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ポンコツ怪盗団に転生したけど、敵のフリして勇者育ててます  作者: 振り米
一章 『参上、モノクローム怪盗団!』
3/63

3話『モノなんちゃら怪盗団、勇者と交差する』

(主人公、金髪の……男じゃなかったか?)


 目の前の彼女は、少女だ。

 だが、間違いなくその剣は“本物”の聖剣だった。

 つまり――


「おおっ! 勇者様! そやつらこそ、最近この国で噂になっておる子悪党の盗っ人集団! モノ、モノ……モノなんちゃら怪盗団でございますぞ! な、なにとぞ、お裁きを!」


 エルセラ卿がすがりつくように叫んだ。


「モノクローム怪盗団だっつーの!」


 どうやら俺たちの名前は、まだ浸透しきっていないらしい。

 しかし、エルセラ卿のその叫び声を聞き、貴族たちの中にも勇者の名に沸き立つ者たちが現れ始める。


 ――やっぱり勇者か。


 思い出した。あのゲーム、主人公の性別が選べるタイプだった。

 俺は普段、主人公の性別が選択可能な際には男しか選んでこなかった誠の漢。

 故に、ぱっと見で気づくことができなかった。


(なるほど……つまりこの子が、“勇者フィリア”か)


 女主人公、勇者。デフォルトネームは、確か “フィリア”。


「私は勇者フィリア=ルミナリア。あなたたちが何者なのかよくわからないけど――盗みは、良くないと思うよ!」


 そう言って彼女――フィリアは聖剣を構える。

 ありがたいことにご丁寧に名乗りまであげて。俺の記憶の中に微かに残っていたデフォルトネームはどうやら間違っていなかったらしい。

 神々しいその姿に、周囲の貴族たちも歓喜の声を上げた。


「……ふっ。ならばこっちも、怪盗団らしく――自己紹介といこうか」


 俺は腰を低く落とし、ゆっくりと戦闘態勢を取る。


「――アッシュ。モノクローム怪盗団、団長だ」


 背後で、シロとクロも静かに構える。


「シロ、モノクローム団、戦術参謀」


「私はクロ! モノクローム団の……えっと、突撃隊長!」


「あれ、お前たちにそんな肩書きあったっけ」


「「今作った」」


「……さいですか」


 貴族たちが悲鳴を上げて逃げる中、勇者と怪盗団の、初の対峙が――始まった。


  ピリッとした雰囲気が広間に広がる。

 勇者パーティー会場の貴族達を避難させると臨戦体制に入る。俺たちは義賊であり、盗みはすれども殺しはしない。故に貴族たちの避難には一切手を出すような真似はしない。


 俺はシロとクロに目配せを送る。勇者パーティーの構成は――金髪の女勇者、桃色の髪の女魔法使い、筋肉自慢の男戦士。つまり、三対三。だが、ここで一斉に仕掛けてはただの乱戦になる。


「各個撃破でいくぞ。俺が勇者、シロは魔法使い、クロは戦士担当だ」


 短く指示を出すと、二人はそれぞれの獲物に向かって軽やかに跳躍した。白い外套が翻り、クロの長髪が勢いよく風を裂く。


 俺は、正面の勇者に向き直る。金髪の少女――フィリア=ルミナリア。聖剣を握るその手に迷いはない。


 彼女は聖剣を構えると、周囲に十発ほどの魔力弾を浮かべた。淡く輝く光球がふわりと宙を漂う。

 だがしかし、その魔力弾は身の回りに展開するのみで仕掛けてくるような気配はなかった。


(撃っては、こないか)


 流石勇者というべきか警戒心はあるのうだ。先ほど俺が魔力弾を斬り払ったのを見て、無闇には撃たない判断を下したのだろう。思ったより冷静だ。


 だが次の瞬間、彼女は地を蹴って距離を詰めてきた。魔力弾を身の回りに纏ったまま、聖剣を振るって突進してくる。


 身の回りに展開しているその光球は、ただ魔力弾として放つ目的ではなく近接戦闘をしながら攻撃の手数を増やすと同時に、周囲への牽制と迎撃を兼ねているようだ。フィリアの剣を受け止め、火花を散らしながら――俺は確信する。


(攻撃が、軽い)


 見た目ほどの威力がない。仮にと聖剣、そして勇者の振るう一撃だ。こんなにも簡単に受け止められるとは思ってもみなかった。もしかして手加減してるのか? だが、表情に甘さはない。彼女は本気だ。


 今度は剣撃と同時に二つの魔力弾が放たれる。俺は片手で勇者の剣を受け流すように捌きつつ、流れで魔力弾の一つを叩く。もう一つの魔力弾はクロ特製の小型魔道具爆弾を俺は投げつける事により迎撃した。赤い閃光とともに魔力弾が霧散する。


 「っ……!」


 あっさりと処理された事に彼女は焦りを見せる、がそれも一瞬の話だった。

 フィリアは続けざまに突きを放ち、さらに魔力弾を二つ、同時に発射。正面からの迎撃は間に合わない。


 俺は身を翻し、剣による次の攻撃をすんでのところで回避する。その勢いを利用し、バク転しながら俺の得意スキル“トリックアーツ”の足技を発動。足先に魔力を乗せ、回転の勢いを利用した蹴りで光弾を蹴り飛ばした。さらにもう一つの魔力弾はまたしたも小型魔道具爆弾で無力化する。


 トリックアーツは、小道具の作成や使用、また足技や錯覚魔法、トラップの設置など小回りのきく優秀スキルだ。おそらくこの世界でこのスキルを、強スキルだと認識して極めている人間は俺くらいなモノだ。


 ふたたび距離を取ると、フィリアはすかさず魔力弾を補充するように両手を掲げ、浮かべた光球の数を再び十に戻した。


「すごい動きね。曲芸師にでもなれるんじゃないかしら」


「お生憎、この器用さは怪盗する上で役立っててね。天職なのさ」


 再び突進してくるフィリア。その剣筋は先ほどと変わらない。だが、状況は少しずつこちらが不利になっていく。


 ――なぜなら、爆弾は有限、魔力弾は無尽蔵。


 光弾一つ一つの威力はさほどでもないが、数の暴力は馬鹿にならない。大した魔力消費もなく半永久的に展開できるそれに対して、こちらの小型魔道具爆弾は個数に決まりがある。


 守勢に回れば回るほど、ジリ貧になるのは目に見えていた。故に、彼女のその攻めは正しい、はずだった。


(まぁだけど、甘いんだよな)


 俺はポトリと足元に煙幕玉を落とす。瞬く間に視界が白煙に包まれ、天井近くのシャンデリアすら霞んで見えなくなる。


 ――これで視界は奪えた。


 ただの目くらましではない。この状況こそが、俺の得意分野。


 「ファントム・レイヤー、起動」


 術式が作動し、俺の気配が完全に消える。もともと戦闘中の気配遮断には限度があるが、白煙に紛れた今なら話は別だ。


 対してフィリアは、浮かべた魔力弾が自らの位置を明示する形になっていた。白煙の中に、ぼんやりと光る十の点。


 (あれじゃ的だ)


 俺は気配を完全に殺しながら、音もなくフィリアの背後に回り込む。彼女は静かに呼吸を整え、集中して周囲の気配を探っている。


 だが――無駄だ。


 ファントム・レイヤーと煙幕の併用は、目視も気配も封じる最高の奇襲状況を作る。俺は迷いなく、剣をフィリアの首元に添える。押し込めば終わる。


(……弱すぎないか、勇者)


 本来、この時点での原作ゲームにおける勇者パーティーは、逃しはしたものの俺たちを圧倒していたはずだ。だが、この程度のレベルでは到底これから先の戦闘をこなせるようには感じられなかった。剣に重みはなく、魔力弾の威力も脅威ではない。


(このままじゃ、魔王どころかその幹部にすら勝てない)


 ため息が漏れそうになる。俺は静かに剣を引っ込めると、トリックアーツの足技に切り替える代わりに足を持ち上げ、魔力を纏わせた。


 必殺、トリックアーツ究極奥義。

 

 「――くらえ、ハイパーヤクザキィィィィック!!」


 「なっ、ぐはっっっ!!」


 振り返る暇もなく、フィリアは俺の蹴りをまともに食らって吹き飛ぶ。


 計算は完璧だ。彼女の飛んだ先には――


 「きゃあっ!」


 鈍い衝突音。ビンゴ。

 俺はポケットからシロから貰った魔道符を取り出す。


 風の魔法が発動し、白煙を一気に吹き飛ばす。


 「……よし、狙い通りだな」


 俺の蹴りによって吹き飛ばされた勇者の先には、女魔法使いがおり見事に“合体”していた。二人が折り重なるように倒れているのを確認して俺は小さくガッツポーズをする。


「流石リーダー!女の子蹴って人間カーリングなんて、完全にアウトローの鑑だね!」


「普段ポンコツのくせに、たまにえぐいことするよねアッシュ」


「……ひどくね?」


 剣を使わなかった分、優しい判断だと思うのだが。ふと後ろを振り返ると、いつの間にかシロとクロが俺の背後に立っていた。


「流石だなぁ、2人とも」


 見ると、俺が戦った勇者と城が戦っていた魔法使いが折り重なるようにして倒れているのはもちろん、クロが戦っていた戦士も、地面にうずくまっている。


 敵は全員、満身創痍。圧倒的な勝利――のはずだったが、俺は剣の柄に手を置いたまま、口を引き結んだ。


(――弱すぎる。ゲームとあまりにも、違いすぎる)


 現実は、理想とはかけ離れていた。

 彼女――勇者原作より明らかに弱くなっているのでは無いか?

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