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パラダイムシフト

 アリロスト歴1773年      2月




 温石を懐に入れ分厚いコートを羽織ってもまだ寒い。

 陸軍士官学校の騎馬隊訓練場で強い2月の北風に俺は晒されている。

 何故か。

 それはこの実験をじじい陛下が観覧すれば失敗した時に開発中止に為るからだよ。



「寒いから行きたくないがユニヨ大佐に観に行くと約束したからの。」

「へー、何を身に行くんです。」

「蒸気馬車だそうだ。馬じゃなくて蒸気が馬車を動かすそうだ。楽しそうだと聞いた時は思ったのだがなぁ。」

「では私に行かせてください。」

「お、おう。」


 じじい陛下が、どん引く勢いで俺が観に行く権利を捥ぎ取り、俺は今此処に居る。

 だってさ、予知夢で観たんだ。

巧く操作出来ずに蒸気馬車が訓練場の柵にぶつかり大破した事を、怒って俺に報告していたじじい。

 そして、あんな危険なモノは作っては為らぬと研究開発が中止になった。

 そんな勿体ない事は俺がさせません。



 凄い音を立てながドでかい不格好な蒸気機関に箱と車輪をくっ付け、其処へデカい人がパイプの様な物を握って立って現れた。

 爆音と共にゆっくり走って、そして策にぶつかり横転して、見事大破はした。

 横転してももくもく蒸気を上げていて爆発しそうだ。


 手や腕は皮で作った防具で大丈夫そうだが、顔は擦ったり打ったりしていて痛そうだ。

「大丈夫ですか、ユニヨ大佐。」

「いえ、是位何とも在りません。折角、王太子殿下が御在して下さったのに面目次第もありません。」


「何を言っているのですか、ユニヨ大佐。これは大発明です。蒸気を動力に出来るとは、素晴らしいことです。ほら、パルス大学の科学者の皆様もユニヨ大佐の話を聞きたくてウズウズされています。私が資金を出しまから、皆で蒸気機関の研究開発をしましょう。蒸気機関研究所の発足です。」



 俺は集まって来たパルス大学の科学者を集め、大いに盛り上げて研究熱を煽った。

 まだまだ未完成だがフロラルス王国に於ける頭脳が集まればもっと効率が良い製図も出来、小さく出来るようにもなるだろう。

 しかも走らせる発想が出て来るユニヨ大佐には感動を覚えた。

 俺は大きな息吹と嘶きを全身で感じた。



 軍医を手配した後その場を辞し、俺はラシエット宮へと戻り、現在行っている道路整備、東区開発、天然痘予防接種の開発etcと大まかに脳内で、期間と費用を算出し、蒸気機関開発チームに年1万リーブルを開発予算として預ける事にした。

 そして俺はユニヨ大佐とパルス大学にある科学部長へ研究以来の手紙を書き、レコへと依頼した。

 レコとルネは何かとてつもない事だった気配を察し、俺の興奮が伝染したかのようにキラキラとした瞳で俺を見た。





 夜、晩餐の後に談話室でじじい陛下、ロヴァンス伯、アンジェ、ルイーズ公妃、レコ、ルネたちに珈琲を入れて飲みつつ俺は、大雑把に紙に図を書いて蒸気機関の説明をした。

 鉱石採掘の際に排水が楽に出来るであろうことや単純で多くの人間が必要な労力が簡単に為る可能性を語った。

 じじい陛下が見なかった事を悔しがったが、見てたら俺が何か言う前に中止にしたと思うので行かせなくて良かったと内心ホッとした。


    





  アリロスト歴1773年         4月




   国境警備と言う名目でポーラン王国付近へ約3000名近くの兵で防御させることに為った。

 俺は戦闘に為らない事を祈った。

 前回(ハリキ防御戦)もそうだが他人を戦へ送る提案をするとズシリと胸が重くなる。

 提案と言う言葉で俺は逃げてると思うが指示はベルイル軍務卿かロヴァンス卿が出す決まり。


 これからヨーアン大陸も含めカメリア大陸も植民地ナユカも銃弾の雨が降る。

 それは俺にはどう足掻いても止めることが出来ないだろう。

 偽善だと思いつつ、俺は包帯や包帯止めの金具、麦芽糖で作った飴そして怪我した時の応急マニュアル本を救急箱へ入れさせラゼ中佐が作った兵站部隊へ持たせるのだ。

 確りとした軍医も作りたい。






アリロスト歴  1773年     9月





 リムソン医師たちがとうとう天然痘ワクチンを開発した。1年の臨床試験を経たと言う。


 「ええー、1年前に出来てたの?」

 「はい、実験では無事に。しかし予防する為ですから万が1が在っては為らないので、我らや家族そしてオーシェの方々たちに。発症もしませんし、初期の発症者は快癒しました。我々に声を掛けて下さったご家族が回復して喜ばしい限りでした。」

 「そう、ありがとう。ずっとこの日を待っていた。私では被験者に為れないのが残念だ。」

 「此方こそ有難う御座います。これ程の偉業を成せるよう我々にお声がけ頂き感謝の言葉も在りません。遠方の民間療法、弱毒性の牛痘、素晴らしい情報を殿下、有難う御座います。」

 「全て君たちのお陰だ。きっと君たちの名は歴史に刻まれるよ。此れからも宜しく頼むよ。」


  俺たちは泣きながら肩を抱き、互いを讃え合った。


 俺はレコにリムソン医師たちの研究と発見を臨床データーと共にパルス・アカデミー、パルス大学、医師会へ提出する手助けを頼み、早速じじい陛下へ予防接種をしに行った。

ごねると思ったが周りの制止を無視してリムソン医師からワクチン接種を行った。



 俺は心底安堵し、泪を抑え込んでじじい陛下の両手を握った。

「陛下、受けて下さって有難う御座います。」

 そう告げて足早に自分の寝室へと去った。


 ルネに人払いをさせた。


  そして俺は寝台に横たわり掛布を被り、流れる侭に涙を零した。

 沸き上がる胸の熱に押されるように嗚咽が漏れる。

 此れでじじい陛下を天然痘から救うことが出来た。

 死するその時に聖職者たちの命令を聞かずに済む。


  じじい陛下が今わの際で苦しんでいるのに、ランバリー夫人と別れなければ告解(サクラメント)は許されないとして聖職者たちは彼女と最期の別れもさせずに、じじい陛下を屈服させたのだ。

  じじい陛下は死期を悟りランバリー夫人との離別を決断、夫人はエトワルを追放された。


  ずっと国王として己の意志を通して来たじじい陛下のプライドを挫いた。

  聖職者共は、死する前の苦痛を人質にした。


  俺は何も変えられないかもしれない。

 それでもじじい陛下が天然痘で死する未来だけは絶対に変えたかった。

 あんな奴らにじじい陛下の意志を変えさせたくはなかったのだ。

 ——ああ、でも良かった。本当に良かった。これだけで俺が産まれて来た意味があった。


 溢れ出す激情が、涙と共に流れ続ける——  そして、俺は其の侭眠りに落ちた。



そして俺がじじい陛下にへ天然痘を打ったと噂がエトワル宮殿に実しやかに流れた。

まあ、事実だけど。


何故か聖職者たちから戒告?が来たヨ。何がいけないんだ?5文字で頼む。





   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  ベロー地方では1770年に農奴制を暫定的に廃止し段階的に王立農職員として雇用している。

 各市町村にいる知識層(農家)を農学職員として雇い、王立農園で研修を受けて貰いジャガイモや大麦、ライ麦等の栽培法、調理法、農機具貸出使用管理、トイレの設置と堆肥の運用を学んで貰った。

 そして土壌改良植物にクローバーを植えた。


 市町村長の敷地には実験農園で試算した大きさの食物倉庫を少しずつ建設。

 高床式にし床下を掘り芋類を保管、床上は麦類を格納する。


 王立農園で就農していた村長や農家、元農奴たちはフロラルス農業のプロフェッショナルなのだ。


 鍬やシャベル、回転式草刈り機、畑起こし機、足踏み脱穀機と実験農園で制作して使って居た物を順次、貸し出す形だ。

 そしてベロー地方の鍛冶職人ギルドと木工職人ギルドに農機具生産を依頼した。

 現物を作成していたので楽だったと思う。リュックは頼りになる。



 そして1171年高等法院をじじいが無力化し、徴税権は領主にあると改めて発布した。


 それを受けてラゼ中佐連隊には王家直轄地に、ニコラ・アウエル少佐たちにはベロー地方に行き抵抗したり反発した徴税請負人たちの確保。

                 

  後詰めで救済作物の種と実験農場のプロを下士官と兵卒たちと一緒に王家直轄地と俺の領地へ行軍し伝令役もお願いしました。


                    


  はあ、知事たちや代官たちは大変だったよね(棒)。「お前何度目だよ。」


俺の所に居た知事や代官たちの不正は大分処理して来たけど、あの人たちは自分の権利を侵されたと本気で思ってるからね。

ある程度の役得なら許すけど俺が流す資金や技術を他所へ売捌いて新たな利権構造を作ろうとしていたので申し訳ないけれど牢屋で反省して頂くよ。



「余の直轄領地での事だ。其方たちの領地には其方たちが決めるのであろう。余は口出しせぬぞ。」

と、訴えて来る方々にはじじい陛下の文言で〆て貰った。



 実の所俺はフロラルス王国全土の民を救う事を諦めたのだ。(可成り最初から)

 全てを救おうとするのは無理ゲー。

 ジャガイモ植えようと薦めてもナシの礫だからな。

 作れる場所で作って備える。迂遠だけどこれが近道な気がする。


ワンマンで済まない。兎も角、凶作に為る来年に備えたいだけなのだ。 

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