王太子ブルース
アリロスト歴 1774年 8月
ええーと、ろくでなし王太子です。生まれて来てスイマセン。
この夏が寒い時に何で「アルフレッドを王太子から外すべきだー。」等と騒いでるのでしょうか。
俺なんかしたっけ?
おーおーアレか、校舎裏に不良たちから呼び出されてたわ。
忘れてた。
少し真面に為ったエトワル宮殿に、先月じじい陛下が戻りラシエット宮が正常化した。
当然約2千5百人の宮廷官僚と共に。精鋭は約500人ですね。
ついでにエーデン王国の王太子も帰って良いよ。
で、俺は謁見の間に呼び出され、デゥーゴス公を筆頭にアンマン伯や諸々が騒いでる。
ええエー、俺はじじい陛下に呼ばれたから来ただけなのに。
エトワル宮殿に良くいる枢機卿たちもいるよ。
ルネやレコが傍に居ないから辛い。
俺は作法に則り挨拶しを終えた。後、何かするの?俺知らないよ。
これってさあ実質的に王制が滅んでいると俺は思うのだが違うのだろうか。
王に向いていない、実際に向いていない王太子が居てもこうさ、普通あるじゃん?
もっと手順がね、あると思うよ。
なんだろうか、この男らしさ(笑)。いろんな手順を飛ばし過ぎだ。
何故なのだろう?
そうつらつら考えて思い起こす。
パルス高等法院が無くなったからか。
今までは建白書を建てに祖父さま(エル4世国王陛下)にパルス高等法院から色々と言いたい事を言わせていたが(貴族や聖職者側が)、現在は建白書がないからやるべき法案は全て通ってしまう。
故に、貴族や教会が動けなく為ったのか。
自由派(改革派)にとって俺が邪魔で、じじい陛下に強請ることって何かあるのかな。
良く考えなくても俺って自由派に嫌われる事ばかりやったような。
家畜以下の宮廷官僚の追放。でも臭気がマジで薄くなったよ。
ベロー地方で徴税請負人の収入を奪った。貴族も寄生してたからね。
ベロー地方で農奴を少しずつ解放している。これは俺の領地問題だし。
ラシエット宮式マナーをじじい陛下に教えた。じじい陛下も年だし大目に見ろよ。
ウン。やっぱり俺って邪魔だよね。状況把握した。
と、ポケポケ外野が喧騒を立てる中で考えていた。
「五月蠅いぞ。ここを何所と心得ておる。そして余は宣言する。王太子はアルフレッド以外有り得ぬ。王位継承を余人が口にするではないわ。昔ならその方らの首が転がっておるわ。下がれ。」
じじい陛下が一括して格好良く去って行った。——— えー、俺は?
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茶番が終わり———
えっ?茶番でしょう。宮廷貴族たちの鬱憤を一通りじじい陛下と俺が聞くと言う。
ラシエット宮に戻り気分転換に鍛冶場にでも行こうかと執務室を出るとタヴァドール夫人と一緒にレティが俺に会いに来た。
どうやら最近、俺と会って無かったのでタヴァドール夫人が気を効かせて連れて来てくれた。
うん、あの鬘にレースのオッサン集団を見た後ではレティに目も心も洗われ癒される。
ルネにオレンジジュースと珈琲を頼んで談話室へと入った。
「パパ何かお話して。」
「妃殿下、父上ですよ。」
「いいのいいの。パパで。話しかー、そうだねー。」
「ある日おじいさんは山へ薪を拾いに、おばあさんは川へ洗濯へ行きまして。そこに桃が流れて来たのでおばあさんは拾って帰りました。そして2人で拾った桃を食べると元気な女の子が生まれてきました。めでたしめでたし」
「何がめでたいの?」
「あっ、そうか。レティにはまだ早い話だったよ、コレは。では次、その生れた女の子がガラスの靴を履いて踊る話をしよう。」
3話ほど話すとレティは眠ってしまった。
タヴァドール夫人やルネ、レコが痛々しいモノを見る目を向けてレティを抱き部屋から出て行った。
何が駄目だったんだろう。
俺なりにこの時代に併せフロラルス王国でも判るように改変したのだが。
後でレコに聞いてみよう。
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アリロスト歴 1774年 11月
≪急報、エーデン国王陛下謀殺される!≫
その一報を聞いたサディ殿下は表情を改め厳しい顔で俺たちに礼をし一団と共に帰国した。
詳細は不明だがじじい陛下は何か聞いて居たのだろう。
宮廷が騒いでるのを気にもせず、じじい陛下は平静だった。
俺の方が内心では大混乱だった。
予知夢ではこんな事件は起きなかった。
4年後フェルナンと共にフロラルス王国へ来た美形エーデン国王陛下、そう来た筈だ。
俺は気分が悪くなり、痛む頭を押さえて寝室へと向かった。
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≪願うレコ≫
アルがエーデン王国の悲報を聞き、体調を崩し今は眠っている。
紙のように白い顔をし、眉間を僅かに寄せ眠る姿を見て俺は不安に為る。
体調を診ているルネも顔色が悪い。きっと俺も同じ顔色をしているだろう。
いつも何かを考えていて、いつも何かをやらかすアルといるのが楽しくて俺は何も考えていなかった。
365日休まず動き続けていたアル。
食べる物や便利なものが大好きで其れを産み出し人々へ与え続けていた。
あの一報を聞くまでは「パルスでの穀物流通状況の実態調査をしなければ」と言っていた。
いつも民の事ばかりで自分の事には無頓着なアル
俺はこれからはアルの代りにアルの事を考えて行こう。
そしてアルを休ませてやれる人間に為ろう。
俺はまだ全くアルに恩を返せていないのだから。
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丸1日眠ってスッキリサッパリした俺はルネとレコ、ゴドールが怒り乍ら心配されていた。
間違いないではなく怒っているのだ。
プンプンではなく激怒。
ちょっ、ルネ、割とマジで怖いから止めて。
全く身体は子供だと心も幼くなるのか?ルネって30歳過ぎてるって言ってたよね。
もう子供でいいや。
怒り疲れた後、僕の心配をされました。
理不尽だ。
俺も今年はじじい陛下に何かあっては、とずっと頭のどこかで考えていたのだろう。
緊張状態にいた脳がショックを受けてフリーズ。
現在は再起動して通常稼働してる。
さて俺がフリーズしている間にも世界は動いていた。
当たり前ですが。
昨年のポラリス茶会事件で怒ったグレタリアン帝国は新たな懲罰を決定しちゃったよ。
カメリアの自治権を取り上げるマーセット統治法を策定してしまった。
あうー、これでもうカメリアは止められなくなった。グレタリアン帝国皇帝もだけど。
本国の軍人たちがカメリアの代表と話し合って戦争は止めるべきだって言ってるのにさ。
我が国の2倍以上の税ってヤバそうですよ、グレタリアン帝国。
フロラルス王国民より我慢強いな。
ウチなら暴動待ったなしだ。
まあそう言う底辺での争いは兎も角として小麦がヤバイね。
財務卿デュイスにしっかり売買を規制するように話して於かないとだな。
国境防備して貰う兵にはジャガイモを追加で送って於こう。
偶にいるんだよ。小麦が高いと売っちゃう奴が。近衛兵と違って賃金が安いからね。
これも是正したいが難しい。
兵なんて中途半端に手を付けたら一番駄目な奴だよ。
せっかく景気が回復しているのに小麦不足で一気に水の泡とか嫌だからな。
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アリロスト歴 1775年 1月
毎年恒例の行事でエトワル宮殿に来てる。
以前に比べると格段に空気が綺麗になり水晶の間も美しい。
蠟燭や油がもったいっ、いや想ったら駄目な奴。
アンジェと一緒に人垣を泳いで来る方々に笑顔で挨拶。アンジェがフォローしてくれるので楽。
じじい陛下はランバリー夫人と楽しそうで何より。
俺もアンジェと3曲ほど踊り、他の男へとパスした。これは社交の挨拶だから当たり前なの。
本来なら俺にも他の貴婦人が来る筈なのだが不思議だ。
誰も居ないや。泣いて無いから。
大聖堂呼び出し事件以降、唯でさえ低かった俺の好感度が———
王太子の側に行くと天然痘を注射される。
自分が掛ったからと他人にも、そのようなデマゴーグがしつこく囁かれてる。
ここまでシツコイのは教会絡みだろうな。
おやレコが美女を2人も引き連れて来た。
「アル・・殿下と踊りたいそうだよ。」
「これは有難う。私とで大丈夫かな?」
「はい、勿論ですわ。」
しなやかに腕を伸ばして来たので彼女の手を取りホールへ行き、レコたちと踊った。
気を遣わせて悪かったなと内心でレコに詫びる。
踊り終えた後に話を聞くとタヴァドール夫人の催すサロンへ良く参加するそうだ。
今回の天然痘の論文についても「素晴らしい。」と絶賛してくれた。
なかなかに良い女性とレコは付き合ってるなと思うと嬉しくなった。
「身内を亡くされた方も多いので、時が来れば名誉は回復されますわ。」
そう言って美しく微笑んだ。
広間の外は闇が深い、だが途切れた雲の隙間から銀色の月光が射していた。




