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海賊王国


 アリロスト歴  1802年   3月




  モスニア王国とグレタリアン帝国がプリメラ大陸への玄関口、(と言ってもサルト海域だが)で戦闘を開始した。

 モスニア戦艦3隻、グレタリアン戦艦2隻と私掠戦4隻でファイト!

 グレタリアンが大砲で良い感じにモスニア艦を一隻沈めて、もう一隻を行動不能にして、其の侭スエル運河を下り、モスニア商館の或るエリ王国に上陸した。

 モスニアは負けを認めてマリ王国を献上した。(戦後賠償)

 モスニアが慌ててプリメラ大陸へ進出して行ったのは、フロラルスのヒャッハー野郎たち(貴族)の所為かも知れない。

 新たに支配した植民地で良質のダイヤモンド原石を採掘して来たのだ。

 早く空白地に行かねば美味しい場所をフロラルスに獲られてしまう。

 そんなしょうもない焦りでモスニアは過去の栄光無敵艦隊でプリメラ大陸を目指したと推測。

 グレタリアンは元々、エリ王国狙いだったのだろうな。

 コレでサルト海域から直ぐのスエル運河河口東西の王国をグレタリアンが領有した。

 スエル運河を下り中央地帯へ行くにはグレタリアン領有地を通らなば為らなくなった。

 川幅が広すぎる位に広いから気にしなくて良いんだけど、恐らくグレタリアンは中央プリメラ大陸の砂漠地帯に或る古都オシリス王朝へ本格進出する心算なのだろう。


 なんかヨーアン人たちが迷惑を掛けて申し訳ない。

 世紀が新たに為っても覇権主義は変わらないのな、俺ら。

 しかしグレタリアン帝国は何時まで植民地ありきの政策を執るのかね。

 海賊王に俺は為る!

 つあ、元々が海賊王だった。




  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


  アリロスト歴 1802年    5月




  ルフルティー宮殿(政務宮)でシャトレ外務卿に陽ノ本から帰国した挨拶を終えた特使が、数枚の書類を持ってトゥリー城へ挨拶に来た。


   「お疲れ、どうだった?陽ノ本は?」

   「有難うございます。陽ノ本は順調でしたがクロエ嬢に困った男がついて来ました。外務局に寄るとその男の情報が有りまして、どうぞ是を御覧ください。」


  そう言って差し出された書類を特使から受け取り、俺は目を通す。


 モーリス・ヴァンイズ20歳。

 ポーラン王国血戦隊メンバー。

 ポーラン王国内に駐屯していたルドア兵武器庫から度々武器を盗難。

 捕縛後カチャア島に拘留。

 其処で仲間3人と共に、見張りや守備隊、船員9人を殺害後ルドア帆船を強奪し脱獄。

 ヴァインズ伯領主の5男。

 代々医師の家系の為、医師に為り澄ましている恐れあり。

 5男以外は家族でカメリアに亡命。

どうやら此のビラが西ポーランに出回っているそうだ。

サディ陛下が入手し「気を付けろ」と言う注意喚起の為にフロラルスに送ってくれたようだ。


  なんつーヤバそうな奴とクロエは居るんだよ。

 特使が話すにはカナト藩役人に「連れて帰ってくれ」とモーリスを押し付けられたそうだ。

 言葉も通じない約190cm近くある男に、侍たちは持て余したのでは無いかと、特使は語った。

 確かに陽ノ本にいる侍達は、成人男性で平均身長が約160少しと聞いた。

 俺と似たタッパの男が、グチャグチャ判らない言葉を自分の頭の上で話されたらヤだろうな。

 モーリスが奪った船は古い私掠戦だったらしく浜に突っ込んだ時に大破したらしい。

 良くあのルドアからカナトまで行けたモノだと俺は感心した。


  何故かクロエに懐いているらしい。

 クロエが学問所で教えるフロラルス講座に熱心に通い、屋敷では下男の真似事をしている。

 ラゼ大佐や小隊、エルザ達がクロエを守っているので心配はないと言う。

 まあ、あのクロエの事だ。

 本当に危険な奴と感じたら対処をラゼ大佐に任せるか。

 俺は特使に報告の礼を告げた。


  特使から渡されたクロエからの手紙と物品目録、そして陽ノ本レポートを俺は見る。


  故大老の傀儡幕府に為ると思っていた彼、結城光宗将軍が中々に強かだった。

 だって96年当時は13歳だったんだよ。

 揉めている間に朝廷と和解し、帝から将軍の勅を受け(第12代将軍光宗)と為った。

 そして光宗の対抗馬だった水橋吉喜を老中として取り立て、故大老がして来た専横故の反乱として反旗の狼煙を上げた各藩に、構い無しとした。

 当然、故大老が捕えさせていた者たちも解放された。

 そして現在は新貨幣の流通が滞りなく進み江波市中に出回っているらしい。


 しかしコレはランダ国に取って痛手だな。

 出島に来る商人が支払う貨幣から長年多くの金銀を得ていたから貿易の旨味が減る。

 それでも茶器や工芸品、絹、茶はランダ国も欲しいから文句も言えないしな。

 どうやら陽ノ本は真龍帝国の保護国としてヨーアン諸国には映っているようだ。

 まっ、それで無用な戦争が減るなら俺としては嬉しい。


 俺はリポートの次にクロエからの手紙を浮き立つ心で読む。


 先ずはミュールへの苦情だった。

 船内で素足にミュールを履き皆に会うと、赤面して視線を逸らされたそうだ。

 あっ、そうだった。

 女性の頭と素足はカリント教徒として見せるのはタブーだった。

 俺って信仰と無縁に生きてるから忘れてたぜ。

 故に宮廷では皆がカツラだったのだ。


 まあ、宮廷で今はカツラの代りに、小さな飾り帽子を被るようになった。

 薬学の教授たちにカツラの安全性検証を遣って貰うと、色染めに古代から有名な毒物を大量に使って居た事が判り、カツラに昆虫や鼠を入れて実験すると、悲惨な症状を出し死んで行くと言う報告が来た。

 その報告を詳細な絵付きで諮問委員のレコと薬学の教授がエトワル宮殿で発表。

 騒めく宮廷。

 其処でジョルジュの妃がドレスに合う洒落た帽子で登場した。

 その後はジョルジュ応援団の妻や娘たちがカツラの代りに洒落た帽子を被り、社交を始めたので徐々に広がり、今では宮殿に様々な帽子が溢れている。

 俺はその毒物の正体を知っているが現段階ではその物質を突き止められない。

 その毒物の名は「ヒ素」。

 正体が解明されて解決策が提示出来る迄は長い月日が掛かり被害者は増える事だろう。

 ジョルジュと俺たちが出来るのはヒ素の元に為る鉱石採掘の禁止くらいだ。

 現時点では、どのような品物へと加工されているか、それが判らないので現在は慎重に調査中。



  俺はミュールの件でクロエに恥ずかしい思いをさせた事を心で詫びた。


 陽ノ本での暮らしは楽しいらしく、時間がある時には念願だった料理を次々にクロエが自分で作っているらしい。

 兎に角、水が美味しいと、クロエの文字は踊っていた。

 クロエが教えていた学問所に通っていた者達は、皆が向学心旺盛で教師としてタジタジになったと綴られていた。

 従兄のラザールは、天文学と地理学等を互いに学び合い、今は地図作りを手伝っているそうだ。

 流石、ロヴァンス卿の血筋は優秀だなと俺は感心した。


 そしてラゼ大佐たちが陽ノ本へ軍の近代化を促しているのは大丈夫か?と書いていた。

 まあ、それは俺がラゼ大佐に頼んだことでも在るので大丈夫だと返信を書こう。

 今は各国が勝手に真龍国の保護国と勘違いしているけど、その内に新たな植民地を欲した国々がモスニアが名付けた「ジパング」へと向かうだろう。

 黄金を夢見て。

 現実は真龍帝国への足掛かりとして安全な補給地として確保したいだけだろうな。


 真龍帝国の対外政策はハッキリしていて無粋な者たちの領海侵犯は許さない。

 攻撃一択である。

   「海賊なんぞ及びじゃねーよ。」

 つう感じで、朝貢して来た国とのみ商取引を行う。

 そして珠湾島近隣にある島々に各国の係留地を作ることを許可されていた。

 オーリア、プロセンだね。

 グレタリアン帝国も1801年にやっと再度の朝貢が許された。

 しかしグレタリアンはどれだけ植民地を増やすつもりなんだろう。

 アレだけ色々な国で簒奪しているのに周辺国に比べて重税国家なのは相変わらずだ。

 グレタリアンは何処かにバケツの底を落としてるのかも知れん。


   ルドア帝国の対陽ノ本動向を知りたかったのだがクロエの手紙で俺は驚く。

 「コッチではでっかいどーが存在してないよ。その内に地図を送るね。吃驚しますヨ。」

 その文章で充分俺は驚いたけどな。

 前世の記憶にある北の広大な大地と言うか島が無いと、ルドア帝国の補給地が消えてしまう。

 うん、当分はルドア帝国を考えなくても良いだろう。



  さて、明日は陽ノ本使節団を出迎えて、歓迎パーティーが催される。

 公式な使節団なのでルフルティー宮殿で持て成す予定だったのだが「黄金の国ジパング」からの使節団と聞き、宮廷貴族たちが会いたがった。

 偶には貴族たちの無害な要望でも聞こうと言う事で、エトワル宮殿でのパーティーに為った。

 ジョルジュ陛下との謁見は昨日、ルフルティー宮殿で済ませているしね。


 それに今はジパングブームも起きている。

 女性たちには美しい絹地に精密な刺繍が施された着物や手間暇掛かった小物が人気だ。

 手鏡や絡繰り箱、漆器など入荷し端から売れる。

 男性には刀が人気だ。

 ヨーアン諸国の剣は、まあ重くて幅広い鉄剣だからな。

 今回視察団が刀で模擬試合みたいなショーをしてくれるらしいので、それを観覧した人々から益々、刀の注文が増えそうだ。

 後は焼き物や陽ノ本絵と屏風だね。


 俺が米と醤油等を注文した船を出すたびに「依頼書」が財務から届く。

 何故財務からと思うけど、売れた商品の諸経費を除いた利益が国庫へと入るからですね。

 俺が余り陽ノ本との貿易に熱心ではなく「米」しか言わないので、ジョルジュを始め閣僚たちが少しでも利益を出そうと考えた悪知恵システムを作ったのだ。

 良いジャン、一国位は俺の遣りたいようにやらせてくれてもさー。

 真龍帝国との貿易でウハウハな癖に。

 俺は何時ものようにブツブツと内心で閣僚たちへ呪詛を吐いた。


  使節団は半年ほどフロラルスに滞在して帰国する。

 その帰国の船には植物学や動物学、言語学、地質学、医学を研究している学者と弟子と言うか学生達、そして暇になった紙職人や元農奴たちも共に乗って行く。

 (現在人余りな製紙業。俺だって製紙工場なんて作りたくはなかったさ。くそッ。)

 紙職人や元農奴以外は、別に王命じゃないからな。

 俺の希望でもねーし。

 彼らはね、一種の病気なんだよ。

 新たな場所(物)を見付けたならば、観察・研究せねばっ!

 てな理由で行ってしまう重症学術マニア。




  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 アリロスト歴 1802年    8月




  俺は今、危機に陥っている。

 今、ジョルジュに両肩を掴まれグラングランと激しく揺さぶられていた。

 此の侭だと、ジョルジュに振動死を賜るかも知れん。


  トゥリー城の執務室へ凄い勢いでジョルジュが突撃して来た。


   「兄上、僕がパルスに上水道を通す為に悩んでいたのを知っていたのに如何して黙っていたのですか。あのフルーヌ川に掛けた巨大な橋が水道橋だったことを。」

   「えーと、すまん。忘れてた。」


 いえ、嘘です。

 隠してました、ハイ。

 だって俺、パルスの為に上水道を作りたくなかったのだ。

 相変わらずブルジョワジーたちは節操とか節制には無縁で、少しでも箍を緩めると法とか無視して行動して来る。

 もうね、違法な商行為と脱税した者を厳罰に処するよう法制化して貰った位だ。

 俺とレコとルネでは密かにこう呼んでる。

 「ブルジョワジー圧搾法」


 いいのか、一部の階層を狙い撃ちにして。

 いいんだよ。

 どうせ俺が生きてる間だけの法に為る。

 あいつらの子孫が巧く法改正して骨抜きにされるのは分ってるからな。

 そんな訳で「てめーらにヤル水はねぇ」と水道橋は無かったことにして橋として利用してた。

 きっとジョルジュに譲った建設マニアなチームのオッサンが、上水道建設の相談をされてポロリと漏らしたに違いない。


 俺は素直にパルスから少し離れた場所に或るピスタ山から流れ出る水を引く事を考えていたとジョルジュに低姿勢で説明した。

 パルスは2つの川に挟まれた本来なら水に恵まれた土地だった。

 だが紀元前から交易の拠点として栄えていたパルスに集まる人々でパルスの水は汚染された。

 エトワル宮殿ではエル3世がフルーヌ川上流に古代式揚水機を作り、その水を今も使っている。

 その水が安全かどうかは不明。

 多分、下流にあるパルス程では無いけれど汚染されていた筈だ。


 で、橋造りに燃えていた頃に色々尋ねて調べて貰うと、ビスタ山に或る滝からの水ならイケるんじゃね?って事で、其処から水を引く事を前提で水道橋を作ったんですねマル。

 その間、そして以降にパルス市民たちの動向を知るにつけ、「俺はパルスに水道橋は作らん。絶対に!」と決意したんだよな。


 まあ本音をジョルジュに話せる訳もなく、ジョルジュに「忘れててゴメン」と平身低頭で謝り倒して許して貰った。

 ただ罰として陽ノ本使節団の皆様に人体解剖図の絵を見ながら、解剖医と共に説明させられることに為ってしまった。

 おい、ジョルジュ!

 俺はグロが苦手って知ってるだろう。

 くそぉぉーっ、パルス民め!

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