パルス探訪
アリロスト歴 1791年 1月
今年もまた寒そうだ。
レティもフェリクスもフロラルスで感じて居た気温を忘れている所為か「今年も寒い」と言うと「いつも通りよ(だよ)」そう答えた。
俺は思わないから絶対に。「年かな?」なんてな!
95年まで如何やらじじい陛下の引退が伸びたらしい。
フフほら、俺が予想していた85歳まではじじい陛下の侭だ。
案の定と言うか、与し易しと見られたジョルジュには、パルス高等法院復権派モブバ伯や王太子諮問機関の創設提案連中などが、じじい陛下の側を離れると恭しく近付いてくるそうだ。
其処ら辺の扱いをじじい陛下とロヴァンス卿が教えて行くことになった。
俺が予知夢で見たヤバイ奴や近付かないが吉の連中は一応ジョルジュとじじい陛下に伝えておいたが、胸糞悪いことにそう言う連中が改革という名で相談に来るそうなのだ。
これは側近に問題ありだな。
俺はルネを呼び、ジョルジュの側近を詳細に調べるよう頼んだ。
高位貴族しかいない筈なので調べれば判るだろう。
ついでにルネの警護も頼んで於こう。
道路整備しながら腕木通信を出来る塔も設置完了したので緊急時の連絡は楽になるかな。
望遠鏡で見た手旗信号を読み解読しては伝えると言う簡易なモノなので短文と日中のみという物だ。
パルスから士官本部、エトワル宮殿、ルフルティ宮殿(政務宮)そして俺の所へ。
各国境、各港からも送れるようになった。
これはアルフレッドの予知夢で見たモノだった。
予知夢は去年、今年は毎日事件が有り毎日新法が出来、続々出来る市民新聞が蜂起を促していた。
余り思い出さないようにしているのは吐き気を催す物事ばかりだったからだ。
狂気の加速が本当に恐ろしく思った。
そしてこの狂気を創り出したのが自由派貴族と法服貴族(弁護士)、ブルジョワジーだった。
暴力を正当化しながら走り出すのだ。
んー、でもなー、俺も遣らせてることに変わりないっちゃ変わりないけどな。
先ず立法して王家直轄領であるベロー地方で、王家が徴収する4割の小麦を確保して徴税人を不要なシステムを作り、騒ぐものを軍で抑える。
そして訴えて来た徴税人を違法であるとして投獄。
その後、パルスで新聞や公布人を使い国税は4割である事を徹底させ徴税請負人には徴税する権限がないことを体感させ知らしめた。
でも一番大きかったのは売買官禁止を徴税人へ記せれたことかな。
今の職種は先が無いと理解されると別の職種へと移行してくれた。利に聡い人たちだからね。
血生臭い事は多くあったようだが徴税人のみで他へ広がらずに済んで良かった。
サロマ侯爵とポリスには感謝しか無いよ。
全土への農民国税無税は気温が安定するまで続けよう。
予知夢では今年3月に徴税請負人制度が廃止されてたかな。
デゥーゴス公は自由派だから真っ先に領内で徴税制度廃止すると思ったのだがしないんだよな。
じじい陛下が「徴税権は領主が有する」と発布してもノーリアクションだった。
基本姿勢がじじい陛下が出す施策には全て反対だからね。
そしてヴァーレン事件。
フロラルス王国を抜け出しオーリア帝国に逃げる予定だった。
アンジェが「3頭立ての貴族馬車で無いと行けない」と言ったがその所為でヴァーレンでバレた。
アルフレッドはアンジェの台詞を聞いて、大きく何かを諦めた気持ちが俺には伝わった。
逃亡の失敗を覚悟したのだろう。
「アル、どうした。涙が、ほい。ハンカチ。」
「ああ、レコ、済まない。欠伸を嚙み殺してた。」
俺はヘタな嘘を吐いてレコから受け取ったハンカチで涙を拭った。
知らない間に涙が流れて居たようだ。
いけないな、ラシエット宮を離れてから気が緩んでいるようだ。
人が居る時にアルフレッドの予知夢を想い返すなど。
心配そうにルネ、レコ、ゴドールが俺を見ていた。
「ルネ皆の分も珈琲入れてくれるか。皆も一緒に休憩しよう。」
皆のホッとした空気が伝わり、俺は立上がってレコと共に談話室へ歩いて行った。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
アリロスト歴 1791年 1月
パルスの街並みは20年前より様変わりしていた。
20区に分けられ3ー9区はエトワル宮殿よりで昔西区と呼ばれていて貴族街や富裕層が住んでた区画で道も殆ど変わっていない昔ながらのパルスの街並み。手出ししていない。
10-11区は商店が立ち並び石板が敷き詰められ、ガラスの屋根が通りを覆い雨や雪を防ぐ。
そして流れる大きなフルーヌ川に架かる巨大な石橋の向こうには蒸気機関車が停まる駅として新古典主義厳格な立方体のシルエット、直線的な構成、半円のドームで構成され新たな都市シンボルとして独特の力強さを持っていた。
駅周辺は20区とされ倉庫群、石炭集積所、荷馬車や貸馬車屋が軒を並べ、また繁華街、宿泊施設も建てられた新たなパルスだった。
14-15区は南と中央下に位地した裁判所、王国税署、ポリス、病院、市民大学、パルス大学、各学会、
パルス・アカデミーなど公共施設や飲食店が立ち並ぶ。大使館たちの屋敷もね。
16-17区は北中央に位置し整備された職人街や手工業がある。
18区はじじい陛下が作ったバロック様式の広大な広場で市民たちが集う場に為っている中央区だ。
どの通りも此処へ通じている。
19区は東にあり昔は貧民街と呼ばれたが再開発された町並みは様々な色の煉瓦で建てられた2階建てのアパルトマンが立ち並んでいる。今は庶民街として賑わっている。
1区はルフルティー宮殿(政務宮)だよ。王族の城や砦もある。
2区はラ・シエット宮(王太子宮)や他の王族たちの宮殿がある。森もあるよ。
いやー実は3-9区に不動産の権利が集中していたので、それ以外の区は3年以上取引の無い区画は王家が開発するって強引に取り上げました。はっはっ!
区割りも出来たし、橋の建設もいい感じだったのでじじい陛下とロヴァンス卿に丸投げした。
出来て行く度にゴドールがいい絵を描いて来てくれるので脳内街探訪してた。
で、パルスを出た南にも住民街を作っていた。まだ途中。
実は9区以外で住む人たちにはパルス市民税(国王税+10%)を払って貰っている。
そして一応括りがあって最低でも年約5000リーブル以上の収入が或る人以外は住めません。
但し抜け道があるのだ。
公務員はおk。これは衛生員や清掃員、ポリスとかね。
他にもパルスの事業主に雇われるとかね。
しかし今のパリスは働けば稼げるのだ。
で20区やその周辺も住宅街を広げている。北と南のパルス近郊街では収入制約はない。
ホントは俺は此処まで様変わりする再開発なんてするつもりなかったマジで。
俺って一定以上の金が貯まると気持ち悪くて街や道にバッサリ投資すんの。
ハースッキリーと物作りや次に起きる事対策してて、気が付いたら前よりも大きな額が貯まってる。
仕方ないからと同じことの繰り返しがこの結果ですよ。
犯人は俺じゃない。ボルドとトーマだ。
そんなことを想いながら執務室に飾ってある高台から見えるパルスの街並みを描いた最新のゴドールの絵を見る俺だった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
アリロスト歴 1791年 5月
私は久しぶりの休みを妻と共にパルスで過ごすことにした。
常日頃はヴリーで殿下の警護をしている。
ああ、殿下と言うと駄目だと言われたな、なかなか癖が抜けずに私は苦笑した。
ヴリー駅から8つに連なった黒い鋼鉄に乗り込み、一等車にある指定された個室に妻と共に入る。
蒸気の音も走る車輪も振動もなかなかに慣れる事が出来ない。
全ての音が桁外れで心臓に悪いのだ。
妻は楽しそうに窓を流れる風景を見ている。
案外女性の方が肝が据わって居るのかもしれない。
馬車だと2泊3日の距離が僅か1時間で着いてしまった。
「貴方、先にラシエット宮に行きますの?」
「いや午後3時に伺うと言ってあるからまだ早い。先に商店街へ行こうか。」
「はい、愉しみですわ。」
私たちは雄大な石造りのパルス駅を出て貴族用の貸馬車に乗る。
しかし何度見ても美しいレリーフに身が引き締まるような立派な石柱が立ち並んでいる。
此処がパルスの顔に為るのだなと実感した。
「橋を造るんだ。フレーヌ川に架かる橋をね。」
お若い殿下がそう話された時に「いいですな。」と私は笑って答えた。
あの時は本気にしていなかったが、広く立派な橋を幾台もの馬車に私たちの貴族馬車を含め今こうして走っている。
そして何人の人が知っているだろうか。
この雄大な橋は「絶対に西区と関わりたくない。」との思いで殿下が作らせたことを。
「ラゼ大佐、絶対に前話した事は他言無用だよ。」
そう言って悪戯っぽく殿下が笑われた。
王族関係者たちの宮殿や城の或る区画を抜け、エル4世広場を通り抜けて目的の10区へと着いた。
私たちは貸馬車を待たせて通りを歩く。
歩きやすい石畳の上を妻と腕を組んで歩いた。
店店の窓にはマネキン人形がありドレスや異国の服を着せている。
昔の私が此処を歩いたなら此処がパルスだとは信じれ無いだろう。
殿下の嫌いな悪臭が消え、どの店も新しくなっていた。
妻を連れている私が言うのも何だが貴族女性たちも護衛たちと歩いて店に入って行くのである。
「やはりガラスの屋根は解放感があって良いですわね。ヴリーでも硝子だと宜しいのに。」
「あははっ、それは駄目だって殿下が姫に仰ってたぞ。」
「まあ、何故ですの?」
「パルス民は自分たちが特別じゃないと気が済まない性質だからこういうモノを造ったんだと。」
まあ本当はもっと酷い身も蓋もないことを仰ってらしたんだが。
「実際の所、私はパルス民など余り接したく無いから、20に区画割りした地図を区ごとに土木学会やパルス大学に競わせるようにレコに依頼させたらあーなった。あの通りの硝子屋根はパルスの魂だそうだよ。嫌だろう、触れたら割れちゃいそうで。私は危険なモノには近付かないんだよ。」
レティ妃殿下が胡乱な目をしてから溜息を吐いた。
「本当にパパって最低。」
「何でだよ、レティ。」
そこからレティ妃殿下と殿下の何時ものじゃれ合いが始まった。
私はその光景を思い出しながら、店の中で妻が買い物を終えるのを待つのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
アリロスト歴 1791年 5月
「ちらし寿司、柏餅、蕨餅。」
あー、酢飯食いたい。つかカツオ出汁マジ欲しい。
8年続いているクロエとの食べたいモノ交換メッセージ。
9枚に為った。
年に2回くらいはやり取り出来ると思っていたが、噴火後の問題や凶作、そして戦争と米は遅れても手紙を書くゆとりが無かった。
それでも令状に付いて来るクロエの丸い日本の文字が嬉しくて心が緩む。
ロヴァンス卿の話では男装してグロリアまで商人として行ってるそうだ。
リーシャンまで行くというクロエを嫡男とロヴァンスが押し留めているそうだ。
流石にリーシャは遠いだろう。船は危険だし。
確かクロエは俺と同じ年だと言ってたな。37歳か。
ロヴァンス卿に聞くと頭は良いはずなのだが、考えが足りなくて大変だと言ってた。
頭が良いのは違うが後半はまんま俺のことじゃねーかと笑った。
とても会いたくて話したい。
来年、
アルフレッドの予知夢が終わったら俺はクロエに会いに行こう。
今年も届いたクロエから麦茶を茶碗に注ぎ、その懐かしい香りを俺は楽しむ。




