終幕ー
アリロスト歴1822年 1月
昨年の末にルネが雪が消えるみたいに亡くなった。
朝に俺を起こしに来るルネが居なかったので心配で部屋まで行き、動かないルネに対面した。
ある日ヒョッコリ現れて、そしてスーっと居なくなる。
丸で野良猫みたいだった。
こうなる事を見越していたみたいに亡くなる三日前、息子レミだと紹介して俺に付けると言った。
顔立ちや立ち振る舞いが似て居る所為か俺はつい「ルネ」と呼んでしまう。
そしてボルドも欠席届を出した侭、鬼籍に入っていた。
「なあ、レコは黙って死ぬの禁止な!」
「えー今から死にますと言えと?無理だろ。」
「無理かも知れんが、突然会えなくなるのは嫌だ。」
「はは、アルは寂しがり屋だもんな。大丈夫、俺は共に居るよ。仕事もパルス大学で週に一度の講義だけに成ったしな。昔みたいに思い付きでアルがこれ以上の仕事を俺にフらなければな。」
「うっ、流石にもうしないさ。今は補佐官たちが日中は詰めてるしな。」
時の流れは、止められない。
逝く命と生まれ来る命。
それは分かっているのだが寂しくて俺は隣に座っていたレコに凭れ掛かる。
レコはあやすように俺の背中をトントンと軽く叩く。
そしてルネとの思い出を語り、俺がルネにビク付いて居た事を揶揄う。
「ルネはアルを神と信じ崇拝してたのに。」
あの多才なルネが俺を何を見てそんな心持になるのかサッパリ理解が出来ない。
考えて見れば俺はルネにもボルドにも何一つ俺の傍に来た事情を聞いたことが無かった。
そう言う事を聞く精神的なゆとりが無かったと言えばそれまでだが。
何とも薄情な友及び雇い主だったモノだ。
でも何時の間にか俺には彼等が共に居るのが当たり前だったのだ。
そしてレコの心地良い声で語られる思い出話と背に触れる暖かな掌の温もりに俺は微睡む。
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アリロスト歴1822年 6月
嵐を呼ぶ変態レオンのプリメラ大陸への本格進出はヨーアン諸国に新たな会議開催を促した。
ぱふぱふ~~。
「プリメラ大陸分割会議ー」
参加国フロラルス王国、オーリア帝国、プロセン王国、エーデン王国、スロン王国(初)、ルドア帝国、グレタリアン帝国、モスニア帝国。
一応、現在分捕っている王国や商館は現状維持で大陸沿岸から周辺を8ヶ国で分割する事になった。
でもってフロラルス所有だった3ヶ国は返して貰って南の海岸沿いをモスニアに譲る事に為った。
如何いう訳がレオンも来てて、俺を見るなり散歩に行けるワンコの如くじゃれ付き、人目を気にせず大仰な忠誠を又もや誓われ、他国の外務卿そして詐欺師タレンにジロジロと凝視された。
俺は帰っても良いよね。
実務協議はタレンがいるしさ。
つかレオン皇帝が何で来てるのさ。
お前らそんな怪訝な目で俺を見ないでくれるかな?
俺は別にコイツ(変態)を操って無いからな、つうか娘婿だよ、唯の。
居心地の悪いオーリアでのイーセン会議を終え俺は帰国の途に就いた。
変態も一緒に。
「状況を弁えろ」と俺は蒸気機関車の特別車両で滾々とレオンに説教をした。
そしてレオンは悲し気に眉を寄せて俺に告げ、右手を取った。
「痩せたね、アリー。暫く手紙を出せなかったから。」
レオンは手の形を確かめる様に見て撫でて来る。
レコとレオンの側近テオが噴き出した声が俺に聴こえた。
「テオ、早くコイツを何とかしないとモスニアが大変な事になるぞ。」
と、俺は常識人ぽいテオにレオンを投げる。
「エル公爵が絡まないとレオンは有能なので大丈夫です。」そう答えられた。
俺の手に憑り付き離れないレオンを見ながら俺は思う。
「レティ、本当にコレの何処が良いんだ?」
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レオンでは無いが、相変わらず平伏したくなる神々しいエル伯爵。
レコ公爵と話をすると本人は全くそのことに無頓着なのだそうだ。
若い頃はレコ公爵がモテてると勘違いしてエル公爵は良く舌打ちをしてたと苦笑された。
「まっ、そう言うのがアルらしいけどね。」
それからレコ公爵にレオンの若い頃を尋ねられた。
俺より2歳年下だったレオンは、入学当初から不得意な物が無い位成績抜群で、面白そうと言う理由で人気の無い砲撃科へ入り、教官たちにも褒められていた。
下級貴族が優秀で目立つと、上位クラスに居る者や爵位が高い者たちは面白い筈が無く、集団でレオンに虐めを行って居た。
士官学校では唯でも目立つ容貌だったので尚更だった。
まあ反撃するので尚、酷くなった気もする。
余りに真っ向から歯向かうから俺が視て居られなくなり、絡まれる前に引っ張って建物の影に隠すようになってレオンと仲良く為った。
そして卒業してしまう俺はレオンの今後を心配すると「共に卒業出来るぞ」と平然と笑った。
驚いたことに1年経たない間に全て「優」を貰い、確かに俺と共に卒業出来た。
新兵として訓練させられていたがその頃のモスニア兵団は滅茶苦茶で、上官は先ず来ていないのは当たり前で先輩兵たちの使用人扱いにレオンは度々キレた。
そんな時に誰も行きたがらない南カメリアの黒人暴動鎮圧への徴募が在り、こんな場所に居るよりはとレオンは迷わず立ち上がった。
南カメリアへ行く船の上でレオンは航海図の読み方や船の運行情報等を聞き習得して行った。
海軍にでも進むつもりかと聞くと暇だったから序に覚えただけさと笑った。
レオンは知識を得る事に貪欲で生真面目だった。
南カメリアに付き指示された通りに上陸し、目的の商館や屋敷を目指したが突発的に襲う黒人集団に俺たちは成すすべなく逃げまどって居た。
レオンは早々に船への撤退を具申したが受け入れられなかった。
陽が落ちる前にレオンは俺に船に戻るぞと密かに撤退を促した。
「こんな場所で休んでいたら闇に紛れて襲われるだけだぞ。戦いで死ぬのは時の運だがこんな馬鹿々々し作戦で死ぬのは御免だ。」
そう言って俺の前を歩いて船までの道を誘導して行った。
翌日に這う這うの体で帰還して来た上官たちと気まずい空気の侭、モスニアへ帰国した。
何時の間にかレオンと俺は黒人暴動鎮圧に失敗した作戦を立てた士官と言う事で予備役にされた。
15歳と17歳で作戦を立てれる部隊が在れば見て見たいと2人で笑った。
革命政府で生き抜くために喧嘩早さは無くなったが、エル公爵に出逢うまでレオンは生き抜く為に行動し無駄な事はしない人間だった。
総統に成ったのも殺されない為の筈だった。
フロラルスでエル公爵に直接会うまでは。
思わず見上げてしまう神々しい容姿に打たれたようにレオンはエル公爵に頭を垂れた。
俺には判らないエル公爵の想いをレオンは語るように成り、誰から見ても勿論、俺から読んでもラブレターにしか思えない挨拶状や要望書を幸せそうに書き散らし、挙句の果てはエル公爵と家族に為ると言い、強引にレティシア嬢を妻にしてしまった。
レティシア嬢は、年齢の事さえ無ければ素晴らしい方だった。
レオンは天衣無縫と言うか、目的の為に手段を選ばない戦い方をするので「エル公爵と家族に成る」が主目的で無い事を俺はレティシア嬢の為に祈るばかりだ。
まあそんな事はレオンの為に誰にも言えないが。
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アリロスト歴1822年 11月
好事魔多し。
いや好事は無いのだけどな。
詐欺師タレンに唆さる侭にオシリス宮殿に連れて行かれた。
うん、旅行はもう懲り懲りだ。
ロヴァンス港から船に乗った迄は順調だった。
しかしスエル運河を南下し上陸して乗った馬車が最悪で、俺が馬に乗る事を希望すると却下。
車酔いならぬ馬車酔いをして全身打撲の苦しみに俺は、のたうち回った。
オシリス領域に入るとカラカラの空気が俺を責め苛む。
砂漠を見ながら詐欺師タレンは「悠久の歴史浪漫を感じますな」つうて悦に入っていた。
俺はお前みたいな冒険野郎とは違い、生粋の「箱入りじじい」なんだぞ!
もっと丁重に扱え。
ズタボロに成りながら一番新しいピラミッドへ現地の墓守人と入る許可を取り付けた。
お返しはフロラルス傭兵団。もといフロラルス軍の貸し出し。
最近、グレタリアン帝国のヒャッホー達が偶に侵入して来るので「追い払え」つう訳だ。
「あいつ等は、異教徒に容赦無いから。」
いやー、それは俺らもなんスっ、けどね。
元は同じカリント教教徒だからなー。
俺や歴オタの詐欺師タレンはちょっと変な自称「カリント教」つうだけで。
そして俺はもうどんなに詐欺師タレンに唆されようと、フロラルス以外ではオーリア帝国までしか行かないぞ、と新たな決意を秘めた旅だった。
レコとレミは楽しめたようで何より。
つう訳で詐欺師タレンは来年オシリスへ旅立つので新たな外務卿に成る弟子を鋭意教育中。
詐欺師2号?
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アリロスト歴1822年 12月
今「禁書」ムーブがヨーアン諸国で起きている。
NO1は「レオンハルト法典」で2番目は「市民とは何か」3番目は「軍神レオンハルトー理性が馬を駆るー」まあ、レオンは変態だから18禁だよね。
冗談はさて置き、3番目はグレタリアン帝国とルドア帝国が発禁指定している。
取り締まりが厳しいグレタリアン帝国では、変質してしまったレオンハルト法典が、裏で出回っているそうだ。
それで何が起きるかと言うと集団活動が活発化して、紡績機械の打ち壊し運動とかに成る。
レオンなら治安維持の為に壊した活動家たちも含めて殲滅されるぞ。
モスニア革命終了が1815年、7年遅れで各地に散った火種が燃えて来た感じだ。
手工業対水力・蒸気機関工場と言う構図だけど、俺からすれば何方も人力が無いと製品が出来ないのだから、キチンと生活出来る産業構造にするべきでは?
そう考えて工場とかを俺は作っていたが、他国では革新的技術ばかりに目が眩んだのか、ブルジョワジー主導で構造を作ったのか、歪が大きくなっているようだ。
モスニア革命とは違い、労働者たちの活動が主軸に成っていた。
今はあの世にいるじじいやジョルジュ、ジョセフ陛下に飽きる程話していた。
国の基本は農業で是だけは代替えが効かないから大切にするよ政策を随時発動中。
それを主軸に産業政策も立案出来るように72年頃から考え、現在に至る。
いや、だって俺は飢えた人々に殺されたくない一心で生きてたからね。
食べ物は大事。
人間食えてさえいれば何とかなるもんだからね、たぶん。
こういう考え方をしてしまうのは俺が生粋の王族では無いからかな。
じじいはそんな俺の異質さを心配して自分の腕の中で守ってくれてたのだと今なら分る。
そんな俺とじじいの薫陶よろしく育ったジョルジュもヨーアン諸国の王侯貴族に比べたら異質で、その息子のジョセフ陛下も当然そうで、エル王家は今の時代だと変な一族。
あんまり大陸では農家に気を遣う王家っていないからね。
まあコレでフロラルスで王家要らないって言われたら立憲君主制が許されるなら其方へと移行予定。
そんな覚悟を地味にしているのは、グレタリアン帝国のロンドに住む労働者たちが大挙してバレン宮殿を取り囲み、労働者の権利を叫んでいると言う新聞が届いた所為だった。
記事を読みながらジョルジュとレコでどうなるかネ?と話合い。
フロラルスと違うのはグレタリアン帝国は、先ずは議会が在りその決定を皇帝が承認する、と言うプロセスがあるので、皇帝の意見が素直に表には出て来ない。
前回、鮮烈な皇帝デビューをオルテンシアが飾れたのは、議会も動けず皇帝も動けない緊急事態だったからだよね。
「下院では労働者側の意向は通らないでしょね、兄上。」
「まーね。皆、経営者側だからな。」
「だが無理に押え付けてもモスニアの二の舞だぜ?」
「でもまだ労働者側に力がないからな。」
「それにグレタリアンはイラドでも疫病や独立運動で身動き取れませんよね。」
「方向転換する機会だけどグレタリアンの主軸はイラド会社と金融業なんだよな。雇用人数が少な過ぎて如何にもならないか。」
俺たちはレミが居れた珈琲を飲みながら強張った空気を緩めた。
まあ、その金融業のお陰で、モスニアから取返した南カメリヤの一部やナユカの首根っこを押さえてるし、俺からすれば頭が良いのか悪いのか分らん。
黒人奴隷を禁止した北カメリアとも国境沿いで険悪な感じらしい。
逃亡した黒人奴隷の返却を求めて南カメリア総督府が北カメリア政府へ抗議しているそうだ。
これで返却すれば北カメリア連合国の威信は傷付くし全く面倒な。
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アリロスト歴1823年 2月
12人の死傷者と約130人の逮捕者を出してグレタリアンの労働者側の訴えは沈黙させられた。
そして独立したイラドのサシーア王国に宣戦布告して侵攻するらしい。
徴募して人が集まるのかね。
真龍王国は通商交渉は難しいと悟り、隣国の碑先王国に矛先を移し交易をしている、と緑藍からの伝聞を特使に貰って居る。
そして件の談話室でサディとレオンが屯している。
じじいが亡くなって以降、老人クラブを解散し俺がじじいと話したくなると此処へ来て、じじいのソファーベットの前へ腰掛け俺的には2人で、傍目的には俺1人で酒を呑んでいた。
何故か気が付いたらサディとレオンと共に俺は水割りを飲んでいる。
いやサディは分る。
70歳過ぎた隠居じじいだからな。
おい、31歳現役皇帝レオン、何でいるんだ?
「ランツ3世がもう長くない。」
知ってるよ。
別れの手紙を義兄上から貰ったからな。
俺が落ち込んでいると思って来たそうだ。
良いんだよ、そう言うしんみりするのは。
俺を知っている人間が居なくなるのを深く自覚したく無いんだよ。
此れだからガキは嫌なんだ。
レオンや周囲の景色がふわりとボヤケて、ホロリと暖かい水滴が俺の頬を伝う。
レオンが俺を抱き寄せて涙を指の腹で拭った。
レコも咳が酷くて今は寝込んでいる。
もう嫌なのだ。
俺を知って俺が知る人が消えていくのが。
俺は多くの人間を救いたかった訳じゃない。
初めは俺の命を、次はじじいの魂を、そして何時しか俺と関わる人達を序に救いたかっただけで。
ソレだけだった。
もう、十分だよ、神か悪魔。
レコが俺より先に行くのは耐えられそうにないよ。
唯一レコだけなんだ。
俺から求めた人間は。
その夜、アルフレッド・エルはこの世界を去った。
翌朝、アルセーヌ・レコ=ヴィラン公爵も静かに永き眠りに付いた。
【終幕その後】
2階の一室から何かが暴発した音がした。
其処にはジェローム・エイムが愕然として暴発した拳銃を見た。
隣りの部屋に住んでいたジャック・スミスは驚いてベットから落ちた衝撃で呆然とした。
一階に住む大家のサマンサ・シュリンクは某発音で驚きドアに頭をぶつけて気絶した。




