パパだってツライ=フェリクス誕生
アリロスト歴1773年 11月
なんだかんだと言い1年近くいるサディ殿下with美形集団。
「サディ殿下、そろそろ戦ってる?帰国しなくていいの?」
「ご心配なく。俺が戦う訳じゃないしー。」
丁寧に話しつつ本意はこんな感じに会話できるくらいには親しくなった。
真意は分らないけれどじじい陛下たちが了承している様なんで放置している。
それに彼らが居るとエトワル宮殿もラシエット宮も空気が華やかで宮廷官僚たちとの緊張感が緩んでくれるので助かっている。ウン、美形は世界を救うカモ。
さて10月末予定日だったフェリクスが少し遅刻して11月に誕生。
母子ともに元気で安心した。
茶掛った金髪にアンジェに似た碧眼、こいつも色男に為りそうだ。
我が子だと不思議と悔しく為らない。良きかな良きかな。
じじい陛下が63歳、俺が19歳でアンジェが17歳、レティ2歳、フェリクス0歳これがラシエット宮に集う家族だ。偶にジョルジュ(18歳)も来るように為った。
フェリクスが王位継承者だと言う事で乳母スージーの夫が侯爵になった。
乳母争いが起きる訳だ。養育係の方が権威が高い。
此れで紹介者だったタヴァドール夫人の評判も上がれば恩返しになるかも知れない。
フロラルス王国では公爵や侯爵は別だが売買官制度が長く続いた為、パルスでは石を投げれば貴族に当たると言われるくらいに、貴族が多い。
それでもチマチマ減らしたが、まだ10万家は在る貴族家を想うと頭が痛い。
それに反して戦費捻出の為、今は売買官制度で貴族が増えたがグレタリアン帝国は約900家しかない。
嫡男しか家を継げない縛りは一見良さそうに思えるが、時を経ると断絶する危険性を想うと真似をする気は起きない。
フロラルス王国の半分くらい貴族家を貰って欲しいとは俺は願うけどね。
そしてフェリクスが誕生してからアンジェの表情が明るくなった。
出産して落ち着いてからイソイソと母であり女帝であるビストールに報告の手紙を書いていた。
メルシー伯も満面の笑みである。
フェリクス、お前も期待が大きくて大変だな。
俺も其処まで相手にしてやれなくて済まないな。
来年の夏に為ってみないと判らないが、冷夏なら不作で小麦不足が起きる。
今年の収穫不足は害虫だった所為で限られた領地なのだが、一応小麦の値を調整して買い占めに走りそうな商人を規制、それでもパルスで値が上がっている。
財務卿デュイスは有能は人だが穀物取引自由化を信条にしているから強い規制が望めない。
じじい陛下が大号令を掛ければ別だけどな。
貴族って食べ物に困らないから説明が難しいな。
そして大役を果たしたアンジェは重荷から解放されたのだろう笑顔が増えた。
恋のマジックで益々、美しくなった—— そうだ。(ジョルジュ談)
全くさ、そんな事は言葉にしなくて良いんだよ。弟よ。
絶対に他人には口外禁止って脅して於いた。怪訝そうな顔をするなよ。
閨問題が無くなったので俺とアンジェ、レティは仲良し家族になっている。邪魔するなよ。
飢饉問題が片付いたらアンジェを嫁に出す方法を考えます。それまでは放置する。
なかなか俺も大変なのさ。
フェリクスの柔らかい頬を撫でて、俺は内心で話し掛けた。
アリロスト歴1773年 12月
なんだろう。
この釈然としないモノは。
俺は今、枢機卿と司祭に校舎裏に呼び出され、(嘘です)パルスに或る大聖堂ですね。あはは。
怒られている。
教会が認めていない者に、教会が認めていない医療行為をさせたからですね。
現在は教会関係で学び認められた者のみが医者に為れる訳です。
で、リムソン医師みたいに街で医療行為しているのは庶民だから大目に見られていただけ。
民間伝承を行う呪い師みたいなモノかな。庶民は医者を呼べないもので。
だがしかし、国王陛下へ医者で無い者に医者の真似事をさせるのは許し難い、そうだ。
リムソン医師たちに論文を出させたから秘密に何て出来ませんよね。
それにパルス大学は教会が設立しエル王家が予算を出していた。
パルス大学出身の医学者なら問題なかったのだろうが、そうなると信仰が邪魔をして有能なリムソン医師は誕生していなかった。
貴族では無いが現在この国では科学的検証が出来る医師は聖職者たちより希少で有用だ。
絶対に守らないと俺が居る意味が無い。
しかし下手に対立してカリント教を破門などと為ればヨーアン大陸では生きるのが難しい。
第一にエル王家が危機に陥る可能性が高い。破門された王太子を出したなんてさ。
俺は聖職者の意に反しない受け答えをして大聖堂での長い吊し上げを耐え忍んだ。
教会はなー。怖いのだよ。
でってフロラルス王国に住む大多数の人々が信じているからね。
「アルフレッドは神の敵」認定されたら生きられません。ホント。
特に民たちは王の言葉よりも神父・司祭や司教を信じてるからな。信者は怖いゾ。
だがこれでもフロラルス王国はマシな方なのだ。
エル3世が王は教皇より上位に位置すると王権神授説をぶち上げてたもんで。
(パルス主義なる信徒もいる。)
唸りながら俺はじじい陛下に大聖堂でのご報告。
「王侯貴族、教会関係者へのリムソン医師による医療行為はさせないと言う事に為りました。
苦労して研究して貰ったのにリムソン医師には申し訳ないです。何とか医療行為の全面禁止は免れたので一先ずは良しとしました。」
「ふむ。天然痘の予防接種は禁止されなかったのか。」
「そうですね。それを訴える司祭たちも居ましたが、禁止はされませんでした。論文が読める方ならこの快挙を待っていた人には理解されるでしょう。冊数は少ないですが論文は本にして寄贈しましたからね。リムソン医師たちの偉業は潰されずに残って行くでしょう。」
「あ奴ら、死病は神罰と言って憚らんからな。全く自分たちが罹ったら何とする気だ。」
「それは主の導きなのでは?信仰は大事だと思いますが狂信、妄信は正直言って困ります。」
それからじじい陛下と天然痘予防接種の扱いについて、リムソン医師の今後を話し合った。
今なら医師免除剥奪だ、とか言われてたかも知れないが医師免許為るモノは教会が運営している医師会(資金は国庫だ)が有償で出しているので元々リムソン医師は持っていない。
ずっとパルスで街医者をしていた家系で評判が良かった。
そこで腕の良い医師を探していた俺にレコが紹介してくれたのだ。
もう少し聖職者たちから養護できれば良かったのだが、俺がムキになってしまうとリムソン医師たちの身の安全が脅かされるのは避けたかった。
ほとぼりが冷めるまでベロー地方にある研究施設で保護させて貰う事を決めレコに話をした。
どの道、これでワクチン完璧完成と言う訳でも無いから研究生活へ戻してしまったな。
アリロスト歴1774年 3月
御機嫌取りでカリント教本拠地とパルス大聖堂へ金塊と5000リーブルを寄進した。
勿体ないなんて思わないよ。当たり前のことさ(棒)。
じじい陛下にも頼んでいたジャガイモや人参、大麦、ライ麦が国王直轄領でも作られ始めていた。
農具を貸して便利さと役得を理解させて各々各市町村で作成した。
面倒だけど補助金を出したよ。
徴税人を警戒して碌な農具も牛馬もいないんだから。
補助金を出す事を理解して貰うのがじじい陛下を始めとして大変だった。
はあ、小麦以外も作って貰うって大変だった。(遠い目)
説明に行ってもらった農務補佐官の人達もお疲れだった。俺が行くわけないっしょ。
ベロー領地より凄く大変だったのは王家直轄領ちが広大だったから、に違いない。きっとそうだ。
農業って本当に時間と費用が掛かると実感しきり。
何とか8年後までに救済作物を根付かせられたら良いな。いや、絶対にやる。
俺は作付けした地名をチェックしながら決意を新たにした。
さて、ジャガイモとライ麦を使ったレストランが出来たので市場調査と言う名の外食だ。
西区は貴族屋敷が多いので早くからし尿処理システムを構築していた。家数が他区より極少。
決してじじい陛下の我儘ではない。
そして俺はこの世界で生まれて初めての外食でドキドキしている。
一緒に行くのはレコとルネ、何時もの3人で馬車に乗り西区へと進む。護衛は当然いるよ。
エトワル宮殿からは約25㎞、ラシエット宮からは大凡12㎞くらい。
黒味が強い花崗岩で出来た重厚な造りで、日本に居る頃ならビビッて財布を開いてカード確認したと思う。くそっ、油断すると直ぐに豪奢な建物にされるなあ。
フロラルス王国初レストラン。カフェや居酒屋は在るらしいけどね。(レコ談)
俺的趣味満載な日本式サービスで席に案内され仕切りの或る席に座り、白ワインとランチを頼む。
そう、有るのは1つランチだけなのだ。
ライ麦パンに、ポタージュ、鴨肉(日替わり)の石窯焼き、ポテトサラダ、クリームコロッケ、焼き野菜、果物、甘味デザートなどがワンセット。
高価だよ。1000リーブルだからね。庶民年収400リーブル。
始めは職人や学生たちが気楽に立ち寄ってコロッケとか売りたいと思ったが、植物油(オリーブ油)が非常に高かった。
昨年から頑張って菜種を育ててる。植物学者に聞いて植民地カナッスからわざわざ仕入れたよ。
まあ出来た店舗も場所も高級だったから路線変更した。
ポテサラや他の野菜サラダも食べてマヨネーズ中毒にしてやろう作戦。
新鮮マヨにじじい陛下もアンジェもメロメロだ。
石窯焼きと名付けたが実際は陶板焼きだな。
塩コショウして窯で焼き、小分けにして温めた陶板に乗せて香味で作ったソースを掛ける。
ジュウジュウに熱したいが安全第一の為に湯で温めただけ。
それでも温かい器が珍しく人気が高い。
手間も暇も掛けているので食した方々は御満足のご様子だ。
俺が育てたシェフが良く引き抜きに遇ってるらしい。完全予約制です。
どう頑張っても下準備が必要な物が多過ぎて、飛込での対応不可と判断した。
少しズルはしたが、俺も予約順を守って来ているのだ。
店の名は「ポタージュ」
一番手間暇が掛かっている渾身の一品。そして俺が一番好きだから。単純だよね。
まあジャガイモを一般に広める為に陸軍士官学校の食堂で提供して貰ったり、ポリスに手伝って貰って街の人達に西洋肉じゃがを振舞ったりしていた。
初めは恐れて食べなかったがサクラを用意させ、彼等が美味しいと食べて貰うと皆も食べ始めた。
美味しいモノだと認識され始めたのでパルスに誰かが店でも出すと思う。
今は俺の領地でしか出荷できる量を作られてないがその内に広がって行くと夢見る。
しつこいが食物は管理するとマジで手間暇金が必要に為って来る。
それでも十年以内にはもっと効率化させてベロー地方とパルス、王家直轄領では民を飢えさせないと決めている。
各閣僚たちもそれぞれの領地で俺の勧める作物を作り始めているそうだ。
俺を師と呼ぶ10人のシェフたちには俺が覚えているレシピを丁寧に教えた。
師と呼ばれるような大層な事を俺は教えてはいない。
綺麗好きである事と規則を守る人間である事だけをレコに頼んで連れて来て貰ったのだ。
今まで上手くいかなかったのは料理人ギルドの存在の所為だろう。
理不尽な取り決めが多いからな。
ただ一つ不安を上げれば、彼等は自分で店を持つしかシェフとして、やっていけない気がする。
何故か、俺の厨房以外が不衛生過ぎるからだ。
エトワル宮でも衛生観念が欠如していて胸が悪く為るし、素材や料理に触れる手を洗って居ない。
清潔第一だからね。ラシエット宮は、と言うか俺が。
エトワル宮殿や陸軍学校の厨房へ料理を教えに行ったシェフたちの顔色が悪い。
「もう他所へ行きたくない。」そう嘆く事仕切り。
そういや以外に売れているのが、皮むき(ピーラー)とスライサー、手動ミキサーだったりする。
実はアレは矢張り面倒だったんだな。
あれば便利だし、「細かくて薄い物作りは職人の熟練度が上がる。」と言う俺だけの根拠で職人たちへ頑張れと応援し作らせていました。
適正価格とか判らないので作った工房の皆に決めて貰いボルドを呼ぶとアレレぇ不思議だぞぉ。
職人見習いが直ぐに増えていき作っては売れの何時ものループへ。
何時も色々な事が同時進行で進んでいるので秘書に為ってくれたルネのお陰で助かっている。




