〜エピローグ〜
心音はまた違う夜の街を徘徊していた。ただ以前とは違い身なりは須藤が好んでいた少し落ち着いた女性の様な服装になっていた。そして須藤の忘れ形見となってしまったギターを大事そうに抱えて夜の街を歩いていた。そしてしばらく歩いていた心音はふと遠くで男女の揉める声を聞いた。心音はその声の方に向かって歩いた。するとそこにはまさに修羅場となっていた男女を今まさに止めようとしている警官の群れと出会った。
「私・・・死んでやるから・・・!」「は・・・早まるのはよせ!」
「君!その包丁をこっちに渡しなさい!危ないから!」
そんなやりとりを三者はずっと繰り返していた。心音はその様子が見るに堪えれなくなり、深く深呼吸をついた後で、ちょっと明るめの曲を軽く歌った。
すると、その場にいた人は、一人また一人と次々にその場に眠り出した。そして、警官も今そこで揉めていた男女も揃って仲良く眠り出した。
「せめて夢の中では仲良くね・・・起きたら冷静になっててね」
心音は小声でそれだけ言うとその場を去ろうとした。そんな心音を呼び止めるか細い声が心音の耳に入ってきた・・・
「はぁ・・・はぁ・・・やっと・・・見つけました・・・あなた・・・Kanade様ですよね?」
心音がその声のする方を見ると周りの皆んなが眠る中で足にナイフを突き刺している男がいた。その異様な姿に心音は少し怖くなり歌を歌おうとした。すると、
「ま・・・待って下さい・・・話しを聞いて・・・下さい・・・あなたじゃないと・・・ダメなんです・・・」その目の前の男はそう心音に泣きながら懇願してきた。
「・・・なんか事情があるんですよね?そうじゃないとこんなことしないですよね?」
心音はそうその男に問い掛けた。するとその男は、
「・・・は・・・はい・・・私と・・・一緒に・・・来て・・・下さい・・・」
それだけ言うとその男は気を失った。その男は手にメモを持っていた。そのメモを男から取って心音は中身を見た。そこには妙なアドレスとある住所が書かれていた。心音は救急車を呼ぶと、その住所に向かって歩いた。
そこはボロボロのアパートだった。そしてその書かれた紙の通りの部屋番号を見つけた。その部屋にはインターホンが無かったので、心音はドアを叩いた。
「すいません・・・誰かいませんか?」
心音がドアからそう呼びかけても誰も出て来る様子が無かった。心音はドアノブに手を回した。すると鍵が掛かってなかったらしく、ドアが開いた。心音は恐る恐るドアを開けてその部屋に入った。その部屋はおそらく六畳のワンルームぐらいの大きさで、驚く程物が何も無かった。そしてその奥の方にパソコンだけが電気が入った状態であった。心音は恐る恐る
そのパソコンの画面を覗き込んだ。すると画面には【Kanade教信者の間】と書かれたサイトが立ち上げられており、そこにはkanadeを神と祭り上げた様な写真であったり言葉が一杯書き込まれていた。そしてそのサイトのアドレスこそが、先程書かれていたメモに書いてあった通りだった。そしてその書き込みサイトを見ていた心音はあることに気づいた。
このサイトの書き込みにはほとんど全て同じ内容が書き込まれていた。
【苦しまずに死にたい。眠りながら死ねたらどれだけ楽だろう。】
そこで心音はこのサイトが自殺志願者のサイトだということに気付いた。と同時にこれだけ多くの人が自分の歌を必要としているということに気付き喜びに震えた。
(これだ!これなら悪いことではないし、何より思いっきり歌うことが出来る!)
そう思っていた心音は、ドア付近に足音が近づいて来てることに気付いた。
心音はその人物に向けて歌を歌おうとしたが、その足音が歪な音であることに気づきある確信を得ていたので歌うのを止めた。
その心音の確信の通り、そこにいたのはさっき足をナイフで刺していたこの部屋の住人だった。
「やはりここでしたか・・・」その男は足に包帯を巻いた状態で松葉杖を突いて家まで戻って来ていた。そして、
「そのサイトを見て頂いたということはもう全てお分かりだと思います」
そう言ったかと思うと今度は松葉杖を落としてゆっくりと痛みを我慢しながら土下座の態勢を取ると、
「kanade様・・・私を・・・いえこの世界に住む多くの自殺志願者の神になって下さい・・・皆んなもうこの世で生きることに疲れて死にたいと思っています・・・でも死ぬことは苦痛を伴う行為です・・・でも・・・kanade様はその真実を捻じ曲げて我々に安眠をもたらすことの出来る唯一の存在です・・・どうか・・・どうか我々に安眠をもたらせて下さい・・・」
そう心音に懇願した。心音は困惑しながら、でもその目の前の光景に耐えれず、
「あ・・・頭上げて下さい・・・それと立って下さい。わかりましたから」
そう言ってその男性に肩を貸して上体を起こさせた。
「あ・・・ありがとう・・・ございます・・・」
そう言うとその男性は泣きながら何度も心音に向かって感謝を述べた。
「それで・・・具体的に私はどうすればいいの?」
そう心音がその男性に問い掛けると、男性はパソコンを弄りながら、
「練炭自殺ってご存知ですか?」そう心音に問い掛けてきた。
「まー知ってはいるけど・・・まさか・・・⁉︎」心音がそう答えを返すと、
「そのまさかです・・・」そう言ってその男はプランを心音に話し出した。
そのプランによると、まず煉炭自殺をするメンバーを招集して車に集める。そして、練炭をセットした後で意識のある内に心音に合図を出す。心音はその合図の通りにその近くまで行き、しばらくの間歌を歌い続ける。そして全員が眠ったのを確認したらそれで終わり。
というものだった。
「時間にして約四、五時間眠らせて頂くだけで大丈夫です。よろしくお願い致します」
そう言ってその男は頭を深く下げた。心音は少し難しい顔をして、
「少し・・・時間を下さい・・・そして試させて下さい・・・今まで時間を意識したこともないですし・・・それにちょっと責任重大なことは間違いないんだけど・・・なんて言うか・・・この歌としては私は⦅この世界で生きる意味⦆は使いたくありません・・・なのでちょっと別の歌を作らせて下さい・・・わがまま言ってゴメンナサイ」
そうその男に伝えた。するとその男は、
「もちろん!Kanade様は我々の神です。我々は貴方の決定全てに従います」
そう言った。その言葉に心音は少し困惑したが、
「・・・あ・・・ありがとう・・・それじゃーその場所探さないと・・・」
と言い出した心音に対してその男は、
「このアパートは実は今他に誰もいません・・・そして周りにも特に家もありません・・・こういう所を探して私が契約しました」とそこまで心音に向かって言った後で、
「どうぞこの部屋を自由に使って下さい。ここであれば警察もそう簡単には気づきません。一通りの寝食も用意してますし、連絡してもらえたら何でも用意します。ここを貴方の拠点にして頂いて構いません」
そう心音に向かって言った。心音は少しその態度に疑問を感じて、
「・・・なんで・・・そこまで・・・?・・・いや死にたいのはわかるけど・・・」
そうその男に向かって言った。するとその男は、
「・・・実は・・・私は一度貴方の歌声に救われたことがあるんです・・・」
そう言って話し出した。
「実は私・・・愛していた人に裏切られましてね・・・もう何もかも忘れて死にたいって思っていた時に偶然ネットで貴方の歌声を聞いたんです。もちろんそのまま眠ってしまいました。でも起きたら何か不思議と気分が楽になってたんです。その時感じたんです。これが本当の神の力だって」そう言って自分の過去を話し出した。
「そこまで気持ちが戻ったのに・・・何でまた死にたいって思ってるんですか?」
心音はその男の話を聞いて思った当然の疑問をその男にぶつけた。
「・・・実はこの話しには先がありまして・・・その裏切った女は実は有名な美人局でして・・・そしてその彼氏がまー元ヤクザでして・・・そんでその彼氏に生命保険掛けられまして・・・実はお恥ずかしながら今その彼氏から私も逃げ回っていて・・・そんで不動産関係で働いている友人からこの物件を教えてもらって丸ごと買い占めたんです」
その男は心音にそう答えた。心音はその話を聞くと須藤から渡されてそのまま持っていたスマホでどこかに電話を掛けた。
「・・・うん・・・そう・・・元ヤクザらしいから・・・ちょっとそいつの場所調べて後で連絡先送って・・・うん・・・ありがとう・・・元気だから・・・それじゃお願いね・・・」
それだけ言うと電話を切った。そしてその後でその男に向かって、
「わかりました。つまり貴方もその男から逃げていると。それではそっちの方はこっちで何とかしておきます。なので貴方は心置きなく別の部屋でのんびり過ごしていて下さい。曲作るまで数日かかるかもしれませんがその間の貴方の無事は私が約束します。それではまた数日後に会いましょう。それではこれから曲作りに入るので早く部屋を出て下さい。そしてなるだけ部屋に音が聞こえない状態にしていて下さい」
心音はそれだけその男に言った。男はその言葉に頷くとすぐに部屋を出て部屋のドアを閉めた。そして心音はその部屋で一人曲作りに取り掛かった。
数日後の夜、心音は二階にいるその男の部屋を訪ねた。そして、
「新曲・・・出来ました・・・さて行きましょう」
それだけその男に告げると、戸惑っている男の手を取ってドアの外に出た。
ドアの外にはすでに車が用意されていた。そしてその中から筋者の男が現れると、
「心音さん。準備出来ました。いつでも大丈夫です」
そう心音に話し掛けた。男は更に戸惑っていたが、その戸惑っている男の手を引っ張って心音はその車の中にその男を乗せて自分もその車に乗った。その状況に堪らなくなったその男が心音に向かって、
「えっとー・・・どう言うことですか?」そう尋ねて来た。すると心音は、
「あっ!ごめんなさい・・・この人達は私が愛した人の部下で斉藤さんと高坂さんです。それで今でもその恩義で私のこと助けてくれている素敵な方達です」
そうその男に向かって言った。そしてその後で、
「私わかったんです・・・本当に死なないといけないのは自殺志願者ではなくて、そう仕向けた人物だって・・・だから貴方ではなく貴方を苦しめている二人を殺すことにしました」
そう淡々と笑顔で話し出した。
「えっ・・・⁉︎それはどう言う意味でしょうか・・・⁉︎」
その男は心音のその言葉が理解出来なかった。すると心音はニコリと笑って、
「言葉の通りです・・・まー見ていて下さい。貴方が望んだ結末とは違いますが・・・私の新しい曲はその名前の通り色々な死なないといけない人にとっては幸せな曲になりましたから」。心音はその男にそう自信満々に言った。
男は戸惑っていた。そうこうしている内に車は薄暗い山奥の山頂に辿り着いた。するとそこに別の車がもう一台あることをその男は気付いた。そしてその中に見たことがある二人を見つけた。その二人こそその男を苦しめていた要因の二人だった。
「さて・・・じゃー危ないので離れていて下さい・・・」
それだけ言うと、心音は助手席に用意していた練炭に火を点けてドアを閉めた。
そして部下に離れる様指示を出した。そして、
「それでは聞いて下さい・・・⦅レクイエム⦆・・・」
そう言って新曲を歌い出した。その余りにも凄い歌声にかなり遠くまで離れていた男も斉藤も高坂も思わずうとうとする程だった。
「こ・・・これが・・・神の・・・歌声か・・・」
その男は必死で意識を保とうと頑張った。そして数分後その歌声は聞こえなくなった。
そして高坂に心音から連絡が入った。その連絡で、高坂は車を再び山頂まで動かした。
「ふー・・・これでもうこの二人は永遠に起きることはないでしょう」
心音はとてもやり切った清々しい顔をしていた。そんな心音にその男は駆け寄り、
「あ・・・ありがとう・・・ございます・・・貴方は・・・やはり・・・神・・・です・・・」
そう号泣しながら何度も頭を下げて心音に感謝を述べた。心音はその言葉に少し照れて、
「顔を上げて下さい・・・これで貴方はもう死ななくてよくなりました」
とまるで本当の神様の様にその男に向かって言った。そして、その後で、
「それで・・・ちょっとお願いがあるのですが・・・」
と少し言いづらそうな顔を見せながらそこまで話を切り出して、
「お願いします・・・私にあの部屋とあのサイトを下さい!」
と頭を下げてその男に向かって言った。するとその男は、
「Kanade様・・・いや・・・心音様・・・私は貴方によって生かされた人物です・・・なので今後は私に貴方様の全面的サポートをさせて下さい」
そう心音に跪きながら言った。心音はその男のその言葉に少し恥ずかしそうな顔をしながら、「わかりました。それでは今後もサポートお願いします」軽く頭を下げた。
そしてその後で、
「それで今後色々手伝ってもらう上で・・・今更なんですが・・・あの〜・・・名前・・・聞いてもいいですか?」と今更なことをその男に言った。
「私は高橋徹と言います」と深く頭を下げて高橋は心音に自己紹介した。その丁寧な挨拶を受けて心音も、
「あっ・・・今更だけど・・・私は浅井心音と言います。これからよろしくです」と少し照れながらちょっとハニカミながらそう高橋に挨拶した。そしてその後で斉藤と高坂に、
「斉藤さん。高坂さん。別れて間も無くてあれなんだけど・・・これからたまに協力してもらうことになるかもだけどその時は宜しくね」
そうウインクをしながら言った。その心音に向けて二人は跪くと、
「いつでも呼んで下さい。すぐに駆け付けます」と斉藤は言った。
「俺は心音さんの舎弟です。いつでも飛んで来ます」と高坂は言った。
「もう・・・そういうのはいいからさ・・・じゃーお願いね」。その二人に向けてそう心音は言った。二人は立ち上がりその言葉に軽く頷いた。
この瞬間、心音を中心とした非合法的手段で人々を自殺から救う正に神の様な組織が誕生した。活動の流れは、まず高橋が書き込みを一件一件確認して特に自殺願望の強い人物を見つけ出し、何で自殺したいのかを聞いて回る。そして、その内容を聞いてそれが特定の人物によるものであれば、その情報を綿密に調べて、それが事実であり高橋が悪人だと判断すればそいつを心音に連絡する。心音はその連絡を受けると須藤の部下に情報を送り、そいつの住所を調べてもらい、それを心音に連絡する。そして夜中に心音はその住所の場所に出向き、そこで一曲軽く歌う。そしてターゲットが眠りに着いたことを確認したら、遠くで待機させていた高坂に連絡する。そして高坂は斉藤と一緒にターゲットだけを拉致し、そいつを山奥まで連れて行く。そして別の部下が用意した練炭を載せた車にそいつを載せて、部屋のドアを密閉した後で、二人を下山させ、心音が⦅レクイエム⦆を歌う。
流れとしては大体こんな感じだった。心音達はこの方法で、悪徳な金貸し。暴力で支配するDV夫。土地の権利書を奪った地上げ屋。半グレ。ぼったくりバーの店長。殺人を犯した者。何度も脅して来て金を無心するクズ野郎。レイプした極悪人。等々いわゆる悪と呼ばれる人物を次々に同様の方法で殺していった。
そして心音はそのサイトで本当の神の様により一層崇め奉られるようになった。
そのサイトは次第に連日感謝の言葉で溢れ返るようになっていった。
「・・・これで何件目だ・・・同様の事件は・・・」
立花はとある山奥にいた。遺体は車の中で練炭自殺をしている様に見えた。だが、その自殺した人物が、どう考えても自殺する様な人間では無い為、立花は妙な気分を感じていた。
そして、そんな人物ばっかりの自殺がここ何件も立て続けに発生していた。
そして、その全ての事件で事情聴取をしていると必ず、
「何か・・・歌・・・が聞こえてきて・・・そして気付いたら・・・アイツいなくなってたんだ・・・」という様なことをその聴取をした何人もから度々聞かされていた。そしてこれらの証言で立花は確信していた。
(間違いない・・・浅井心音の仕業だ・・・恐らく浅井心音は自分の信者を使って今度は悪人に裁きを下し出したんだ・・・まるで本当の神の様に・・・だが・・・その行為は法を犯す行動・・・決して人間が踏み込んではいけない領域・・・もう歯止めが効かないとこまで来ているのかもしれない・・・)
立花はそう心に思い、ただひたすら聞き込みを続けていた。少しでも有益な情報を手に入れる為に。
そしてこのニュースは連日連夜テレビで取り上げられていた。
【一体誰の仕業か?はたまた神の天罰か?悪人を自殺に導く謎】
そんな見出しで報道されていた。そして何人かの思い当たる節がある人物達は当分の間大人しくなっていった。中には国外に逃亡する者も現れたりしていた。
心音が起こした行動で、何人かの心音のことを全く知らない弱者もしばしの安堵の時間を過ごすことが出来ていた。
そんなある日、高橋はそのサイトで一件の謎な書き込みを見つけた。内容は自殺願望者のいつも見るそれなのだが、ターゲットがどう見ても悪人ではないのだ。そして事細かに聞こうとするとその書き込みをしている人物はサイトを退会していた。そしてその日以来、何件か同様の書き込みが見つかることが何度も起こっていた。
「・・・一体・・・何が起こっているんだ・・・⁉︎」
高橋は何か妙な感覚を感じていた。そして気付いたらそんな書き込みだらけになっていた。
そこで高橋は明らかなこのサイトの異変に気づいた。そして、色々他のサイトのスレッドを確認していくと、
『このサイトで自殺志願者と嘘付けば殺して欲しい奴をタダで殺してくれるってよ』
『自殺志願者のサイトではなく殺人希望者のサイトwww』
『高度な嘘付かないと中々依頼受けてくれないから皆んなシナリオとか作っといた方がいいぞ』
『俺も殺して欲しい奴いるから依頼しようかな』
『この世の社会悪を全員滅亡する為に皆んなで協力してシナリオを書こう!』
『半グレもヤクザもこの世には必要ない!全員殺させようぜ!』
『社会悪滅亡賛成!』『警察なんかもう必要ない!俺達で裁きを下すぞ!』
そんな書き込みに溢れていた。その事実に高橋は驚愕した。
そして、現状について心音に相談することにした。
「心音様・・・最早このサイトは自殺志願者が集うサイトではなく、殺人希望者のサイトに成り下がってしまいました」
そう言って高橋は現在のサイトの書き込みと、高橋が見たスレッドの内容を心音に見せた。
その内容に心音は絶句して、全身の力が抜けた様にその場に座り込んだ。
「そ・・・そんな・・・私・・・皆んなの為にと思って・・・頑張って来たのに・・・」
心音は項垂れながら、か細い脱力した声を絞り出してそう言った。その様子を見て高橋は、
「・・・もちろん中には本当の自殺志願者もまだいます・・・でも・・・もうそれも今は残り一人です。私はこの一人の依頼後、一度このサイトを閉じようかと考えています・・・」
そう心音に伝えた。すると心音は、
「・・・うん・・・その方が・・・いいのかもね・・・」
と弱々しい声で高橋の提案を受けた。そして最後の仕事に取り掛かる為、心音は部屋を出た。
それから数分後の出来事だった。高橋は心音が出て行った後でそのサイトを閉じる作業に入っていた。その作業に集中していた高橋は背後から誰かが迫ってくることに気付かなかった。そしてその人物は持っていた刃物を高橋の背中に突き刺した。
「ウッ!」その声と共に高橋はその場に倒れ込んだ。
「全く・・・俺の依頼を受けろよ・・・このボンクラが! 俺がトップに立つ道が無くなっただろうが!」
その男はそう言葉を吐き捨てると、高橋の腹を思いっ切り蹴った後で、部屋を出た。
そして、外に出るとその男は高橋のいる部屋にガソリンをぶちまけた後で火を付けて、その場を立ち去った。
心音はいつも通り自分の仕事を終えて高坂に部屋まで送ってもらおうとしていた。そしてその帰り道で消防車の音を聞くと、その消防車が高橋のいるアパートに向かっていることに気付いた。心音は妙な胸騒ぎを感じていた。
心音のその嫌な胸騒ぎは当たっていた。遠くに車を止めて心音がその消防車のいる方向を見ると、高橋のアパートは強大な炎を上げながら全てを焼き尽くそうとしていた。
「た・・・高橋さーーーーん!!!」
心音は号泣して声の限り叫びながらそうアパートに向かって呼び掛け続けた。その様子を見ていた斉藤は心音の手を握ると、
「いけません!これ以上は!貴方は指名手配されています!ここはまず引き上げましょう」
そう言って号泣している心音を車に戻し、高坂に指示を出して車はアジトに向かった。
だが、この時その燃え上がる炎を見た心音の脳裏には別の映像が断片的に出ていた。
(・・・せいで・・・だから・・・)
須藤のアジトに着いた心音はすっかり憔悴しきっていた。
「なぜ・・・?なんで・・・?高橋さんが殺される理由なんかどこにもないじゃん!」
そう言って床を叩き続けていた。そんな心音に向かって斉藤は、
「心音さん・・・原因は我々が必ず突き止めます・・・まずはここでゆっくり休んでて下さい・・・さすがにもう警察もここに来ることは無いと思います・・・」
そう心音に呼び掛けた。心音は振り返り軽く頷くと、ゆっくりと立ち上がりフラフラとした足取りでかつて須藤と一緒に過ごした部屋に入っていき、そのベッドで横になった。
「龍一さん・・・私・・・何か間違ったのかな・・・ねえ・・・教えてよ・・・」
心音は死んだ須藤に呼び掛ける様に天井を見ながらそう呟いた。そして淚を流しながらそのまま眠りに着いた。
翌朝。高橋が焼死した現場に立花もいた。刑事の勘でこの焼死事件にも心音がかかわっていると感じていたからだ。そして遺体を確認した。直接の死因は火傷によるもの。だが、その遺体には背中に傷があったことを確認した。そしてその状況からこの事件が誰かによる殺人と放火によるものだと断定していた。そしてその後色々現場を見回した。まるで何かを確認するかの様に。そして現場を探索していた立花は一台の焼き焦げたパソコンを見つけた。そしてそのパソコンを鑑識に渡すと、
「このパソコンは絶対に復元してくれ。おそらくこの事件のカギになるはずだから」
そう言ってその現場を後にした。
(直感で来たが・・・間違いない・・・いくつか浅井心音のアイテムが焼けてはいるが欠片が残っていた・・・この殺された男は・・・おそらく浅井心音の信者・・・つまり最近の自殺者騒動の協力者の一人だろう・・・)立花はそう思いながらその現場を後にした。
同じ頃。斉藤と高坂は心音の部屋にいた。
「色々調べたんですが、きちんとした情報見つけられなくて・・・すいません!」斉藤は土下座しながらそう心音に謝罪した。その様子を横で見ていた高坂も同じ様に心音に向かって土下座した。その様子を見ていた心根は、少し慌てて、
「頭上げて下さい!そんな謝ってもらうことではないですから!」と二人に言った。
二人は揃って「ありがとうございます」と心音に向かって頭を下げて言った。
「しかし・・・どうしよう・・・困っちゃったね・・・」心音がそう言った後で突然部屋のドアが開いた。心音が振り返るとそこには松葉杖をついた不知火がいた。心音はその不知火の姿を見ると涙を流しながら走ってドアのところまで行き飛び付いた。そして、
「不知火さんだーーー良かったーーー生きてて・・・ほんと良かった!」
そう言った。不知火は少し戸惑い、
「いけません!心音さん!嬉しいのはわかりますが貴方は若の女です!」と言って冷静に制した。その後で、「でも私もまた会えて嬉しいです」と心音に向かって言った。
心音はその言葉でまた泣き出した。不知火は困った様子で高坂に慰める様指示を出した。そしてその後で斉藤に現在の状況について聞いた。
「若・・・そうか・・・龍一さん・・・亡くなって・・・そんで城島組も潰して・・・そんでお前達は心音さんに仕えていると。そういうことか・・・」
そう呟いた後で、不知火は泣き止んだ心音に向かって、
「そういうことであればこの不知火も心音さんに仕えることにします。それが若・・・いや龍一さんの望みであれば」そう跪きながら言った。心音がその態度にまた慌てていると、
「それで、今やらなきゃいけないことはその高橋を殺した犯人を探すってことだな」
そう斉藤に確認した。斉藤がその言葉に頷くと不知火は、
「高坂!俺の部屋からパソコン持って来い!それとプロジェクターも!」と指示を出した。高坂がその指示の通りにパソコンを持って来ると不知火はそのパソコンを受け取り、何かを打ち出した。
「伊達にインテリヤクザやってたわけじゃないですから。こういうのは任せて下さい」
そう言いながらプロジェクターにパソコンの画面を映し出して何個ものサイトを壁に表示させた。そして、
「これで準備OK。後は獲物が掛かるのを待つだけです」
そう不気味な笑みを浮かべながら言った。そしてその後で、どこかに電話を掛けた。
それから数分後。
「よしっ!引っ掛かった!」そう言って不知火はボタンを押した。すると壁に高橋が使っていたサイトが表示された。それと他の何件かのそれに関連するサイトを引っ張り出した。
「えっ・・・⁉︎ どうやったの⁉︎ 凄ーい!」と心音はそのあり得ない状況に喜んだ。
すると不知火は少しはにかんだ顔を見せて、
「心音さん・・・流石にこれは企業秘密です・・・」とだけ言った。そして、
「さて・・・と・・・で・・・」と言いながら作業を開始し出した。
「成程・・・こいつが犯人だな・・・」そう言いながら不知火は、そこにいた全員に、
「おそらくその高橋って奴はこいつの依頼を断ったから殺されたんだと思われます」
と言って、その人物と高橋のやりとりを壁に表示しながら話し出した。
「こいつのアカウントとその高橋って奴とのやりとりを見てみると、最初は丁寧な口調で依頼をしている様に見えます。『冷泉翔って奴に虐められている。俺はもう自殺するしか無い。だからこいつを殺して俺を救って欲しい』と。ただその高橋って奴はとても優秀だったのでしょう。その内容が全て嘘であり、ただ心音さんに殺して欲しいだけだと見破ったのです。そして相手を刺激しない様に丁寧に断っています。ここまでは結構他のアカウントでもあったのですが、問題は次のやりとりです。そのアカウントの奴はこう書いてます。『依頼受け無いならお前を殺す。俺を誰だと思っている?お前なんか殺しても俺は絶対捕まらない。何故なら俺はこの国に守られているからだ。お前みたいなゴミなんかと一緒にするな』と。まー普通ならただの八つ当たりのネットでしか文句の言わない連中だと。おそらくその高橋って奴もそう思ってそれ以上相手にしなかったのでしょう・・・」
そういった後で不知火は少し溜息を付くと眼鏡を外し残念そうな顔を浮かべながら、
「でも・・・こいつはそれが出来る人物であり・・・そして実行する奴だったのです・・・まさかこいつに目を付けられるとは・・・残念ながら不運としか言いようがありません・・・」
と全員に話した。そして徐に眼鏡を掛けると、今度はそいつの個人情報を開いて話し出した。
「そのアカウントの相手こそ。この男です。神宮寺悟。こいつは実は俺達筋者の世界にも聞こえるぐらいの相当のワルでクズ野郎です」
そう言って不知火はその人物の説明を始めた。
「神宮寺悟。愛同奈のナンバー2ホスト。そしてこいつの祖父は政財界に有力な力を持つ神宮寺財閥のドン。人呼んで帝王神宮寺誠亮。そして父親はキャリア組切っての犯人検挙率を持つ警視正神宮寺省吾。長男は防衛副大臣であり次期防衛大臣有力候補の神宮寺護。次男は最年少の陸上幕僚長である神宮寺徹平。つまりこいつはこの国の全てのものから守られる唯一無二の存在なんです。そしてこいつはそれをいいことにありとあらゆる悪事を起こしています。気に入った女をレイプするなんてのは当たり前だし、気に入らない男に対しては、人を雇って襲撃させるなんてことも平気で行う奴です。そしてこいつはそういうことをしても一切今まで捕まったことも無いある種最強の最悪の男です。正直こいつにだけは手を出すなと俺も龍一さんから何度も言われたことがあります。それぐらいのヤバい奴です」
不知火は最後に語気を強めてそう言った。その言葉を斉藤と高坂はただ黙って聞いていた。そしてそのヤバさに萎縮していた。でもそんな中、心音は一息軽く息を吸うと、
「それで・・・そいつが高橋さんを殺したことで間違い無いのね・・・」
と言って徐に立ち上がって不知火にそう聞いた。不知火はその問いに対して、軽く頷いた。
その様子を見て心音はギターを肩に掛け出した。その様子を見て斉藤と高坂は、
「い・・・いけません・・・心音さん・・・いかに心音さんと言えど・・・相手が悪過ぎます・・・」と言った。その二人に心音は冷たい眼差しを見せて、一言、
「でも・・・こんな奴生かしてはおけないでしょ」
と言い切った。そしてその後で今度は一転して少しニコッと笑うと、
「大丈夫・・・わかんないけど・・・私は無敵だから・・・」
そう言って外に出て行った。その様子を見ていた不知火は斉藤と高坂に、
「お前達!心音さんは大丈夫だ・・・それよりもお前達こそ覚悟を決めろ!俺達はこれからこの国と戦争することになるかもだからな!絶対ビビんなよ!俺達は須藤龍一の意志を継いでこれから何があっても心音さんを支える!わかったな!」
そう言ってゲキを飛ばした。その不知火の決意の言葉に、二人は我に返り、そして感情を落ち着かせて震えを抑え、真っ直ぐ前を見て「ヘイ!」と言った。
夜の繁華街にある一軒の店。愛同奈。そこは愛憎渦巻くホストの世界。そしてその店の路地裏で男がボコボコに殴られている。
「おら!もう一回言ってみろよ!俺の名前をよ!」
そう言いながら一人の男が一人の男を殴っていた。周りには何人ものホストらしき人物がいるが皆んな見て見ぬふりをしている。
「か・・・勘弁して下さい・・・悟様・・・」そう言いながらその殴られているホストらしき人物はその人物に土下座をしている。しかしその男はその土下座をした男の髪を持つとその顔を地面に叩きつけた。そして、
「ったく!お前みたいなクズがこの俺様を様以外の名前で呼ぶんじゃねえよ!」
そう言って立ち去って行った。そしてその男に付いていくかの様にそこにいた数人のホストの人物も一緒に後ろに付いて行った。この殴っていた人物こそが、神宮寺悟である。彼は自分の名前を様以外で呼ぶことを禁じていた。この時殴られていたホストは新しく入ったホストであり、そのことを知らなかった為、神宮寺悟にボコボコにされたのだった。
(全く・・・気に入らないぜ!相変わらずアイツは生きているし・・・爺ちゃんも今回だけは手を貸してくれないし・・・クソッ!)
神宮寺はとにかくイライラしていた。その理由は愛同奈のナンバーい1ホストである冷泉翔の存在だった。今まで何人もの人間を平伏してきて常に王様だった神宮寺悟にとって、ナンバー2という自分の状態がとても気に入らなかった。
神宮寺悟は、女性相手にも非道だった。とにかく自分を気に入ってくれた相手を惚れさせて金を巻き上げまくる。相手に金が無いとわかると表向きはツケにさせていたが、実はその裏ではその女性を言葉巧みに騙して風俗に沈めていっていた。そうしてツケを回収していた。また、それだけでは稼げなくなってきた女性には売春相手を紹介し、次々と自分の知り合いの社長達に売っていた。そうして売り上げを確実に延ばしていた。
しかし、冷泉翔は全く違っていた。ルックスも良いのだが、何よりも優しさと気遣いが完璧なイケメンであり、空手も習っていたので腕っぷしもある細マッチョ体型なのに、とても心優しく、決して金の無い女性からは金を取ろうとせず、それどころか退店させるぐらいだった。そしてその姿勢で社長や経営者等の太客を次々に自分のものにしていくまさに天性の人たらしだった。
そしてそんな自分と真逆の人物だからこそ、神宮寺悟にとって冷泉翔はとても気に入らない人物でもあった。
「おい!悟!お前どういうつもりだ?入ったばっかの新人ホストまたボコボコにしたんだって?いい加減にしないと警察に突き出すぞ!」
そう言って冷泉翔は神宮寺悟を店で見つけるや否や、胸ぐらを掴みながらそう言った。
「うるせえ!俺に指図すんな!」神宮寺悟はそう言って冷泉翔の手を跳ね除けた。
(クソッ!こいつが警視総監の孫じゃなけりゃ・・・クソッ!)
神宮寺悟は心の中でそう呟いた。冷泉の父親は警視総監だった。この為、神宮寺誠亮も神宮寺省吾も今回は手を貸さないことにしていた。
「お前・・・そのうち天罰下っても知らないからな!」
冷泉翔は神宮寺悟にそう言った。すると神宮寺悟は斜め下から冷泉翔を睨みながら舌を出して、
「上等だよ!この俺様は誰からも守られている!天すら俺の味方かもな」
そう言って高笑いしだした。冷泉翔はその態度に呆れていた。
すると、急にどこからか歌声が聞こえてきた。そしてその歌声を聞いている内に二人はその場に寝てしまっていた。
「ん・・・今のは一体・・・⁉︎」店の中で冷泉翔は目を覚ました。そして辺りを見た時に、さっきまでそこにいた神宮寺悟がいなくなっていることに気付いた。
「アイツ・・・どこに行ったんだ⁉︎」
そして冷泉翔は店を探したが、神宮寺悟はいなくなっていた。それどころか店の開店時間になっても神宮寺悟は店にも戻って来なかった。更に更にそれが何日も続いた。神宮寺悟はとても非道な奴だったが、出勤をサボることはほとんど無かった。それは冷泉翔に勝ちたいという気持ちがそうさせていたのだが、理由はとにかく数日無断欠勤することは有り得なかった。そこで初めて冷泉翔は異変に気付いた。
(まさか・・・あの日からずっと・・・⁉︎)
そう思った冷泉翔はどこかに電話を掛け始めた。
「・・・爺ちゃん・・・ちょっと話しがあるんだけど・・・うん・・・そう・・・前言ってた人を眠らせる少女の話・・・詳しく教えて・・・」
その数日前。神宮寺悟は廃屋にいた。そして目隠しはされていて手足は縛られていた。そして眠っていた。だが、不意に目を覚ました。そして自分の置かれている状況を理解すると、
「おい!誰だ!この俺様が誰かわかってやってんだろうな?」そう大声で騒ぎ出した。
「誰・・・ね・・・所詮人間でしょ?」
その神宮寺悟の問いに冷たい口調で一人の少女が答えた。まるで自分は人間では無いかの様に。そして、その人物は話しを始めた。
「高橋さんは・・・本当にいい人だった・・・アンタはそんな人を焼き殺したんだ!だから私はアンタを許さない!アンタを同じ目に合わせてやる!」
そう言ってその女性と思われる人物は、手に持っていた拳銃を神宮司悟の脚に向けてぶっ放した。大きな音共に銃弾が発射されて神宮寺悟の脚を貫通した。
「アアアアアーーーー!」瞬時に走った激痛で神宮寺悟は悶えている。
そしてその女性は誰かに指示を出した。その指示を受けた人物はガソリンを周りに掛けると、それを神宮寺悟にもぶっ掛けた。
「・・・ま・・・待て・・・話し・・・聞けよ!」
そんな神宮寺悟の声を無視するかの様にその人物はそのままドアの方に向かうと、そのガソリンに向けて火を点けた。一瞬で炎は燃え広がった。
「ウワアアアアアアーーーー!」神宮寺悟は断末魔の様な声を上げながら燃え上がっていった。そしてその燃え上がる様子を見ながら心音は、
「高橋さん・・・仇・・・取ったからね・・・」
そう言って高橋との思い出の感傷に浸っていた。
その時だった。心音の頭が急に痛くなって来てその場に蹲った。
「心音さん!大丈夫ですか!」その様子を見て心配した不知火と斉藤と高坂が心音に寄り添って声を掛けた。
「・・・ううん・・・大丈夫・・・何でもないよ・・・」
心音は三人にそう言って気丈に振る舞った。しかし、心音の脳裏には三回目となる別の映像が出ていた。そしてどんどんその映像が濃くなっていることを心音は感じていた。
(アンタの・・・せいだから・・・だから・・・死んで・・・)(今の・・・映像は何?)
そんな心音の異変を察知した不知火はヤクザ御用達の脳外科医をアジトに呼んだ。そして心音のカウンセリングをお願いした。心音はその医者に自分の症状のことを話した。
するとその医者は、
「おそらくそれは君が見て閉じ込めた嫌な記憶の断片図じゃな」と言って話し出した。
「余りにも酷いことを誰かにされると、脳はその記憶を封じ込めようとする。一種の防衛本能みたいなものじゃな・・・じゃがそれはある瞬間、もしくは何かをきっかけにして急に脳裏に蘇らせる。よく言う言葉だとフラッシュバックじゃな・・・おそらく君の場合は家が燃えるその映像がトリガーなのじゃろう・・・おそらく後数度同じ景色を見たら、君が封じ込めたその記憶を君が完全に思い出すことになるじゃろうな・・・」
そう心音に説明した。心音はその言葉にただ頷いた。
「心音さん大丈夫ですか?」高坂がカウンセリング終わりの心音にそう声を掛けた。
「うん・・・大丈夫・・・それに・・・これは私が望んでいたこと・・・私もあの日何があったか思い出したい・・・」そう心音は高坂に答えた。
「さて・・・心音さん・・・少し話しがあります」
カウンセリングの心音に対して、不知火が神妙な面持ちで話を始めた。
「動機はどうあれ・・・俺達は神宮寺悟を殺しました・・・間違いなく神宮寺誠亮は明日以降、神宮寺悟を殺した人物を探しに動きます。そして俺達は間違いなくすぐ特定されるでしょう。そして、もしかしたら殺されるかもしれません・・・」
そこまで話した後で不知火は、
「俺達は所詮極道なので別に殺されようが拷問されようが構いません。でも心音さんは違います。なので・・・」
そう言って次の言葉を言おうとしたその口を心音は塞いで、
「大丈夫・・・もう誰も殺させはしない・・・私が・・・皆んなを守るから・・・」
そう言ってニコッと微笑んだ。その言葉を聞いて斉藤は、
「でも、実際どうするんですか?」と心音に聞いた。すると心音は飛びっ切りの笑顔で、
「全員殺せばいいじゃん。私達を捕まえに来る奴も殺そうとして来る奴も。そうしたら私達の身を脅かす者はいないでしょ?そして皆んな燃やしてしまう・・・そしたら私の記憶も戻るかもだし・・・一石二鳥じゃん」
そう言い切った。そのとんでもない考えに不知火と斉藤と高坂は驚愕していた。でもその心音の皆を守りたいと気持ちだけはとても伝わって来たので、
「・・・わかりました・・・所詮極道。死ぬことに恐怖は微塵もありません。ですが守ってもらうのは性には合わないので、私が貴方をお守りします」
不知火は跪いて心音にそう言った。
「俺は心音さんの舎弟です。貴方の為に命を掛けることに悔いは何もありません。そして貴方の言うことに逆らうつもりもありません。不肖斉藤。地獄まで貴方に付いて行きます」
斉藤も跪いて心音にそう言った。その様子を見て高坂は、
「・・・俺も・・・心音さんの舎弟です・・・どこまでも付いていきます」
そう言って跪いて心音にそう言った。心音はその三人の言葉を聞いて、
「・・・皆んな・・・ありがとう・・・」そんな感謝の言葉を言った。
(最近・・・心音さん・・・なんか・・・おかしい・・・なんか・・・どんどん人間じゃなくなっている様な気がする・・・)高坂は心の奥底でそんなことを思う様になっていた。
その翌日。立花はとある現場にいた。そこは廃墟だったが燃やされていた。まるで前日に見たボロアパートの火災現場を彷彿させるかの様に。その現場はよく似ていた。
だが、燃やされた遺体の身元の名前を聞いて立花は驚愕した。その燃やされた遺体は神宮寺悟だった。そして脚には拳銃で撃たれた跡がしっかりと残されていた。
立花は詳しく見るまでもなく何かを確信し、早々にその現場を去った。
(浅井心音・・・お前はとんでもないことをしてしまった・・・神宮寺家がこのまま大人しくしているわけはないぞ・・・しかし・・・なぜ神宮寺悟なんだ?・・・ま・・・まさか・・・⁉︎)そんなことを思っていた立花に鑑識から連絡が入った。その連絡を受けて立花は鑑識の下を尋ねた。そして鑑識から復元したデータを見た立花は自分の予想と一致していたと確証を得た。
(間違いない・・・高橋を殺したのが神宮寺悟・・・そしてその神宮寺を殺したのが浅井心音だ・・・そして・・どんなに恐ろしい力を持っていても少女一人だけでそんなことが出来るわけがない・・・つまり・・・浅井心音には協力者がいる・・・そして今までそれは信者だと思っていたが・・・恐らくそれは違う・・・恐らく闇の組織・・・そして浅井心音に最も近い人物・・・つまり・・・須藤組の残党だろう・・・)
立花はそう確信し、どこかに電話を掛け始めた。
「明日の朝・・・須藤組のアジトに踏み込むぞ!」
その翌日。神宮寺財閥の会長室に神宮寺省吾。神宮寺護。神宮寺徹平は集められていた。三人は神宮寺財閥の会長である神宮寺誠亮に呼び出されていたのだった。そして椅子に座っていた神宮寺誠亮は静かに話し出した。
「・・・昨日の夜・・・何者かがワシの可愛い孫だった悟を殺したそうじゃ」
その言葉にその場にいた三人は凍りついた。そして誠亮は話を続ける。
「なぜじゃ・・・なぜ悟が殺されなきゃならない?しかも内緒で付けていた護衛が何の役にも立たなかった・・・全員眠らされているとか馬鹿にしているのか!」
そう言って神宮寺誠亮は怒りのままに机にあったグラスを壁に投げつけた。そして、
「省吾!貴様なら何か知っているだろう?知っているならワシに聞かせてくれぬか?こんなバカな真似をした輩のことを!」と鋭い目つきで神宮寺省吾を睨み付けた。
「・・・会長・・・恐らく悟を殺したのはkanadeと呼ばれる歌姫だと思われます。私もにわかに信じれないのですが・・・本当にその人物の歌には人を眠らせる力があることが数々の事件から立証されています。そして現在公安で捜査中の案件の為、情報が伏せられていますがKanadeの正体は浅井心音と呼ばれる女性です」
そう言って神宮寺省吾は神宮寺誠亮に答えた。すると神宮寺誠亮は神宮寺省吾を睨むのをやめて後ろを振り向いた。そして次の瞬間持っていた杖で思いっきり神宮寺省吾を殴り付けた。そして怒りながら、
「浅井心音・・・お前は本当にそんな少女が一人でこれだけのことをしたと思っておるのか?だとしたらお前はただのグズだ!もし仮にその女にこれだけの力があったとしてだ、どうやってその後に悟を移動した?女一人で出来ることではないこともわからんのか!」
そう言って神宮寺省吾を叱り付けた。神宮寺省吾の頭からは血が流れている。そしてそんな様子を神宮寺護も神宮寺徹平も見て見ぬふりしか出来なかった。
「も・・・申し訳ありません・・・私が浅はかでした!」
神宮寺省吾はそう言いながら神宮寺誠亮に土下座して許しを乞うた。その様子を見て神宮寺誠亮は、
「間違いなく裏の人間が数人絡んでいる。ただの一般人如きではこんな大層なことなど出来ぬわ!省吾!お前は公安から捜査を奪って来い!そしてそいつらを全員ワシの前に連れて来るんだ!いいな!」そう言って神宮寺誠亮は神宮寺省吾に命令した。
「わかりました・・・直ちに捕らえて参ります・・・」
そう言って神宮寺省吾は立ち上がると会長室から飛び出した。
その様子を見て神宮寺誠亮は、
「まったく・・・あいつは事の重さを何もわかっとらん!その点二人はわかっておるよな?ワシの可愛い孫達よ」そう言って神宮寺護と神宮寺徹平に語りかけた。
「もちろんです!お爺様!私の持てる力全てを使って、浅井心音もそれに従う者も全て国家の元に抹殺します!」神宮寺護は神宮寺誠亮にそう言い切った。
「誰かは知らないし興味も無いけど、神宮寺に牙を向いたことを後悔させてやります。親父がもし捕まえられなかったら、いざとなれば事故に見せかけてこの俺が殺しますよ」
神宮寺徹平は神宮寺誠亮にそう言い切った。
「ホッホッホ・・・それでこそワシの可愛い孫達よ。さあ行け。神宮寺家に歯向かう者は皆殺しじゃ!期待しておるぞ!」
そう言って神宮寺誠亮は二人に声を掛けた。二人はその言葉に深く頭を下げると会長室を後にした。
同時間。立花は須藤組のアジトに立ち入りを敢行していた。そこは先の襲撃でボロボロとなっており、見た目はいわゆる廃墟の様だった。しかしそれは見た目だけだった。
中に入るとその奥の何個かの部屋は何の被害も無く普通の部屋として存在していた。須藤のアジトは構造として大きな家の中に別邸があるという作りとなっていたことをこの時始めて立花は知った。そしてその別邸こそが須藤と心音が一緒に生活していた部屋だったのだ。だがそこにはもう人は誰もいなかった。あったのはそこに人がいただろうという足跡や指紋だけだった。
(クソッ!一歩遅かったか・・・間違いない!昨日までここに浅井心音はいた!そして不知火亮一、斉藤蒼介、高坂蓮司。須藤の腹心のこの三人がここにいたはずだ!クソッ!何で気付かなかった?仮に浅井心音の狂信者が何人もいたとしてもここまで手際よく何人もの殺害も出来なけりゃ情報入手もそんな簡単には出来ない!間違いなく須藤龍一が亡くなってからの最近の一連の事件には須藤組の残党も関わっている!そして浅井心音はそいつらと一緒にいるに違いない!クソッ!クソッ!)
立花は歯がゆい思いを噛み締めながらそんなことを思っていた。そして、どこかに電話を掛け始めた。
「おい!須藤組の残党の情報集めろ!今すぐだ!そこに浅井心音はいる!」
そう言って指示を出した。
同日新庄は警視正である神宮寺省吾に呼び出されていた。そして今までの浅井心音が絡んでいた事件のことを全て報告させられていた。
「本当にそんなことが・・・なるほど・・・よくわかりました・・・」
そう言った後で新庄に対して、
「ところで・・・須藤組の残党は本当に誰も生き残っていないのでしょうか・・・」
そう尋ねた。新庄は、
「いえ・・・私は浅井心音を追い掛ける様に指令を受けておりまして、ずっとその行方を探している所でした。ですが・・・」
と次の言葉を言おうとしたところで神宮寺省吾は、
「もうわかりました。もう結構です。お疲れ様でした」。そう新庄に言った。
「警視正。それはどういう意味ですか?」
新庄はその言葉の意味がわからなくて神宮寺省吾に尋ねた。すると、
「言葉のままの意味です新庄警部補。貴方にはこの事件の荷が重過ぎた様です。なのでここからはこの私が指揮を取らせて頂きます」
神宮寺省吾は冷たい眼差しで新庄を見ながらそう言い放った。
「ちょっと待って下さい警視正!まだ私は出来ます!」
新庄はそう言って神宮寺省吾に反論した。すると神宮寺省吾は、
「はーーー・・・今の今まで国家に仇なす存在を捕まえることも出来ない無能が何を言うのでしょうか・・・冷静に考えればわかりますよ・・・浅井心音が今どこにいるのかは・・・それもわからないで指揮をまだ取りたいとは・・・」
そう呆れた顔で新庄に言い放った。するとその二人の後ろから、
「神宮寺警視正。貴方の予想通りですよ。でも少し言い過ぎかなと私は思いますがね」
そう話しかけてくる人物がいた。二人はその人物を見てとても驚いた。
「さ・・・西条警視総監⁉︎ な・・・何でこんなところにおられるのですか・・・⁉︎」
神宮寺省吾はそうその人物を見てそう言った。するとその人物は、
「なあに・・・その事件は私も興味があってね・・・ってよりは私の孫がどうもその事件に絡んでしまってな・・・それで孫から色々話を聞いてな・・・」そう淡々と話し出した。
「あの〜・・・お孫さんってまさか・・・あの方ですか⁉︎」
神宮寺省吾は何かを知っているかの様に西条警視総監に話し掛けた。
「神宮寺警視正は一度一緒に事件に関わったことあったかのー・・・探偵まがいみたいなことをしていて、たまに犯人捕まえたりとかもする勇敢でとても賢い私の孫の翔です」
そう言って西条警視総監は淡々と自慢気に話し出した。そして、
「翔も自分で色々調べて、どうも須藤組の残党の居場所突き止めたみたいでの近々直接会うらしいそうじゃ。これでこの事件も解決するかもしれんの」
そう二人に言った。するとその言葉を聞いて立花は、
「お言葉ですが西条警視総監。浅井心音は凶悪な存在です。そして信じれないかもしれませんが、彼女の歌を聞くと無条件に眠ってしまうんです。そんな人物にお孫さん近づけさせて大丈夫なんですか?」
そう西条警視総監に向けて強い口調で言い放った。すると西条警視総監は、
「・・・翔は恐らく自分は殺されないという自信がある様じゃ・・・もっともそれ以外にも何か掴んだかもしれんみたいじゃが・・・でもその確信が無いからそれが何かだけは私にも言わなかった・・・恐らく何か勝算があるのじゃろう・・・アイツは天才じゃし天才にしかわからん感覚みたいなものがあるのかもしれんのー・・・」
遠くを見つめながら立花にそう言った。そして、
「まーもし翔が殺されでもしたらその時は私も全ての力を持って、浅井心音を何が何でも逮捕させるじゃろうな。例えそこにどんな犠牲が生まれようとな」
そう言って強い口調で立花に向かって言った。そしてその後で、
「とりあえずそういうことだからしばらくは立花警部補。君にこの事件は任せるから。願わくば私に指揮権が変わらないことを祈っているよ。それじゃー頑張りたまえ。」
そう言って立花を肩を軽く叩くと、西条警視総監はその場を後にした。その姿を見て立花は深く頭を下げた。その様子を横目で見ながら神宮寺省吾も苦虫を噛み潰した顔をしながらその場を後にした。
(クソ!まずいぞこれは・・・アイツに先越されるかもしれん・・・そうなると非常にマズイ!・・・何か策を考えないと・・・須藤組の残党の居場所さえわかれば・・・)
そう言って神宮寺省吾はどこかに電話を掛け始めた。
「・・・ああそうだ・・・お前達なら見つけられるんだろ?同業者なんだから・・・何が何でも探せ!須藤組の残党を!そして見つけ次第居場所を私に即連絡しろ!いいな!」
同日。心音達は遠いところにある一軒の家にいた。そこは不知火が極秘で購入していた別荘だった。不知火はとても頭が切れる男だった。昨夜全てが終わった後で心音に須藤組のアジトを離れる様に指示していたのだった。不知火はわかっていたのだ。神宮寺悟を殺すということその意味を。だから須藤組が関わっていたところでもなく、自分が組所有で持っていた
ところでも無い、自分がいることさえ分からなければ絶対に辿り着けない個人で購入した別荘に心音を連れて行っていたのだ。それは単に危険を察知したこともあるが、それに加えて心労が続いている心音を気遣っての行動でもあった。
「不知火さん。ここ凄く気持ちいいよーー」
心音はその別荘をとても気に入ったみたいで珍しくはしゃいでいた。その様子を見て不知火もホッと胸を撫で下ろしていた。
「ねーねー不知火さん。ところで斉藤さんと高坂さんは?」
心音は斉藤と高坂が今朝からいないことを気にしていた。その問いに不知火は、
「斉藤には諸々の買い出しをお願いしています。とりあえず何日かだけでも過ごせるだけのものが必要ですので。高坂は何か用事があるとのことで、今朝方出掛けて行きました」
そう答えた。「ふーーん・・・」心音はそう言って言葉を返した。
同日。斉藤は不知火に言われた通り街に買い物に来ていた。
「とりあえず数日過ごすならこんなもんかな・・・」
斉藤は袋一杯買い込んでそれを車に積めると車を走らせ出した。
しばらく走っている内に斉藤は一台の車に後を付けられていることに気付いた。
(来たか・・・不知火さんの読み通りだな・・・)
そう心の中で思った斉藤は人があまり来なそうな山道に車を走らせてその車だけになったところで路肩に車を止めた。するとその後ろに付いていた車も斉藤の車の真後ろに止まった。斉藤はその様子に確信し、車のドアを開けて外に出た。後ろの車も同じタイミングでドアを開けた。その車の中からは数人の筋者と思われる人物が出て来た。
「何のつもりだコラ!返答次第ではヤっちまうぞ!」
斉藤はドスの効かせた声でその人物達を脅す様に言った。するとその車に乗っていた人物の一人が斉藤に向かって、
「斉藤蒼介だな。素直に仲間の元に戻れば良かったものを・・・まあいい・・・お前だけでも連れて行くか・・・」そう淡々と話した。その様子を見て斉藤は、
「てめえら!どこの組のもんだ!この俺が素直に捕まると思うなよ!」
そう更に凄みを増して言った。すると、
「我々は極道ではない。元警察で構成されたただの雇われ集団だ。ある方の命令で動いている。お前達みたいな者達よりも遥かに裏の事情に詳しい組織だ。そして・・・」
そう言ってその人物は斉藤に向かって銃を発砲した。
「くっ・・・てめえ・・・何・・・しや・・・がった・・・」
「我々は殺人や暴力なんかはしない。ただ任務を遂行する為には何でもする」
その人物はそう斉藤に向かって話した。その人物が放った銃はとても強力な猛獣に使用する催眠銃だった。そして、その銃弾を受けて斉藤はその場に眠ってしまった。
「よしっ!運ぶぞ!」そう言ってその謎の集団は斉藤を自分達の車に乗せて走り出した。
同日。高坂は誰かと会っていた。いや正確には呼び出されていた。事は昨夜に遡る。
高坂は皆んなと共に不知火の別荘に着いてのんびり過ごしていた。そんな時、高坂の携帯が鳴った。それは、高坂がよく利用していたホステスの女性からだった。
『明日明朝二人っきりで会えないかな?高坂さんに会いたいな・・・』
そんな電話を受けて斉藤に途中まで送ってもらい、その女性に会いに行っていた。
そしてその女性と高坂は会った。その女性は連れて行きたいところがあると言って、高坂をとある店に連れて行った。そこは地下深くにひっそりと経営している会員制のバーだった。
そしてその女性はそのバーに高坂を連れて行った。そのバーは早朝にも関わらずとても暗かった。そしてその店に入った高坂はその暗がりの中から声を掛けられた。
「高坂蓮司さんですね。お待ちしてました」その男はそう柔らかい物腰で話し掛けて来た。
「なんだ?お前?」そう高坂が言い返している内にそのホステスの女性は高坂にさっきまで組んでいた腕を振り払い急ぎ店の外に出て外から鍵を掛けた。高坂は呆気に少し取られたが、すぐに正気に戻ると、その閉められたドアノブをガチャガチャとしてドアを大きく叩いた。そしてその一瞬で起こった出来事で、高坂は自分が騙されてこのバーに連れて来られたことに初めて気付いた。
「クソッ!おい!俺が誰だかわかってやってんだよな?」高坂はその状態のままその男に凄んでそう言った。するとその男は淡々と、
「もちろん知ってますよ。元須藤組若頭須藤龍一の舎弟の一人。高坂蓮司さんですよね。そして今は浅井心音に従っている。と」
その言葉に高坂は蒼ざめた。自分が浅井心音に従っている事は、まだ誰にも知られていないと思っていたからだ。
「お前・・・何者だ?」高坂は怪訝そうにその人物にそう聞いた。するとその男は、暗がりの中から、姿を現した。そして高坂はその姿に驚愕した。その様子を見ながらその男は話しを続けた。
「私は西条真二と言います。これでも探偵です。なので貴方と浅井心音の事はほとんど調べています。そして貴方方が神宮寺悟を殺した集団であることを確信しています。私は別に神宮寺悟殺害に対してとやかくいう必要はありません。ただどんな理由があっても犯罪者をのさばらせておくこともするつもりもありません。なので貴方方には大人しく我々に逮捕されて欲しいと思っています。そして、浅井心音がいるところまで案内して頂きたいのです。私なら彼女を説得出来る。そう信じていますから。ちなみに私の仲間によって既に斉藤蒼介も捕らえています」と淡々とその男は高坂に向かってそう言った。
同日警視庁。神宮寺省吾の携帯が鳴った。誰かからの連絡だった。
「・・・何⁉︎斉藤蒼介と高坂蓮司を付けていた奴らから連絡が途絶えただと⁉︎お前達一体何やってんだ⁉︎お前達は選りすぐりの元暴力団達じゃないのか⁉︎」
「・・・も・・・申し訳ありません・・・何者かは分かりませんが・・・我々と同じく斉藤と高坂をマークしていた人物がおり、恐らくその連中にやられてしまったのかと・・・」
「言い訳はいい!とにかく今すぐ状況を確認して連絡して来い!」
神宮寺省吾は怒鳴りながらそう電話の相手に言った。そしてその後すぐだった、警視庁内に緊急の通報が流れた。内容はこうだった。
「先程匿名の通報が入りました。元暴力団数名が河川敷で誰かに縛られた条件で発見。何人かが拳銃及び刃物を所持。至急現場に急行せよ!」
その管内に流れる通報に神宮寺省吾は蒼ざめた。
「ま・・・まさか・・・」神宮寺省吾はその悪い予感を確認する為に急いでその河川敷に向かった。
神宮寺省吾の悪い予感は当たっていた。その捕まった元暴力団員こそが、神宮寺省吾が斉藤と高坂に差し向けた刺客達だったからだ。
「こ・・・これは一体・・・」神宮寺省吾はその様子を見て蒼ざめた。するとその神宮寺省吾の携帯が鳴った。
「親父・・・やられたね・・・俺も今仲のいい警視庁の友達から聞いてびっくりしたよ。まさか親父の軍団がやられるなんてね・・・しかも恐らくこの手口は元暴力団や浅井心音じゃない・・・この手口は完全に元刑事・・・それも凄腕達だ・・噂には聞いていたけど本当に存在していたんだ・・・そしてまさかアイツがその指揮権を持っていたなんてね・・・親父・・・もう後は俺達に任せてくれ。俺達が悟の仇を取るから」
そう言ってその電話の相手は電話を切った。神宮寺省吾はただただ呆然としていた。
その数時間後。官邸。防衛副大臣である神宮寺護は集まった記者達に緊急会見を開いていた。
「皆様。お忙しい中お集まり頂きありがとうございます。我が国は現在一人のテロリストによって国家の危機に陥いれられています。その人物の名は浅井心音と言います。彼女の手によって既に何人もの尊い命が失われていることが確認されております。更に彼女はこの国の転覆を計っております。我々としてはテロリストに屈する事なく国家そして自衛隊とも協力してこのテロリストの確保に立ち向かっていこうと思っています。会見は以上となります」神宮寺護はそれだけ話した後で記者の質問には一切答えずにその会見上を去った。
そしてどこかに電話を掛け始めた。
「これでお前の行動は国家が保障してくれる・・・後は任せたぞ徹平」
「クソ程簡単な仕事だな・・・要はそいつらの住処をぶっ壊せばいいんだろ?俺の愛機ならそれくらい楽勝だよお兄ちゃん」
その会見を見ていた立花は驚愕していた。
「遂に・・・遂に国家が動き出した・・・浅井心音を止める為に・・・いや・・・神宮寺家が浅井心音を殺しに動いたと言った方が正しいか・・・俺はどうすればいい・・・もう本当に何も出来ないのか・・・」
同時刻。同じ会見を見ていた新庄もその会見の内容に驚愕していた。
「神宮寺家が動き出した・・・こうなるともう手を触れれない・・・クソッ!こんな事思いたくは無いが・・・浅井心音・・・神宮寺家から上手く逃げてくれ・・・そして大人しく投降してくれ・・・そうしないと殺されてしまうぞ・・・」
同時刻。藤田もその会見を見ていて呆然としていた。
「そ・・・そんな・・・心音がテロリスト・・・⁉︎何かの・・・何かの間違いだ!心音は・・・心音は・・・そんな事する子なんかじゃない!」
同時刻。心音と不知火もその会見を見ていた。
「私・・・テロリストなの・・・⁉︎・・・私・・・この国を転覆させようなんて考えてもないよ・・・ただ・・・困っている人達を助けてただけなのに・・・それの何がダメだって言うの!」心音はそう激しく怒って、辺りに置いてあった物を手当たり次第投げ出した。
その様子を見て不知火はそっと心音を抱き締めて。
「・・・心音さんは何も悪い事はしていません。私みたいな悪事に手を染めていた人から見たら心音さんのしたことは何も悪くはありません。ただそれは私達裏の人間の話しです・・・どんなやり方でも人を殺めた事。それは表の世界ではただの殺人です。そして更に心音さんには人を超えた力もある・・・それを国が恐れるのは仕方ない事です・・・」
それだけ言った後で不知火は抱き締めたその手を伸ばして心音を見ながら、
「だから誰が何と言ってもこの不知火はずっと心音さんの味方です。それだけは変わりません。だからそれで今の怒りを抑えて下さい」
不知火は心音にそう言った。その言葉に心音は小さく頷いた。
「しかし高坂は女に会いに行ったからもう少しかかるとしても斉藤は帰って来るのが遅いですね・・・もしや・・・⁉︎」
不知火がそう最悪の予想をしている時に別荘のドアが開く音が聞こえた。現れたのは斉藤と高坂だった。その斉藤の姿を見て不知火は安堵した。
「斉藤。遅かったな。もしかして高坂と合流していて遅くなったのか?」
そう言って不知火は高坂に尋ねると、「まあそんな感じです」と斉藤は少しバツが悪そうな顔をして言った。その様子に不知火は少し不信を抱いた。その様子を横目で見ていた高坂は、
「そうそう!俺が斉藤さんに連絡してちょっと待っててもらう様にお願いしたんです。俺のせいです。すいませんでした!」
そう言って急に高坂が不知火に頭を下げて来た。そのあまりの二人の態度を不信に思った不知火は、
「斉藤!高坂!お前ら何か隠しているだろ!言え!」
そう言って大声をあげてう二人に怒りながら尋ねた。そして、何かに気付いた不知火は心音に、
「心音さん・・・まずいです・・・囲まれてます・・・最悪は・・・心音さん・・・わかってますね・・・?」そう言って心音に意志を確認していた。心音はその言葉に軽く頷いて、そばにあったギターを手に取り出した。
「待って下さい!騙していたのは本当にすいません。でも・・・この人見たら多分不知火さんも考え変わりますから。少し話だけ聞いて下さい!」
そう言って高坂が不知火に言った。そして不知火はその二人の後ろに誰か立っていることに気付いた。
「斉藤さん。高坂さん。ありがとうございます。そして不知火さん浅井さん始めまして」
その人物は後ろからゆっくりと歩いて来た。そしてその人物を見て不知火は驚愕した。心音は見た瞬間に涙が止まらなくなった。そこにいた人物は二人もよく知る人物にとても似ていたからだ。
「嘘・・・そんな・・・龍一さん・・・⁉︎」心音は声にならない様な小声で涙を流しながらそう言った。
「そ・・・そんな・・・その姿は・・・若っ⁉︎どう言うことだ⁉︎」不知火はその人物の見た目にとても困惑していた。そしてそんな二人の様子を見てその人物は話し出した。
「残念ながら私は似ているだけで須藤龍一ではありません。私は探偵をしている西条真二と言う者です。以後お見知り置きを」
そう言った後で不知火と心音に西条真二は頭を下げた。その様子を見て正気に戻った不知火が拳銃を手にして、
「探偵⁉︎そんなわけないだろ?ならこの周りに囲んでいる人間達はどう説明する?」
そう言って西条真二に銃を突き付けて問い掛けた。すると西条は、
「この別荘を囲んでいるのは警察でも暴力団でもありません。私の仲間です。そしてそれは私の合図で一斉に催眠銃を撃ちます。恐らく心音さんの歌よりも早くね。何せ元は優秀な刑事の方々ですので」
そう言ってその向けられた銃に怯むこともなく、西条真二は淡々と不知火の問いに答えた。
「お前・・・その度胸・・・恐らくただのカタギではないな・・・本当に若みたいだ・・・」
そう言って銃を閉まった。そして、
「で、アンタは心音さんの能力もわかった上で、しかも斉藤と高坂も唆して、その上で一人でこの別荘の中まで来たわけだが、一体何が目的なんだ?」
そう言って今度は不知火が西条真二に尋ねた。すると西条真二は、
「・・・今すぐ投降して下さい・・・そうしないと浅井心音さん。貴方はこの国に、いえその前に神宮寺家に殺されます・・・私は貴方のことを色々調べました。そして悪人ではないことに気付きました。ただこの国では如何なる理由でも人は殺してはいけません。だから貴方は逮捕されなければなりません。どうかお願いです。大人しくこのまま私と一緒に来て下さい。貴方方の身の安全は私が祖父に言って必ず守りますので」
そう言って西条真二は深く頭を下げた。するとその様子を見ていた高坂が、
「不知火さん。この男は西条警視総監の孫だそうです。だからこの男に頼めば我々の罪もそして心音さんの罪も正しく裁いてくれると思います。なので俺からもお願いします」
そう言って頭を下げて不知火にそう言った。その様子を見て不知火は心音の方を向いて、
「・・・心音さんはどうしたいですか?俺には判断出来ません。俺は心音さんに従うと決めているので心音さんが決めて下さい」と心音に問い掛けた。すると心音は、
「・・・そっか・・・犯罪者なんだね私・・・なんか改めて気付かされちゃったな・・・でも・・・私は歌が歌えたらそれでいいから・・・それに・・・最後に捕まるのが龍一さんなら・・・いや龍一さんに似ている人なら・・・それも龍一さんの意志だと思えるし・・・私いいよ。西条真二さん。貴方に付いていきます」
そう言って持っていたギターをそっと置いた。その様子を見ていた西条真二は、
「ありがとう。本当にありがとう。そうと決まったら早くここを出ましょう」
そう言って別荘を出ようとしていた。その時だった急に周りから爆炎が上がった。その刹那、西条真二の携帯が鳴った。
「真二さん!ヤバい!神宮寺家マジでヤバいです!うわーっ!」
そう言って爆音と共にその電話は切れた。その様子を見ていた不知火と斉藤と高坂はドアから飛び出して外に出た。すると別荘の周りは爆炎と共に燃え盛っていた。そして上空を見ると戦闘機が飛んでいるのが見えた。
「まさか・・・あれは・・・F―2戦闘機⁉︎」
不知火は自分の今見ている状況が信じれなかった。その別荘の周りを戦闘機が飛び回りミサイルを落としていたのだった。そして恐らく西条真二の部下と思われる人物が何人もその巻き添えを喰らって死んでいたのだった。
「ヒャッハッハッハ!国家の名の下に死ね!死ね!」
その戦闘機を操縦していたのが神宮寺徹平だった。神宮寺は自分の地位を利用して、航空自衛隊所有の戦闘機を使ってそれで不知火の別荘を攻撃していたのだった。
「庶民風情が神宮寺家に逆らったことを後悔しながら死ね!」
そう言って神宮寺徹平はミサイルを上空から次々に落としてきた。そしてそのミサイルは別荘にも飛んで来ていた。
「あ・・・危ないっ!」その状況を即座にキャッチさした西条真二は浅井心音に上から飛び掛かり覆い被さった。その次の瞬間。ミサイルが別荘を直撃し別荘が爆炎に巻き込まれた。
その衝撃で外にいた高坂と斉藤と不知火の三人も吹き飛ばされた。
「こ・・・心音さん・・・に・・・逃げて・・・」不知火はそれだけ言うと血を流しながら気を失った。斉藤と高坂も同様に気を失っている。
「痛たたた・・・もう何?何が起きたの⁉︎確か何か別荘の外で爆炎が上がって・・・そして爆音がして・・・⁉︎」
心音はその今の状況を見て驚愕した。そこには見るも無惨に壊された別荘だった物達が爆炎と共に燃えていた。そして心音の上には心音をその瓦礫達から守る様な形で、西条真二が大量に血を流していた。
「さ・・・西条さん・・・⁉︎何で⁉︎何で⁉︎何でーーーー!!!」
心音は西条真二にそう言って泣きながら何度も叫びながら呼び掛けた。すると辛うじて意識のあった西条真二は、
「・・・男が女性を守ることは当然だから・・・それに・・・君には何故か生きていて欲しいって思ったから・・・だから気付いたら身体が動いていた・・・そんな感じかな・・・ハハハ・・・」そう言って西条真二は意識を無くした。
「西条さーーーーーーん!西条さーーーん!!西条さーーーーん!!!」
それからはもう心音が何度呼び掛けてももう西条真二は意識を戻すことは無かった。
「折角・・・折角・・・出会えたのに・・・龍一さんと・・・瓜二つな・・・優しいところもそっくりな男の人・・・」そう言うと、涙を拭って上空を見て、
「許さない!絶対!絶対許さない!」そう言ってその飛んでいた戦闘機を睨み付けた。そして、
「セイレーン!いるんでしょ!力を貸しなさい!」そう言って呼び掛けた。その呼び掛けに応じる様に心音の目の前にあの鳥の置物が現れた。そして、
【はいはい・・・あの空を飛んでいるヤツを撃ち落としたいんだろ?】
そう言ってその鳥の置物は心音の心に語りかけてきた。心音はそれに頷いた。
【そうねぇ・・・ちょっと距離もあるし・・・普通には難しいかもねぇ・・・まー方法なくはないけどねぇ・・・アンタにそれが出来るかどうかはわからないけど・・・】
そう心音の心に語りかけて来た。すると心音は、
「出来るかどうかじゃなくやらなくちゃいけないの!絶対!絶対に!」
そう言って自分の決意を鳥の置物に向かって言った。
【・・・声をさ・・・一直線に飛ばすんだよ・・・意識的にね・・・アンタは今まで波状に声を届けて来た・・・それは多くの人間に聞いて欲しいからだと思うけどそれだと離れている人物には届けれない・・・そうじゃなくて本当に意識的にその人物だけに届けるつもりで歌うんだよ・・・そしたらその声はまるでレーザーの様に一直線に飛ぶ・・・例えどんなに距離があろうとも関係ない・・・ただこれを実行する為には相当の声量が必要だし生半可な歌い方じゃダメだ・・・アンタの本気の歌で出来るかどうか・・・アタシもじっくりと見せてもらうよ・・・】そう言ってその鳥の置物は消えた。
「声を一直線に飛ばす・・・やってみる!」そう心音は言うと、爆炎から別荘の外に飛び出して上空を飛んでいる戦闘機を睨み付けた。そして、
「ワーーーーッ!!!」って思いっきり声を出した後で一呼吸深呼吸して、
「空を飛んでいる人工で作られた鳥さん。私の歌を聞いて下さい」
そう言って上空を見ながら⦅この世界で生きる意味⦆を歌い出した。
「ん?あの女の子が浅井心音か?何か歌っている風に見えるが気でも触れたか?こっちは何キロも離れた上空だぞ・・・眠く・・・なる・・・はずが・・・あれ・・・何か・・・おかしい・・・ぞ・・・そんな・・・バカな・・・徐々に眠気が・・・ダメ・・・ダメだ・・・ダメだ・・・」
神宮寺徹平はそう言いながら操縦桿を持ったまま眠ってしまった。そしてそのまま地面に衝突した。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・や・・・やった・・・やったよ・・・皆んな・・・西条さん・・・仇・・・取った・・・からね・・・」
心音は全身で力強く声を出した影響で全身に疲労感がぐったり出ていた。そしてそれと同時に先程の別荘の爆発で受けた傷や痛みが身体中に走るのを感じていた。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・痛い・・・痛いよ・・・でも・・・まだ終わりじゃない・・・皆んなを・・・助けない・・・と・・・」
そう言って身体を引きずりながらどこかに電話を掛け出した
「もしもし・・・ドクター・・・今すぐ場所送るんで来てもらえますか?・・・皆んな重傷です・・・場所は・・・」
それだけ言うと心音は気を失った。そして気を失いながら心音は横目で別荘の燃え上がっていく様子のことを眺めていた。そして遂に過去のことを思い出した・・・
「心音さん!」不知火は馴染みの病院のベッドで目を覚ました。
「おや?気付いたんですね不知火さん。高坂さんと斉藤さんも目を覚ましてますよ」
そうドクターが不知火に言った。
「一体誰が?いやそんなことより心音さんはどこに?」
そう不知火はドクターに尋ねた。するとドクターは、
「心音さんは・・・もうここにはいない・・・数日前に意識を取り戻して、貴方に置き手紙を残してここを去って行きました」
そう言ってドクターはそっと不知火に心音からの手紙を渡した。手紙にはこう書いていた。
『不知火さん。黙って出て行くことを許して下さい。今回のことでよくわかりました。私は殺人者であること。この国に害を成す存在であること。そしてそんな私と一緒にいる人は次々に不幸になることを。西条さんも私と出会わなければ死ななくて良かったのに・・・全部私のせいです・・・だから私はみんなの元から去る事にします・・・今まで本当にありがとうございました』
不知火はその手紙を読んだ後で、横のベッドにいた斉藤と高坂に、
「斉藤!高坂!お前達はこのままでいいのか!あんな二十歳の少女にここまで気を使わせて!俺は嫌だぞ!絶対嫌だ!何て思われても構わない!俺は心音さんに従うって決めたんだから!お前達はどうする?」
そう呼び掛けた。すると斉藤は、
「不知火さん・・・もう俺達にはどうしようも出来ない・・・ここどこかわかってますか?いつもの病院ではないんですよ?」と不知火に話した。
「どういう意味だ?」不知火は困惑していた。すると高坂が、
「ここは警察病院です・・・俺達はもう捕まったんです・・・そしてそれこそが心音さんが望んだことなんです!」と声を上げて不知火に言った。
「は?高坂―――!何を言ってやがる!ドクターもこうやって俺の前にいるし・・・」
そう言いながら不知火は違和感に気付いた。確かに良く見るといつもの馴染みの病院にしてはその病院は綺麗だった。
「・・・さっき話したが心音さんは数日前に目を覚ました。そしてワシにお願いして来たんじゃ。『私・・・これから神宮寺誠亮を殺しに行く。西条さんの仇取らなきゃだから。でも皆んなの身が心配。だからお願い。このまま警察に保護されて下さい。通報は私がしといたから。ドクター皆んなを宜しくお願いします。それとドクターのお陰で私全部思い出せました。神宮寺誠亮を殺したら私は過去の清算をしに行きます。もうそうなったら私も本当の殺人者になるから。だからそうなってから私も警察に行くから。そんで今までの罪を償うから。それじゃーそれまでドクター元気でね』そう言って心音さんは出て行った・・・それから数日後・・・神宮寺誠亮が殺されたってテレビで速報が流れたよ・・・あの子は・・・本当にたった一人で仇を打ったんじゃな・・・」
そう言ってドクターは大粒の涙を流しながらそう言った。そのドクターの話に不知火も斉藤も高坂も悔しさを滲ませながらただ黙ることしか出来なかった。
(心音さん・・・俺はアンタが殺人者だろうと何をしようと関係ない。だから生きてまた再びこの不知火の前に現れて下さい。俺は今度は刑務所で貴方に仕えますから・・・)
数日前。神宮寺財閥のビル。悲しい歌声がビル中を包む。その歌声の前には何も意味が無い。銃も屈強な男も。ただ鍵を持つだけのただの抜け殻。そうしてそのビルの中を新しいギターを手に少女は上がっていく。一段一段と。ただ淡々と。誰にも気づかれずに。ただ淡々と、
そして少女は辿り着く。最上階に。少女は普通にドアを開けた。そして、
「神宮寺誠亮。アンタには死を以て償ってもらう」
そう言ってドアを開けてすぐにその少女は持っていた拳銃をその男に突きつけた。
「なるほど・・・これが噂の能力か・・・ワシの部下全滅か・・・中々の能力じゃな」
そこに座っていた男は覚悟を決めたのかその少女に淡々とそう話し掛けた。
「戦闘機すら落とす能力か・・・人在らざる者じゃな・・・それでワシを殺してどうする?ワシを殺してもお前を狙う者はただ増えるだけじゃぞ・・・そしてその先に待つのはただの地獄じゃ」
そうその少女に言った。するとその少女は少し微笑んで、
「アンタを殺して過去も精算したら私はもう自首するわ。それが私のせいで無くなった西条さんが望んでいることだから・・・だから・・・」
そう言うとその男の頭に向けて拳銃を放った。そしてその死体に向けて冷たい表情を見せて、「アンタも死を以て償え」とだけ言い放ちその部屋を出て行った。
翌日。その速報は世界中を駆け巡る。
【神宮寺財閥のドン神宮寺誠亮銃による脳挫傷により死亡】
【監視カメラの映像から容疑者浅井心音が浮上】【警察が国際指名手配を決定】
【浅井心音は神宮寺徹平が戦闘機で事故死した件と、別荘爆発事件及び西条警視総監の孫の西条真二が死亡した事件にも関与か?】
連日連夜そのニュースが流れた。
「浅井心音はとても危険な人物だ!警察の威信を掛けて必ずこの少女を捕まえる!」
警視総監である西条圭一が警視庁でも異例の集会をして全員にそう呼び掛けた。
その翌日。藤田は事務所に呼び出されていた。
「藤田さん・・・今まで私は貴方の功績を知っているからこそ。多少の無茶は聞いて来ました。ですが、貴方の担当である浅井心音さんに今国家転覆を企むテロリストとして、また多くの人間を殺した罪で、国家に追われている犯罪者となってしまってます。これは今まで知らなかっただけでは済まされない案件です。よって貴方を解雇することにしました」
事務所社長は淡々とそう藤田に告げた。藤田はその言葉に動揺を見せることもなく、
「わかりました。今までお世話になりました」
そう言った後で、深く頭を下げて事務所を後にした。
「ちょっと!話し違うじゃん社長!アタシ藤田さんと付き合いたくて色々頑張ったのに!」
その様子を陰で見ていた女性がいた。明日香だ。
「明日香ちゃん・・・仕方ないじゃんよ・・・浅井心音に殺人の容疑がかかった以上、誰かが責任取るのは事務所として当然なのよ・・・」社長はそう明日香に説明した。
「ふん!藤田さんを独占する為に、凪沙と乙音に協力してもらって浅井心音を・・・」
その先を言おうとした明日香に向かって社長は急に怒りながら、
「それ以上は言うな!誰が聞いているか知らないだろ!あの事件はただの事故だ!事故!」
そう明日香に叱責した。その言葉を聞いて明日香は黙ったままその部屋から出て行った。
それから数日後。新庄はある人物の尋問をしていた。不知火亮一だ。
「お前の言う事が本当なら、浅井心音は後は過去の清算だけをしたら出頭してくると。そう言うことか?」「ああ。同じ事何度も聞いて来んなよ」
「それで過去の精算ってのは何の事を言っているんだ?」
「俺もそれは知らない。ただドクターが言っていたが、心音さんは過去に酷い仕打ちを受けたせいで、その記憶をずっと脳が閉ざしていたらしい。だから過去の心音さんの出来事を調べたら何のことかわかると思うぜ」そんなやりとりを新庄と不知火はしていた。
「しかし、なんでそんなにベラベラと話すんだ?浅井心音の部下じゃ無いのかお前は?」
新庄は当たり前の疑問を不知火にぶつけた。すると不知火は少し鼻で笑った後で、
「・・・信じているからこそさ・・・そしてお前達じゃ心音さんは絶対止めることは出来ない。ただ心音さんは自分に正直なだけ。だから嘘は付かない。だからこそ心音さんが自首するって言ったらどんな形であれ自首するんだよ。でもそれは心音さんの意志が無いと出来ない。だから俺達人間は所詮信じることしか出来ないんだよ。だから何も隠す事も無いって事だ。ただ一つだけ言うなら、西条真二が死んだのだけは俺達のせいじゃない!あれは事故死した神宮寺徹平のせいだ!お前達警察はその事実を捻じ曲げた!だから心音さんがここを襲撃してもそれはお前達のせいだからな!」そう声を荒げて新庄に言った。
「・・・それも計算の上・・・全ては警視総監の指示だからな・・・そして警視総監は全てを知っている・・・その上でこの作戦に参加してくれている・・・自らの命も掛けてな!」
新庄は淡々と静かにそう不知火に言った。その言葉に不知火は舌打ちだけした。
その後で、部屋を出た新庄はどこかに電話を掛け出した。
「立花さん・・・ええ・・・浅井心音の過去についてちょっと聞きたいのでどこかで会えませんか?」
それからしばらくして新庄は立花と約束した場所で合流した。そして新庄はさっき不知火から聞いた話を立花に伝えた。
「なるほど・・・確かに浅井心音の過去の事件でうやむやのまま終了となった事件があるな・・・俺も詳しくは知らないからその当時の浅井心音の調書があるからちょっと見に行くか」そう言って立花は新庄を自分の所轄まで案内した。そして資料室から調書を取り出して来て自分も見ながら、新庄にも見せた。そして二人はあることに気付いた。
「・・・これ・・・おかしく無いか・・・⁉︎」
「ええ・・・おかしいですね・・・そしてこの事件にはとんでもない裏がありますね」
そう言って二人は藤田に自分達が思った違和感を伝えた。
藤田は最初その話を信じてはいなかったが、二人の熱意にも嘘は無いと思い、
「わかりました・・・それではその場所で合流しましょう・・・私もこの事件の真実が知りたいと思っていたので・・・」
その日の夜。三人はとある場所を訪れていた。そこは藤田が元々勤めていた事務所だった。
「おや?藤田さん?今日は何の用ですか?それにこちらの方々は?」
事務所の社長が藤田にそう言って来た。すると二人は警察手帳を見せて、
「俺は刑事の立花真司だ」「私は公安の新庄警部補です」
そう社長に言った。社長は少し戸惑い、
「警察の方が何の用ですか?確かに浅井心音はうちに所属してましたが、容疑者になったことで正式に解雇しましたが・・・」そう三人に答えた。
「確かに浅井心音の事を聞きに来たのは間違いないが、実は今回はちょっと違っててね」
「ええ。そもそもの全ての始まりかもしれない浅井心音の住居爆破事件についてちょっと気になることがありまして、その確認の為に今日は訪れさせて貰いました」
立花と新庄は事務所社長にそう言った。その言葉に明らかに事務所社長は動揺しているのが見えた。更に二人は話しを続ける。
「おかしいんだよね。この事件。俺も直後の現場見た訳じゃなく調書でしか見てないんだけど・・・被害者浅井心音の症状さ。全身火傷はわかるとしても喉の炎傷ってちょっとありえないんだよ・・・だって喉にだけ集中的に火傷するって口でも開けて火を喉奥に突っ込んだりしない限り有り得ないんだよ・・・それで思ったんだけどさ・・・この事件もう一つ事件あるよね?そしてその隠蔽方法がこの住居爆発なんじゃないの?」
「そもそも自殺するにしても事故だったにしても、この住居のガス爆発だとこれだけの被害で収まる訳がありません。なのに何故それだけ酷い事故で浅井心音さんは全身火傷で生きてたんでしょうか?当時の手術を担当した医者にも確認しましたが、見た目には酷い全身火傷の様に見えていたけど、実は喉以外の火傷自体はそこまで酷くなかったそうです。だから皮膚の全身移植だけで綺麗な身体に戻った。顔も含めてです。これはどういうことなんでしょうか?」
立花と新庄の追及とも思われる問い掛けに、社長は冷や汗が止まらなくなっていた。
更に二人は問い掛け続けた。
「そして今回の事故における最大の謎が、浅井心音がその時の記憶が無いということだ。じゃーどうやって記憶を無くした?調書には誰かに殴られた後は無いと書いていた。じゃーどうして脳の記憶が飛んだ?」
「そもそも今回の様な事故だけでは記憶は飛びません。その前に頭が吹っ飛んでます。そして記憶を閉ざすということは、とても酷い事をされないと起こらないと言われています。でもその人物にとって浅井心音の記憶を飛ばす為に、何か酷いことをわざわざするというのはただの賭けです。そんなことそこまで強かな人物が本当に行うでしょうか?つまり浅井心音は記憶が飛んだのではなく、何らかの方法によって無理矢理飛ばされていた。そう例えるならまるで酩酊状態の様な。つまり浅井心音は第三者に無理矢理高い度数のお酒を飲まされていたと推測されます。それも無意識の状態で」
そして立花と新庄は声を合わせて社長に向かって言った。
「つまり浅井心音は、第三者によって無意識な状態で酩酊状態にされてから喉を焼かれた。そしてその後でその人物は住居を爆発させた。ただ何らかの方法で浅井心音の全身だけが少し焼ける様に仕向けたってことだ(です)」
その立花と新庄の追及で社長は明らかに動揺を見せた。そして、
「そ・・・それが本当だったとして・・・そのことと私に・・・何の・・・関係が・・・」
社長はそう二人に向かって動揺を見せつつ言った。社長のその言葉に怒りが抑えれなくなった立花は社長の胸ぐらを掴み、
「おい!社長さんよ!これが通り魔やストーカーとかそういった類に出来ると思ってんのか!ここまで計画的に行うならまずは浅井心音のスケジュールを完全に把握しとかないと無理なんだよ!そして何よりも浅井心音の家に自由に出入り出来ないと絶対不可能だ!そんなこと素人でもわかるだろ!だからこの犯人は身内。それもあんたのとこの人間しか出来ないってことだ!そしてあんたはその犯人を知っている!違うか!」
そう大声を上げて社長を怒鳴りつけた。その立花の迫力と言葉に観念した社長は、
「し・・・仕方なかったんだ・・・全部・・・浅井心音のせいだ!俺はただ知恵を貸しただけだ。実行したのは俺じゃない!」
そう三人に向かって大声を上げて言った。その言葉に耳を疑った藤田は、
「社長・・・それってどういう意味ですか・・・⁉︎」と社長に尋ねた。すると社長は、
「・・・浅井心音に言われたんだよ・・・『もうここを辞めたいってな・・・そして自由になって好きなところで好きに歌いたいってさ・・・なんかもう色々疲れた』ってさ。当然俺は色々な言葉で繋ぎ止めようとしたよ。でも一切聞く耳持たなくてさ。しかも言う事言った後で浅井心音は、『そのうち藤田さんにも話しします。そして藤田さんには私に付いて来てもらいたいと思っています。その時はまた改めてお願いしに来ます』って言うわけさ。流石にバカにしてると思ったよ。
で、その話をしたらそいつが、『じゃー浅井心音には死んでもらおうよ。私もあの子とても邪魔だって思っててさ。藤田さんは私の物なのにさ。連れて行くなんて絶対許せないから』って。だから俺は、『殺したらダメだ。そしたら間違いなく事務所の信用が無くなる。殺すんじゃなくて潰す。例えば浅井心音を二度と表舞台に立たなくさせれることがもし出来たら。そしたら辞めてもうちに被害はない』って言ってしまったんだよ。そしたらそいつ本気になっちゃって、『じゃー例えば歌えなくさせちゃえばどうかな?』なんて言うからまさか本気じゃないよなと思いながらも色々アドバイスしてしまったんだよ。
そしたらそれからしばらくして浅井心音の住居ガス爆発事故のニュースが流れて来たから俺は蒼ざめたよ。その手口こそが、俺がそいつと話した内容と酷似していたから。すぐにそいつに確認したよ。そしたらそいつ笑いながら『そうだよ。私がやったんだ。これで藤田さんは私が独占出来る』ってさ」
そう言って、住居ガス爆発の真実を藤田に話した。そのあまりにも身勝手過ぎる内容に、藤田は怒りを抑え切れずに社長を思いっきり殴り付けた。そして、
「ふ・・・ふざけんなよ!お前のそんなくだらない理由でこの世から伝説になる予定だった少女がその歌を奪われたんだぞ!お前はその意味がわかってんのか!心音は・・・心音は・・・ただ皆んなにもっと歌を聞いて欲しくて・・・そしてもっと自由に歌いたくて・・・だから自由になって色んな人に歌を届けようとしていただけだ!それをお前は!お前は!」
そう言ってもう一発殴ろうとしたところを立花が制した。そして、
「藤田さん。あんたの怒りはわかる。でも今は優先しないといけないことがある。こいつを殴るのはそれからにしてくれ」
「殴る事自体ダメなんですが・・・まあそこは少しだけ目を瞑ります」
立花と新庄はそう言って藤田の気持ちを宥めた。藤田はその二人の言葉を聞いて少し落ち着きを取り戻した。そして立花はその藤田の様子を見た後で社長の胸ぐらを掴みながら、
「アンタの罪は罪として後で署で聞くとして今大事なのはそっちじゃない!あんたそれ誰に話した?誰が実行した?それを言え!」と社長に尋ねた。すると社長は、
「・・・明日香・・・明日香だよ・・・俺は明日香のパパみたいなことをしていて、それで明日香から度々藤田と付き合える様にお願いされてたんだ。だからあいつは藤田、お前の為に浅井心音を襲撃したんだよ!」
そう藤田を睨みながら言った。藤田はその言葉を聞いて膝から崩れ落ちた。そして、
「俺の・・・せい・・・⁉︎・・・俺のせいで心音は歌を奪われたのか・・・⁉︎」
そう小声で呟きながら項垂れた。その藤田を立花が宥めている間に新庄が社長に話しを切り出した。
「恐らく浅井心音は記憶を取り戻しました。それはある人物からの証言からも間違いありません。そして浅井心音は復讐をしようとしています。明日香さんは今どこにいますか?連絡は取れませんか?」そう言って社長を問い質した。
「確か今はマネージャーと一緒にいるはずだけど・・・」
社長は新庄の問い掛けにそう答えた。すると新庄は、
「今すぐマネージャーもしくは本人に電話して下さい。それと恐らく明日香さんには共謀者がいるはずです。そしてそれは恐らく身近な人物です。その人達も危険です。その方達にも今すぐ連絡して下さい!」そう社長に告げた。社長は急ぎ電話を掛けまくっている。
「・・・ダメだ・・・誰も電話に出ない・・・明日香も・・・凪沙も・・・乙音も・・・そしてそのマネージャー達も・・・どういうことだ・・・⁉︎」
社長はその今の状況に困惑している。その様子を見て新庄は、
「社長さん!その三人のGPSを見せて下さい!」
そう言って社長にその三人のスマホのGPSを追う様に指示を出した。
「・・・これは・・・どういうことだ・・・⁉︎」
社長はそのGPSを見て驚愕した。その三人のGPSは同じところを指していた。そしてその場所は浅井心音の元の住処。つまり例の住居ガス爆発事件のあった場所を指していたのだった。
「何でこんなところに⁉︎」社長はその意味がわからなかったが、立花と新庄はその意味を即座に理解した。そして、
「緊急連絡緊急連絡!浅井心音が自分が元々住んでいた住居に三人の女性を囲っていると思われる。住所は東京都〇〇◯・・・。直ちに捜査官は向かって下さい。尚、浅井心音は拳銃を使用している可能性あり。この為拳銃所持を認める。また、浅井心音は特殊な能力を持っている。決して固まって動かず。遠くから囲う様に向かって下さい。また遠くから狙撃班を待機させていざとなったら麻酔銃で射撃をして下さい。以上」
そう言って新庄は指示を出した。立花は、
「行くぞ藤田さん!浅井心音はアンタが止めるんだ!これ以上誰も殺させるな!」
そう言ってへたり込んでいる藤田を後ろから叱責した。その言葉に藤田は我を取り戻し、
「はい!行きましょう!」と言った。そして藤田と立花と新庄は社長を残してその場を後にした。
その同日。某所。そこには三人の若い女性が目隠しをした状態で何者かに縄を縛られた状態で椅子に座らされていた。そして三人は目を覚ました。
「ここは一体どこ?」「あれ?何で目隠しして座らされてんの?」「誰?一体誰なの?」
その声に反応するかの様にその目の前に座っていた若い少女が口を開いた。
「おはようございます。先輩方。今日はお礼をしにやって参りましたよ」
そう優しく答えた。その声に三人は震え上がった。
「心音ちゃん⁉︎」「嘘⁉︎何で⁉︎」「何で心音ちゃんがこんなことしてるの?」
そう三人は口々に答えた。すると心音は、
「何ででしょう?わかりませんよね?私もまだ完全に思い出した訳ではないのですが」
そう座ったまま優しく話していたと思うと急に立ち上がって身も凍る様な冷たい声で、
「でも・・・貴方方ですよね・・・私から声を奪ったの・・・」
そう三人に向かって言った。それはまるで悪魔の様な語り方だった。その心音の言葉に三人は更に震え上がり、
「わ・・・私じゃない!私はちょっと協力しただけ」
「私も違う!私も脅されて仕方なく協力しただけよ」
「違う!私も違う!だから殺さないで!」
そう三人は口々に答えた。すると心音は低い声で、
「そうですか・・・じゃー仕方ないですから三人共死んでもらいましょうか・・・」
と言った。その言葉を聞いて、
「・・・明日香よ!明日香が全部計画したの!私はお金で雇われて少し協力しただけ!」
そう凪沙が言った。するとそれに呼応するかの様に、
「そうよ明日香さんです!全ての計画を立てたのは!私はちょっとファンと裏で繋がってしまって・・・それをネタに脅されて・・・それで仕方なく協力しただけです!信じて下さい!」と乙音が言った。するとその二人の告発に焦った明日香が、
「アンタ達!裏切ったわね!覚えていなさい!」と二人に対して怒った後で、
「ごめんね心音ちゃん!でもあれは事故!事故なのよ!ほらあんまり覚えてないでしょ?あの日心音ちゃんお酒飲みすぎて・・・それでその後でガス爆発が起こって・・・それで煙吸い過ぎて喉が潰れたんだよ!だから私のせいじゃない!信じて!」
そう言って心音に向かって嘆願した。心音はその言葉を聞いて、
「・・・そうですね・・・じゃー実験してみましょうか!」
と、とびっきり明るい声でそう言った。そして周りにいた、自分が金で雇った人間達に何かを用意させた。その様子を見て明日香だけは反応し、恐怖を感じていた。その様子を見た心音は明日香に向かって、
「明日香さんは元看護師だからもちろん知ってますよね・・・アルコールを体内に入れるとどうなるかは・・・軽い酩酊状態に一気に落ちるワケですよ・・・」
そう笑顔で話したかと思うと、それが合図だったかの様に、三人の腕を雇われた人物達が固定し、一人ずつ別の人間が注射をし始めた。
「や・・・やめ・・・て・・・」三人はそんな声にならない声を上げながら意識を失った。
そして次の瞬間、心音は雇った人間に次の指示を出し、その意識の無い三人の口に度数の高いスピリタスを含ませて、顔が下に向かない様に机の上に三人の顎を乗せて、口がやや上に向く様にさせた。そしてその三人の口をテープで縛らせた。そして雇った人間にガソリンを撒き散らさせた後で、事務所を出た。そして火を放った。
その次の瞬間。炎が一気に燃え広がった。その様子を見て心音は事務所を後にした。
(バイバイ・・・私を育ててくれた事務所・・・そして・・・)
その頃。多数の警官と藤田と立花と新庄は、GPSの通りに心音の住処まで来ていた。そしてその光景に驚愕していた。そこには三個のスマホがあるだけだった。
「クソッ!やられた!」立花は悔しい声を滲ませてそう叫んだ。
「・・・本当・・・どんどん厄介な存在になってますね・・・」
立花はその状況を見ながら落胆しながらそう言った。
「そ・・・そんな・・・それじゃー・・・心音はどこに・・・⁉︎そして三人は⁉︎」
藤田は目の前の状況を見ながら膝から崩れ落ちてそう呟いた。
その直後だった。緊急無線が入る。
【都内某事務所にて火災発生。現在賢明な消火活動が行われれているとのこと】
その無線を聞いて三人は蒼ざめた。そして三人共が悪い予感を感じていた。
そして三人はすぐ様、その現場に向かったのだった。
そして、その燃え盛る現場で、三人はその悪い予感が的中してしまったことに落胆した。
翌日。若い女性三人の焼死体が見つかった。
その場所は心音が以前所属していた事務所だった。心音は三人からスマホを奪った後で、それをまず自分の元の住処に置いた。そして、藤田、立花、新庄、警官数人に連れられた社長が出て来るのを、事務所の近くの車でじっと待っていたのだった。そして出て来たのを確認した後で、自分が雇った何人かに事務所まで運ばせて犯行に及んだのだった。
「・・・守れなかった・・・俺のせいで・・・三人の尊い命を心音に奪わせてしまった・・・」
藤田はその三体の焼死体を見ながら悔しさを滲ませてそう言った。
「藤田さん。アンタは何も悪くない・・・」立花は藤田の肩を叩きながらそう言った。
「起きてしまったことは仕方ありません・・・浅井心音の方が我々よりも上手だったってことでしょう・・・しかし・・・もし不知火の話しが本当なら、浅井心音はこれで自分の目的は全て達成したことになります・・・そうなると・・・この後自首してくるということですが・・・本当に自首してくるのでしょうか・・・私にはまだ半信半疑です・・・」
新庄がその焼け焦げた現場を見ながらそう二人に向かって話し掛けた。
「・・・信じるも何も・・・今の浅井心音はもう誰にも止められない・・・本人の自首を待つしか・・・俺達にはもう打つ手がないんだから・・・」
そう立花は自らの無力を嘆きながら言った。
(心音・・・もう充分だろ・・・もう・・・そろそろ姿を見せてくれ・・・もうこれ以上罪を重ねないでくれ・・・)
同時間。某ホテル。浅井心音はそこにいた。そして今目を覚ました。
「うーーーん・・・よく寝たーー・・・さあ起きて支度したら・・・警察署に行かないとね・・・不知火さんとも約束したし・・・」
そう言って布団から飛び出して洗面台の前に心音は立った。その直後だった。心音の心臓が突然異常活動を始めた。そして心音は激しく吐血した。その量が余りにも多かった為、心音は軽い貧血状態になった。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・い・・・今の・・・な・・・何・・・何で・・・私・・・か・・・身体の中が・・・何か・・・おかしい・・・⁉︎」
心音は急に起こった出来事に理解が出来なかった。するとその心音の状態を見たのか見ていないのかはわからないが急にあの鳥の置物が心音の眼の前に現れた。
【おやおや・・・ついに限界が来たようだね・・・まー人間にしては中々長い間頑張ってたと思うけど・・・そろそろ終焉だね心音】
その鳥の置物はそう心音の心に語り掛けてきた。その言葉を聞いて満身創痍の心音は振り絞る様な声で、
「終焉?セイレーン!一体どういうことなの⁉︎」と言った。すると鳥の置物は、
【・・・私の血は・・・いや能力は人間には負荷が強くてね・・・だからその反動がどうしても大きくてね・・・アンタの身体はもうそれに耐えきれなくなってきてるってことなんだよ。まー恐らくだけどアンタは後もう一日・・・いや本気の一曲が限界ってとこなのかもしれないねぇ】
そう心音の心に淡々と語り掛けて来た。その言葉を聞いて心音は膝から崩れ落ちてしまった。そして、
「そ・・・そんな・・・そんなことって・・・」そう言いながら少し項垂れた後で急に立ち上がったと思うと、
「・・・でも・・・これでようやく・・・龍一さんの元に逝ける・・・それは少し嬉しいことだから・・・でも・・・どうせ死ぬなら最後は華々しく散りたい!」
そう言いながら自身の置かれた立場を冷静に考えて、前を向くことを心音は決意した。そして今まで絶対連絡取らないと決めていた人物に心音は電話を掛け出した。
「もしもし・・・お久しぶりです・・・心音です・・・」
その非通知の電話の相手に藤田は驚愕した。その電話の相手はもう二度と電話が掛かって来ると思っていなかった心音だったからだ。
「心音・・・今どこにいるんだ?自分が今まで何をしたかわかっているのか?とにかく今すぐ会いたいから今いる場所を教えてくれ」
藤田はそう心音に話した。その問い掛けには一切答えずに、心音は藤田に更に話しを続けた。
「急なお願いなんですが・・・私近々死ぬそうです・・・だからその前に最後のライブがしたいと思って連絡しました。私の方でもネットに書き込みはしますが、藤田さんにもそのライブに来て欲しいと思っています。そして私の最後の勇姿を見て下さい。それでは。」
それだけ言うと心音は一方的に電話を切った。
「心音!心音!」もう藤田の声は何も届かなかった。
それから心音はネットに書き込みを始めた。
『Kanade こと浅井心音。明日最後の一曲だけのライブを行います。時間はお昼の0時頃開演で、場所は・・・です。私の歌で眠りたい人。眠らせたい人がいる人。また、私を殺そうとしている人。私を恨んでいる人。誰でも参加自由です。私の最後の舞台を見に来て下さい・・・ただ邪魔をしに来る人はそれ相応の覚悟できて下さいね』
心音がネットにそう書き込むとその書き込みに対して多くのリプライが届いた。
『どうせガセネタだろ』『浅井心音は今や国家の敵だぞ。こんなライブをするわけがない。大体何の意味があるんだ?』『例えガセでも心音様だと信じて私は行く』『こんなところでライブをするなんて言うのは心音様しかいない!』『バカな!こんなとこでライブするなんて馬鹿げてる!絶対ガセだ!』『〇〇TVです。当日は必ず行きます!最後のライブ撮らせて頂きます』『ガセとか関係ない!ここでライブするなんて奴がいるならそれは見にいくべきだ!』『こんなの警察への宣戦布告以外考えられない!』『これは絶対心音様だ!心音様を崇拝する人間なら絶対行くべきだ!』『心音様がついに国家を倒す時が来た。自分の命なんか関係ない!その舞台を俺もこの目で見たい!』『生だ!生で心音様の歌が聞ける!絶対行く!』『眠りを誘う歌。身を持って体験してみたい!行く!』
そんな数多ある声がその書き込みに寄せられ一日にしてその日の話題を掻っ攫った。
そして、それは当然メディアにも届き、そして警察にも届き、国家にも届くこととなった。
その日のニュースはこの話題で持ちきりとなった。
【浅井心音と名乗る人物が明日ゲリラライブをとんでもないところで開催!】
コメンター達も、『バカげてる』『これが本当だとしたら国家は意地でもこの開催を止めに来るでしょう』『私はちょっと見てみたい気もします。だって誰もこんなことしたことも成功したこともないですし。テロっぽいですが歌を歌うだけならちょっと見たい気持ちもあります』等意見が様々だった。
だが、メディア程楽観ではなく、警察と国家はこの書き込みにイラつきを抑えられなかった。
「諸君!明日のライブだけは絶対阻止だ!この開催を阻止出来なかったら警察の恥だ!明日こそ浅井心音を必ず逮捕するぞ!」
西条圭一警視総監は警視庁で幹部クラスを一同に集めた臨時集会でそう全員に発破をかけた。その中には今回の浅井心音事件を最初からずっと受け持っている新庄もいた。
同時刻。神宮寺護防衛副大臣が誰かと英語で話しをしていた。
(俺が神宮寺家最後の人間として、如何なる手段を用いても浅井心音は殺す!その為に海外から優秀な狙撃手を雇った。浅井心音。今度こそ神宮寺家の名の元お前を殺す!)
同時刻。立花は取調室に不知火を呼んでその書き込みを見せていた。
「どういうことだ⁉︎心音さん自首するんじゃなかったのか⁉︎いやそれよりも最後ってどういうことだ⁉︎」そう言いながら不知火はは酷く動揺した。その様子を見て立花は、
「・・・やはりか・・・お前も知らないってことはこれは単なる心変わりって話しでもなさそうだな・・・」そう不知火に言った。すると不知火は少し落ち着きを取り戻して、
「・・・ああ・・・心音さんが最後だって言ってる意味は俺にはわからない・・・それに一曲歌ってから自首するってんならあんな場所を選ぶ必要も無いし・・・あの場所で歌うってことが何か心音さんのメッセージだとするなら・・・⁉︎」
そう言うと不知火は急に立ち上がって取調室を出ようとした。だが、間一髪のところで立花がそれを制した。
「クッソーーーー!最後の舞台なのに俺は見に行けないのか!最後くらい心音さんに会わせろーー!」倒された体勢から不知火はそう立花に叫びながら言った。
「不知火!お前をここから出す訳ねえだろ!お前はここで大人しくしてろ!」
立花はそう言いながら、不知火を他の警察官に引き渡した。
(最後か・・・事情はわからないが・・・一曲歌って終わりにしようってんなら・・・俺もアンタのラストライブに付き合おうじゃねえか)
そんな様々な思惑を知ってか知らずか、心音は一日中発声練習をしたり衣装になりそうな服をネットで買って宅配させたりしていた。
(よしっ!準備万端!さあ明日は私の最後の舞台だ!悔いのない様にしなくちゃ)
心音はそんなことを思いながら寝床についた。
翌日ライブ当日。その場所には何時間も前から多くの野次馬や警察がごった返していた。
そして上空にはヘリコプターも飛んでいた。ここはこの国の中央機関。国会議事堂前。
普段はデモでも起こらない限り人がごった返すなんてことはありえない場所。だが心音はここをラストライブの場所に選んだ。その理由はとても簡単で、国家に反逆する意思を見せるとかそういうことではなくて単純に多くの人が集まってもそこまで危険にはならなくて、それでいて誰もが来ることが出来て、必ず中継もされるだろうと思ってのことだった。
だが、その心音のその判断が色々な人達には到底受け入れられはしなかった。
開催数分前。周辺には多くの警官と多くのバリケードが出来上がっていた。例え心音の歌で眠ってもこれ以上は進ませないという決意のバリケードだった。
「総員配置完了しました!浅井心音はこの中には絶対入れされません!」
捜査員の一人が新庄にそう言った。その様子を西条圭一警視総監も設置された監視カメラのモニターで見ていた。
その時だった。どこかから歌声が聞こえて来るのが新庄にはわかった。
「来たぞ!・・・浅井・・・心・・・音・・・だ・・・」
その歌声はとても遠くで聞こえているはずなのに新庄はとても身体が怠く感じているのを感じていた。そして自分が睡魔に襲われ出していることも自覚していた。新庄は急ぎ持っていたペンを腕に突き刺した。その痛みで眠気は少し飛んだ。
新庄が周りを見ると、既に周りに数多いた警察官は全員眠っていた。新庄は一度心音の歌を聞いていたのもあって少し耐性が出来ていた様でギリギリで踏ん張れた。
ただ新庄は同時に恐怖を感じていた。それは今回は姿も見えない状態からの歌声なのに警察官が全員眠っていたからだ。そしてそんな状態なのに野次馬達は誰一人眠っていない。
その異様な状況に恐怖していた。
(・・・間違いない・・・浅井心音は・・・警察官だけ狙って眠らせてる・・・こんなこと以前は無かった・・・浅井心音の能力は進化している⁉︎)
そんなことを新庄が思っているとどこかからか銃声が聞こえた。野次馬達は一斉にその射撃音を聞いて伏せた。だが、その銃声から血が流れる音はしなかった。
「WHAT! SHIT! 」その銃弾を放ったスナイパーと思われる人物がそう叫んでいる。
続いて別の建物から何者かがまたその方向に向かって銃弾を放った。今度はロケット弾だった。野次馬達が伏せた上を通っていった銃弾はその人物にヒットした。
「YEEEAAA!」その銃弾を放ったと思われる人物がそう雄叫びを上げた。だがその刹那その人物はとてつもない眠気に襲われていることに気付いた。
「・・・OH・・・NO・・・」そしてその人物は眠りに落ちた。それと同時にさっき銃弾を放ったスナイパーも眠りに落ちていた。
その異様な光景に隠れていたスナイパー達はそれぞれの武器で一斉に銃弾を放った。だがその後同時に全員眠りに落ちた。
そしてその銃弾が被弾したと思われるところから一人の少女が現れた。心音だ。
その姿に野次馬は歓喜と歓声に沸いた。その中には泣き出すものもいた。そして何人もがその目の前で起こった奇跡の力を目の当たりにして興奮した。そんな中で心音が口を開く、
「えっとー・・・初めまして・・・かな・・・浅井心音です・・・ちょっと色々あってお尋ね者?みたいな感じになってちょっとした有名人なのかな?なんて」
その辿々しくも初々しい話し方に野次馬は更に歓声を上げた。そして、心音が話しを続ける。
「えっとー・・・まー色々あって私恐らく次歌ったら死んじゃうかもなんだって・・・けどまーもう色々経験したし・・・もうそれでもいいかなって・・・だから最後に一曲歌おうと思いました・・・」
その心音の言葉に何人かが動揺し叫び出した。
「嫌だーーー!心音様死んじゃやだー!」「心音様無しじゃ生きていけない!」
そんな声の中、心音が語り出した。
「皆んな・・・ありがとう・・・こんな私のことをそんなに思ってくれて・・・でもこの世界もそんな捨てたもんじゃないよ!確かに色々辛いこともあるけど・・・でもそれでも皆んなこの世界で生きているなら・・・それは何か意味があることなんじゃないかなって・・・私は思ってる・・・だから・・・皆んなもそれぞれ意味を見つけて生きていって欲しい・・・」
そう自らの信者と思われる人達に向けて言った。そして、
「・・・でも今だけ・・・そう今だけは・・・何もかも忘れて一緒に眠りましょう・・・そしてその後で・・・貴方の人生が輝きます様に・・・それでは聞いて下さい・・・
⦅この世界で生きる意味⦆」
心音の最後のライブが始まった。ただ今回の心音の歌は今までとは違っていた。誰も心音の歌を聞いて眠っていなかったのだ。ただ野次馬達は観客と化していた。その様子は心音の歌に心底から心酔している様に見えた。そしてその様はまるで何者かに操られているかの様にも見えた。その異様な光景に、その場にいた新庄は震えが止まらなくなっていた。そんな新庄の後ろの方から声が聞こえた。
「おい!新庄!しっかりしろ!」
その声に新庄は我を取り戻した。そして、その声の方を見た。そこには立花がいた。
「まったく・・・最後まで見届けるんだろ?しっかりしろよ!」
そう言って立花は新庄に近づいて発破を掛けた。
「わ・・・わかってますよ・・・言われなくても!」
新庄は立花に向かって大声でそう叫んだ。すると、立花は、
「シーーーッ!声が大きい!アイツの邪魔はするなよ」と新庄に言った。
「アイツって?」新庄はそう言って立花の視線の先に目を向けた。すると物陰で藤田が心音の歌を聞きながら涙を流しているのが見えた。その様子を見せて立花は、
「アイツにとっちゃ浅井心音は犯罪者の前に自分が育てた歌手だ。そいつのラストライブってんだからこれは俺達は邪魔しちゃいけねえ」と新庄に言った。すると新庄は少し不思議な顔をして周りを見てあることに気付いた。
「今起きているのは・・・私達三人と野次馬だけ⁉︎だってそうじゃなきゃ・・・誰かが必ず邪魔をしているはず・・・」新庄はその当然の疑問を立花にぶつけた。すると立花は、
「ああ・・・おそらくな・・・理由はわからんが・・・」そう新庄に答えた。この二人の予想は当たっていた。その場にいた者、そしてその様子を見ていた者は全て気付いたら全員眠っていた。その場で起きていたのは立花と新庄と藤田、そして野次馬達と遥か上空より生中継をしていたヘリコプターだけだった。その様子を見て立花が、
「しかし・・・これは本当の奇跡か・・・はたまたいつの間にか眠らされて今が夢の中なのか・・・俺にはもうわからん・・・ただわかっていることは俺達で最後に浅井心音に手錠を掛ける。それだけだ」そう新庄に言った。すると新庄も、
「ええもちろん・・・その為に今までやってきたんですから・・・」そう立花に答えた。
そうこうしている内に心音の最後の歌が終わった。その直後だった。まるでそれが合図かの様にその場にいた観客は全員一斉にその場に倒れ出した。そして眠り出した。そして次の瞬間、心音は身体が自分のものではなくなっていく感覚に襲われた。そして次の瞬間、心音は大量に口から血を吐き出し、その場に倒れた。その様子を見て立花と新庄も動き出したが、その動きよりも早く、近くで見ていた藤田が心音の元に駆け寄って血まみれの心音を抱き寄せた。そして、心音に向かって大粒の涙を流しながら何度も呼び掛けた。
「心音!心音ーーー!」その呼び掛けに今にも死にそうな声で心音が答えた。
「ふ・・・じ・・・た・・・さ・・・ん・・・み・・・て・・・た・・・」
「ああ見てたよ!見てた!立派なステージだったぞ心音。やっぱり心音は最高の歌手だ」
その心音の言葉に対して藤田はそう答えた。すると心音は最後の力を振り絞り、
「ご・・・め・・・あ・・・り・・・が・・・」
それだけ言うと涙を流しながら、藤田の腕で生き絶えた。
「心音!まだこんなところで死んじゃダメだ!まだ死んじゃダメなんだ!心音!心音!」
藤田が何度呼び掛けてももう心音は反応しなかった。そしてその様子を最後まで見ていた立花と新庄は涙を堪えながら、心音の元に近づき、脈や心臓の停止を確認すると、腕時計を見ながら、
「午後十二時三十二分。浅井心音。殺人容疑で容疑者死亡にて逮捕」
そう言って心音に手錠を掛けた。そして心音が死んだタイミングで、今まで心音によって眠らされて昏睡状態となっていた人達は、次々に目を覚ましたのだった。そして目を覚ました野次馬達は、まるで操られていた糸が切れたかの様に、心音には目もくれずに散り散りに散って行ったのだった・・・
このニュースはその日のトップニュースとなった。
【浅井心音・・・彼女は天使だったのか・・・それとも悪魔なのか・・・】
そんな見出しで心音のこれまでの事件を、色々な人の証言と共に紹介する特番まで放送された。藤田が思い描いていた景色とは違ったが、心音はまさしく伝説となったのだった。
「あーーーあ・・・私本当に死んじゃったんだね・・・」
白い靄がかかったとある空間に心音はいた。するとその心音の眼の前に例の鳥の置物が現れた。心音がその状況に驚いていると鳥の置物は、
【心音・・・お前はアタシにとても素晴らしいものを見せてくれた・・・だからアタシからご褒美をあげようと思っている・・・】
そう心音の心に語りかけて来た。その言葉に対して心音は、
【ご褒美って何?】と聞き返した。するとその鳥の置物は、眼を光らせた。次の瞬間心音の手元に見覚えのある小包が現れた。それは、心音があの日あの時あのホテルで見た小包そのものだった。
「えっ?えっ?どういうこと?」心音が戸惑っていると、
【・・・アンタにもう一度チャンスをあげようと思ってねぇ・・・】
鳥の置物はそう語り出したかと思うと、急に怪しい光を放ち出した。そして、
【今からアンタをアタシと出会う前の状態に戻してあげる・・・そして選ばしてあげるよ・・・アンタが人間の人生を取るか、化け物としての人生を取るか・・・アンタがその小包を開けて中の液体を飲まなけりゃアンタは今の記憶のままで人間らしい復讐が出来るし、アンタは何も無ければ人間として生き続けれるだろう・・・ただアンタの喉は壊れたままで一生元の通りには歌うことは出来ない・・・でも・・・もしアンタがその小包を開けて中の液体を飲んだなら・・・アンタはまた元通り歌うことが出来る・・・しかしアンタの記憶はその瞬間リセットされて・・・また同じ人生を歩むことになるだろう・・・さてアンタはどっちを選ぶんだい?真っ当な人間として生きる道か・・・それとも歌を歌う化け物として生きる道か・・・アンタの選択をアタシに見せてごらん・・・】
その鳥の置物が語り終わると、心音はあの日あの時間のあのホテルにいた。そして手には小包も持っていた。
「この小包を開けたら・・・またあの化け物の人生か・・・」心音はそう呟いた。そして次の瞬間、小包を開けて中の液体の入った小瓶を取り出した。そして、
「私は化け物と呼ばれても・・・短い命になったとしても・・・辛いことがいっぱい待っているとしても・・・それでも歌を歌うことを諦めることは出来ない!だから・・・」
そう言ったかと思うと、その小瓶の蓋を開けて勢いよくその液体を飲み出した。そしてその場に気絶した。その直後、鳥の置物が現れた。そして、
【クックック・・・まったく・・・人間ってのはどうしてこうも業の深い生き物なんだろうねぇ・・・】
そう語り終わった後で、その鳥の置物は急に怪しい光を放ち出した。そして、その鳥の置物にヒビが入り出した。
そして次の瞬間、その中から怪しげな煙が発生し、その煙の中から、悍ましい魔物の姿をしたものが現れた・・・
都内某病院。ここに一人の少女が意識不明のまま運び込まれてから、もう幾日も経過していた。その少女は、自宅で大量の睡眠薬を飲んだことで意識不明の重体となり、この病院に運ばれて来た。そして今もまだ意識を取り戻してはいない。ただ担当している医者によると、既に意識を取り戻してもおかしくはない状態だと言う。そして更に奇妙なことにその少女は意識が無いのに、時折笑顔になったり、笑った顔になったり、怒った顔になったり、泣いた顔になったりするらしい。そして、たまに寝言の様に誰かの名前を呼ぶこともあるらしいと言う。
その少女は、若くして人気者になり過ぎて、精神的に疲れ果てていた。そしていつしか歌うことが少し苦痛になっていたのだった。また同じ頃、三人の若いアイドルを事務所が売り出したことで、更に彼女は多忙を極めたのだった。そして徐々に歌うことが嫌いになっていく自分に嫌気がさしていた。そして、そんな自分を見つめ直す為に、彼女は事務所に休暇を申し出たのだったが、事務所はこれを認めなかった。
この為、彼女は現実を捨てて夢の中で生きることを選んだのだった。
その少女の名は浅井心音・・・彼女はまだ夢の中で歌い続けているのだった・・・
このお話は私が作り出した悲しみの異能作品の第一弾です。
今回の様な作品をこの他に後2作考えています。
まだ形にはなっていませんが、頭の中にアイデアは既にある状態です。
気が向いたら作り出します。