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時の外側で  作者: かめかまど
青と澄の出会い
5/5

白夜、ぬくもりの中で

ご覧いただきありがとうございます!

 「……にゃあ」


 白い毛並みの猫が、宿の帳場の奥で丸くなっている。


 「白夜、そこ、布団干し中なんだけどなあ……」


 澄乃は小声で言いながらも、そっとその脇にしゃがみこみ、白夜の横腹を軽く撫でた。ふわりと毛が舞う。白夜は眼を細めたまま、動かない。完全に熟睡している。


 


 「今日はあったかいからねえ。どこにいても、うとうとしちゃうよね」


 振り返ると、宿の帳場の奥では、蒼が湯呑みにお茶を注いでいた。ほんの少し湯気が立ちのぼっていて、それが春の光に透けている。


 


 「白夜、いつからここにいるの?」


 澄乃が尋ねると、蒼は少し考えてから答えた。


 「最初に見かけたのは、川の橋の上。冬の終わりだった」


 「へえ。うちの近所に来るようになったのは……中学のころかな。なんかずっと前からいる感じするよね。神社にも行くし、お風呂場にもいるし」


 


 白夜はもともと野良猫だったが、「宿の猫」として客にも顔を覚えられ、今ではちょっとした名物になっている。名前も、澄乃が勝手に呼び始めたものだった。


 


 「白くて、夜みたいに静かで、なんか……遠くを見てる感じがしたから」


 「……似てる、かもね」


 ぽつりと蒼が言った。


 


 澄乃は振り返らないまま、静かに笑った。


 


 客のチェックアウトが終わり、掃除の時間までの束の間の休憩。宿の廊下に、風が通る。


 どこかから、誰かが木戸を閉める音がした。

 人の暮らしの音が、確かに、ここにある。


 


 「……私ね、白夜がここにいる理由、なんとなくわかる気がするんだ」


 「理由?」


 「うん。この町って、どこか少しだけ、止まってる気がするの。白夜も、時間が静かに流れる場所を探してたんじゃないかな」


 


 澄乃の言葉に、蒼は返さなかった。


 けれど、目を伏せたまま、お茶の湯呑みを手にした指が、ほんの少しだけ、震えていた。


 


 白夜が小さく伸びをした。

 春のひかりの中、猫の体温が布団に沈む。


 ――そのぬくもりは、確かに今、ここにあった。

次の話もよろしくお願いします!

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