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パルスからの手紙。

アリロスト歴  1798年   8月




  ジョルジュから至急の印が付いた手紙が届いた。


  真龍帝国皇帝から「同盟結びたいけど、どうよ。結んだ後で機関車欲しい。」そうだ。

 俺的には怖いけど今までフロラルスに利益も齎し友好的だったから「いいんじゃね?」と答えた。

 いや、マジでぱねぇーすよ。光明皇帝さん。

  90年初頭から今まで戦乱の嵐。

  おまけにルドア帝国やオリンテス帝国(砂漠遠征)も攻めて行くしね。

  しっかり追い返してるし。

  内乱というか反乱が15回以上起きて、壊滅させちゃってる。

  偶に真龍帝国の留学生連れて帰って来る特使が第何次~戦はとか報告してくれたのだけど、もう十次超えた時点で俺はお腹いっぱい。


  「負けた時だけ教えて。」


 と、思わず言ったら特使が目を白黒させてポカーンとした。

 いや、熱く戦況報告してるけどマチュー特使、君ってフロラルス大使だよね。

 マチュー特使が来るとゴドール画伯、ラゼ大佐、ニコラ中佐、クルレール中佐がキラキラ瞳を輝かして光明皇帝の陣頭指揮ぶりを聞きに集まる。

 ゴドールは兎も角、フロラルスには戦闘狂な銃騎兵なんぞ不要だからな。


   「カイザー万歳ー!」


 俺の耳にそんな声が聞こえる、気がした。

 つか、ラゼ大佐は58歳にもなるんだから、いい加減に落ち着こうか。

 今は週に一度ニコラ中佐やクルレール中佐と交代で士官学校の講師をしている。

 ニコラ中佐は53歳、クルレール中佐も52歳ともう直ぐシルバー世代。

 考えたら彼らと知合って29年も経つのか。


 そういやクルレール中佐は市民婚と言うか事実婚をしてる。

 御相手は20歳のパルジェンヌ。パルスのブルジョワ娘。(ケっ!)


 「フン、そんな君たちに指令だ。新たに出来る租界地で通訳や蒸気機関技術者の護衛任務を与える。嫁とか連れっても良いけど自己責任な。行くなら外務から渡航通達所を貰いに行け。」

 「おっ、やっと行けるんですか。真龍帝国。」

 「おいクルレール、殿下じゃなかった、公爵の護衛は如何するんだ。」

 「それは私がするよ。ニコラ、クルレール。私も後5歳若ければな。」

 「いやいやラゼ大佐、大佐にはウチの外務補佐官と一緒に陽ノ本へ行って貰うよ。途中、リーシャンまでは3人一緒だ。船旅を楽しんでくれ。」

 「護衛は?」

 「我が家でそれを聞くとはチャレンジャーだな。ラゼ大佐。」

 「ああそうでした。オーシェ一族が居られましたな。ルネ殿、失敬。」

 「いえ。」


 「ゴドールはソワソワしても駄目だぞ。ゴドールを船旅なぞ出したらジョルジュ陛下とじじいから私が怒られるでしょうが。陛下に認められたゴドールが悪い。もういい歳だし。」

 「エル公爵、私はまだ63歳ですぞ。青春真っ盛りなのに、失礼な。」


 皆、いい歳になったな。

 44歳になった年齢は棚上げにして俺は呟く。

 特使マチューは3回ほど血塗れ皇帝に会ったらしいのだ、華奢で背丈はフロラルス女性より僅かに高い程度だがゾッとする程美しいらしい。

 うへぇっ、その風貌でヒャッハー野郎なのか。怖いわっ!




  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  アリロスト歴  1798年     12月



  取り合ずパルスで試験郵便配達職員募集を今年9月から始めた。

  駅がある地域は、駅から集配所までの限定運用。

  現在は駅から集配所までの距離で算出して切手代(スタンプ代)を支払って貰ってる。

  人件費+馬代かな。

  郵便状態や事故率(紛失・破損)などを調べてるので利益は出ません。

  その関係でパルス駅から最寄り駅までの機関車輸送費もロハ。

  チャレンジャーな人が手紙出してるカンジかね。

  パルスからは街に詳しい区番のポリスへ依頼して宛先に届けて貰ってる。

  バイト代は居酒屋でエールが一杯飲めるくらい。安くてスマン。


 配達員(男)と内勤事務受付(女)、募集要項は読み書き計算が出来る人。

 一応公務員です。信用が大事な職種なので要面接。

 後はパルス市民であることかな。

 人来るかなーとか心配したが、女性の面接申し込みが想定の5倍だったので、一旦〆て整理券配布を始めて改めて面接だったとか。

 男性は規定人数を少しオーバーしたぐらいだった。

 これも俺の所為かも。

 鉄道職員募集したり、消防職員募集したり、教職員募集したり、他にも色々。

 唯でさえ多い公共事業をしているのに、市民兵学校を作ってしまったからな。

 不況でも無いのに何故、俺はこんなに職を作ったのか。

 それは有産階級では無いけれど少しだけゆとりの或る市民を作りたかったから。

 段々ね、限られた知識層では新たな発想が出てき難い状態になるからね。


 まあ自分たちが特別だと思っていたブルジョワジーたちは面白くないと思うかも知れないが、その頃には俺は恐らく泉下に居るから、改めて自由主義を謳歌出来る世を作ればいいさ。





     ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 アリロスト歴  1799年    1月




  何所までも重し役に成ろうと若干、意地になってますが何か。

 パルスには投機的な為替交換取引所が或る。

 日本だったら即座にネットに繋げば売買出来る。値段も即時判るからね。

 で、パルスを含め9ヶ所の為替交換取引所が或るわけだ。

 要望はパルスに合わせた為替交換レートにしてくれ。

 物理的に無理だし遣れても許可しません。

 本当は半年にしたかったのだが各閣僚の反対に合い3ヶ月の平均値で交換レートを出します。

 つか国境付近で異常に乱高下などさせれるか。

 交換レートを出すのはトーマの知人が作った金融チームのお仕事ですよ。

 俺は2度ほど説明して貰った。

 成程、判らん。


 えー、為替取引所に居る奴ってマネー・ジャンキーじゃん。

 やだよ、あんな奴らが国家の血液である通貨に影響与えるなんて気持ち悪い。

 彼は彼らでパルスの鳥籠で自由にゲームを楽しんでくれ。


 当然だが政府金融機関はアンタッチャブル。手出し無用。


 一瞬、銀行で預金してくれた人に金利を出すかとも思ったのだが、敢えて死蔵金ふやしてどうすると俺は冷静になった。






   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 アリロスト歴   1799年   3月





   「蒸気機関内の燃焼効率化への推察」


 いやだーー、俺の息子って頭良いし凄いんじゃね?

 フェリクスが書いた推察と検証実験の論文が面白くて、俺っていい子を産んだなとしみじみ。

 いや産んでは無いが気持ち的な意味で。


  レティはまあ、レティだ。

 俺たちが作った人体解剖図を片手に学んでいるそうだ。

 お前は吐かないのかよ、すげーな。俺は駄目だったぞ。

 まあ、義母ビストールの教育が良い所為なのか俺にも気遣った手紙を寄こしてくれた。


   「公爵令嬢になって世界が広がったわ。パパありがとう。」


  広げたのはレティの力だよ。

 何か俺の子供達って2人とも凄くないか。

 どうしようもなく嬉しくて俺はルネに水割りを頼んだ。

 来年の1800年セレモニーには一度帰国すると書いてある。

 ジョルジュの息子ジョセフの結婚式だものな。

 行きたい気持ちと多くの人で溢れ返るパルスに在る大聖堂を想うと行きたくなくなる。

 ルネが水割りと一緒に小さな銀盆に乗せた手紙を置いた。


  それはパルスから俺に届いた初郵便。


 「郵便集積を任された責任者の方がエル公爵様への郵便だからと態々届けて下さいました。」

 「おおー、悪かったなー、俺の屋敷から離れてるのに申し訳なかったよ。後で礼状を書こう。」


 今世初郵便。

 俺はドキドキし乍ら封書を裏返すと「クロエ・ロヴァンス」と書いてあった。

 俺はアタフタし乍ら寝室へ行き、ペーパーナイフで封蠟を切り手紙を取り出した。


 「エル公爵へ。

 お久しぶりです。

 先日帰国して現在はパルスの邸宅で母や義姉たちに説教を賜る日々なの。

 飽きないのかしら?

 等と想い乍ら聞いてるフリしてスルーしています。

 私はもう44歳だと言うのに未だにドレスの着方で注意されている。


 さて世紀末そして新世紀の幕開け。

 私も色々あったけどエル公爵も当然在ったわよね。


 そして先ず、アンジェリーク妃殿下のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

 

 どのタイミングで書こうか?

 何と書くべきかしら?と随分と私にしては悩んだけど上記の想いしか浮かばなかったわ。

 エル公爵には取り繕った文章は書きたくなかったの。

 もし私に夫が居て風の便りで亡くなったと聞いても、きっと貴方も私と同じと思う。


 話したい事が色々。

 話したくない事も色々。

 でもこう言う機会でも無いと会う事は難しいと思うから。


 1800年1月つまり、

 来年の1月。

 宜しければお逢いしませんか?

 連絡先は父か兄エミールへ。


 此の手紙が着く頃には私はコルカ島へ向かっているでしょう。

 またパルスに来たら連絡しますね。

 今度は父へ手紙を渡すので人伝に直接届くと思います。

 手紙を郵送すると言う当たり前の行為がハラハラドキドキして勇気がいるものね。


 実はこれ何度も書き直しているんですよ。

 では、黒豹被りのエル公爵にお会い出来るのを楽しみにしています。

 1月にしたのは絵で見た毛皮コート姿が生で観たかったからです。えへへ。


  クロエ・ロヴァンス 葵より」




 

 俺は何度もクロエの手紙を読み返し、飾らないの彼女の文章が胸に響く。

そうだね、色々あったよ。

俺は69年からの日々を想い返す。

 30年間。

巧く行かない事の方が多かったが概ね及第点を貰えるだろうか。

アルフレッドに。

そしてアルフレッドの強い想いの所為で、クロエに気を使わせたことを内心で詫びる。


話したくない事ではなくて俺の場合は話せないだなあ。

アンジェの事は勿論だが、内政を含めて言えない話が多過ぎる。


コルカ島って何かあったけ?

ボルドも偶に行くと言っていたな。

まあクロエの場合はロヴァンスから近いものな。

 それにしてもゴドール、いい加減に絵を回収してくれよ。

クロエも元日本人なら察して欲しい。

そんな恰好を喜んで描かせる奴などいないって。

肖像画には触れないで上げようと言う日本人の美徳はないのか。


この手紙で唯一の丸文字「葵」。

此れが前世での名前なのか。良い名だ。

俺なんて「七彦」だよ。

大体、敢えて「お前って7人目の子供か?」ってずーと質問され続けて来たんだぜ。

「その質問は聞き飽きた」と言いたかった。

俺が親父に名前のことを尋ねたら「俺は7が好きなんだよ。運気が上がるぞ。」って、アホか。


ああ、イカンイカン、前世の名を思い出すと腹が立つ。



しかし滔々、クロエに会えるのか。

俺も普通に過ごしていたら何となく会えないかもと思っていた。

本当に色々な事を話したい。

だけどやっぱり一番に言いたい言葉は———

「ありがとう。」


クロエからの日本文字。

そしてメニュー・メッセージ。

俺が独りでないことを教えてくれたクロエ。

俺が摺り切れなかったのは君のお陰だ。


俺も会える日を楽しみにしている。


あっ、しかしクロエはゴドールの絵を俺だと思っているんだよね。

どうしよう。

絵と全然違うとガッカリされたら。

くそぉー、ゴドーーールっ!







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