表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/81

代表具現的公共性からの逃走

 アリロスト歴 1769年           8月



 この時代だから仕方がない。嫌、そうなんだけどさ。

 可成り精神的に参っている。プライバシー何て存在しない。そう皆無。


 はは、廊下が無い。俺が住むラシエット宮の場合

 ホールを入って大広間があり、美術観覧室(オサレな応接セットやら彼方此方に或る)晩餐室、朝・軽食室、舞踏室、図書館、書庫、談話室、浴室、クローゼット、etc・etc。

 そして2階は勉強部屋(心で執務室と呼んでいる)書庫、俺の部屋、俺の寝室、夫婦の寝室、妻の寝室、妻の部屋トイレが計12個(椅子だから脚かな)後は迎賓室や複数の客間なんぞもあるのだが、移動するときは扉を開けて部屋を突っ切って目的地に行く。


 エトワル宮殿程では無いけれど、使用人たちもそうだが色々な人間がさ、ウロウロ遠慮なく歩いてる。談笑しながら。

 アルフレッドが人見知りだったのは正常だと俺はアルフレッドを褒め称えたい。

 分かってるんだよ。王族って365日24時間公人であるって。

 ちゃんと王太子であるように振舞わないと駄目だと。何て言ったか、代表具現的公共性だったか。           


 もっとさ、王太子のいる宮殿何だから自重して欲しい。

 今のところ俺にはまだ無いけれど夜にヤバい奴が来たり、寝室通り抜けられたりしそう。

 予知夢でエトワル宮殿では普通にあったからな。

 アルフレッドお前は、普通に凄い奴だよ。

 やっぱり俺には無理だ。弟のジョルジュに王位を譲って領地があるベロー地方へ移り住もうかな。


 兎も角、人々の視線と話声がしない空間が欲しい。

 人払いしても別の部屋から他の奴が無遠慮に通過する。

 一応身分は俺がじじい陛下の次に偉いので、俺が話し掛けないと会話は成立しない。

そこは非常に有り難いが、そろそろ俺の限界が近い。


 考えてみて欲しい。

 俺の意識は数か月前までマンションに帰れば100%私的空間でプライバシーを大切で生きて来たのだ。

1769年今、現実が過酷過ぎて辛い。


 耐えられなく為ると発作的に狩猟に出掛けたり、俺専用の錠前作りをする作業小屋に行く。

 小屋と言っても木立ちに或る石造りの立派な屋敷だけどな。


 唯一の救いは俺が吃音故に内気で引っ込み思案な出来損ない王太子だ、と言う共通認識が一同にあることだ。

 そして天然痘にも罹病したことで神に見放された天罰では————と、いう噂が割と大きな声で流布され、王太子は弟ジョルジュを、と盛り上がっている。

 まあ噂流している大きな派閥2つは知ってるけど、此れからも是非頑張って欲しい。


 だって俺はこれからドンドンこの時代からしたら可笑しな事をする予定だから。

 目指せ、変態、いや変人王子、変人王太子か。



 そして現在は王太子宮は改築中。

 俺の部屋と寝室、浴室とトイレそして、妻に為るアンジェリークの為に用意している部屋、寝室、トイレ、風呂。

 予想外に大掛かりになったのは、じじい陛下が排水溝もどきを割と乗り気で作るように建築家ネシェロに依頼したからだ。

 改築自体は来年の3月頃には終わる筈だが、問題はセロルーヌ川まで引く予定になっている排水溝。

 この地域と現在の技術では、絶対的な水量が足りないので汚物を流させるのを俺は必死に阻止。

 じじい陛下の望みも判るよ。

 王太子宮が上手く行けば、次はエトワル宮殿から汚物を一掃したいのだろう。

 まあ、財務総監の大反対により、なんちゃって排水溝に落ち着いた。


 大工事しそうになった原因は俺だ。

 病気恐怖症(フリ)の俺が前回、天然痘に掛かったのは色々な人間が俺の近辺でウロウロしていたからだ。断定したよ。事実だし。

 王太子宮だけは入って来る人間を許可制にしたい。

 是が無理なら王位を弟に譲り蟄居する。とゴネた。だって本当に無理だからな。

 じじい陛下は困りながら呆れ顔をした。


「わかった、アルフレッドの願い、叶えよう。それと新婚生活の為に王太子宮の改築だったな。」

「有難う御座いましす。陛下」


 宮殿内は大騒動———王太子が陛下を脅して慣例を破った。

華美な改築の為に多額の費用を使う(是は陛下の要望だぞっ)。

王位を譲って蟄居される。ヒソヒソガヤガヤ。


 じじい陛下に付いてた側用人たちが、本当の雇い主たちに伝えて(給与は国庫だがな)、宮廷貴族たちが思惑を交え宮殿内で囀り広めたのだろう。

 工事が終わるまではエトワル宮殿内にある俺の居室で過ごしているので姦しい事、この上ない。


 そして凄まじい悪臭が今日も慣れない俺の鼻孔を襲うのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ