伝言
アリロスト歴1786年 9月
必要は発明の母である。
その言葉通りに中産階級や庶民から様々なジャガイモ料理やライ麦、蕎麦粉を使った菓子も生み出された。唯一、納得出来ないのは大麦が殆ど麦芽糖へ変わってることかな。
良いんだけどね。
ルネやレコに聞く限りでは、街は賑やかで飢えてる人が少ないそうだ。
飢えてる人は食うモノが少なく他領から逃げて来たらしい。
その人たちは救護所へ連れて行き、無料配布している茹でイモを渡して貰ったそうだ
マジで秋に為ると冷え込みが半端ないので食事だけは振舞うように作った。
空腹+冷え込みは野垂れ死にしちゃうからな。
腹がくちたら救護所に勤める人かポリスの人が何処でも募集している作業現場へ案内するだろう。
作業現場の近辺には番場があるので取り敢えずは雑魚寝だが屋根が或るところで眠れる。
実はパルスに住むには現在は金が必要なのだ。
仕事が在るからと無秩序に住まわせると新たな貧民街を構築してしまう。
それを防ぐ為に50リーブルを支払わせ、住所の無い人は再開発して建てたアパルトマンへ入居して貰ってパルス住民となる。日本円だと約25万円、高いとみるか安いとみるか。
ただ不動産屋(司法関係者)だと一部屋借りる手数料が安くて千リーブル以上、時価だから公営アパートはマジ良心的です。かなりブルジョアジーからは評判が悪い。浮浪者居ても文句を言う癖に。
まあ、不動産業者の苛立ちも分らんでもない。
なんせ資産が大きく成る度に20区画区切ったパルスにバカスカ長期投資しまくってるからな。
さぞかし美味しそうに見えるのだろう。
手出しはさせんよ。
でも君たちは東区に行かないだろう。つか興味も無かったじゃん。
コッチはさ、頑張って土地税を課税しようとしてるカロンを抑えてるのになー。
取りたいが、今とると不均衡に為るんだよね。
税って公平に見えてないと駄目で、誰それに取引して貰った方は安くて違うと高いって駄目っしょ。
もうさ弁護士試験受かった秀才がさ、法律を微妙に作って修正して居たりとクソ面倒なんだよ。
昔、パルス高等法院って立法権も持ってたから不動産が複雑怪奇になってる。
東はバッサリ無くしたからね。工事前に建物と権利。
最近は週に2度、レティとフェリクスと一緒に過ごしている。
15歳に成ったレティは茶会などに参加してオシャマなプリンセスになった。
夜会に参加は公式だけだよ。父親権限でフリーな夜会なぞ許さん。
アルフレッドに似たのか恥ずかしがり屋(いい意味で)のフェリクスは13歳。
俺似だと言われるがアンジェや義兄ランツに風貌が似てると俺は思う。
タヴァドール夫人はすっかり2人の母親代わりで良い人に育てられたなと感謝している。
バランス感覚の優れた人に幼い頃から接しているせいか高位貴族にありがちな偏った価値観を持っていないので社交をし易いのではと考えている。
この頃レティは昔した桃花子(桃太郎)の話を思い出して「あの物語は最低だと思う」と文句を言う。
フェリクスも「5歳のお姉様に話すのは最低だと思う」と批判する。
可笑しいな、めでたしめでたしだと大抵は良い話なのに。
当然、2人ともアンジェの死に痛く落ち込んだが、そこは経験豊かなタヴァドール夫人が暖かくフォローしてくれた。
デゥーゴス公が出したルブラン新聞にアンジェの記事が出る前日に亡くなったので表立って噂されないことに俺よりもタヴァドール夫人の方が安堵しているのを俺は感じて居た。
レティやフェリクスにも噂くらいは耳にしているだろうが、「王族は悪く言われるのも仕事だ」と俺が2人に幼い頃から自己弁護していた所為で理解はしているようだ。
それよりも2人が自分から天然痘のワクチン接種を受けてくれた事が嬉しい。
やはり臨終の際にも親しい人に別れも言えないのが悲しかったそうだ。
フェリクスには王族としてジョルジュを手助けできる人に為ってくれたらなと俺は思うが親が望む子に育つのは稀だしな。王族争いとか止めて欲しいと願うに留める。
そう言えばジョルジュにアンジェへの伝言とジャンの人物評と閣僚チームの能力査定を頼んでおいた。
ジャンは理想的でありながら現実が見え、人を惹き付けるらしい。コイツも主役級かよ。
外交は良い人材が3人居るらしい。
軍務は主にジャンが、財務、法律は現在、不眠不休で必至らしい。
憲法作るんだもんな。大変だろう。
近々、憲法草案にあのファエット大佐が自費で手伝いにカメリアに来てくれると湧いてたそうだ。
流石、独立戦争に魂を捧げた人だ。
今度はカメリアに魂を刻む気らしい。
政治傾向としては啓蒙思想よりだが自由主義の気質がヨーアン大陸には見当たらない程強いらしい。
さすがグレタリアンの息子。
或る意味ヨーアン大陸から遠くて良かったかもな。
アンジェにはフロラルス王国への未練を断ち切って貰う為の伝言をした。
「アンジェとフェルナンは我が王室を醜聞に晒し、此の侭ではオーリア帝国との関係も破綻するだろう。
その責任を取って貰う為にアンジェへ死を与える。
この死は王族に生れたアンジェには実際の死より重いだろう。
今後は名もなき1人の市民として同じ法の下で同じ税を支払い特別であることが許されない。
ただこの死にある一つの救いは感情のまま素直に愛する者に愛を伝えても許される。
死は終わりではなく新たな生の始まりだと私は思う。
君が死した事でレティやフェリクスに謂れの無い事で心を傷付けられる事は無くなるだろう。
君が死した事で子らには何時までも気高い母親が心に生き続けるだろう。
この伝言を知り得た時にアンジェの死は完遂された。良い旅立ちを。 」
伝言を伝え終わった時にアンジェはただただ涙していたとジョルジュは寂し気に言った。
アリロスト歴1786年 10月
何時の間にか毛皮のコートが3着に為ったオシャンティーな俺。
追加1着で再び色味が違う艶やな黒豹コートを又もやゴドール。
オッサン何やったら黒豹コートが2着も手に入るの?絵と交換したんだとさ。ひょえーだよ。
もう1着はアニマル柄?いや毛皮だからアニマルだろうけど、白にグレーっぽい模様が入ったミンクかなー?シロクマ?分かんないや、手触りはミンクっぽいコートをサディ陛下から。
何だろう、このビミョウーに嬉しくない気持ち。
確かにミンクのコートが欲しい。(娘に)って手紙に書いたけどさー。
コレ絶対にレティじゃ埋もれるよ。
タッパ的にも肩幅的にも。こんなのピッタリな娘だったら俺が怖いわ。
仕方ない。サディ陛下の毛皮コートは夜着用にしよう。
えっ?王太子なら自分で買え?
ヤダよ、面倒臭い。
普段仕様の軍服さえ毎回仕立てに来て、あーでもないこーでもないって半日以上潰れる。
隙あらば襟元や袖口がフリル仕様になってるんだぜ。
2mもあるスカーフを如何しろと。
勝手に追加しないで欲しい。俺もう32歳なんだよ。
そう言うのは、じじい陛下に任せてるんだ。
速くスーツにyシャツかトレーナーに綿パンの時代が来て欲しい。ジャージなんて言わんから。
理想は自分で着脱出来る衣装だ。切実に。
そういや先週、グレタリアン(通商)が来て「自由貿易をしないとは」と、硬軟織り交ぜ説得。
でも内心はパルスから走り出している蒸気機関車に夢中に為っていたそうだ。
見学をさせて欲しいと言うのでノンディ港まで線路が通ったらご招待しますと答えたそうだ。
通商条約は不調だったがグレタリアン帝国からの旅行者が増えそうだとジョルジュ。
まあ蒸気機関も機関車も特許出してるので切れたら自由にどうぞって思う。
余りグレタリアンに蒸気機関開発して欲しくないのは日本人だった俺が知ってる国が蒸気船でアヘンとかアヘンで真龍帝国があった王朝を汚染していった記憶が在るから。
先入観と全くない歴史を混同してアルフレッドが住んでいた世界を狂わせてしまいたくないってのがあって道具作り以外はアルフレッドの予知夢を元に生きている。
まあ地形も結構違うから大まかにアソコだった国かなって思う程度だけどな。
せめてアルフレッドが生きた時代まではフロラルス王国をほどほどに運営していけたらと思う。
とは言っても噴火の初期に濃い毒霧を吸った所為で今でもあっけなく人は死んでいる。
そんな死体を使ってサロマ侯爵に頼み込みポリスの地下で死体解剖をさせて貰ってる。
勿論、俺じゃ無くて希望した医学者がね。
斬首に為った死体と病死した死体とかリアルな死体解剖図を報告で見せに来てくれるが俺には不要だとは言えないこのジレンマ。
あのさ、俺が死体解剖図見て喜ぶとでも。
まあ有難く貰って後で解剖医と一緒に本を作らせるけどね。
でも俺が作るのはヤバイよな。教会の問題が在るし。
だが権威ある人間が表に居ないと医学者が潰される。特に今回は処刑人だしな。
やっぱ俺が表に出るか。
教会の科学に対しての忌避感は決して間違ってるとも言えない。
宗教と科学の置き換えが起きうる事象だしな。
見えないから神の力だと言い、見えるから科学の力という。
そもそも現象は力なのかと俺は問い、何かを説明するのに力が必要なのか、とも俺は思う。
在るが侭が最高だと年老いたミャウ(猫)を抱いて結論付けた。




