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悪い酒

アリロスト歴1806年  4月(クロエ編)




  春うらら。

ホント天気の良い日に止めて欲しかったです。

ドーン、ドーン。

と身体の奥底を震わせる砲撃の音に私は部屋の隅で身を強張らせました。

傍にいたモーリスに思わずしがみ付いた私は悪くないと思う。

誰かが死んで行く恐怖と私はまた死ぬかもという恐怖で血が冷たく凍って行く気がした。

呼吸が浅くなって私は意識を手放した。


 夢の中で随分と久しぶりにクラリーに逢った。

あの私を幸せにする爽やかな笑顔も其の侭で、それが何故だかとても私は寂しく感じた。

いっぱい話したい事が或るのに私もクラリーも声が出なかった。

ただ抱き締めてくれる温もりに私は身を任せた。

クラリー、戦争って私はやっぱり怖いわ。

陽ノ本は負けないよね、クラリーお願い、ラザールと私、陽ノ本を守って。



明くる日からモーリスは如何いう訳か、私の隣から離れない大きなワンコになった。




 その翌日、戦いが終わり祝勝会を終えたラザ大佐と、久しぶりのニコラ中佐にクルレール中佐が揃って私が滞在している武家屋敷に遣って来た。

 陽ノ本の室内素足文化に早くも馴染んでいるニコラ中佐とクルレール中佐は、客間として使っている座敷に腰を下ろしてラゼ大佐と談笑していた。


「真龍国皇帝なら江波湾に投げ出されたグレタリアン兵殲滅を命じてましたよ、ねっ?ニコラ。」

「そうだな、偵察艦も含め、泳いでるあいつら目掛けて砲弾を一斉に放ってたでしょう。」

「それは―光明皇帝は苛烈だな。」

「ええ、ですが幕府は投降した者を助けると陽ノ本の通訳が話していたので追撃は止めました。」

「しかしラゼ大佐、真龍国の大砲も凄いと思いましたが陽ノ本の砲弾も凄いですね。カメリア独立戦争の頃とはまるで別物になっています。」

「ニコラ、クルレール、これは極秘だがフロラルス王国の型落ち品を売っているんだよ。」

「古いのにあの攻撃力。それは素晴らしい。」

「我が国は戦いを止めたのだと私は考えていました。」

「まあ強化しているには軍務卿だがね。」

「「ああー(納得)。」」


  恐ろしい事を楽しそうに話すラゼ大佐たちを見て私は気まずさを煎茶で飲み干した。

 騎士?軍人?は人と戦う事が普通なのだ、と日頃温厚なラゼ大佐の嬉々として語る武功に職種の違いを改めて私は感じた。

 そう言えば、「ヒャッハー野郎!」ってエル公爵は、戦闘好き貴族を忌々しそうに言ってたのを、私は思い出した。

 エル公爵も私と同じように飲み込めない違和感を胸に秘めていたのかも知れない。

 いや勝って嬉しいですよ、当然。

 陽ノ本へ向かう途中、イラドや周辺諸島、リーシャン、珠湾に寄港してグレタリアン海賊の蛮行とか聞いてましたから、此の国がそうならなくて本当に良かったと思うけど、うーん。

 はあ、此の違和感は私には如何しようも無いことですね。

 今は弱肉強食の時代。

 負けてしまえば勝者のルールに従わなければ無くなる。

 一先ずはお米の国が自ら海賊を退治で来た事を祝おう。

 難しい事はエル公爵にお任せしよう。


 相変わらずに砲弾の角度やら発射時間などややこしい話題に興じてる3人を放置して、私は襖の外で待っていたモーリスと共に台所へ行き、昼食の準備に取り掛かった。





  グレタリアン海軍が陽ノ本を強襲した事により幕府の軍制が大きく変わった。

 軍は改めて将軍が総裁(総大将)となり、親藩3藩は将軍後見職となった。

 ぶっちゃけると名ばかり親衛隊らしい。

 そして帝都守護職。

 帝がいる御所、都を守る軍。

 海軍、陸軍を創設。

 大きな港が或る7藩に作るそうです。

 そして陸軍士官学校を江波に作り各藩から優秀な人材を募集後、ラゼ大佐一団が育てるそう。


 で、緊急事態に寄り大奥が廃止されるので、希望するお嬢さんたちを教育する女学校が作られ何故か私が外国語(蘭語・風語・昏語(グレタリアン語))やフロラルス・マナーを教えることに為った。

 何でも人によっては尼さんに成るしかないそうなので勿体ないとのことです。

 

 なんだか私の仕事ってドンドン増えてませんか?


  竹原さんの報告で、約2万5千人程でグレタリアン海軍は来襲して来たそうだ。

 死者約400人位、傷者は将校、水夫合わせて約7500人以上、行方不明者役300人程だそうです。

 投降者は約1万人以上で現在は向島に収容中だとか。

 捕獲した軍艦は3隻。

 有効活用できるとホクホク笑顔が怖い竹原さんでした。

 特使のサイエ拍にグレタリアンと交渉する相談をしています。

 提督らしい船が白崎沖へと去ったので怪我人や捕虜を如何するか?を話してるみたいですね。


 随分後で私は知ったのですが、真龍帝国は真龍側の海域に逃げて来た船たちを海賊船として、全て沈めてたみたいです。







    ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 アリロスト歴1807年   2月(俺編)






  昨年、モスニア新法典騒動勃発後暫くして陽ノ本に駐在していた特使サイエ拍がフロラルスに帰国してグレタリアン戦の報告書が俺に届けられた。

 一先ずグレタリアンとの第一防御戦はクリア出来た。

 クロエも元気で心から俺はホッとした。

 此れからフロラルス王国と陽ノ本と何方に居住する方がクロエには安全なのだろうか。

 フロラルスは安全と思いたいなー。


 教皇領ロマン地域は何とか代表者が決まりロマン市長となった。

元々教皇領はタ-リー公国にある自治区だったので市長となった。

市民が武装解除しない自主防衛自治区だそうな。

憲法つうかロマン法典は既に出来ているので後は行政府作りだけど、大丈夫か?と俺は不安になる。

すんなり各行政長が決まってほしいよ。

何時まで経ってもコルカ島とロヴァンス領の非常防衛線が解けない。

義兄ランツ3世もロマン市政が落ち着いたら教皇を大聖堂へ戻せるように交渉するらしい。


 「面倒なので置いて於きたくない。」


 とは、義兄ランツ3世の弁。

 逃げてた聖職者たちが教皇を寄る辺に集まって来てるそうだ。

 どうせなら武装中立国のスロン王国に行かせば良いのでは?

 そうランツ3世に書き送った。

 5、6百年前からフロラルス王国から攻撃されまくる教皇を守る為にスロン王国は傭兵を常時ロマン地域や大聖堂に派遣していたのだし。

あの高い山脈越えてスロン王国へ教皇を襲いに行くのってフロラルス位しかいないから安心じゃね?


 それにしてもフロラルス王国の近隣にロマン市と言う火薬庫が設置された気分だ。



 そしてモスニア王国では王立国軍と市民軍(下士官+市民)が首都ドリードで戦闘が起こった。

原因はフロラルス?

1770年辺りにじじいと話し合って作った「徴税権は領主に或る。何人も侵すなかれ」つう徴税人から徴税権を奪う布告が何故か37年ぶりにモスニア王国の首都ドリードで演説された。

 市民に関係なくね?

 えー、本来ならな。

 まっ、ただ彼等も俺と同じことを言いたかったのだ。

 徴税人に徴税権は無い。

 つう訳で市民たちは徴税人の屋敷に徴収した税金を取り戻しに行った。

 当然のように治安を守る衛兵は詰め掛けた市民を捕縛し牢へ収監。

 戦闘準備万端に整えていた市民軍が牢へと詰め掛け牢の門を壊し囚人たちを解放した。

 其処で戦闘が始まったのだ。

 カリント教が生れる前から或る意味、徴税人は特権階級だったからなー。

 古代より為政者へ金を支払い徴税権を買い、それを生業にしていた。

 大昔はもっと素朴な生業だったみたいだけどね。

 まー、貴族も王族も、聖職者も税を集めてくれる徴税人の存在は便利だったから、時代を経て面倒な存在になったけど放置していた。

 教皇領ロマン地域の騒動見て徴税人は悪つう共通認識がハッキリと確立された。

 だから貴族の前にターゲットにされたのだろう。

 俺は徴税人を生贄とは思わないけどな。


 ヨーアン諸国で徴税人を廃止したのは、我がフロラルス王国。

 でもってオーリア帝国と神聖カリント帝国皇帝直轄領、そしてエーデン王国だ。

 フロラルス王国で出来たのは偏にじじいのカリスマだと今も思う。

 俺やジョルジュじゃ反対に彼等に潰されていただろう。


 そして此の戦乱がヨーアン諸国に広がるとグレタリアンは、南カメリアへ。

ポガール王国は、オーリア帝国(傭兵エーデン)、プロセン王国はプリメラ大陸へ。

ランダ王国はイラドへと向かった。

 モスニア王国の植民地収奪の時間だよ。

 文化的な(笑)ヨーアン諸国は本土攻撃等という下品な行為は最後に取って於きます。

 フロラルス王国はヒャッハー野郎共を放逐してるので出しません。

 全く、プリメラ大陸にご迷惑をお掛けして申し訳ありません。

 そしてやっとオシリス王朝からイエル運河流域の開発許可が貰えたので、ジョルジュも久しぶりに笑顔を浮かべていた。

 俺的には、他国で開発などせずとも国内で遣って於きたい護岸工事が山ほどあるのになーとボヤく。

 だけど俺には俺のやりたいことが在ったように、ジョルジュにはジョルジュが目指したいものが在るのだろう。

 何時も俺の目指したことに文句も言わず手助けしてくれた、ジョルジュを助ける事が、今の俺が遣るべき事なのだろうと俺は改めて思い至る。

 





    ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




   アリロスト歴1807年   9月(俺編)




  リーシャンから帰国した船に真龍国の特使が乗ってフロラルス王国へ遣って来た。

 「皇帝から伝言が在ります。余人を交えず話を聞いて下さい。」

 そんな文が届いたのでトゥリー城にある俺の執務室に真龍国の特使緑藍を招いた。

 分厚い丸眼鏡を掛け長い白髪を纏めた年齢不詳の華奢な男が入室した。

 か細い躰で真龍国流の礼をして俺が勧める侭に椅子に座った。

 なんだろう、この緑藍ていう特使、違和感が或る。

 ルネが冷えた麦茶を俺たちの前に置き、静かに部屋を出て扉を閉めた。


  「いやー、綺麗な男の子だった。でも何者?気配がヤバイじゃん!」

  「えっ!?」

  「初めまして、アルフレッド公爵。俺は緑藍こと光明皇帝、宜しくー。」

  「えっ?いや、えええーーーーっ!」


 皇帝はそう名乗ると丸眼鏡を外し、白髪をスッポリと外した。

 乱れた艶やかな黒髪を調え後ろで1つに纏め、俺を見るその瞳は星の夜空を切り取ったようだった。

 美しく整った顔立ちは、どのような美女でも太刀打ち出来ないだろう。

 いや、そうでは無くてだな。

 なんで真龍国皇帝が此処にいるんだ?

 

 「あはは、戸惑ってる、戸惑ってる。そうそう俺の事は緑藍て呼んでよ。お察しの通り日本昔話を知っている。ホントずっと、会いたかったよーマジで。」

 「すまん。何か吃驚して、言葉が出ない。」

 「いいよいいよ、まっ、吃驚させたかったしね。もー3歳からずーと気を使った話し方してたから嬉しくてさ。アルフレッドも生前と同じ話し方で会話してよ。もう皇帝喋りはウンザリだ。」

 「でもあの大国の皇帝に生まれ変わるなんて------俺には無理だ。絶対に逃げ出すわ。」

 「だろー?俺の場合は逃げ道を塞がれてさ。毎日、罵詈雑言を内心で喚いてる。」

 「それは俺もだな。まあ俺の場合は弟の出来が良かったから良い具合に譲れて助かっているよ。」

 「ちっ、兄つうのは全く。じゃあ比較的自由に出掛けられる?」

 「うんにゃ、要介護のじじいと、後は頑張ってる弟の手助けするって約束してるから、基本は此の屋敷内でグダグダウロウロしているよ。そう言えば陽ノ本と縁を繋いでくれてありがとう。」

 「いや、陽ノ本で米を探してるって聞いたから俺と同じだと確信出来たんだ。」


 俺たちは此方の世界の苦労話をし、そして前世の過去の事など話し合った。

 あどけない仕草で微笑む緑藍は美しく俺は視線を外せなくなっていた。

 しっとりと潤んだ瞳で俺を見詰め、気が付いたら緑藍は俺の首に両腕を廻して両膝に座っていた。


  「ちょ、ちょう、緑藍。待って、待って!俺はソッチの趣味------わっ。」


 緑藍は俺に唇を合わせた後、ペロリと俺の上唇を舐めた。


「ふふ、御馳走様。」

「勘弁してください。緑藍、アンタどんだけ魅力的なのか判ってる?その気がない人間でも危ないんだから俺には御触り禁止でお願いします。」

「はいはい。でも変な事はしないから此の侭膝の上には座らせていてよ。なんかねー、子供の頃以来だから嬉しくて。駄目かな?アルフレッド。」

「------はい、良いです。でも顔を俺に向けるのは禁止で。」

「うん、ありがとう。」

「あー、そうだ。一つ聞いて見たかった事がある?」

「何?」

「うーん、飢饉の時何故に他国の種子持込禁止にした?凄い桁数の国民が餓死したと聞いたけど。」

「まーそのまんまだよ。多過ぎるから減って欲しかった。良心の呵責なんてものも全くない。」

「そっか、うーん。」

「アルフレッドは優しいもんね。俺はそう言う感覚は目覚めて一年で消滅したよ。6歳くらいまでは前世の感覚に侵されたら即座にゲームオーバーだった。」

「マジか。怖っ、真龍国怖っ!」

「そう言う怖い世界で生きてるから、前世で似たような教育受けた俺たちだけど、此方の世界での価値観は大きく違うと思う。うん?でもニコラ中佐やクルレールは暴動鎮圧する時は俺と同じノリだぜ?」

「くそー、あの不良じじい共め。帰って来やしねー。何が全員死亡しましたっ、だ。報告した特使サイエ拍は目は泳いでるし、冷や汗掻いているし、可哀想で俺は頷いたわ。」

「あはは、まあニコラ中佐とクルレールの事は任せてよ。敵にも女にも金にも不自由させないから。」

「緑藍、敵は要らないんじゃないかな?」

「何言ってるんだよ。敵がいるからあの2人は元気なんだぜ。」

「はあー、やっぱそうだったか。」


 それから騎馬戦の話を語る緑藍は楽しそうだった。

うん、基本は戦闘民族だよね。


 「緑藍は世界征服する?」

 「ナニソレ?美味しいの?面倒臭い。ソレを考えるのはグレタリアンだけだっての!」

 「ですよねー。」


 国なんて真龍国だけでお腹が一杯だそうだ。

 ヨーアン大陸がどーなろうが手助けに行けないから頑張れよと俺は緑藍に励まされた。

 でもって陽ノ本は近いから密かにフェローしてくれるそうだ。

 高州っていうグレタリアンとの湾岸係争地に陽ノ本民が藩士と農民セットで移民しているそうだ。

 広いから開墾のし甲斐があると緑藍は笑って話した。


 俺は交渉していた古代オシリス王朝文化の話をしたり、新法典で国が引っ繰り返った事を語ったり、お互いに思い付いたことを何の脈絡もなく話しては同意したり、突っ込んだりして時を過ごした。


 食事も終わり、そろそろ寝ようかと俺は緑藍に話した。


  「アルフレッド頼みが或る。」

  「う、うん。出来る事ならね。(一緒に寝ようとかだったら如何する俺!)」

  「実は娼館を紹介して欲しい。独り寝は寂しくてな。頼む。」

  「はあー、あいよ。ちょっと待ってて。」

  「サンキュー!」


 俺はルネに声を掛けてレコを読んで貰った。


 「真龍国の特使で緑藍。」

 「俺の友人レコ。」


 2人を紹介した後に緑藍を娼館へと連れて行って欲しいと頼み、レコは了承して2人して執務室を出て行った。


 俺は別に緑藍と一緒に眠る事など期待はしていない。

 ホントだからな。

 はあー緑藍て後に残る悪い酒みたいだ。

 明日は緑藍酔いをしていない事を願おう。










 





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