ビバ!恋物語
アリロスト歴1773年 1月
回避?俺の隣で寝てるよ。
うんなこと出来る訳はあったが、微妙に無かった。
じじい陛下がジョルジュと話をして外務補佐を遣らせてみる事にした。
表向きの立場はジョルジュ外務卿だが実質はシャトレ外務卿主導で弟は補佐なのだ。
「偉そうに言うなら外交やってみろ。」
獅子の子落としをやってみるじじい陛下だった。
まあ、軍務(危険)、財務(無理)、法務(未知)と鑑みた結果が外務。
修正の余地が在るからだそうだ。
俺もジョルジュは外交が向いていると思ったのでじじい陛下に賛同した。
そういう訳でジョルジュ外交デビューはエーデン王国の王太子になった。
サディ・ヘクター王太子。呼び方はサディ殿下です。
ラッキー、これで会わずに済むかなは砂糖菓子、歓迎パーティが在るんだよ。
じじ陛下は立場的に上位なので出席するのは俺とジョルジュとアンジェ。
相手はサディ殿下と大使フェルナン、そしてエーデン王国のガルス外務卿。
俺さ、人が恋に落ちる瞬間を初めて生で見たわ。
フェルナンとアンジェが目を合わせるとオーロラ・エフェクトがキラキラし始めた。
(閑話休題)
俺とサディ殿下はワイン片手にさり気なくエーデンでの雪の話をしつつ、和やかに会を終えた。
恐らく気付いたのはサディ殿下とジョルジュではないだろうか。
弟よ、安心するが良い。まだネトラレ王太子では無いからな。
うっ、心配はされてないか。ざまあー、とか思われてたら寂しいが。
夜中寝室で、俺は解放感に満たされていた。
懐妊は予想外だったがこれで罪悪感を押し殺してアンジェとしなくても良くなった。
出産するまでは辛抱させるが、その後は噂に潰されない程度に愛し合って欲しい。
俺は遠慮したかったがサディ殿下からの要望でフェルナンを外したメンツで自慢の温室へ。
馬車迄歩く道々は貴婦人たちが列をなしうっとりした表情で見送ってくれた。
こんな経験はエトワル宮殿で生まれて始めただよ。悪意のない視線ていいモノだね。
(知ってるよ。俺を見て無い事くらい。フン。)
ふむふむ。エーデン王国はイケメン産出国でもあるのだろうか。
サディ殿下も側近、護衛たちも周囲から目を引く美しさだよ。
ちっ、俺のルネとレコが霞むとは、やるな。エーデン王国めっ。ルネはルネは負けて無いから。
温室での話はポーラン王国へ侵攻するオーリア帝国に合わせてルドア帝国に分捕られていたエーデン王国の領地を奪取するので、作戦が上手く行ったらフロラルス王国にも認めて欲しいとの事。
俺はジョルジュを見て確認するとジョルジュは首を縦に頷いた。
「外務卿のジョルジュが決めた事なら私に否は在りません。」
互いに了承の意を確認し合い、温室に咲き乱れる南方の花々や果物を見て穏やかな午後を過ごした。
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≪知らない兄上≫エル・ジョルジュ
僕たちは皆エトワル宮殿で生まれて7歳に成るとパルスに或る其々の宮殿で育った。
13歳の成人を迎え公式行事に参加するまでアルフレッド兄上に会った事がなかった。
ただ噂では人見知りが激しく狩りや錠前作りにしか興味がない王太子らしからぬ人間と聞いて居た。
それに対し僕は養育係や専任教師から才が豊かで頼もしいと称賛されて育った。
やがて父がそして母が亡くなり、兄上は正式に王太子に為った。
周囲から僕こそが王太子に相応しいと言われ僕も自分こそが相応しいのではないかと考え始めた。
そんな時に兄上が天然痘に掛かり、陛下から王太子に為る覚悟はしておけと言われた。
矢張り僕は王になるべき存在だったのだと未来が開ける気がした。
だが輝いた未来は兄上が快癒し、僕は元の生活へと戻った。
再び闇に閉ざされたような息苦しさと焦燥感に僕の中に兄上への憎しみが育って行った。
デゥーゴス公から紹介された女性は甘美で僕の苛立ちを癒してくれた。
それから兄上の噂は日を追うごとに酷くなり兄上に追い出された官僚たちが僕に助けを求めた。
次々に追い出され窮状を訴える彼らを助ける為に僕は陛下に謁見を申し出た。
覇気に溢れた陛下が僕の話を聞いて告げた。
「ジョルジュよ。余はアルフレッドが間違った言動を取っているとは思わん。お前も王族ならば奴ら如きに容易く使われるな。もっと周りをよく見て動け。」
やり場のない怒りが僕の胸を焦がした。「陛下は兄上に甘過ぎる。」
時を経て、陛下たちがエトワル宮殿で「これからはオーリア式儀礼を行う」そんな凶報があった。
まさかと思ったが国務兼宮内卿ロヴァンスからの発表だと官僚たちが告げた。
デゥーゴス公からも「今後について話し合いたい」と先触れが在り僕の宮へ集った。
当たり前のようにアザイーダ伯母上たちも参加していた。
オーリア女に乗っ取られる。
これは戦争だ。負けられない。
白熱した議論の最中にデゥーゴス公が「ランツ3世の来訪予定に合わせて仕事をボイコットして宮廷官僚の必要性を知ら標てエトワル宮殿、そして我らの伝統を守ろう。」と力説し士気を上げた。
「ランツ3世が来訪する前日にはロヴァンス卿が頭を垂れる。」
それを今か今かと待ち望んだ。
だがそんな時は遂に訪れなかった。
兄上が暮らすラシエット宮で迎賓会も行い、恙なく予定を終了し帰国された。
熱狂が過ぎ去りロワジール宮では空気が弛緩し怠惰な宮殿内となったが、デゥーゴス公が紹介した宮廷官僚の荷物が届く毎に喧騒が起こった。
それを鎮める為に僕が陛下と話し合う事にした。
だが、そこにデゥーゴス公が待ったを掛けた。
「私には陛下を説得させる秘策があります。このような蛮行を私ならお諫め出来ます。ジョルジュ王弟殿下では若過ぎてその様な事は出来ますまい。」
歓声を上げる者もいたがアザイーダ伯母上たちと僕はデゥーゴス公の発言に感情が暴発した。
始めはどちらに利が在るかを議論していたが、その内に互いの人格攻撃やアザイーダ伯母上たちが口にするのも憚られるデゥーゴス公への性癖攻撃など、想い返すと頭を抱えたくなる発言をしていた。
その後、陛下に呼ばれ王族に相応しい言動をしろと前回と同じ忠告を受けた。
騒動が沈静化ししばらく経ってからてもう一度僕は陛下に呼ばれた。
「ジョルジュ、少しは冷静に為ったか。」
「はい、申し訳ございません。」
「デゥーゴス公がジョルジュと付かず離れずいた理由も理解出来たか。」
「はい。王に成る機会を伺う為でした。」
「其れが知れたのなら、まあ良い。ジョルジュが王位を望んでいるのも知っている。そして信じられ無いだろうが、今でなければジョルジュへ王位継承を譲るとアルフレッドも言っておる。」
「まさか、何故。」
「まあアレの考えは余でも理解出来ぬことの方が多いからの。少しでも飢えぬ者を増やしたいそうだ。そしてソレをする為にはジョルジュの力が必要だと言っておった。余はアルフレッドこそ王に相応しいと思っておる。儘ならぬものだ。論文やサロンで政を論じるだけではなく実際に政の場でジョルジュの才とやらを磨くが良い。其方に外務卿を任せよう。やってみよ。」
「僕に——— 。ですか。」
「そうだ。外務卿は其方だが当分はシャトレ主導でするように。アルフレッドも期待しておる。」
僕は陛下に外務卿を任された事より先程迄話された兄上の事で頭の中が一杯になった。
グルグルと兄上の事で悩むのに表情も何も思い出せなかった。
兄上より僕の方がずっと上だ考えていたのに、何も兄上の事を知らなかった。
それに愕然とした。
「これから知って行こう。」
僕が妬んで恨んでる間でも兄上は自分を見て期待してくれていた。
まだ17歳だ。僕にはこれからの時間が或る。
そして今度は僕が兄上を知るのだ。
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アリロスト歴 1773年 5月
ベルイル軍務卿からの報告でモスニア海軍がベラ諸島を経由してハリキ湾に現れたらしい。
砲弾の補充等強化していた為に防衛戦に勝利したそうだ。
早速モスニア王国へ抗議をしたが「現場の突発的な判断。開戦の意図はない。」だそうな。
ギリギリ悔しがったじじい陛下だが、これからポーラン王国へオーリア帝国との共同戦線もあるので浮き出す血管を抑え込んでいた。
ふざけた事に新たな友好同盟の為などと言いジョルジュとモスニア王女との婚姻話が来た。
丁重にお断りさせたのは言うまでもない。
握手した手の反対の手で殴りかかるのが普通の外交だよ。
油断も隙も無い。
そしてプロセン王国がグレタリアン帝国への援軍協力を発表した。
強いのだよ、プロセン傭兵団。
あっ、傭兵って言ったも領主が雇ってる軍隊だからね。
エーデン王国もスロン王国も自国兵を有料で貸し出している。
フロラルス王国もスロン傭兵は雇ってる。
で、もしカメリア独立戦争にに参戦するならエーデン王国からも頼むことに為るのだ。
参戦し無いからエーデン王国の傭兵は要らない。ハイ。
でもって何故かまだいるエーデン王国の王太子一団。
それもエトワル宮殿では無くラシエット宮に居る。
まあ2階へは進入禁止なのでバッタリはない。
俺は何時もの如くルネに報告受けたりボルドからの報告受けたりレコからの———報告。
ハイ、俺の1日は基本、報告を聞く係です。
指示出した人なので仕方ないのだ。
普段いない人が居るって気に掛かるが「何で居るの?」って聞けないよな。
ルネとレコは立場的に弱いので聞けない。
いたでは無いか。遊び人で芸術家のゴドールなら空気読まずに聞いてくれるだろう。
そうい訳でゴドールに行ってこいをした。
「美人が多くてエーデン王国より暖かいのでもう暫くいるようですよ。」
「胡散臭い。」
「まあそうでしょうが、そう言われると聞けないでしょう?」
「そうだね。」
「悪意みたいなモノを感じなかったので気になさらなくても良いかと。」
「うん。有難う、ゴドール。そうするよ。」
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≪ゴドールの想い≫
あれは2年少し前、権力欲の権化パドゥール夫人の手駒だったシャスール公が罷免されたと聞いて小躍りして領地からパルスに出向いた。
全く陛下も16年前に追い出して於けば良いモノを。
パドゥール夫人もシャスール公もフロラルス王国を弱体化させる事しかしていない。
寵愛を与えるのは構わないが権力も与えるのは、いい加減にして貰いたいものだ。
久しぶりエトワル宮殿は何か可笑しい。
空笑いをする宮廷官僚たちにヒソヒソと話す者たち、顔見知りを見付けたので近付き、此の漂う空気の可笑しさを尋ねた。
「ああ、エル4世陛下が宮廷官僚に追い出されたのだ。」
「そんな馬鹿な。あの誇りだけは高い陛下が。」
「こらこら、口の悪さは相変わらずだなゴドール候。本当だよ、今は王太子宮へ行ってる。」
「いったい何が在ったのか。」
「まあ元は何時もの様に増税なのだが、反ランバリー夫人派たちがこれ幸いと、パルス高等法院へ著しく宮殿の秩序を乱すランバリー夫人と、別れさせるように訴えたのだよ。そして高等法院も此れを受けて別れる様にと勧告した。その知らせを受けて宮内卿と宮廷官僚が高等法院の指示に従うべきと迫り、陛下が怒りエトワル宮殿を出て行ったのさ。」
「宮内卿と宮廷官僚は馬鹿なのか。自分たちを何だと考えているのだ。此処まで白痴化が進んでいるとは、エトワル宮殿も末期だな。」
「おやゴドール候だから陛下を叱る言葉を吐くのかと思ったよ。」
「馬鹿にするな。此れでも宮廷貴族だぞ、序列の優位性や陛下に対する敬意無くして何が貴族だ。貴様も白痴の仲間か。レアリード伯。」
「私に八つ当たりするな。ただ、此れからどうするのか陛下が心配ではある。」
「そうだな。少し様子を見てくる。レアリード伯、王太子宮に伝手はあるかい。16年間もパルスと無縁だったから何も無いのだよ。」
「王太子は難しい方だからな。他の貴族なら教えないがラゼ中佐へ紹介状を書こう。気持ちの良い人間で君の絵のファンだよ。」
「それはどうも有難う。それで難しい方とは?」
「厳しい方だ。規則を守らない者を次々に解雇した。」
「宮廷官僚を?陛下ですら罷免しないのに。」
「そう言う宮廷貴族や官僚の常識は通用しない。官僚たちも驚いたと思うよ、汚物を所定の場所に捨てないだけで解雇だからな。」
「宮内卿が飲んだのか、それを。しかし自由に捨てるのがエトワル式だろう。」
「だから難しい方だと評判なのだ。公式行事しか出ないしな。もし会えても変な事を言うなよ。ラゼ中佐に迷惑が掛かったら大変だ。やっと日の目を見れたのだから。」
ラゼ中佐の指導教官が戦争に反対して罷免させられ、その煽りを受けていた説明を聞いていた。
そしてラシエット宮に着きラゼ中佐に会い陛下の事や殿下の話を聞いた。
ラゼ中佐によると殿下は規則には厳しいが公平で朗らかな人だと言う。
失礼になるがと前置きして王族と言うより自分たち軍属に近いと言って笑った。
私は俄然興味が湧きラゼ中佐に殿下への面会を頼み込んだ。
渋られたが断られたら素直に諦めると言う約束で時を待った。
10日ほど経って漸く面会が叶った。
談話室で待っていた殿下は、美しい小姓と鋭い視線の美丈夫に守られるように椅子に腰掛けていた。
整った顔を複雑そうに歪めて私を眺めていた。
何か言いたそうにしながら問いを考えて悩む姿は何とも可愛らしく手助けしたくなった。
そんな感覚は初めてだったので大いに戸惑ったが、この複雑な少年を描きたいと思った。
殿下に自分はどれ程役に立てるかを話し、側で描けることが決まり主に感謝の祈りを捧げた。
時々で変わる表情はどれも美しい。
そう褒めるのだが余り殿下には伝わらず、最近では苦笑いを返されるばかりだ。
時折、深い溜息を吐き思い悩まれていたがサディ殿下が来訪されて変わられた。
あの憂いが消えたのだ。
清々しい笑顔でレティ姫と戯れる殿下に心動かされ今日も私は絵筆を動かす。
この素晴らしい出会いのきっかけを与えてくれたエル4世陛下にも感謝を———




