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ポンコツ怪盗団に転生したけど、敵のフリして勇者育ててます  作者: 振り米
二章『祝福なき婚礼、誓いの怪盗』
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25話『バカ火力と皮肉屋の約束』

 すぐに、作戦会議が開かれた。


 とは言っても、そこは絢爛な謁見の間でも、煌びやかな戦術室でもない。

 ただの宿舎の居間。木の机と椅子、湯気の消えかけたハーブティー、そして重たい空気。


 アッシュが地図と、いくつかの書類を机の上に並べた。無造作に、だが寸分の迷いもなく。


「まず、クロ・ノア・ダリオの三人で、ヴァルグを押さえる」


 その言葉に、クロが「うひょー!」みたいな顔をして両手を突き上げた。

 うん。元気だなあ、ほんとに。


「やったー! やり返すチャンス、ついに来た〜!」


「“やったー”って言うような内容じゃないからそれ」


 っていうか、今から命がけの戦いなんだけど? 

 なんでこの子は、戦争を体育祭くらいのテンションで乗り切ろうとしてるのよ。


 アッシュは慣れているのかクロの暴走を特に気にするでもなく、淡々と口を動かし続ける。


「ダリオは前線、近距離のタンク役。ノアは遠距離魔法攻撃。クロは中距離・攪乱・接近戦、総合補佐。フォーメーションとしては理想的だ」


 理想的って……そんな簡単に言うけど。


「それに、ヴァルグが使う重力魔法、真正面から耐えられるのはダリオしかいない。ノアは物を媒介しない魔法発動だから、ヴァルグとは相性が悪くない。足りない部分はクロの戦闘センスと突撃力で補える。つまり、この三人なら理論上は勝てる」


 いや、理論上って。

 ……あれ、でも、ちゃんと的確に考えてるのね。


「それに――ノア、君のコード魔術こそが、逆転の術式になる」


「え、わたし!?」


「ああ、詳しく話すと――」


 思わず、私はアッシュを見直した。

 彼は戦闘時のノアの役割を的確に伝えていた。


 短時間でこの分析力。

 やっぱりこの男、ただのポンコツな皮肉屋じゃない。いや、ポンコツだし皮肉屋だけど、それだけじゃない。


「──そして、フィリア。君は俺と一緒にレオニスを叩く」


 その言葉に、私は自然と姿勢を正した。


「俺の火力じゃ、あいつを倒しきれない。だから──君の“バカ火力”が必要だ」


「ちょっと!? その言い方は失礼じゃない!?」


「でも事実だろ? 火力だけならトップクラスだ。下手したら大陸一だぞ。だから、頼る」


 褒めてるのか、馬鹿にしてるのか、本気でわからない。

 でもたぶん──両方なんだと思う。


「でも……」

 

 私は、視線を落とした。


 あの戦闘を思い出す。

 私が、全力で放った魔力の奔流。聖なる光で全てを焼き払うようなあの技《光刃断罪──ジャッジメント・レイ》。

 それを、アッシュは──防いだ。それも軽く。


「……私の全力、あの時……あなたに止められた。だったら、あれをレオニスにぶつけたところで、通じるとは思えないわ」


 私の力なんて、大したことないのかもしれない。

 勇者って何なの? 

 私、選ばれただけで──本当は何もできないんじゃないの? 


 そう思いかけたとき。


「──“上”があるんだろ?」


 アッシュの声が静かに響いた。


 私は、反射的に顔を上げた。


「……“奥義”のこと?」


「言い方はなんでもいい。君がまだ、使っていない切り札だ」


「なんで……知ってるのよ?」


 本当に、なんで? 

 誰にも話していない。教えたことなんて、一度もないのに。


「企業秘密」


「はあ!?」


 なにそれ、なにそれ、なにそれ、なにそれ! 

 どういう情報網なの!? どこの諜報機関なの!? ていうか怪盗団のくせになんでそんなことまで──! 


「君の“奥義”は、条件付きの大技。相手が魔力を大量に放出して、魔力戦により大気に魔力が蓄積された“後半戦”──そこでしか撃てない」


「…………」


 ド正解だった。

 びっくりするくらい、核心を突かれた。

 いやもう、逆に清々しいほどだ。


「だから、俺が条件を整える。戦闘を引き伸ばして、相手の魔力を誘発して、ギリギリまで。それで、君が撃つ」


「……バカじゃないの? そんな簡単にいくわけ──」


「やってみなきゃわかんないだろ」


 アッシュは、まっすぐに私を見て言った。

 なんか、ずるい。

 その目。真っ直ぐすぎて、逆に反則。


「だいたい、俺たちは今、手持ちの札がギリギリだ。切れるカードは全部切るしかない。……君の“奥義”も、例外じゃない」


「……あなたねえ、私の体のことも考えているの?」


 当然、その奥義は強力な分──私にかかる負担もでかい。

 あそこまで知っている彼だ。その事を知らないはずがない。


「もちろん。ぎりぎり死なない程度で抑えてくれ」


「あなたねえ……!!」


 もうなんなの、この男! 常識どこに捨ててきたの!? 

 ──でも。


 それでも、信じられてるのは、嫌じゃなかった。

 なんだろう、こういう無茶苦茶な作戦に乗ってる自分が、一番“勇者っぽい”気さえしてしまうから、不思議だ。


「……まあいいわ。私が撃ってあげるわよ。あなたが死なない程度に時間稼いでから、ね」


「それはありがたい」


「その代わり、私が撃つタイミングは私が決める。いい?」


「当然」


 私たちの視線が重なった。

 その一瞬、妙な空気が流れて、クロが「ふぅ〜ん?」って変な声を出しかけたのを、ノアが全力で口塞いでた。


 ……ほんと、まとまりのあるようで、ないチームだ。


 でも、今はそれでいいのかもしれない。


 仲間とか信頼とか、そういうのを超えた先にしか撃てない技って、あると思うから。


 ◆


 作戦会議が終わったあと、私はなんとなく、バルコニーに出た。

 夜風に当たって冷やしたいような。

 でも、ほんの少しだけ誰かと話したいような、そんな中途半端な気分で。


 そしたら、先客がいた。アッシュだった。

 月明かりに照らされて、フードを下ろしたまま、風に髪をなびかせて、街を見下ろしていた。

 その仮面をつけた横顔は、ちょっと幻想的だった。まるで絵本の中の登場人物みたいで──だけど、どこか不安定な顔をしていた。

 まるで、迷子の子供のような。……そして、無駄に整った顔立ちをしていた。なんなのよ、もう。


「……風、気持ちいいわね」


 ぽつりと言ってみると、彼は一度こちらを振り返ってから、また視線を夜に戻した。


「そうかい。寒くはないか?」


「平気よ。魔力で体温調整してるから」


「便利だな、勇者って」


「皮肉?」


「半分はな」


 ふっと笑ったアッシュの横顔は、いつものひねくれたものとは違っていた。

 それはどこか、あたたかくて。ちょっと、さみしそうだった。


 そして彼は、私が「寒くない」と言ったのに、何の前触れもなく自分の外套を肩にかけてきた。

 その仕草に、心臓が一瞬、跳ねた。


「……寒くないのに」


「俺が暑かったんだよ」


 その言い方が妙に優しくて、なんだかずるかった。

 あたたかくて、でも少しだけ切なくて。

 胸の奥が、きゅうっとなる。


「……すまない」


「……え?」


「さっきの作戦会議の時の俺、フィリアの力が必要だってことを伝えたかったんだけど。その……言い方悪かったし、また皮肉っぽく言ってたから」


 ……自覚、あったんだ。

 だけど、本当に申し訳なさそうな顔をしているし、何より先ほど見せた優しさはそんな彼の不器用さの裏返しのように見えて。

 だから私は、思わず口にしてしまった。


「ねえ、アッシュ。……あなたは、いったい何者なの?」


 風の音に紛れてしまいそうなほど、か細い声だったのに──

 彼はすぐに答えた。


「ただの元・孤児さ。……それとも今は“怪盗”かな」


「どっちにしても、普通じゃないわよ」


「そういう君も、勇者だなんて普通じゃないけどな」


「ふふ……まあね」


 笑いながら、私は欄干に手を置いた。

 石の冷たさが、火照った掌に心地よかった。

 身を少しだけ乗り出すと、遠くの街灯が滲んで、まるで星のように瞬いて見えた。


「でも、私……思ったのよ。あなたの目を見て。“誰かをずっと守ろうとしてる人の目”だった」


 彼は答えなかった。

 ただ、顔をそっと上げて、夜空を仰いだ。


「……守れなかったんだ。かつて」


 ぽつりと落とされたその言葉に、胸が締めつけられた。

 その顔は、今まで見た中でいちばん幼く見えた。

 強気で軽薄な皮をかぶっていた彼が、ふと見せた──

 触れたら壊れてしまいそうなほどの脆さ。

 その奥に、過去の痛みが見えた気がした。


「……だから今度こそ守る。仲間も、姫も、この世界も。

 そのためなら、俺は誰とでも手を組む」


「……私とも?」


「もちろん」


 即答だった。

 それがなんだか、嬉しくて。

 でも、くすぐったくて。

 私はとっさに視線をそらした。


 そのときだった。

 月の光に照らされたアッシュの横顔を見た瞬間──

 私は、ある人の面影を思い出した。


 グリ。

 心優しい便利屋の青年。私が気になっている人。


 ……アッシュが、彼と重なって見えた。

 姿も違う、声も違う、それでもなぜか、同じ“におい”がした。

 まただ。なぜかいつも、アッシュにグリの面影が重なる。


「……あなた、本当に“泥棒”なの?」


「怪盗、な。でも、たまには正義の味方も悪くないだろ?」


「似合ってないわよ」


「ひどいな」


 でもアッシュは、まったく怒らなかった。

 むしろ、子どもみたいな笑顔を浮かべていた。


 ……なんなのよ、この男は。

 憎まれ口ばっかり叩くくせに、ときどき、ずるいほど真っ直ぐなことを言う。

 それでいて、たまに寂しそうな顔をする。

 余裕たっぷりな大人のふりをしているのに、たまに無防備すぎる笑みを浮かべる。


 気づいたら、私はほんの少しだけ彼の隣に近づいていた。

 一歩でも、半歩でもない。

 たぶん、心で測った“指先一本分”くらいの距離。


 だけど、その距離が妙に遠くて──

 息を吸えばぶつかりそうで、目を合わせれば心を読まれそうで。

 私は黙って、夜空を仰いだ。


「……やるからには、絶対勝つわよ」


「もちろん。計画通りにいけば、勝てる」


「その“計画”、あなたの立てたあの無茶なやつ?」


「“無茶を無茶じゃなくす”のが君の──勇者の役目だからな」


「……それ、ちょっとだけかっこいいわね」


「そりゃどうも」


 アッシュがふっとこちらを向いて、私を見た。

 その目に、冗談でも皮肉でもない、真剣な光があった。


「君は、強いよ。誰よりも、まっすぐで、優しい。だから君に頼んだ」


「……なにそれ。今さら褒めても手遅れよ?」


「褒めてなんかないさ。事実を言っただけ」


 そう言って、彼はまた空を見上げた。

 でもその横顔は、どこか少しだけ照れているようにも見えた。


 ……なんで私、こんなにドキドキしてるんだろ。

 でも、少なくとも──今夜のこの時間だけは。

 この、風の音すら優しく聞こえるひとときだけは。

 きっとずっと、忘れたくないと思った。


「……じゃあ、よろしくね。アッシュ」


 その言葉に、アッシュは一瞬だけ目を見開いて──

 すぐに、真面目な顔でうなずいた。


「……ああ。フィリア」


 たったそれだけの返事なのに。

 なぜか、胸の奥がじんと熱くなった。


 バルコニーの上を、夜風がまた吹き抜けていった。

 

 さっきより、少しだけ優しくて。

 

 さっきより、ちょっとだけあたたかかった。


「くしゅん」


「……やっぱり寒いんじゃない」


「あ、あははははははは……ごめんやっぱそれ返して、思ったよりさみい」


 そういって彼は私にかけた外装を指差す。


 ……締まりの悪い人だ。

 格好つけてたくせに。

 全く――ほんとにポンコツ。


「最後までかっこつけなさいよ……ばか」


エアコンの下で腹出して寝てたら風邪ひきかけた喉が痛い

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