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第37話: ある日の夏休み

『PPP......』『ガシャン』「また、やりましたね?」『に"ゃ!』「全くあなたは」『あぁう?』「はいはい。起きてるのに目覚まし消し忘れた俺も悪かったですが、落としたらダメです。おやつの魚肉ソーセージ、今日は煮干しにしましょう」『にゃ!?にゃ!!』「い、いて、ちょっと、やめて、あなたが悪いんです!」


7月の最後、夏休みに入った。

「明日から夏休みですが、くれぐれも事故に気をつけて、新学期に元気な顔を見せてください」『キーンコーン、カーンコーン』


夏休みとはいえ、特別授業や課題もある。私自身はさらに部活もある。毎日のように学園に来ることは間違いない。


「あれ、アドはどっか行くの?」「おう!今から飛行船だ!」「本当にじっとしてないね〜」「いってらっしゃい、気をつけて」「じゃあ、行くか、レオン」「あれ?レオンも?」「ああ、本場でサッカーしに」「せっかくだし、一緒に行こうって。まだ行ったことないんだレプリカフェメラディーバ」「え?アド全世界周るの?」「おう!」


みんなそれぞれの夏休みに出掛けてゆく。私も一週間ぐらい、どこか行こうか。修さんと一緒に釣りにでも出掛けようか。そんなことを考える。9月の文化祭、10月の演劇コンクールもある。祐二に話をしてみよう。


「人間なんてかっこいいもんじゃない」


祐二は地元の劇団員でもあり、智大大蔵ではコミュニティFMのパーソナリティもしている。今は学園で全世界に配信している3次元放送ドラマの撮影をしていた。


「瑞樹はラジオはしないのか?ポッドキャストとか」「なんとなく語るのが難しいんだ。ドラマの撮影もあるから、私は演劇主体かな」


翻訳機はあくまで私が認識できる単語に勝手に翻訳してくれる。「ラジオ」や「テレビ」は私の認識であり、その言葉ではない。テストも私自身の認識に合わせて単語を翻訳してしまうため、ケアレスミスがある。


何より「言葉に魂が乗らない」。祐二の本気は「翻訳」を超えて私に響いた。私は、悔しかった。


「次の文化祭、主役は俺かお前だな」「先輩達もいるよ」「いや、俺が負けるのは、お前だけだ」「そう言われたら、勝つしかないね」


大変、修さんには悪いが、しばらくは演劇しかできそうにない。次の役は「エスコートヒーロー」、主役の女性を引き立たせ、そして物語を進めていく。


祐二に焚き付けられ、私は真剣になった。オーディションには台本を持ち込めるが、ワンシーン、全て覚えていく。そして。


「あ、うん。その発音で合ってるよ」「すいません、先輩。夜に」「俺はバンドの練習もあるから、家近いし」「セシル先輩、歌うんですね」「うん。歌うの、好きなんだ」


翻訳機を外すには、単語を知らないといけない。本に日本語のルビを振り、翻訳機を外す。その部分の言葉を学園にいる人たちに聞き回っていた。


「Awhhh〜hah!」


歌うセシル先輩は圧倒的だった。声量、音圧、指向性。言葉はわからないが、それでも素晴らしいことはわかる。場を、空気を、空を染め上げる。


なぜか、歌うセシル先輩は雨を呼ばす、空は一面、晴れ渡っており、それが不思議だった。


「転げ落ちるのは全然怖くないよ」


狂気に満ちた演技やコミカルな演技から一変、祐二は「エスコートヒーロー」になっていた。


私自身、祐二の本気に魅了されてしまう。ただ、そこにいるだけで、祐二の存在感は違う。もう、その役が祐二になる。


祐二は仲間はいらない、緊張感のあるライバルがほしいという。私はより良い芝居をするのは、仲間たちだと思っている。負けたくないのは変わらない。ただ「人の心を震わせる」、その一つの目的の前ではみんな同じ仲間だと思っている。


「『自分を責めることはない。必要なときは人が責めてくれるから』」


初めてのエルヴァニア語の決め台詞。


文化祭の主役は、私だった。

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