文字にならない物語
アリロスト歴1812年 2月
先月、プロセン王国の大王フリード2世(81歳)が逝去された。
俺が老人介護(フリード2世)してから、返事に困る頻度で手紙が届いていた。
伝令役と化してる特使が可哀想だったので10日に1度にしてくれたら手紙に返事を書くよーと約束した。
そしたらフリード2世日記と難解なポエムが綴られて来るのだった。
レコやゴドール、ボルドがポエムを絶賛するのだが、ホントに解らん。
「朝日が綺麗だったで良くね?」
其処でレコから暗喩講座が始まったが、俺は途中で断った。
日記の方は出来事、それに思ったことを赤裸々過ぎる素直さで書いて来た。
xx公主殺してやるとか、xx方伯死ねとか、愛人xx将校の浮気とか、新たな恋人を中将にしたとか。
全て暖炉の薪にしようとしたらレコやボルド、ゴドールに止められ書かれた人が鬼籍に入ってから、絶対に本にするべきだと言われてしまった。
人の日記を本にするなんて悪趣味過ぎると、俺は抵抗してたらフリード2世から手紙。
「私からの遺書だからフレッドが編纂して本にして欲しい。」
「えー、俺はやだー。」
いや赤裸々とか素直つうても文章自体は素晴らしいのだよ。
フリード2世の人生哲学やら思想が書かれてて凄いのだけど、愛人とか恋人について書いた後、切々とした愛の賛歌をフレッドへ書き綴るは止めて欲しい。
フリード2世が書くフレッドは俺ではありません。
どっかの国のフレッドさんね。
つう訳で俺が死んで、誰かフリード2世日記を発掘した人へ全て任せる事に決定した。
レコやゴドール残念そうな顔をしても、駄目なものは駄目なんだぜ。
そんな遣り取りを思い出し、俺はフリード2世が大切な親友に再会しているのを夢想した。
うん、分ってたさ。
あの愛の賛歌は、フリード2世を庇って斬首された親友フレッドへと綴っていた事はね。
その話だけはフリード2世と俺しか知らない、文字にならない物語。
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アリロスト歴1812年 6月
世の中が風雲急を告げる頃、俺の恋人ソニア(18歳)とオデット(14歳)が懐妊しました。
当然のようにレコは息子セルジュ、ルネは娘ジゼルが出来た。
ソニアの1人目は息子ジルベール。
3人(ジルベール、ジゼル、ゼルジュ)は良い具合に同い年。
1812年生まれで俺たちみたいに、いい友達になれそうだ。
そう言えば慎重派で真面目なジョルジュですが、じじいから例の大奥基、娼館を貰ってて其処では恋多き暴れん坊将軍やっている。
今は4人だってよ。
毎年やっている社交デビューに来たジョルジュ好みの少女へ愛を語って受け入れられば大奥住まい。
賞与は支払うけど親族への便宜供与は一切ない。
「純粋に愛情だけですよ。」
キリっ。
もうジョルジュってば、カッコイイ!
って、成るかっ。
愛妾じゃなくて公妾を作りなさいよ。
「ジョルジュの娘は全員嫁に出したし、ジョセフ(殿下)もアンリ(王弟)も婚姻しただろう?婚姻同盟用に侯爵以上の由緒ある家柄の娘と婚姻しなさい。(血統書付きの子を早よ)」
「だけど僕は高位貴族の貴婦人は苦手なので。兄上が嫌って無ければ、ブルジョワの子女を愛人にしたいくらいなのです。」
「いや私が嫌っていると言うより今は不味いだろ。モスニアがまだ落ち着かないから現在、高位貴族の者たちはブルジョワを敵対視している。まあ、騙されたと思って一度会いなさい、兄上命令だ。」
「また兄上は。兄上に言われたら僕が断れないのを知って。誰の差し金ですか?」
「はいはい。今夜モンシュシュでな。」
いやあヤバイヤバイ。
現宮内卿エミール・ロヴァンスから頼まれたつうのはバレて無いよな。
ブーニュア公の曾孫アンヌ13歳はジョルジュが好きなエロ可愛いタイプだし、ラテン語は勿論思想書にも造詣が深いと聞いた。(レコ談)
後はアンジュ公の孫娘15歳。
顔や仕草は清楚なのに体付きがエロイらしい。(ロヴァンス談)
はい、ジョルジュは若いけどエロい少女がストライクなんだそうだ。
純粋ピュアピュアに見えて、薄幸そうな細身つうのが、じじいの好み、ド・ストライク。
中身は賢ければ善悪構わず。
だからカモられ続けてたじじいなんだぜ。
でもって、じじいは馬車に乗るのも大変な年齢(102歳)を迎えたので、夜伽解放区にトゥリー城内一室を譲らせて貰った。
まだまだ枯れないじじいを俺も見習わなければ。
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アリロスト歴1812年 6月
モスニア政府が腐敗した派遣議員を粛清しようと動いたら、反対に粛清された。
シエラ・クラブ党首マリッツ・ミケロネを含む党の幹部5人が、派遣議員たちが連れた兵の銃弾に依って射殺された。
首謀者ラスア子爵、ブリエーコ男爵、ボレン男爵と他2名。
フロラルス王国にも届いていた凄まじい悪評を此処まで放置していたマリッツ党首の迂闊さを何とも言えない思いで報告を聞いた。
貴族制度廃止が施行されたのに立場を変えずに政府で動けていた存在が気持ち悪かった。
ブリエーコ男爵は、王家に庇護されていた商人や貴族に偏執的な敵意を燃やし、栄えていたクロムの街で人口の10%削減を目指してクロムの大虐殺を主導していた奴だ。
悪魔すら逃げ出しそうな悪徳派遣議員たちが、其の侭3人体制で政府中央に居座り、「総裁政府」とされ、一定以上の税を治めた者へ選挙投票権を与え500人会(下院)、元老院(上院)の2院政議会とした。
まっ、どう運営されても真っ当ではなさそうなモスニア総裁政府が出来るみたいだ。
ガツガツと抵抗していたランダ国の地方公主を次々に降伏させていたレオンハルトに、待ったが掛り政治体制が変わった為、休戦協定を結び帰国するように命じられた。
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レオンハルト(レオン)が帰って行った事に俺はホッとしたが、ラスア子爵たちに国を纏めて行けるのかと問われれば、「無理だろうな」と俺は結論を出して、北カメリアとのモスニア亡命者移送契約書を読み始めた。
そしてランダ王国の亡命者リストをチェックした。
王妃は元がランダ国の姫で同盟国と言う関係上高位貴族や王族の亡命者が多い。
2区で解放している宮殿や城へ放り込み、俺の縄張りには来させたくないモノである。
ランダ王宮で軟禁されているランダ国王と王妃の救助をと嘆願されるが「中立」を宣言しているフロラルスが国としてそんな事が出来る訳も無い。
真龍国と貿易するまでは「米」を輸入する為に世話になったが、陽ノ本と条約を結ぶまで彼是と俺の弱みに付け込み、技術協力や陽ノ本との金銀支払いに制限を付けたりした事を俺は忘れていない。
どれ程、米、醤油、味噌、日本酒が欲しかったことか。
食い物の恨みは恐ろしいのだよ、ランダの皆様。
数人陽ノ本と交流が在った学者たちが、陽ノ本へ行く序でに連れてって欲しいと嘆願された。
新たな外務卿カレ候とジョルジュと相談して問題無いとした。
動物学者に地学者、医学者だった。
今回は農家の娘や淑人の娘などなどクロエみたいに新たな事に挑戦したい、と言う跳ねっ返り子女軍団と若い男性元農奴も一緒だ。
若くても農業を続けたいと言う保守層に、敢えて陽ノ本行きを選択させる俺って鬼畜系?
いやいや俺の親心だよ。
広い海の旅でもして硬直した思考を解して欲しい。
そうそうレコが話していたが留学生たちの髷が無くなり短髪に成ってたそうだ。
墓のデザインも変わって緩めで以前より着心地良さそうに見えたと言ってた。
まあ、軍の方はフロラルス軍服に似たものに為ったと、クロエが以前に送ってくれた手紙に在ったなと、思い出した。
ラゼ大佐(73歳)が現在7人目をエルザに懐妊させてるらしいけど何か記録でも作ってるのかね?
つか、じじいは未だ現役だった。
じじいは偶にパルス大学へ出かけて行くのは良いけど、真龍国の留学生をモンシュシュに引っ張り込んでるって報告を受けてるからな。
真龍国の女性留学生を受け入れたのは、大学に若い女性がいる光景に馴れて欲しかったのだ。
しかし全く、側近に頼んだらじじいへ配達してくれるその便利なシステムは何?
元国王専用?
ジョルジュにもあるか聞いてみよう。
そう言えば渋ってた割にジョルジュは2人共公妾にするらしい。
一度には体裁が悪いので先にアンジュ公の孫娘、一年後にブニューア公の曾孫アンヌを娶る予定。
15歳と13歳なら懐妊しても恐らくは大丈夫な筈だ。
それでもお産は命懸けなので絶対大丈夫と言えないのが心苦しい。
レティのお陰で以前よりもお産への安心感は増えたけどな。
別に産婦人科では無いのだが、妊婦の体調管理や状態変化をデーター化して纏めて本にした。
その本に異変の遇った時の対処法等を記していた。
そして亡きタヴァドール夫人に心よりの感謝をと綴り、彼女が教えてくれた性教育を紹介し、実際の性病に付いてもデーター収集と観察をし、論文を纏めていた。
レティは子供を3人儲けた今もオーリア大学で女性医学者を育てている。
タヴァドール夫人が居てくれたお陰で俺の命は助かり、レティやフェリクスが寂しくない人生を歩めたのだ。
オーリアに旅立った時、俺よりも年上のオヤジと結婚した時も、俺は寂しくて堪らなかったが、自分で道を選びレティが望む相手を自ら見付け、自分で幸せを紡いでいった。
良い娘に育ったとつくづく思う。
義兄ランツ3世はレティを可愛がり本を出した時には増刷を命じ帝国が管理する書架へ寄付をした。
そして女伯爵の爵位と領地を与えた。
「甘やかし過ぎだ」と俺が義兄ランツ3世に苦情の手紙を書いたのは言うまでもない。
まあ、フェリクスはバカンス・シーズンに領地に帰り領の管理は、せずに論文を認めて居る。
此方は婚姻して男子二人を儲けた後は、気にった教え子に公私ともに世話をさせている。
緑蘭みたいに性別フリーだ。
まあ、研究や実験を始めると、それ以外に気を払わなくなるので、自然とそうなるらしい。
俺には自然とそうなるシチュエーションが理解出来ないが、「あーそうそう、アルもそうだよね。」と、レコに言われたが流石にそれは無い。
フェリクスが人間としての情を持って見て接するのは、故タヴァドール夫人、そして俺、レティ、レコ、ルネ、故ゴドールだけなのだ。
気にったと言う教え子は、そこそこ綺麗で頭が良くて器用で使えるって言いやがる。
「フェリクス、年を取ったら寂しくなるぞ。」
「寂しくなったら考えますよ、父上。」
そう言って屈託なく笑うフェリクスは最高に良い息子に見えるのにな、と俺は思う。
いや、実際に最高に良い息子なんだよ、俺には。
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≪フェリクス徒然なる侭に①≫
僕の人生の師ユニヨ大佐。
「きっと殿下が待ってくれているのですよ。私が蒸気馬車を創り上げられるのを。」
蒸気機関車が完成しても、父上が「きっと待っていて下さる」そう言って、設計図を書いては新たな素材を探して真っ黒になりながら実験を繰り返していた。
「自分の発明を本当に認めてくれたのは、殿下が初めてで、惜しみない研究費に頼れる仲間も呼んで下さり、全力で支援して下さっているのに何も私には求めず、心の侭に実験をさせて頂いているのです。」
父上が公爵に成っているのに亡くなる最期の時まで殿下と呼んでいた。
ユニヨ大佐から父上の話を聞きながら手伝うのが僕には一番に楽しかった。
それが病に倒れて「殿下、有難うございます。」そう言って僕の手に触れて亡くなった。
僕は心に穴が開いたような気がした。
それから暫くして僕の母タヴァドール夫人までも亡くなった。
サラサラと胸の奥から砂に成って、僕は熱が失われて行くのを感じていた。
そんな時にユニヨ大佐の孫娘が訪ねて来て、自分には理解出来ないのでと、ユニヨ大佐の実験ノートを僕に渡してくれた。
10冊に及ぶ実験ノートを読んでいると不意にユニヨ大佐の声が蘇った。
「きっと殿下が待ってくれているのですよ。私が蒸気馬車を創り上げられるのを。」
それからは内燃機関の燃焼率を上げる実験をし乍ら、空いた時間でユニヨ大佐の実験ノートを摸倣していった。
僕の論文と検証は認められたけれどユニヨ大佐の蒸気荷馬車は苦戦していた。
僕の研究室で寝食を忘れて蒸気荷馬車の検証を始めていた。
気が付いたら内燃機関の実験をしていた時に補佐をしてくれていた少年が幾日も風呂に入っていない僕の身体を湯で湿らせたタオルで丁寧に吹いてくれていた。
何時の間にか少年は僕の全てを世話してくれるようになっていた。
僕も父上に似て心許せる相手出ないと身近に近付けさせることが出来ない。
ことにエトワル宮殿を知っていると益々に女性が不潔に思えて話す内容にも不信感を持っていた。
恐らく父上の側にいたルネやレコ、ゴドールが綺麗で美しかったから、余計にそう思えた。
少年は僕に何もさせないで肉体の熱い火照りも冷ましてくれた。
肉体が冷めると脳が回転を始めてまた設計や実験へと意識が集中出来た。
気が付けばもう1人美しい青年が、僕と少年の間に加わり、僕が考えに詰まった場所を、共に考えていた。
僕は益々、効率よく思考、実験、検証が出来るようになり、形も見えてくるようになった。
そんなある日ゴドールが僕が寝泊まりする屋敷を訪ねて来て9歳だと言う少年を紹介した。
絵の才があり僕を描きたいのだと言う。
顔を描かないと言う条件でゴドールの頼みを聞いた。
パルスの屋敷で少年レミと青年リオに傅かれて画家のシスが僕を見詰めて描き続ける。
幼い頃から敬愛する父上と僕が重ねっていく気がした。
「きっと殿下が待ってくれているのですよ。私が蒸気馬車を創り上げられるのを。」
そうだね。
ユニヨ大佐、もう直ぐ形になるよ。
そうしたら真っ先に父上に見せに行こう。




