表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寄生樹  作者: hiro0720
第1章
14/17

13.異変

「……あれ、ヒロト。見て」

ヴィクトリアの尻尾がピンと立つ。


リビングの大きな窓から外をのぞくと、庭の母樹の根元に小さな人影――アイリーンの姿があった。

風にそよぐ銀髪。彼女は母樹に何かを話しかけている。


「また母樹に相談か?」

ヒロトが呟いた瞬間、母樹の幹が淡く光り始めた。


「……ん? なんだ?」


光がひときわ強くなり、その中から――

ひとりの“若い女性”がゆっくりと姿を現した。


祥子が驚きの声をあげる。

「ひ、人が出てきた……!? 母樹から……!」


ヴィクトリアの耳がピクリと動く。

「ちょっと、あれ……分身体よ!?」


ヒロトは無言のまま窓の前に立ち尽くした。

アイリーンはその女性と何か話している。

だが次の瞬間、ふたりの身体が淡い光に包まれ――そのまま“吸い込まれるように”母樹の中へ消えていった。


「……今の、見間違いじゃないな?」

「間違いなく、母樹の中に……!」


ヒロトは息をのむと、

「ヴィクトリア、祥子! 来い!」と叫び、

リビングの扉を開けて外へ飛び出した。


***


庭は、夕方の光で黄金色に染まっていた。

だがその中で立つ母樹だけが、どこか異様な静けさをまとっている。


「母樹。……さっきのは何だ?」

ヒロトの声に、母樹の幹がかすかに揺れる。


『ヒロト様。……申し訳ありません。

アイリーン様は、私の分身体と共にドイツの山の母樹へ転移されました』


「ドイツ? ……勝手に?」

ヒロトの眉がぴくりと動く。


『はい。しかし、心配には及びません。

二時間ほどで戻ると申し上げておりました』


ヴィクトリアが肩をすくめる。

「二時間くらいなら……まぁ、いいんじゃない?」


ヒロトもため息をついて頷いた。

「仕方ない。あいつ、じっとしてるのが苦手だからな」


そう言って館へ戻る――だが、時はゆっくりと過ぎていった。


***


やがて、日が沈み、館の照明が灯る。

時計の針は二時間をとっくに過ぎていた。


「……遅いな」

ヒロトが腕時計を見つめながら呟く。


ヴィクトリアも落ち着かない様子で、しっぽをぱたぱたと揺らす。

「まさか、迷子とか……?」


「いや、母樹の転移は正確なはずだ。

何か……別の要因があったのかもしれない」


そのとき、外から低い声が響いた。

――母樹の声だ。

『ヒロト様。報告がございます』


三人が駆け出し、庭へ出る。

母樹の枝が、風もないのにざわめいていた。


『……分身体との繋がりが、絶たれました』


「……なに?」

ヒロトの顔が一瞬で強張る。


「母樹、ドイツの母樹に直接繋げることはできるか?」


 母樹はしばし沈黙し、そして頷いた。

「はい。可能です。ただし転移はかなりの魔力を消費します。ヒロト様、ヴィクトリア様、祥子様のお力をお借りします」


 ヒロトたちは母樹の根元に手を添える。

 周囲が青白い光に包まれ、空間がわずかに歪んだ。

「行くぞ……アイリーンを迎えに」

 ヒロトの声と共に、光が弾けた。


***


 空気が冷たい。針葉樹の森と岩山が広がり、ドイツ特有の澄んだ風が肌を刺す。

「ここが……ドイツの母樹か」

 ヒロトは巨大な樹を見上げた。日本の母樹と瓜二つの姿だ。


「魔力の流れは正常。でも……」

 ヴィクトリアは地面に手をかざすと、目を細めた。

「街の中で強力な転移魔法が使われてるわ」

「街の中?」

「ええ。魔法の座標は――おそらく観光地区。方向は南西、数キロ先」


 ヒロトは頷き、立ち上がる。

「行くぞ。何があったか確かめよう」


 そして、三人は冷たい山道を駆け下りていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ