決戦は今夜
アリロスト歴 1772年 3月
通告通り訴状を該当宮廷官僚たちに渡し、後はパルス高等裁判所(元パルス高等法院)からの召喚状に一任しました。
無視したら?刑が加算されポリスが迎えに行きますよ。
悪質な重犯罪者たち18人は当然高等裁判所の告知案内板に罪状、氏名、住所が公表された。
悪質と言うか極悪だよな。
じじい陛下のサイン偽造、じじい陛下の宝飾類強奪、賄賂と賄賂強要、私信略取などなど。
複数の犯罪行為を重ねてた。
国庫への簒奪行為も酷かったが犯罪者しかいない宮殿。
じじい陛下が一番ショック受けてたのが私信略取なのは極秘事項だ。(恋文如何すんの?)
(恋文盗難に)怒り心頭なじじい陛下は、寝室への無許可入室厳禁を宮廷貴族たちへ通達した。
(普通だろと思ってはいけない。俺の常識はこの世界の非常識。はあ、くわばらくわばら。)
寝室への無許可入室厳禁通達された宮廷貴族、官僚は「突撃!隣の王太子宮」を決行した。
そして門前でじじい陛下との謁見を申し出た。
(王太子である俺の立場———)
えっ、ラシエット宮の門などは閉めてラゼ中尉たちに守らせてますよ、当然。
やがて軍務卿ベルイルが率いる近衛兵団が来て、国務卿兼宮内卿ロヴァンス伯たちが告げた。
「赦しも無く王太子宮へ押し入ろうとは如何なる仕儀か。」
「我々はフロラルス王国の為に陛下が我々と話し合う機会を一方的に切り捨てるのは著しく国益を損なうものと考えて———」
「その話し合いは深夜、陛下の許可なく押し入った寝台でしか出来ないものですか。それは寝込みを襲う強盗だと陛下が申されても仕方の無い事。そして陛下はそれが甚だ御不快であったと申しておりました。貴方たちは陛下に強要する権限があると申したりはしませんな。話したいなら手順を守り謁見の間でお待ち下さい。」
喚く者たちも軍務卿ベルイルが兵団を動かすと、スゴスゴと王太子宮から立ち去った。
俺は新たな遊び人ゴドール候(36歳)に2人に礼状を書き届けさせた。
んー、逮捕された方は、どうでも良いのかな。
まあ自分たちの妻たちを、じじい陛下の寝台に送り込んで予算や施策の口利きを強請る宮廷貴族に取って、寝台外交は命綱なのかもね。
俺なんて地獄にしか思えないから、その妻と送り込んだ奴は禁固刑待ったなしだよ。
悪臭に犯されるって怖いな。
この所のじじい陛下は良く入浴するのでツヤツヤサッパリ良い匂いだから、深夜送り込まれる悪臭には耐えられないと思うぞ。きっと。
ランバリー夫人を娼婦と馬鹿にしているが、宮廷貴族夫人たちを何て呼べばいいのか悩む所だ。
この話は絶対にアンジェには言えないな。
俺の方には訴状がベロー地方から届いていると大法官モレーがじじい陛下と共にやって来た。
ベロー徴税組合から自分たちの権利を侵されたと訴えられた。
「おう、凄い王族を訴えるとは。しかし私に違法性は在りますか?大法官モレー。」
「・・・・・・・、いえ、御座いません。」
「反対に彼等の方が違法ですよね。王族に在りもしない虚偽の罪を着せた。それを確り文書と共に説明し訴えた人々を確保し、貴族籍を抹消してください。弁護士付きで。」
「ううむ、甘いの。王太子であるお前を訴えたのじゃぞ。死罪じゃろう。」
「まあ、死ねば資産が手に入らないので、保釈金を高くしてください。支払われたら国庫へ。」
「はい、畏まりました。」
「余の所為で矢張り王族は侮られているの。」
「ああ、今出されてるゴシップ本ですか。関係在りませんよ。ベロー地方の農家から徴収出来ない八つ当たりでしょう。ついでに思い出せばいいのです。誰から貸し与えられた権利かをね。」
俺はそう言ってルネの入れた珈琲を美味しく味わった。
まあパルスでの風聞は直ぐに鎮静化するだろう。
新聞や高等裁判所に今回の訴状顛末記を発表させるからだ。
領主である俺が4割の徴税を行う正当性と、徴税請負人はあくまで税徴収を請け負っただけで、本来は税を簒奪する権利を有していないのに俺を訴えた違法性。
そして人々は知る。
パルスの領主が誰であるか。
この愚行を於かしたのはベロー地方の請負組合であるが、パルス請負組合はどうなるのか。
きっとじじい陛下とランバリー夫人の醜聞何て歯牙にも掛けなくなるだろう。
残念だったな、元パルス高等法院の司法官たちと、シャスール公。
だが、宮廷貴族と宮廷官僚がな。端から覚悟しているが面倒は面倒だな。
まっそれは仕方ないか。
※ 醜聞と言っても、ランバリー夫人はじじい陛下の金で贅沢三昧している。
(事実だ。じじい陛下には一点に付き1万リーブルの物と制限を付けてる)
※ じじい陛下には90人以上の子供がいる。モットいても俺は驚かん。絶倫だよあの人。
※ 離宮で処女ばかりを囲ってその血を飲んでいる。それは無いな。此の所、入浴してないと声を掛けて貰えないと関心を買いたい貴族は入浴するようになったみたいだが。
俺は全く噂というモノを気にしないがコノ価値観は庶民で生きてた頃の感覚だった。
エトワル宮殿では醜聞で失脚したり死ぬ人もいる。
威信が傷付くのを何よりも恐れるのが王侯貴族らしい。
「醜聞が囁かれる時期に敢えて夜会に参加し、常日頃通りに堂々と行動できるか如何かが肝要だ。」
って、タヴァドール夫人に教えて貰った。
「ほぉーほぉー。」
「殿下は今一つ、ですわね。アンジェリーク妃殿下に王族の心得を学ばせて頂くように。」
「お、おう。」
「頑張りましょう、アルフ。私も頑張りますから。」
「いやぁアンジェは充分だと思う。振る舞いも品が在るしフロラルス王国語も完璧だ。」
「そうですよ。妃殿下は完璧ですわ。殿下はお言葉を王太子らしく為さいませ。」
「おお、おう。」
「皆様、茶会の準備が整いました。来賓の方々が庭園でお待ちです。」
「まあ、大変。」
「アルフ、行ってきますわ。」
「はい。気を付けて。」
ルイーズ公妃の声に誘われてアンジェ、タヴァドール夫人、アリー大公妃、スージー伯夫人が優雅にそれでいて素早く庭園へと去って行った。
現在ラシエット宮では許可(招待した人)たちに庭園と東1階は解放し、タヴァドール夫人やルイーズ公妃たちがサポートをしてアンジェ主催の茶会を開いている。
まあ王妃になる為の予行演習みたいなものだね。
俺もじじい陛下も今の騒がしいエトワル宮殿や危険なパルスへアンジェを行かせるのは反対。
かと言って社交もせずに引き籠られるのも将来の王妃として問題アリアリなのでタヴァドール夫人やルイーズ公妃たちに人選を任せて王太子妃殿下の茶会が定期的に行われているのだ。
アザイーダ伯母上?ははっ、面白い冗談を。
招待状持参で無い者を門から侵入させません。
俺は王太子としての言動は諦めている。
一応として知識は学ぶけどソレはあくまで外交の為だ。
迎える時の挨拶や王家同士での会談の為だ。
外交交渉は担当閣僚や大使のお仕事だからね。
幾ら自分で洗脳しようとしても装飾過多な言動儀式には同調出来なかった。
衣装もな。
軍服が許容範囲だもん。ブリチーズやキュロットは嫌だ。
穿いてるけどな。
そういう訳で社交は得意なアンジェに任せた(予定)。
それより俺は74年に起きるじじい陛下の死に備えて動く事しか出来ない。
穀物自由化を阻止。これは今のところ成功した。
軍事だが防衛戦などは仕方ないが、出来る限り戦争を回避したい。
俺の軍隊を拡充。自分の手足に為る軍隊の必要性をこの2年で痛感した。
そして思い切り他力本願だが、リムソン医師たちによる天然痘ワクチンの開発。
で75年に起きる筈の凶作に因るパルスでの小麦価格暴騰。
飢えを防ぐ為にジャガイモやライ麦を多く作って置かないとパルスで多くの餓死者を出してしまう。
じじい陛下が醸すカリスマ性で有能な5閣僚が懸命に勤めている。
そのお陰で混乱は在りながらも俺もじじい陛下も平穏に過ごさせて貰っているのだ。
やっぱりじじい陛下は偉大だ。
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ルイーズ公妃が茶縞の可愛い子猫を連れて来た。
一旦空いてる客間に入って貰い、毛を少し取りアンジェとレティに毛を触れさせた。
そして痒く為ったり目や鼻に違和感が無いかを確かめた。
何をしているかをルイーズ公妃に聞かれたので、猫過敏症に付いて説明した。
笑われた何故?
30分しても異変が無いようなのアンジェが使っている客間にルイーズ公妃と子猫を招いた。
猫用トイレを如何しているかと聞くと不思議そうな顔をされた。
ああ、そうですね。
人間のトイレがアレですもん。
使用人たちのお仕事ですね。
そんな事を許せる俺では無いので、ルネに大鋸屑を入れた浅めの箱を用意させる事にした。
木工工房で俺の注文した箱を作り届けさせることにしたが、早くて4時間後らしい。
俺は思案した。
トイレの事を考えると中庭に放り出したいが、アンジェとレティが喜んでいる。
しかもアンジェが「ミュウミュウ」と名付けている。
鳴き声まんまだな。
俺なら茶トラだが、此処ではキジ猫はいないので名付けられない。
別に付けても良いが意味を聞かれると面倒だ。
まあ、来たものは仕方ない。
飼い猫に馴れているらしいルイーズ公妃に任せよう。オス猫だし良い事にしよう。
俺は楽しんでとルイーズに伝えて、溜息を抑えてルネと共に自室に戻った。
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アリロスト歴 1772年 8月
トマトが良い色に色付いてる。
水捌けさえ気にすれば比較的育てやすい。
まだ観賞用としての価値しか無かったが、昨年農夫ジマに頼み種を採取して貰った。
育て方が不安だったので農学博士に急遽来てもらい、トマト、トウモロコシ、南瓜も植えた。
植えた作物の3割くらいが収穫出来た。「良い方ですよ。」農学博士に慰められた。
種も取りたいので種にする作物はしばらく放置して置くそうだ。
そして実食。
酷い酸味に青臭いトマトっぽい何かだった。
うん。ソースにするぞ。決断。
乾燥した高地で美味しくなるって言ってたから(TVで)ロヴァンス伯に頼んで見よう。
トマトが大不評だったので安易に塩茹でにはしなかったぞ、コーン。
シェフに頼んでコーンポタージュを作って貰った。
評判?良いに決まってるだろ。
干して乾燥させたら当然、ポップコーン。
本当はパルスで気楽にポテチやコロッケ売りたかったが油だった。
貴重なオリーブ油って高いんだよ。気楽にポテチとか言えん。ポテトチップス様ですよ。
「殿下は何を目指されてるのですか。」
農夫ジマが他意のない瞳で軽く質問した。
そだね。俺って飢える人々を減らそうと寒冷地に強い作物を栽培してたんだった。
ポップコーンやポテチが食べたいからでは無かった。
上がったテンションを素朴な疑問で急速冷凍してくれた農夫ジマに感謝は、したくない。
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財務卿デュイスからの報告で歳入が約3000万リーブル以上増えたそうだ。
罪人たちの賠償金や保釈金は計算に入れて無いとのこと。
まあアレを普通歳入に数えないね。
よしよし。
ギルドと徴税請負組合でギチギチに封鎖されていた利潤が少しは流れ出した。
ラシエット宮での改築工事にエトワル宮殿での大改装にアレだけ公共事業すれば金は巡る。
「それで娼館を作りたいのじゃ。」
「はい?」
「いや体力が有り余っての。」
「祖父さまにはランバリー夫人にラウラ、そして3人程愛妾がいましたよね?」
「ああ3人には年金を用意して別れる予定だ。」
「はあー、年金は駄目です。一括か3分割にしてくださいね。死ぬまでとかは駄目です。」
「うぅぅーん。老いて貧しいのは哀れじゃのぉ。」
「慰労金を私が用意します。それに私に娼館の話をしたと言う事はデュイス財務卿が許可を出したのですね。彼が出せると言うなら安心です。私に許可は要りませんよ。」
「孫のアルフに払わせるなど出来ん。」
「祖父さまは優しいですから関わった夫人から強請られたら断れないでしょう。彼女たちの周囲には協力者と言う名のキツネがいるのを知っていますよね。」
「うむ、知っとる。それが在るから娼館を造ることにしたのじゃ。訳の分からない者をいれぬ為にな。もう宮廷官僚みたいな人間を増やしとうない。」
「分かりました。では娼館が出来たらルネを行かせるので調べさせてください。」
「あい分った。それと慰労金は余が出すぞ。」
「はい、でも忘れないで下さいね。一括か3分割ですよ。」
「ああ、分かった分かった。ではラウラの所へ戻る。」
「ええ、ほどほどに。」
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老いて益々パワーアップしているじじい陛下との会話に、ドッと疲労感を覚え長椅子凭れた。
ルネはじじい陛下と一緒に執務室を出て行った。
横でレコが肩を震わせ笑っている。
ぐっ、くそっ、まあ良いんだよ、
デュイス卿が許ス範囲でじじい陛下が己が望むままに生きてくれるなら。
俺は、矢張り腹立つなあ、くそじじい陛下。
俺の下半身はマジで理性的な日々。
アンジェが生理不順ぽいので着床時期が判断出来ないが、俺は強いて嫡男を欲しくないのだよ。
弟ジョルジュが屈折度が酷くなりそうなのだ。
じじい陛下にもう少しジョルジュとも話して政務を手伝わせればと提案してるのだが反応がな。
兄弟なのだが2度挨拶しただけという希薄な関係だ。
だがジョルジュの社交性と頭の良さを俺は認めている。
年が近くて数少ない同じ王族なのだよ。
いやじじい陛下の生物的実子は一杯いるけど継承権持ってるのは俺とジョルジュだけなんだぜ。
もう一人いるけどアレはパス。
アルフレッドの従兄弟なのに死刑の投票したんだよ。それも自ら進んでな。
じじい陛下が間を取り持ちジョルジュと協力すれば出来る事が増えそうなのに勿体ない。
一緒に居る愛人ルビス夫人の影響じゃないかな。
彼女はなかなかに権力欲が強そうだしね。
俺はグレタリアン帝国にいる王女とジョルジュを婚姻させられない者だろうかと考えてる。
俺的にはアリアリなのだが、じじい陛下を始め本人すら拒絶するだろうな。
矢張り駄目だよな。不幸に為りそうな婚姻は。
はは、現実逃避しているだけだろう、って?
そうです。(いや、ジョルジュの事は本音だよ。婚姻は出来たら良いなくらい。)
だってさオーリア帝国の義母ビストールから男児頑張れ応援メールが届いたからさ。
丁寧な文面で「回数増やせ」と書かれて来ました。
いいじゃん!2週に1度だよ。俺は頑張ってるよね。
アンジェとフェルナンが毎回抱き合ってる映像を誤魔化してヤってる。
アンジェを昔付き合ってた恋人に入れ替えて、俺は精神的にボロボロに為って頑張ってる。
絡み合ってるのは現在のアンジェじゃないと言い聞かせてるんだけどね。
アルフレッドは繊細で潔癖症なんだよ。
日本に存在していた頃の俺なら此処まで拘らない自信がある。
だけど15歳まで生きて来た意識はアルフレッドのモノみたいで如何にも許せないみたいだ。
この感覚から立ち直るにはアンジェと別れるか、俺が他に好きな女性を作るしかない。
何故そう言い切れるのか。
恋って凄く強烈な脳内麻薬を放出するんだぜ。
離れていても直ぐに相手を思い出してしまうくらいに脳が気持ち良くてジャンキーに為る。
その人の事ばかり考える恋愛中毒。
だから鬱々とする時間が消えるだろうと確信してる。
その彼女と破局したから38歳まで独身だったと思う。
嘘です。8割は多忙過ぎた所為だけどな。
うん。アンジェは性格が良いから家族としては楽しく暮らせる。
ただ夫婦としては無理。
もし政略結婚でなければ俺はアンジェを選ばないだろう。
美醜では無く精神が幼過ぎるし王女としての思考と庶民の俺の思考は重なり合えないだろう。
じじい陛下やレコみたいにハーレムはロマンだが、ビビリの俺がする筈もない。
それに物造りや狩猟に行く方が無心に馴れて清々しい気分になれる。
しかし今夜は行かねばならぬのだ。
さあ、決戦だ! soon see you later




