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真龍帝国雑記②

真龍帝国雑記②



  2度目になる特使に会う為に今日は沿州にある異人街に俺は来ている。


 少し南西部に見える島が珠湾島だ。

 今は殆ど人間が居ない。

 中府まで朝貢した者を迎えに来たグレタリアン人たちが、確りと天然痘に感染し珠湾に持ち帰った所為で島内に広まり、死体を放置した侭帰国したので元居た島民の多くが死んだ。

 生き残った島民たちが自分たちには目もくれず船で去ったグレタリアンたちに怒り、商館や家々は物品を盗んだ後、燃やされ壊されていたと報告があった。

 美しい島が呪いの島と言われるようになってしまった。


 西洋人の演技派俳優のようなフロラルス王国の特使と挨拶をして俺は席に着いた。

 交易品は互いの船に運び終わっているので俺は特使に秘密の頼みごとをした。

 まあ、彼が本国に報告するのは構わないのだが中府の人間には知られたくない。

 

 俺は古くても構わないのでフロラルスの銃を2丁譲るように頼んだ。

 今後も交易を続ける為にと脅しも込めて。

 まあ俺は怖くないかも知れないが背後に立つ孔鵬の殺気を込めた様子は脅しに為る。

 極上の翡翠と伽羅を特使に渡し、海軍が持っていた銃を2丁譲って貰った。

 使い方を孔鵬へ説明させ俺は特使からアルフレッドレポートを受け取り兄の待つ皇宮へと戻った。




  俺は沿州から戻り、兄が待つ部屋に行き約1ヶ月ぶりに会って思い切り抱き締められた。

 懐かしい兄の匂いに帰って来た事を実感した。

 仕事で2、3日くらいは兄の側を離れる事があったけれど、此れほど長い期間は初めてだった為、俺も寂しかったようで自然と兄に回した腕をきつく締めていた。


  「余り私から離れるな。」

  「うん。」


 6歳まで余り食事を摂れないで過ごして来た俺は、相変わらずに小さな身体で兄に心配されるが、見た目ほど虚弱ではなく、足りない身長は如何ともし難いけれど孔鵬が教えた体術は楽に熟せる。

 それにこうして兄の膝に座って居られるのも幼い躰の特典だとも思って居る。

 そして兄は時々俺を「小龍」と呼んで、俺の左手を取り、兄の滑らかな額へと当てた。





  黄家の爺さんに譲って貰った銃を渡して数を複製するようにと頼む。

 この銃は中府の軍には持たせる心算は無い。

 銃が複製で来たら陽将軍に銃騎兵を創設してもらう事や新たな大砲などを作ることを話した。

 来年フロラルスの船が来たらフロラルス語学習させている黄家の10人を留学させる事も併せて。


 そして八旗の者たちの家でも学びに行きたい者はフロラルス語を習得するように伝えた。


   「本当は俺も行きたいのだけど。」

   「止めてくれ、緑藍が居ない此の1ヶ月は、光明皇帝の機嫌が悪くて手が付けられなかった。緑藍は皇帝の側を離れるな。それとやっと八旗とも話が付いた。」

   「兄さんが女性を愛せない事?」

   「ああ、それで緑藍が皇帝の代りに子を成す。」

   「そんな俺の血では身分が。」

   「緑藍の母は遠いとはいえ我らと同じモノだ。中府ではない。それに皇帝がお前が子を成さないなら自分の代で真龍帝国が終わっても仕方ないと言うのだ。仕方あるまい。」

   「そんな事をしてバレたら帝国が終わりますよ。」

   「女を愛せずに子を成せなくても終わるがな。妃の方は心配せずとも良い。秘密を守れる者を我らで選ぶ故。緑藍の好みを一応聞いておこうか、選べんがの。」

   「でも皇后、皇貴妃、貴妃2人、妃4人、婿6人、貴人12人、まあ他は良いとして24人も難しいでしょう。4分の1は中府からも選ばねばならぬのでしょう?」

   「まあ別にどの皇帝も全員と寝た訳ではないしな。4人くらいと思って置け。」

   「分かりました。何時くらい?」

   「周知に時間が掛かるから2年後か、緑藍は14歳で皇帝は24歳か。」

   「仕方が無い事なのですか。」

   「仕方が無い事だ。男の身で皇帝の最愛を得た緑藍の所為だぞ。恨むなら己を恨め。」

   「はい。」




 兄が貨幣を新たに布告、造幣している間に、俺は龍昇皇帝宮殿周辺の石壁を高くし強化してる。

 そして薬作りが得意な乱家を孔鵬傘下へと入れ左手とした。

 密かに毒を盛るのは少し気分が滅入る。

 中には有用な薬にもなる毒を見付けれるのが気晴らしには成るけどね。

 試す相手には全く躊躇はしないのだが完成した毒薬で仕事をすると気が滅入る。

 変な感覚だ。



 そして2年経ち兄は陽家の娘と婚姻した。


  結局は俺と兄嫁2人だけの閨に兄が耐え切れず、兄も俺と共寝することになった。

  あの兄だもの、何となくこうなる予感を俺はしていたのだ。

  兄嫁には申し訳ないが2ヶ月に一度の務めと考え諦めて貰うしかない。


 やがて兄が婚姻して1年半、漸く皇后が妊娠した。

 他の嫁には多忙を極めて手付かずだ。


 俺と兄は反乱や暴動の多い地域に印を付け真龍帝国から分割する方法を現在、模索していた。

 5代目の皇帝が中府文化をこよなく愛した。

その為、それ迄は真龍規範で中府(了民族)に制限を課した官職の多くを許し特権を付与した。

前王朝の旧都がある州や多くの中府(リョウ族)が省の長官をしている碑先半島国境隣にある北部の沿岸域も腐敗と堕落は手に負えない。

 此れが元で反乱が頻発するのだ。


 それが軍にも及び皇宮壁内を守る2幡将軍たちも中府の者たちに任せた弊害も起きている。

 皇帝直轄軍に準じる権限を与えた為に皇都での汚職や狼藉が後を絶たない。

 綱紀粛正を祖父の代から幾度命じても改善はしなかった。

 追放しようにも9千人の兵を野に放つなど新たな反乱軍を作る様な物である。


 兄と話し合った結果、領土問題を先に解決することにした。

 一先ず人頭税を廃止し土地税だけを納めさせる。

 人頭税がある為に戸籍に登録しない人間が数多くいる。

 その為に人頭税を廃止し正確な戸籍で民族分布を知ることにした。


 そして俺は今、卜占術院での官僚たちに盛る毒薬を乱家の者たちと仕込んでいる。

 迷信深い皇宮では彼らの占いが施策や婚姻などあらゆる行事に関わる力を持っていた。

 俺からすれば鼻で笑ってしまう理屈で問題解決に有用な手段を政治に於いても持ち入れられない。

 兄も俺も命は有限なのだ。

 兄の望む真龍帝国に近付ける為に、俺は今夜も漆黒の闇を走るのだ。


 

 今はアリロスト歴1782年だそうだ。真龍歴266年。

 フロラルスから帰国した孔家の留学生から年号の話を聞いた。

 現在俺は16歳に成った。

 兄の息子、光永(俺の?)は1歳に成った。

 俺は当然会ってないが「緑藍にそっくりだ」と嬉しそうに兄は語る。

 そして俺の身体を愛でて「緑藍の背が伸びた」と喜ぶ。

 確かに兄が婚姻するまでは俺の背丈は兄の胸元までしかなかった。

 それが今は兄の下顎まで俺の背丈は伸びてしまった。


 最近、兄が痩せて来たのが心配で俺は早く休ませようとするけど中々に難しい。

 別に俺が溶けて消える訳でも無いのに閨では兄の抱擁が止まない。

 やはり兄を休ませるには気絶させるしかないか。

 そう俺は物騒な決意をした。

 その1年後、気温が下がり俺の予測していた寒冷化が始まった。


 そして2年後、陽ノ本の火山が大噴火したらしく陽射しが曇る程の灰が真龍帝国にも舞った。

 回廊で咳き込む兄を見付けて慌てて腕を引き、宮殿内へ入り寝所へと連れて行き横にさせた。


  「今は風の通りが良い所へ行っては駄目だよ、兄さん。陽が射すまで。」

  「本当に緑藍は色々な事を良く知っているな。小龍、いや今は真龍だな。」

  「冗談を言っていないで此の薬湯を飲んでよ、兄さん。喉が楽になるから。」

  「ありがとう。」


 此の2年で細く為った兄は、俺の華奢な躰と変わらなくっていた。

 抱き締められて掌を兄の胸元へ当てれば胸骨が浮かんでいるのが判る。

 乱家の者に診せても痩せて行く理由が分からないと言う。

 俺は何度も日本にあった医療技術が欲しいと願った。

 俺には前世の記憶と一緒にこの世界での言語が理解出来るオプションを持っていた。

 通訳が居なくてもフロラルス語が理解出来た時に気が付いた。

 このオプションの代りに医学知識と技術が欲しいとこの世界の神へ祈った。

 このまま兄が消えてしまう恐怖に俺の身が竦む。


 そこにフワリと暖かな腕が俺を抱き締めた。

 横になってた兄が起き上がり俺を抱き締め恐れで強張った身体を温めた。


 「大丈夫だよ、緑藍。万が一に私が此の肉体を失っても私の魂と血は緑藍と繋がっている。身体が無くなるその瞬間に私の全ては緑藍へと向かい完全に一つと為るだろう。」

 「嫌だ、俺は兄さんと共に生きたい。兄さんが居ないこの世界なんて真っ平ごめんだ。」

 「うん、知っている。緑藍はこの国や人々が嫌いな事もね。分っていたのに私が縛り付けてしまった。私の手から緑藍を逃げないように。緑藍の瞳、声、温もりが私にはどうしても必要だったんだ。

そしてそれは今もだよ。私が逝くその時まで私の側にいて欲しい。」


 「兄さんは我儘だ。」


 「済まないね、緑藍。私が皇帝に為ると決まった日、私には黄家、八旗、そして我らの祖の地真龍全ての想いを背負う覚悟をしたのだ。その為に緑藍には多くの苦労を掛けてしまった。だから私が逝き緑藍と1つに為ったら今度は緑藍として生きて欲しい。私も緑藍の中でいつも共にあるよ。」


 「俺が兄さんの後を追うとは思わないの?」

 「思わないよ。そんな子ならきっと孔鵬は助けなかっただろう。」

 「兄さんは知っていたの?」

 「緑藍と生活するようになって祖父から教えられたんだよ。百合会は祖父の組織で将来皇帝に成れそうな子供を検分する為に後宮に潜ませていたのだから。孔鵬を仲間にした時点で皇帝の資格が緑藍には在ったのだけど、宮内が大混乱だっただろ?なので私だったのだよ。祖父たちの想定外は私が緑藍を愛し過ぎて手元から離さなかったことだろうね。」


 「でもお陰で皇帝に成らなくて済んだのなら兄さんに俺は感謝だよ。」


 俺は甘えて兄の胸に顔を埋めた。

 よく似た体格に為った俺と兄はやがて一つの影へと重なった。



 それから兄は良く寝込む様に成り、病床で黄家に指示を出して政府再編を成して行った。

 そして食糧不足を理由に皇后以外の妃を慰謝料の金塊や宝珠と共に各家へと戻した。

 八旗の者たちは娘たちが純潔であるのを知っているので、その内に何処かへ嫁がせるだろう。


 此の侭、ずっと此の侭で俺を兄と共に生きさせてくれ、神様!





  そんな願いは虚しく———。


  1790年 2月 兄は逝った。



 兄の元へ集まっていた黄家、八旗の者たちは医師乱舜が臨終を告げると一斉に俺に額ずいた。

 

  未だに生きてた黄家の爺さんが俺に告げた。


  「光明皇帝として生きよ。」




 俺が24歳、兄が享年34歳。

 俺は相殻らずに真龍帝国から抜け出せないでいた。

 雀の涙ほどの愛着も湧かない糞ったれなこの国に俺は毒を吐きながら強権を振るう。

 何時か俺が兄の元へ逝ったら話してやる愚痴を今日も胸に溜めている。




 


 真龍帝国― 外地と呼ばれていた各州を国として認め通商条約を結ぶ。

       八旗は共同統治国とする。(91年から会談を開始、96年に合意)



     — 直轄地を道として中央集権を強化。2道6府制。他10州は県とした。

       軍、官僚機構の再編。占術院は天文院へ併合。

        (90年開始、98年に終了)


     ― フロラルス王国と友好同盟を結ぶ。(1800年) 鉄道工事に着工。

  

     ― 陽ノ本に碩州への移民許可。友好同盟締結。(1801年)


   再編による多くの反乱は情け容赦なく銃火器で殲滅。偶に陣頭指揮を執った。

   皇帝による鎮圧で死亡者は約10万とも30万とも言われているが検証出来ず。


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