰を上げてキッチンへ向かった。
冷蔵庫を開ける。中身はスカスカ。
「昨日スーパーで買い物しときゃよかったな……」
結局、卵を一個取り出し、炊飯器からご飯をよそって卵かけご飯を用意。醤油を垂らし、冷蔵庫から取り出したお茶と一緒にテーブルへ置く。
「そういえば……」
昨日の出来事をようやく思い出す。押し入れを開けると、畳まれた布団の上に子猫が丸まって眠っていた。
ヒロトは指先で軽くつつく。
「おい、起きろ猫」
「んー……あぁ、ヒロト? おはよう」
「おはようじゃねえよ。さっさとそこから降りろ。そして部屋から出てけ」
「そんなつれないこと言わないでよ。外で寝ろというの?私これでも元・女神なんだから」
「知らねえよ。ここに居座られると迷惑なんだよ」
「大丈夫よ。ご飯なら心配しなくていいの。親切な魚屋さんが魚を分けてくれるんだから」
時計を見た猫が「あっ、もう行かなくちゃ」と押し入れから飛び降り、軽快に窓枠へジャンプ。そのまま器用に窓を開けて外へ飛び出していった。
「……なんなんだよ、あの猫は」
ヒロトはため息をつきつつ卵かけご飯をかき込み、お茶を飲み干す。着替えを済ませ、建設現場へ向かった。
朝礼を終え、重い資材を次々と運び込む。二時間が過ぎ、休憩時間。ヒロトは自販機で缶コーヒーを買い、空いたスペースに腰を下ろした。
「……自由に生きるか」
昨日、猫に言われた言葉が頭をよぎる。
――確かに自分の力を使えば、医者まがいの真似だってできる。薬を作って売れば巨万の富も夢じゃない。
だが、決断できずにいた。
缶コーヒーを口に含むと、苦味と共に遠い記憶が蘇る。
――何千年も昔、ただの樹だった頃。
剣を振るい倒れていく兵士。病に伏しても家族を気遣う者。泣きながら明日を夢見る子供。
「……不思議な生き物だと思った」
弱くて脆くて、けれど必死に生きる人間たちに惹かれた。
「自由に生きる……か」
ヒロトは缶を飲み干し、再び作業に戻った。
―――
夕方。仕事を終えたヒロトはスーパーに立ち寄り、明日の分まで食材を買い込む。ペットフード売り場の前で一瞬迷い、最安の猫用餌をカゴに入れ、最後に弁当とビールを放り込む。
買い物袋をぶら下げ帰宅すると、玄関でありえない光景が待っていた。
「おかえりなさいませ、山の神様」
若い女が深々と頭を下げている。よく見れば二十代前半。もちろん、ヒロトにそんな知り合いは一人もいない。
呆然と立ち尽くすヒロトの耳に、奥から聞き慣れた声が響く。
「あっ、ヒロト。おかえり」
子猫がトコトコと現れた瞬間、ヒロトは反射的に首根っこを掴み、外へ連れ出した。
「いってぇ! 乱暴しないでよ」
「説明しろ。あの女は誰だ」
「誰だって 家政婦よ。私たちのお世話係」
「はぁ!? 勝手に決めんな!」
猫と押し問答していると、近所の老人がぽかんと口を開けて見ていた。ヒロトは慌てて猫を連れて部屋に戻り、事情を問いただす。
猫の説明はこうだ。
――宗教の勧誘に来た若い女性を追い返そうとしたら、猫が喋ったことで彼女は土下座『是非、貴方様と山の神様のお世話をさせて下さい』と涙ながらに懇願され、勢いで「お世話係に任命」してしまった、とのこと。
ヒロトは青筋を浮かべながら言う。
「何が任命だ。お前、勝手すぎんだろ。大体、山の神ってなんだよ」
「いいじゃない。雰囲気出るでしょ? 山の神」
「意味わかんねえよ……」
仕方なくヒロトは女性に話を聞くことにした。名前は木内祥子。両親を早くに亡くし、親戚を転々。孤独の末に宗教に取り込まれ、搾取され続けてきたらしい。
祥子は涙ながらに頭を下げる。
「どうか、ここで働かせてください。家事でも何でもいたします」
ヒロトは頭を抱える。
「うちは狭いアパートだし、家政婦なんて……」
「いいじゃない。雇ってあげましょうよ」
子猫が横から口を挟む。
「お前また勝手に……っ。……はあ、もう好きにしろ」
こうして、ヒロトのアパートに新たな同居人――訳あり家政婦が加わることになった。