機関車レセプション
アリロスト歴 1793年 1月
昨日、ミャウミャウが永遠の眠りに就き家族で弔った。
そして俺は今、寝台に寝転がり時折ブランデーを口に含む。
あと暫くすればアルフレッドの予知夢が切れる時刻だ。
何度も見た記憶だがリアルな日時が過ぎてしまえばどうなるのだろう。
アルフレッドの心残りだったアンジェリークをフェルナンに手渡した後はサッパリとアルフレッドは反応を示さなくなり、あれで良かったのかと俺は納得するしかなかった。
閨と共にするたびにアンジェリークとフェルナンが抱き合いアルフレッドが苦しんでいた。
アレはなかなか俺の精神に来たのだがな、アルフレッド、なあ聞こえてるかい。
何時の間にか酔い潰れた俺は深い眠りに落ちていた。
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≪アルセーヌ・レコ=ヴィラン公の呟き≫
「レコ、ルネ、ゴドール明日は丸一日休みにするから、寝室に立入禁止。」
ミャウミャウを弔ってから執務室に戻るなりアルはそう言った。
21年も一緒に暮らした相棒居なくなったら堪えるよな、アル。
何時もの難しい顔に戻りアルは届けられた報告書を読み始めていた。
アルの脳味噌は一体どうなっているのだろうと思うぐらい多岐に渡っている。
パルスの物流、通貨流通、治安維持、国内の暴動予測、国境警備、国外情勢とモノづくりの他に予測して命じて実行させている。
「起こってしまうものは仕方がないが大切なのは如何に最小で抑える事だ。」
ロヴァンス卿の補佐や3男エミールたちに繰返しそう指示を出す姿は王にしか見えなかった。
サロマ侯爵とはポリスの行動指針と内規を共に決められ、少なかった予算の拡充を図られ、司法官による司法教育をポリスに受けさせ唯の市兵ではなく憲兵としての役割を与えた。
またポリス施設の横に医師学校と治療院、乳母安定所を併設させた。
医者と言うのは教会が認めないと駄目なので医師とし貴族でなくとも医学を学びたいものに科学的な医療を教える場として作った。(検体も入手し易い)
治療院が出す収益の一部をポリスへ還元するらしい。
10区ー20区にポリス駐在所を建て約2万5千人のポリスが交代で担当区画の治安を守っている。
1ー2区は担当が近衛で3-9は守衛兵が担当らしい。どちらも兵が貴族かスロン兵(傭兵)。
そして1万のパルス守備隊が創設された。
主に20区での警備や事故が起きた時の避難誘導をし、ポリスとは性格が違うらしい。
そしてベルイル軍務卿に国境警備隊を組織させ東西南北へ常時配備出来るように依頼していた。
「カメリア独立戦争で気付いたと思うが貴族だけの戦争は終わりを迎えた。これからは平民も戦う時代になる。と言うかなった。その為の準備をベルイル軍務卿には頼みたい。」
苦いモノを飲み込むような表情でアルはベルイル軍務卿に告げた。
その後アルは女性ばかりを集めた看護学校も治療院の側へ作った。
これはホンの一部で人手不足を何時もアルが嘆くが、アルが物事を決める度に人々へ新たな仕事が決まって行くのだから俺から見れば当然の帰結だ。
俺はパルス大学や市民大学、パルスアカデミーでの提案や調整、契約を一手に担わされている。
肩書は王家科学教育長(諮問院)という仰々しいもの。
今は知人たちが俺の部下に為ってそれぞれの分野で役目を熟している。
発見や論文をアルに報告すると、それはこの方向で研究すると面白いと提案され、アルに「その学者と会社作りなよ。ただし利益の4割は国へ治めてね。」そうやって今や25社も俺は持っている。
その利益は俺のアルに習って各学部に投げている。
大体俺の領内も潤っている。
「レコに頼むと税金払ってくれるから助かる。」
アルが唯一、金を出し惜しむのが教会への寄付だ。
「国庫から払ってるのに此れ以上不要だろう。」
そう言って1000リーブルの小切手を書いてルネに渡していた。
アルが住む場所を此処にしたのも教会の荘園が近隣に無く著名な教会もなかったと言うのが大きい。
旧教徒はヴリー村にあった昔ながらの小さな教会で、新教徒もガロア教徒もその大きさな習った教会の建設のみを許可した。
これも此処へ移る人、皆に誓約させていることだ。
互いの宗教は否定しない。
旧教徒にはかなり離れた場所の教会だが殆どの旧教徒には此処は別邸の為に不足はないようだ。
ここに住む貴族はゴドール経由でアル親派か俺みたいなアル好きなので熱心な教徒は少ない。
俺は父が事業に失敗した時も、母が病に倒れた時も神に祈ったが如何にもならなかった。
だがアルに出逢って俺は救われた。
人を救うのは神ではなく人なのだと心からそう思った。
色々と面倒事の多いアルだが共に悩み考えるのもまた楽しい。
いつまで経っても自己評価が低いのは困りものだが、それもまたアルなのだと思うと愛おしい。
さて、今夜は眠る前にとっておきのブランデーを渡そう。
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姉上のお陰で念願の蒸気機関車に乗れ、その速さと力強さに僕はすっかり機関車に惚れこんでしまった。特別客車内は宮殿内部みたいになっていた。
僕は機関車に興奮していたが姉上はレコに興奮していた。
今日のレコはおめかしバージョンで髪を整え、貴公子然としていた。
そして荘厳な駅構内を抜け、外に出ると王宮の馬車が迎えに来てくれていた。
僕と姉上、レコとラゼ大佐が揃って馬車に乗りラ・シエット宮へと向かった。
5日後の式典まで僕たちはラシエット宮で過ごす。
ジョルジュ殿下が育った場所が良いだろうと東館にあった僕と姉上の部屋を其の侭にしてくれている。
ラシエット宮は他の宮殿と違い特殊で許可が無いと入れない。
父上が決めたルールらしいけれどジョルジュ殿下は今もそのルールを守っている。
「本当は僕も妻も楽なのですよ。兄上が決めたこのルールがね。勿論2階もね。」
そう2階はもっと厳重で家族と決められた人以外は上がることが出来ない。
僕にとってはこれが当たり前だったけど、側近候補だった少年たちは王侯貴族では有り得ない事だと信じられない顔をして庭園のテラスで話をしていた。
王侯貴族の家では何時も誰かが来ていて、顔を会せば挨拶や談笑をすると話した。
僕は想像してゾッとした。
今は廊下と呼んでいるけれど、ここに居る時は「通り部屋」と呼んでいた。
話をするとそんな部屋は無くて部屋と部屋を通るのだと少年たちは笑って答えた。
「面倒な。」
僕は内心そう呟いた。
エトワル宮殿では評判の悪い父上ルールだけど僕には相性が良い。
万が一エトワル宮殿で暮らさないと行けなくなったら僕も父上を習って改装しようと誓ってた。
ジョルジュ殿下は「パルス大学に通う間は此処に暮らせばいい」と言うけれど、流石にね、僕を邪魔だなって思って居る人もいるので無理かな、対外的にもね。
それに僕は父上と暮らすのは嫌じゃない。
何時もは姉上と憎まれ口を叩いているけど、素直に為るのは恥ずかしい。
小さい頃から父上は凄い人だなとは思って居たけど、成人を迎えて発明品に興味を覚えて特許を調べたらアレもこれも父上の名前が出て来て僕は茫然とした。
姉上に言うと「レコがしたに決まってるでしょっ!」ってレコ・フィルターが酷い。
姉上が父上に冷たいのはレコと仲が良過ぎるからだもんね。
父上はレコと話しながら考えを纏めてるし、レコもそれが嬉しいみたいで幸せそうに笑っている。
あの間に入って行くのは難しいと思うな。
今回は姉上のおかげで往復蒸気機関車に乗れるので、なるべくレコと一緒に居させて上げますよ。
僕からの恩返しです。
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アリロスト歴 1793年 8月
えー、今、俺の目の前に義兄ランツとサディ陛下がいるよ。
何でだろうね。
「お2人共パルスでは?」
「行っても蒸気機関車とやらには乗れないのであろう。」
「あっちは外相に任せてるからな。」
「でもヴリーには何も無いですよ。工場とかは2駅向こうですし。狭いでしょうし。」
「顔を見て話をしに来ただけだ。これで足りる。」
「一先ず、お忍びと言う事だ。」
こんな堂々としたお忍びがあってたまるか。ズラリと並ぶ騎馬兵とかさ。
手紙では聞き辛かったが何故に王位継承を弟に譲ったか気に為ったらしい。
「元々が向いて無いから時期が来たら譲る心算だったのです。(テヘペロ)」
2人からは「そんな事はない」「貴様なら気安く話せるのに」と色々言ってくれたのですが臣籍になったから遅いですがね。
そんな訳で遜った話をしようとすると普段通りにと言われるので気楽に話しました。
何せ俺は病気療養中。
エーデン王国や神聖カリント帝国は食糧不足で暴動は無かったようだ。
オーリア帝国もビストールがライ麦、大麦を耕作させていたので大きな問題は起こらなかった。
それから外交の話が始まった。




