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嵐の夏

 1778年   8月



  じじい陛下からファエット少佐を密かにカメリアへ送った事を告げられ俺は気を失った。

 いや、気を失えれば良かった。


「祖父さま、バレたらグレタリアン帝国との戦争になりますよ。」

「しかしのぉ、ジョセフの父はグレタリアン帝国との戦いで戦死するまで余の親衛隊を勤めてくれた、その息子がカメリアへ赴き1人ででも戦いたいと言うのだ。断れなかろう。」

「はぁ、それで本当に1人で?」

「通訳と従士はおるが単身ランダ王国へ行き、そこから船でカメリアに渡った。カメリアの総司令官ジャンと会って戦える場所に配属させて貰うと言っておった。まだ18歳故に熱い奴だったわ。」

「頭が痛いですよ、祖父さま。全く仕方ありませんね。他には居ませんね。」

「うんうん。少し弾薬は持たせたがな。」

「------ 。」



  昨年、カメリアがグレタリアン帝国に勝った話で盛り上がってから、じじい陛下が妙にウキウキ浮ついていると思ったらコレだった。

  じじい陛下の気持ちは分かるけれど分かるけれどさ、精神的な余裕がない俺に放る爆弾の衝撃は大きくて溜息では消せない痛みに頭を押さえた。


  じじい陛下が40代を過ぎて敗戦し続けたグレタリアン帝国。

  その結果、イラド、カメリア、ナユカで殆どの植民地を失い多くの屈辱を味合わせられた悔しさも良く判るけど、是が切っ掛けでカメリア独立戦争に参戦したら食糧危機に重なってしまう。

  それにモスニア王国やカメリアと我が国が連合軍として機能できるとも思えない。

  結局、強敵のプロセン王国とグレタリアン帝国が組む王党派連合と泥沼だよ。


  まあ時間が掛かっても予知夢では俺たちが勝ったがその為の軍費と人材消耗が大き過ぎる。

 しかし起こってしまったものは仕方ない。

 ジョルジュと話し合ってグレタリアン帝国にバレた時の対応を決めようと判断し執務室に戻った。

 



 


  オーリア大使メルシー伯が俺を訪ねてラシエット宮へ来た。

 ルドア帝国との交渉結果は東ポーラン王国と西ポーラン王国に分れ西ポーラン王国をオーリア帝国が東ポーラン王国をルドア帝国が保護することになったとメルシー伯は話した。

 そして西ポーランにあるルール地方を予定通りに割譲する事に決まったと告げた。


ジョルジュへの報告だけで済むのに伝えに来てくれたメルシー伯の思いに感謝の言葉を俺は伝えた。

アンジェとの婚姻前からメルシー伯は俺を何かと買ってくれていた。

 メルシー伯はレティやフェリクス、アンジェを慈愛を込めた瞳で見る。

 まるで孫を見守る祖父のようだった。


 そして彼は話を続けた。


 「そういえばエーデン王国へ手を出していたカテリーナ女帝の愛人が事故死したそうですよ。」

 「それはまた------  、ルドア帝国の愛人はよく亡くなりますね。」

 「今回は政争に大きく負けましたから。」

 「ルドア帝国もそんな事をしている余裕がないと私は思うのですが。そう言えば今年もオーリア帝国から持って来て頂いてたジャガイモや大麦、ライ麦がパルス民の助けに為っています。本当に幾らお礼を申しても切りが在りません。ありがとうございました。」

 「いえいえ、同盟国として当然です。それにフロラルス王国内へ広げられたのは殿下ですよ。」


 俺とメルシー伯は今後の天候や義兄ランツの事を語り合いながら珈琲を嗜んだ。






  やや疲れた顔をしてロヴァンス国務卿がルネと補佐官が居る執務室へ入って来た。

 この補佐官はロヴァンス卿が紹介してくれた。

 そしてロヴァンス卿はじじい陛下の愚痴とか愚痴とか愚痴を零した。


  いやあ申し訳ないファエット少佐の報告を受けてから俺はじじい陛下に会ってないからな。

 じじい陛下の嬉しそうな顔を見るとイラってしそうなので俺は遠慮している。

 俺に会えない分をロヴァンス卿に思い付くまま話しているのだろう。


  元気なじじい陛下は娼館にいる女性2人目を妊娠させたそうだ。

 めでたいよね。(棒)

 溜息交じりのロヴァンス卿に仕事の有無を尋ねて「無」を確認し俺はルネに酒を用意させた。

 ブランデーをグラスに注がせてロヴァンス卿と空中で乾杯し俺たちは口を付けた。


  「済みませんね。ロヴァンス卿には無理をさせます。」

  「いえ私も判っているのですよ。陛下は詫びたいと思って居るのです、殿下に。でもファエット少佐の件は陛下にも抑え切れなかった感情なのです。殿下もそれを汲んで差し上げて下さい。」

  「はい、そうですね。私も感情的になっていました。明後日でも伺います。」

  「其れを聞いて安心しました。陛下がお寂しそうだったのでつい余計な真似を。」

  「そんなロヴァンス卿。ロヴァンス卿の切っ掛けが無ければ踏ん切りが付きませんでしたよ。」


 微笑み合った後、一呼吸置いてロヴァンス卿は話し始めた。


  「殿下はランダ国から米を輸入されたのですよね。」

  「ええ正確には陽ノ本という島国ですが。それがどうかなさいましたか。」

  「いえ私の末娘が商会の真似事を始め、輸入元から殿下が米を輸入することを聞き付けて、自分も興味があるので僅かでもお譲り頂ないかと我儘を申しまして。」

  「フフ焦ってるロヴァンス卿も珍しいですね。ええ量は少ないですがお譲りしましょう。いつもロヴァンス卿にはお世話になっていますからね。」

  「有難うございます。それで是は米のレシピだそうです。調べていたら載っていんで娘が書き写したそうで。邪魔になる様でしたら私が持ち喘ります。」

  「いえ、頂きましょう。娘さんに感謝をお伝えください。」


  私はロヴァンス卿から封のしていない手紙を受け取りルネに彼を見送らせた。


 米のレシピを父親に言付けるとは変わっていると思いながら寝室に戻り俺は手紙を見た。

 レシピは美しい筆跡で書かれていた。


 そして末尾には。



   「梅?おかか?」



 懐かしい日本文字が丸みを帯びて書かれていた。

 

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