表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/49

第0話:回顧録

大きな、とても大きな木の根元にはひとりの男が寄りかかっていた。


小さな街より大きな木からすれば、砂粒ほどにしか見えない男は、しかし近づいてみればさほど小さくもなければ、大きくもない。


鼻歌交じりに笑っているその顔は、皺があり、それなりに生きてきた時間が長いことを示しているが、ひと目見てわかる快活さが、その年齢を感じさせず、人が好きなことを伝えてくる。


少し小顔に生える、元は黒髪だったろう緩やかにウェーブを描く白髪はきっちりと纏められ、耳が大きく見えるのは、耳たぶがしっかりしているからだろうか。


鼻筋は通っているが、小鼻が大きい。少し首が長いなど、絶世の美男子のような黄金比のある顔立ちではなかったが、ハリのある肌といい、男は「いい男」そのものであった。


黒いTシャツに茶色のチノパン、歩きやすい革靴を身につけており、運動が得意そうな、例えばかっちりした服が似合いそうな体格もあり、美丈夫という言葉がピタリと当てはまる。


男は今、この世界から消える。


この男は、この世界の謎を解き明かし、この世界の発展に尽くした。だが、殆どの人々はその存在すら知らないだろう。


彼が作り出した「エメラルド色のエーテルギア」の恩恵はあらゆる人々に届いているにもかかわらず。


この「世界樹」、そして「天空の城」。

ここ、天空の城にある世界樹の下、もうすぐ消えゆくにしてはとても楽しそうな男の目は太陽を写したからか、ハシバミ色の温かな光を放っていた。


「どうしても、旅立つのですか?」

「そんな悲しそうな顔をしないで。ほら、泣かないで、とは言いませんが、笑って見送ってください。私も自然の一部だったということに、安堵していますよ。」


鼻を啜る、小さな嗚咽を我慢するようなしゃっくり音と小鳥の歌に虫の声が支配する束の間、眩暈がしそうな酷く長い一瞬、その最中。


ふと、どこから紛れ込んだのか、灰色の猫が一匹、男に近づいて行く。色に溢れたこの場所で、一点の「シミ」でもできたかのように、似つかわしくない猫だった。


猫の顔は、大変ふてぶてしい、だが、生命の輝きが放たれたとしかいえない目が印象的な、よく見ると縞模様がある灰色猫は、迷わずに男の膝に座った。


「おや、あなた、今回は約束、守って下さったんですね。」

「この猫は?」

「そうですね。まだ、日が沈むまで、少し時間もありますから、ちょっと、私の昔話にでも、付き合ってくれませんか?」


猫を撫でながら男は数奇な話を語り出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ