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 魔王討伐の最前線からヴォルフラムは舞い戻ってきた。


 理由は不明だけれど、彼が意味不明な行動を取るはずがないことを、わたくしが一番知っている……いえ、先ほどの手紙はちょっと、いや大分意味不明だったけれど。


「ヴォルフラムよ、聖騎士ともあろうものが女恋しさに最前線から尻尾を巻いて逃げ出してきたのか!?」


「はい」


 ラドリアーノの問いにヴォルフラムは明朗に答えた。


「なっ!?」

「……というのは半分本当で、半分は冗談です。僕は魔王を倒すために王都に戻ってきましたし、シュシュリアに会いたいのも本気です」


 ヴォルフラムの言葉には妙な説得力がある。わたくしがここにいることもすべて、彼の作戦のうちにちがいない。


「そこにいるシュシュリアはお前にやるから、さっさと戻れ! 王都まで侵略の手が伸びたらどうするつもりだ!」


「手紙をお読みになったのでしょう? 彼女がどうするかは彼女の自由で、僕にもあなたにもどうこうする権利はないのです。先ほども申し上げたように、僕は仕事のために帰城しました」


「ふん」


 ラドリアーノが腹立たし気に顔をそむけ、踏ん反り返って椅子に腰かけた。……この場にいるうちの何人が気が付いているかは不明だけれど、ヴォルフラムは入室した瞬間に、この部屋に結界を張った。外部からの干渉を受け付けず、彼の許可なしにはここから出ることもできなくなっている。


 ──何をするつもり?


 ラドリアーノだけに偉そうにされるのは腹立たしいので、わたくしも腕を組んで高貴に踏ん反り返るなどしてみる。


「仕事と言うのなら、俺が満足する報告があるのだろうな」


「妙だと思いませんか。魔王は何度も復活する。だから僕は王都に戻ってこられない。そこにいらっしゃるシュシュリア・リベルタスの協力を得て、僕は一つの仮説に辿り着きました」


「仮説……?」


 ラドリアーノはわたくしをじろりと睨み付けた。だから、わたくしは何もしていないのよ。


「その仮説をもとに、僕は魔王について調査を続けました。その結果、一つわかったことがあります」

「それは……?」


 言葉を挟む。魔王に関して疑問があるとすればわたくしだって同じだ。コバエのようにうざったいラドリアーノが合いの手を入れて話を中断されては困る。ここで主導権を握らせていただくわ。


「魔王は人民を生け贄に、自らの肉体を再構築する事ができる。シュシュリア、あなたが幼少の頃、たどりついた一つの可能性だ」


 ざわざわと、人々の困惑がさざ波となってわたくしのもとへ押し寄せる。……わたくしはそういった事が可能だ、と言っただけでやろうとはしていないわよ。


「僕たちが魔王と思っている存在はハリボテの人形です。無限に人間の生命力を吸い、復活する。だから、このままでは永久に戦いは終わらないのです」


「なんのためにそんな事を!」


「陽動です。僕や主だった実力者たちを王都から遠く離れた場所に引きつけて、その隙に内部から国を乗っ取ろうと──失礼」


 ヴォルフラムがすらりと剣を抜き、目にもとまらぬ早さで振り抜いた。おそらくそれを視線だけでも反応できたのはごく一部の人間だけだろう。


 まばたきの後、ステラの首が──まるで人形のように、ぽろりと落ちた。彼女の体はラドリアーノの傍らではなく、いつの間にか玉座の裏にある王族用の出入り口のそばにあった。


 彼女はわたくしたちがこんなにも重要な会話をしていると言うのに、会話に口をはさむでもなく、こっそりと背を向けてこの場から居なくなろうとしていたのだ、聖女ともあろうものが。


「な……!?」


 ラドリアーノの驚愕の叫びが終わる前に、首を失ったステラの身体がその場に崩れ落ちた。


「何をしているっ!?」


「仕事です」


 ラドリアーノに掴みかかられたヴォルフラムは平然と答えた。彼は正気を失っているわけではない。わたくしはステラの亡骸をじっと観察する。剣技があまりにも早かったのはあるけれど──血が一滴も出ないと言うのは、明らかにおかしい。


 ──聖女ステラは、人間ではない。


 人々が同時にその答えに辿り着いた瞬間、ステラの首から瘴気が噴き出した。くずれゆく肉体が分解されたのか、それとも最後の呪いのつもりなのか。


「シュシュリア。お願いします」


 突然戻って来て、聖女の首を落として、そこから瘴気が吹き出してくるなんていくら驚いても足りないぐらいなのにヴォルフラムはいつものように落ち着き払って、わたくしに後始末を頼んでくる。


 ──わたくしを呼んだのは、このため?


「ちょっと失礼」


 質問攻めにしてやりたいのはやまやまだけれど、ひとまずは室内に充満した瘴気を浄化してやる。浄化魔法なんてわたくしには初歩中の初歩、眠っていてもこなせるものだ。ステラの痕跡など綺麗さっぱり消してやる。


「おお……!まさしく、聖女の奇跡!」

「シュシュリアさまが、真の聖女であらせられたのか!!」


 あっと言う間に瘴気を浄化してみせたわたくしに対し、愚民どもは勝手に盛り上がっている。褒められるのは嫌いではないけれど、その呼び名はいただけない。


「ちょっと!! わたくしを聖女と呼ぶのをやめなさい!!」


 ステラのおさがりの称号だなんて、呼ばれるだけで寒気がする。わたくしにはもっとカッコイイ二つ名がいくつもあるのだから、聖女の称号なんて頼まれてもお断りよ。


「わたくしはね……わたくしこそが……」


 次世代の魔導卿たる、我が国が誇る超天才、シュシュリア・リベルタスよ、あなたたちに私を敬う権利をあげてもいいわ……と言おうとしたが、浄化魔法を使った事で下限すれすれだったわたくしの魔力は完全に枯渇し、意識を失った。

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