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ノスタルジーなストライキ

アリロスト歴      1772月        2月


  ヒャッホーぉぉぉ——————。

 鍛冶職人リュックは天才だっ!異論は認めない。

 流石、俺に錠前作りを教えただけのことは或る。

 わが師リュック。翼獅子の勲章を上げよう。

 あはは、こんなにテンションが変なのは「爪切り」を完成させてくれたからです。はい。

 思い付いて依頼し早3年。

 コレでガシコシ伸びる前に爪研ぎしなくて済みます。


 覚醒して初めて爪を切りたくなって側付きに言うと他の人を呼んできた。

 ソイツがナイフを持って来たのだ。

 内心「ハア?」だ。

 慌てて予知夢を思い返すと、爪切り専任の人がナイフで爪を切った。

 そして砥石みたいなので、ザっと短くした爪を研いで整えている。

 いや、初めから砥石で良く無いか?ソレ。

 怖えーし、自分で遣ろうとするとソイツに拒否られ、俺は精神的に拷問された。

 後からコッソリ砥石買って来て貰い、伸びる前に夜中ガシコシしたわ。


 洗濯バサミを想い出しながら絵図を書いてリュックに説明したのも良き思い出。


「ナイフじゃ駄目なのかい?。」


 馬鹿!俺が怖いだろうっ!

 自分じゃ無理だが、他人に遣られても超ビビる。

 相手がその気になったら確実にられるぞ。


「いやいや、出来たら楽だからホント。完成したらリュックも絶対に手放せなくなるって。」


 しかし一見三枚に見える様にするまでの道のりが長かった。

 抓むだけのピンセットじゃ駄目なんですよ。

 まあリュックと喧々諤々戦った。

 俺がマジに討論した相手はリュックだけのような。


 やや大きいが良くぞ此処まで完成させた。

 俺は盛大に褒め称えリュックから2個の爪切りを受け取った。

 奇妙な顔をするレコとルネを無視し、じじい陛下がいる談話室(会議室)に許可を得て入った。

 部屋には、じじい陛下、ロヴァンス伯、財務卿デュイスがいた。


「どうした。アルフが此処へ来るのは珍しいの。」

「いえ、つい嬉しくて。以前話していた爪切りがやっと出来ました。見ていて下さいよ。」


 僅かに伸びた爪を挟んでパチリパチリと俺は爪を抓んでで見せた。


「おっ、凄いのう。」

「ええ、本当に。」

「ナイフよりいいですな。」


 興味津々な3人に俺は爪切りを渡した。

 じじい陛下の爪は俺が抓もうとしたら自分で抓むと爪切りを取り上げられた。

 じじい3人組が無心で爪を切る絵面が微笑ましくて自然に口元が緩む。


「コレは良いな。」

「「私も欲しいです。」」(異口同音)


「今製造していますが、製作者は1人しかいないので次が出来る迄に時間が掛かります。お祖父さまには献上品としてコレを用意しました。」


 そう言って羨ましそうに見る2人をスルーしてじじい陛下へと爪切りを渡した。

 そして俺は1個残った自分の爪切りを大事にハンカチに包み執務室へ戻った。


 レコとルネに執務室で初爪切りを愉しんで貰ったのは言うまでも無い。



 ——————後日鍛冶師リュックへエル4世陛下から勲章と、報奨金が贈られた。







アリロスト歴  1772年    5月    




 労働者たちが何かを求めてストライキ(無断欠勤)をした。

 待遇改善?

 遊び人ゴドールに尋ねると「古き良き時代に戻そう」と、言う事らしい。


 「本音は自分たちを蔑ろにする陛下と殿下とランバリー夫人を困らせ詫びさせたい。」

 「陛下や私が詫びるとでも?」

 「厨房が完全に無人らしいですな。」

 「私たちより貴族が困るね。でもパルスに私邸を皆が持っているから大丈夫か。」

 「なんでもロワージル宮(デゥーゴス公居城)でエトワル宮廷料理人たちが腕を振るうらしいですぞ。私にも招待状が届いてました。連日夜会を開くそうな。」

 「うわっ、俺は絶対に行きたくないヤツだ。」

 「しかし宜しいのですか。今回の件はジョルジュ王弟殿下やアザイーダ妃殿下たち、デゥーゴス公が宮廷官僚と組んで起こした騒動です。きっと新聞記者たちも招かれてるでしょう。」

 「何か決まったら陛下から連絡が在る筈だ。ゴドールも行って良いよ。」

 「そうですな。少し敵情視察をして来ますか。クルレール少佐をお借りしても。」

 「いいよ。ラゼ中佐に一言伝えてね。」

 「ええ。それではお楽しみに。」



 ニコリと笑ってゴドールが2階談話室から出ていった。

 今日はレコもパルス・ジャーナルの記者としてロワージル宮へ取材に行っている。

 取材して寄稿する自由な記者として活躍中。

 だが本人への取材はNGだとか。

 妻が有名なラウラだから取材ゼロは不可能だろうって俺は思ってる。


 当然のことだが一斉無断欠勤の情報は掴んでいた。

 アンジェの兄さん神聖ロマン帝国皇帝ランツ3世がフロラルス王国に表敬訪問に来られると昨年から決まっていたのに宮殿内くらい清掃ついでに確かめるよね。

 厳重にチェックしているのに、彼等の動きが不明なことなどアッてたまるか!!


 義兄ランツ3世へ事前にお詫びしているよ。

 エトワル宮殿では現在オーリア帝国に合わせた宮廷儀礼改革中で不手際が有れば神聖ロマン帝国への無礼に当たるので今回はフロラルス王国へ来るの遠慮してね。(大使は頑張った)

   「丁寧に有難う、だが断る。行くのは決定事項だ。」(意訳)

   「ランツお兄様は決めた事は実行しないと気が済まない方なので。」(アンジェ談)


 うん、宮廷儀礼改革中なのは本当。オーリア帝国形式も真似てる。

 折角アンジェやアリー大公妃がいるんだよ。教えて貰ってるよ。

 シンプルで楽だった。


 別に宮廷官僚全員にヤレって言う訳じゃないよ。

 ラシエット宮での広さ的+教員人数的なモノ。実質2人だからね。

 教えられるのは選ばれし200名の勇者たちが、ラシエット宮で練習している。


 エトワル宮殿にいる労働者は料理人含めて約5000人いるんだよね。

 宮廷官僚=使用人+雑務員。多過ぎだろう。


 じじい陛下とランバリー夫人で苛立っていた所に儀礼をオーリア帝国風にすると一報。

 自分たちの守って来た宮廷マナーがオーリア帝国に侵略される。

 ならば戦争だ。

 まあ、そうなるよね。

 だって仕方ないだろう。

 じじい陛下が簡素なオーリア帝国式が良いと言うのだから。

 俺は止めたよ。一応ね。


 しかし分かって欲しい。

 ノリノリマッスルじじい陛下を誰が止められる?

 俺は助けを求める為にロヴァンス伯、法官モレー、軍務卿ベルイル、財務卿デュイス、外務卿シャトレたちを見たが———皆一同に視線を逸らされたのだ。

 あの心細さよ。


 絶対にコレ、じじい陛下は官僚たちをワザと煽ってるんだぜ。

 デゥーゴス公は兎も角もジョルジュまで煽られるって兄ちゃんは悲しいぞ。

 今回のストに参加しなかった賢い約2000人は、少し長く生き残れることでしょう。


 この騒動を収束させる為には官僚側も、じじい陛下つまりロヴァンス宮内卿との交渉して要求を勝ち取らなければならない。

 でないといつまで経っても集団欠勤を止められない。

 さて代表者は誰に為るのか。


 身分的にはジョルジュだが、陛下に強く出られる勝機をデゥーゴス公が逃すとも思えない。

 アザイーダ伯母上たちはデゥーゴス公には目立たせたくない。

 デゥーゴス公が計算高くここでジョルジュに任せてくれれば早い決着になるが無理だろうな。



 ラシエット宮でフリーダムを満喫していたじじい陛下もエトワル宮へ何時かは戻らねばならない。

 じじい陛下ご要望の娼館も完成まで時間が掛かる。

 其処でじじい陛下は知ってしまった。

 晩餐会でアンジェもアリー大公妃もオーリア式マナーで品が良く優雅に食する姿。

 それは取ってもシンプルなマナー。


俺がラシエット宮でオーリア式を行う理由、使用人が少なくてエトワル式は不可能だった。

そして俺も動作1つ毎に使用人が付く人的資源の無駄遣いが大嫌いだった。

ハイ、宮廷官僚なんて無くしたい人間です。俺。

つか、使用人て呼んでいいよね。俺の知る官僚とは違い過ぎる。

  そう言う意見の一致でラシエット宮ではオーリア帝国式マナーになっていた。


 「これだ!余もマナーを変えるぞ。」



 じじい陛下と俺や閣僚たち、タヴァドール夫人、アリー大公妃たちと幾度も話し合い修正したりして公式行事は従来通りで日常の食事はじじい陛下だけオーリア式にする。

 そして懸念事項であった寝室マナーもオーリア式にする。


  やっと食堂と寝室の改善が決まった。

 俺も閣僚たちも互いのライフがゼロに近くになった。


 で、表立った犯罪行為に縁遠かった200人を選び教育していたのだ。

 後で聞いたのだがじじい陛下は「宮廷マリーをオーリア式に変更する」と、だけ通達させたそうだ。

 コレは交渉術のつもりですかね。


 それにしても彼らも学ばないな。

 潰したパルス高等法院や罷免された前宮内卿、宮廷官僚の顛末を知っているだろうに。

 鷹揚なじじい陛下だが王としての威信を傷つけられる事は許さないし報復もするのだ。

 俺はビビるから報復内容は聞いてない。グロは苦手。


  ただ7家がフロラルス王国から消えたそうだよ。連座って怖えーよぉ!



 こんなことが遭ったのに、敢えてフロラルス王国へ神聖ロマン帝国皇帝ランツ3世が訪国する時期を狙って行う大騒動について俺は考え込んでいた。

 まあ、能天気な(屈折してるのに)ジョルジュやアザイーダ伯母上たちは敵国オーリア帝国や身内の皇帝ランツ3世など恥を掻かせて、怒らし喧嘩上等などと浮かれるのも判る。



 問題はデゥーゴス公だ。

 この時期にデゥーゴス公が利用出来る時事は———


 俺は予知夢を静かに想い返す。


 グレタリアン帝国が植民地カメリアに懲罰的な課税を新たに法案化するのは来年。

 それにより戦争激化はその翌年1774年。

 そして義兄ランツ3世はポーラン王国に侵攻する話をしに来たのだろう。


 「フロラルス王国は手出ししないでね。」


  だが義兄ランツ3世よ、

 それを知った大国ルドア帝国もポーラン王国に攻め入ってくるのだ。

 そして漁夫の利を狙いモスニア王国が遠路はるばるポーラン王国へ侵攻する予定だ。

 1774年——— 1775年に掛けて戦いの火蓋が次々に切られて行く。

 しかしだね。

 1774年は小麦不作によりポーラン王国で植えられているジャガイモ争奪戦になるのだ。

 飢えた兵たちはジャガイモに殺到。

 ジャガイモ戦争。兵站て大事だよな、矢張り。

 ———軍隊は巨大な胃袋である。——— ラゼ中佐より。これテストに出ます。


 序でにオーリア女帝義母ビストールも反対してる筈だよ。


 予知夢を想い返して見てもデゥーゴス公が利用できそうなモノが思い当たらない。

 何かザワザワ良くない予感(悪寒)



 はあー(溜息)、こんなことならルネたちに依頼して情報収集して置けば良かった。

 エトワル宮殿では基本的に多くの官僚や貴族がウロウロしているので秘密って無いに等しい。

 まあ本人たちが秘密のつもりでも側には多くの宮廷官僚がいるからね。

 故に俺は安心してたのだ。


 デゥーゴス公に俺が思い付く程度の防諜部屋を造っていても不思議じゃないわ。

 反省した俺はルネにデゥーゴス公が居住しているロワージル宮とエトワル宮殿に在るじじい陛下の居住区域を調べるように依頼した。





 そしてじじい陛下たちと話し合った結果、予定通りにラシエット宮で歓待することにした。

 国務兼宮内卿ロヴァンス伯と外務卿シャトレの憔悴した顔が痛々しい。

 1人血色が良い肌艶で生命力に満ちたじじい陛下が怒っていたが、晴れ晴れとした表情だ。


「奴らが休んでもう3日過ぎたな。ベルイル軍務卿、近衛に命じてエトワル王宮を封鎖せよ。」

「はっ。宮廷貴族たちは如何いたしましょうか。」

「奴らの居住区では無い故、問題無かろう。無断で休まなかった者たちはラシエット宮だろ?」

「ええ、祖父さま。此方で働いて貰って居ます。」

「全く度し難い。あ奴らは余を置物と思う癖が抜けぬようじゃ。」


「そうそうロヴァンス卿、無断欠勤した彼等の処遇は如何になりますか?」

「当然解雇になりますがこれ程の事は前代未聞なので、首謀者は解雇が決まっております。」

「では年金受給資格の剝奪そして来季以降は雇い止めですね。」

「納得しないでしょうな。」

「その場合は罷免でしょう。退職金もありません。それとロヴァンス卿、今の陛下に任せない方が良いですよ。ノリノリで全員死罪を申し渡しそうですから。」

「——— 確かに。殿下の申された事を陛下に提案します。」



 ベルイル軍務卿に王宮警備の近衛兵をどう配置するかを話し合っているのを横目で眺めた。

 其処にルネが入室し、俺を別室に誘い小声で話し始めた。


 どうやらモスニア王国の人間が幾人かパーティに参加していたそうだ。

 別にデゥーゴス公邸にモスニア王国人がいても不思議じゃない。

 彼の妻がモスニア王国の王女だからだ。


 現在はカメリアでの植民地領有問題で敵対しているが、それまでは互いの王家同士の婚姻が続いていた。初めはモスニア王国王女とじじい陛下との婚姻が決まっていたが11歳のじじい陛下に対し3歳の王女様、幾ら女好きでも超えられない一線でじじい陛下は王女に一切興味ナッシング。

 破談と為った。


 本来破談とかは出来ないが、エル家の跡継ぎはじじい陛下たった1人。

 エル家の血縁は全員死で居たからね。

 でっ此の侭では世継ぎが出来ないと揉めてモスニア王国へ王女を返却したそうな。

 いや、そのまま婚姻しても世継ぎは生れんからな。おいっ!


 その頃からモスニア王国と仲が抉れてきていたが、デゥーゴス公の嫁に違う王女が輿入れ。

 そのお陰でモスニア王国との決定的な断絶を免れた。

 うん、問題アリの人だったけど、この婚姻はGJと周囲から称賛されたデゥーゴス・パパだった。



 だから不思議では無いがモスニア王国人と言う言葉にモヤモヤする。


 フロラルス王国の中心部が荒れるのを喜ぶのは他国だよな。

 此処では情報戦という発想がまだないけれどカメリアは自国と言う地場を活かしグレタリアン帝国兵が、いつ、どこへの情報を収集して効率よく運用し勝機を上げ始めた。

 それ以降は情報が重要視されて独立戦争自体が変わって行った。


 発想が無かっただけで利用はしていた筈だ。

 株も商人も貴族も存在しているのだ。

 じじい陛下やベルイル軍務卿、ロヴァンス国務卿がラシエット宮にいれば各政務からの報告が可成り遅れてしまう。これは不味く無いか。


  待て待て俺、焦るな。焦ると碌な事にならん。


 フロラルス王国へモスニア王国が攻め込むことは無いだろう。

 隣接した領土では自国への被害も免れなく為る。

 故に近年は植民地での戦闘になる。

 そして勝った方が植民地を手に入れ———


 俺の脳裏に「ベラ諸島」が浮かんだ。


 南カメリアの更に南にある熱帯の島々だ。

 モスニア王国とはソコに或る植民地ハリキを巡って小競り合いをした。

 そこでの争いに勝利しヨーアン大陸にある諸国にハリキの領有権を認められた。


 砂糖をハリキから輸入する仕組みにより、貴族や有産階級が砂糖を手にすることが出来ているので、若しもハリキがモスニア王国に奪われるようなことに為れば一大事である。

 難しく考え込んでいる俺を見てルネが謝罪した。

 時間が無く余り調べられなかったそうなので、じっくり調べて欲しい事を告げた。


「でも無理は厳禁だと伝えて。何かあっても無くても帰って報告が一番大事だよ。」




 俺の考え過ぎだと良いが不安だったので、じじい陛下とロヴァンス卿、ベルイル軍務卿にも「思い付きだ」と断ってモスニア王国海軍がベラ諸島へ行く懸念を伝えた。


「ハリキでは防衛強化をしておるぞ、アルフが前言っていただろう。」

「陛下に言われて強化している所です。念の為に様子を伺いに参らせましょう。異変が有れば報告に参る筈です。殿下の発案でしたか。中々ですな。」

「いえ、有難う。ベルイル軍務卿。」

「余が考えなしとでもアルフは思っておるのか。」

「失礼いたしました、祖父さま。」


 ホッと安心して俺はじじい陛下たちと誰が交渉に現れるのかを推測しながら談笑していた。




   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  それから1週間経ち予定通りに義兄ランツがラ・シエット宮へ訪ねて来た。


 ロヴァンス国務卿とシャトレ外務卿が、エトワル宮殿での出迎えで無い失礼を詫びた。

 そして迎賓室へと招いた。

 一息ついて貰った後、歓迎パーティが催される。

 ラシエット宮は御想像通りだだっ広い。

 使用人が一階に2000人増えるぐらいは余裕です。

 エトワルは別格、アレはもう1つの(シティ)なので。


 歓迎パーティには各閣僚関係者やタヴァドール夫人とルイーズ公妃を筆頭に王党派と呼ばれる人たちや中立派と呼ばれる人たちが集って居ます。

 来ていない人たちは自由(革新)派と呼ばれているギルドと言うかコミュニティ。

 王や国の規制を1つでも多く無くしたい。経団連みたいなモノ。


 中立派というのが難しくて王党でも革新でもないと言う単純なものでは無く、エル家がフロラルス王国に纏める迄は、その領地で国主をしていた代々由緒正しい家柄の独立領主なのだ。

 ルイーズ公妃も此れですね。公爵ではなく公国、公主な。


で、一領主では難しい時代になったからエル家を王と認めてユルーくフロラルス王国に参入してる。

 俺が貴族から税金取る気にならないのは中立派がいるからですね。

 それに彼等はそこそこ領民に慕われているし国庫への寄生率も極めて低い。

 そして強い領兵も居る。

 まあエル2世の頃宗教戦争末期だったし、他国との戦争もあって戦費軽減の為に領兵を国軍に吸収しなかったのが拙かったと言うか仕方なかったと言うか、彼等からすれば領土は自ら守る物なのだ。


 意識戻ってしばらく経つと「うへぇー中立派って面倒。」と思ってたけど税金も払って無いけど領民の世話もしなくて良いなら現状維持で良いんだと気付いた。

 国庫寄生率が低い彼等の領地にこそ飢えをなくしたいよな、とも考えている。

 フラクル王立海軍、陸軍に所属している人も多いしね。

 まっ、貴族って言えば彼等の事。


 やっぱり面倒っちゃ面倒だな。うん。

 今は時代の狭間的なカンジかな。



 華やか歓迎パーティが終わり翌日じじい陛下と会談後、義兄ランツ3世との顔合せになった。

 ドキドキですよ。

 ランツ3世は鬘を被らずに薄茶の髪を一つに結び軍服仕様の正装だった。

 やっぱ良いよね。男前だし、さすがアンジェの兄上だ。

 互いに自己紹介して社交辞令を交わし合い、やっと普通に話が出来るでござる。



「陛下から聞いたのだが殿下がオーリア帝国儀礼を取り入れて実践していたとか。本音は?」

「いえ本音と言っても。私が使用人を次々と追い出したので人手不足、そして窮屈なエトワル式を戻すのには無駄を排したオーリア式素晴らしくて、其の侭ラシエット宮のマナーにしました。」

「ふふ母が聞けば喜ぶでしょう。以前訪問した時にエトワル宮殿では大変苦労したと。」(苦笑)

「私ですら逃げ出したのです。他国の方には苦痛でしたでしょう。」


「所でオーリア帝国がポーラン王国に侵攻を予定しているのは存じてるね。」

「ええ詳細は知りませんが。」

「そうか。現在、現王ユゼフ3世と従兄弟ヤン・バートリーが内戦状態で我が国に飛び火しかねない状態なのだ。それにユゼフ3世の正統性はルドア帝国(女帝カテリーナ)が認めたと言っているだけだ。我が国はヤン・バートリー伯へ協力し内戦を収束させたい。エーデン王国やランダ王国とも話は付いている。陛下は、アルフレッド殿下に軍の差配を任せてると言っていた。」


「(じじいー、てめぇー俺に投げやがったな。知らねーよ。)・・・そうですね。」

「手を出さないで貰えれば良い。勝てればルール地方を移譲しよう。」

「ええ、我が国もこう言う状況ですしルール地方なら我々と祖は同じですから。ですが何もしないのも申し訳が立ちません。恐らくルドア帝国の介入が在るでしょう。念の為に我が国の国境を防御させましょう。何か起これば互いに連絡を取り合いましょう。」


「やはり介入があると思うか。」

「あの女帝カテリーナが介入しない選択などしないでしょう。それで侵攻は何時くらいですか?」

「来年、雪解けと同時だ。今日は義弟と話せてよかったよ。そうそう母上からの伝言だ。可愛い男児の肖像画を早く見たいそうだ。母は継承問題で苦労したから安心したいのだろう。」

「はっ。はい。善処致します。」


 話が一段落したのでアンジェを呼び兄妹に混じって談笑した。

 そしてランツ3世を「義兄上」と呼び、彼がアンジェを真似て「アルフ」と呼ぶようになった。


 やがてランツ3世は翌日には慌しく帰って行った。

 俺なら外務卿に任せてしまう交渉を自ら行いアグレッシブに他国を行き来する事に感動した。

 この時代の衛生問題があるので俺には絶対に真似は出来ない。


 「次回はエトワル宮殿で頼む。」

と、ランツ3世が爽やかに馬車に乗り去って行った。


 ええー、また来る気かよ。と内心でボヤいた。

 何だかアンジェも疲弊してる。アレだ、じじい陛下とは違う意味で元気過ぎる。




    ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 

 ランツ3世が帰国して1ヶ月が経つ。

 予想通りと言うかお約束みたいに、ジョルジュ(アザイーダ伯母上たち)VSデゥーゴス公が主導権争いを始めている。

 実は宮廷官僚たちが大いに焦っている。さもありなん。

 紹介者の宮廷貴族に付き添われて謝罪に来た変わり身の早い人もいる。

 彼等はエトワル宮殿内の使用人寮(官舎)に居住しているのだが、さすがに1週間経た頃に荷物を紹介者の部屋へ移動させた。

 当然のように一番紹介数が多かったデゥーゴス公にはロワージル宮殿へと運び込みましたとさ。


 大法官モレーには苦労掛けてしまうな。爪切りが出来たら慰労品として贈ろう。

 絶対に不当解雇だと訴え出るのが目に浮かぶ。

 不当かな。

 日本人としての記憶を思い出すが雇用主としての不当性を感じられない、全くに。


 俺は日本にいた高級官僚の勤務状況を知らないので何とも言えないが地方公務員は勤勉だった。

 そして俺も過労死したぐらいには働いていた。

 「俺の常識はエトワル宮殿では非常識」

 そう言い聞かせながら約3年過ごしたけど彼等のやっている事は労働なのかという疑問が尽きない。


 まあ何かに拘束される時間を労働と言うならば勤務しているって言うのか。




 そんな自問自答もしているが予知夢の時期がズレていることが怖い。

 ポーラン王国にオーリア帝国が侵攻するのは1774年だった筈だがランツ3世は来年と言っていた。

 この一年のズレは吉か凶か。

 じじい陛下の天然痘発症が在るから不安が大きく成る。

 何としてもじじい陛下を助けたいのに俺には何の力もない。

 俺が出来るのはじじい陛下に提案することだけだ。

 俺が生前にもっと色々な事を学んでいれば。





 考え込んでいるとレコがルブラン・ジャーナル(ゴシップ系新聞)を俺に手渡して来た。


 ≪変人王太子の鬼畜ぶり≫

 ヒステリックに使用人たちを罵る様子を6人の実体験として書かれていた。


「誰よ、この鬼畜。」

「アルじゃないの?この国に居る王太子はアルだけだし。」

「まあ人間じゃない発言は記憶にあるけど、アホとか言った記憶ないぞ。言いたいけど。」

「ここの新聞、仮名は止めるべきだよな。」

「うーん、下世話だと自覚在るから仮名なんだろ。レコ駄目じゃ無いか。金なんか払ったら。」

「買うわけ無いだろう。デゥーゴス公邸にいっぱいあったから貰って来ただけだ。」

「へぇー、まだデゥーゴス邸に行ってるんだ。」

「そりゃあねぇ、どう決着が付くか見て於かないと、ちゃんと書けないだろう。」

「官僚たちは順次処分を受けてる。そしてジョルジュ対デゥーゴス公は、なし崩し的に終わると思うよ。宮廷官僚たちが思ったより一枚岩じゃなかったから思い思いに脱落して力に為らなくなったからね。ランツ3世来訪も問題なく熟せたから何も出来ない筈さ。」


「あれ程大騒ぎしたのに呆気ない。」

「大山鳴動して鼠一匹、てとこかな。まあデカい鼠だったよ。」

「ネズミ捕りは上手くいったのか?」

「獲れない鼠だからな。モスニア王国は捕まえるのは無理だろ?そういう訳で夫も放置だ。」

「ん?ジョルジュ王弟殿下は?」

「陛下に小言だけで済ませて貰った。ジョルジュに何かする前にアザイーダ伯母上を何とかしろと。」

「やっぱり娘だと可愛いのだろう。」

「それは分るよ。私もレティは可愛いし、だけど下手したら戦争になるような問題だからね。まあ結局は陛下の気持ち次第だが、今回は謹慎でもさせろと言っておいた。」

「しかし全員解雇にしない陛下は優しいな。」

「だってさ、もう次の連中が来ている。まあ2年掛けて季間労働の一部を1年契約に変えていくそうだ。王宮付きと呼称を変えて寝室と食堂勤務にすると言ってた。」

「オーリア式に変更すのか。」

「オーリア式は寝室と食堂だけだよ。晩餐室は今までと一緒だ。他の人が戸惑うだろ?」

「なるほどね。じゃあ大騒ぎの必要は無かったのでは?」

「そこはほら、初めから寝室と食堂をオーリア式に変えるなんて言ったら前回の二の舞だろ。あれでも陛下は私に気を使って王太子宮を守ったのだよ、タブン。」

「成程ねー。」


 静かに話を聞きながらルネが俺とレコにお茶のお替りを入れてくれる。



 「そう言えば報告が有って不思議に思ったのですが、ルブラン・ジャーナルってなぜ殿下の記事しか掲載しないのでしょうか。デゥーゴス公とアザイーダ様方、ジョルジュ王弟殿下たちの口論の内容が碌なものでは無かったのですが、ルブランなら喜びそうな内容なのに1つも記事はないのですね。」



 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」


 俺とレコはルネの言葉に顔を見合わせて思わず沈黙した。

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