6 現実だった
「おなか空かない?」
瑞希が俺に、聞いてきた。
「はい、ぺこぺこです」
「なんか、食べようか?」
瑞希は、何か飲むだけでいいって言うから、そのへんのファーストフードに行くことにした。
それにしても、社長もちゃんと、瑞希のこと見てるんだな。最近、元気なかったって…。そうなんだ…。笑い声も少なかったし、なんか、様子がおかしかった。でも、それって茂にいが原因だったのか?
「やっぱ。元気がなかったのは、茂にいが原因ですか?」
ハンバーガーを食べながら、思い切って聞いてみた。
「元気ないように、見えてた?」
「はい。俺のことも避けてましたよね…」
あ。言っちゃったよ、俺。でも、こうなったら言っちまったほうがいいかな。
俺は、コーラを飲んで、ハンバーガーを流し込み、話し出した。
「すみません、俺、気になってたけど、俺のこと避けてませんかって、聞きづらくて」
「そうだったの?」
「なんか、怒られるようなことしたかなとか、なんか嫌われるようなことしたかなとか、気になってたんですけど…」
瑞希は、黙って俺を見ながら、聞いてた。
「でも、もし嫌いになったなんて言われたら、俺、立ち直れそうもなくて…」
ああ、俺、正直すぎない?これじゃ、情けないやつじゃん…。
「茂にいのことで、元気なかったんですよね。」
「ううん」
え?違うの?
「違うんすか?」
「うん」
瑞希は、まっすぐ俺を見てる…。
「あ、じゃ、やっぱ俺なんかしましたか?」
「うん、君、なんかしちゃったのよ」
「ええ?」
まじ、俺?やっぱ、俺…?
「何だろう?えっと…」
何?何やった?俺…。
「すみません、思いつかないんです。何したかなってずっと、考えてたんすけど…」
「考えてたんだ」
あああ…。なんか、瑞希、怖い…。冷たい…。
「やっぱ、あれっすか。俺が飲んで記憶なくしたとき、とんでもないことしたとかっすか?」
違うって、言って欲しいけど、それしか思い浮かばない。
「あら」
「あら?あらって?」
「いい線いってるなって…。で、何か思い出した?」
…う、う~~~~わ~~~~。
ま、待てよ…。待てよ。部屋…?俺、瑞希の部屋はいって、そこで、とんでもないことした?えええ?
「そうそう、お風呂にね」
「え?」
「出たときに、圭介が入ってきて、そこは覚えてる?」
「はい、覚えてます。瑞希さん、ちゃんとパジャマ着てました」
「覚えてるんだ」
「その辺は、しっかりと思い出して…」
「じゃ、そのあとは?」
「2階にあがったんです…」
「うん」
「それで、お兄さんの部屋に入って、寝ました」
だよね?瑞希、そう…だよね?
「え?」
「え?」
えって…?あああ、やっぱ、そのへん?そのへんでなんかした?俺…。
「何か、俺、しましたか?」
「私の部屋に来たかな。そういえば」
「え?」
「覚えてない?」
部屋…、覚えてるっす…。ああ、もうこうなったら言っちまう?
「俺、瑞希さんの部屋だけ、思い出して」
「部屋を?なんで、部屋の中を知ってたのかな?」
「中にはいったからですよね…」
怖い、瑞希。なんか尋問されてるみたいだ、俺…。
「でも、部屋しか思い出せないんです。その…」
まさかと思うけど、思うけどさ~~。
「俺、襲ってないですよね?」
うわ…。瑞希黙った。え?でも、顔があきれてる…?
「大丈夫、圭介はただ、ベッドに座っただけだし」
「え?ベッド?」
なんで、俺座ったの…?
「髪が濡れたままだったから、私がドライヤーで乾かしてあげて…。それで少し、話をして、部屋に戻っていったの」
「髪?俺の?」
「うん」
え?まじで?まったく覚えてないよ。髪?うわ~。
「そうなんすか。うわ、覚えてないや…」
やべ、俺、赤くなってね?やべえ。なんか照れるし。顔にやけるし…。ああ、でも、覚えてないなんて…。
「ちょっと、悔しい」
「なんで?」
「だって、そんなラッキーなこと覚えてないなんて」
って、また言っちゃってるし、俺。
「髪を乾かしただけだよ。美容院に行ったら、してもらうでしょ」
「そうだけど…」
美容師と瑞希じゃ、全然違うって…。
「瑞希さんに、髪触られたと思ったら、俺…」
って、だから言っちゃってるって、はずいこと…。
「何?何よ。ちょっと、こっちまで恥ずかしくなるからやめてよ」
瑞希が、いきなり動揺した。真っ赤になった。え?なんか、すんげえ可愛い。
「でも、なんでそれで、瑞希さんが怒ってるの?」
「それは、あまり関係ないの」
「え?」
「会話のほうがね、まあ、いろいろと、なんで覚えてないのかなって…」
「そうなんすか?俺、大事なこと忘れてる…とか?」
「ああ、いい線いってるね」
「え?」
またそれ?あああ、何?何だよ?思い出せ~~!俺!
「やっべ~。だめだ。まったく思い出せない。俺、何を話したんすか?」
「教えない」
「え?なんで?」
「なんか、悔しいから」
ああ…。たまに瑞希はこうやって、俺をじらす。そう言うときの瑞希の顔は少し小悪魔みたいな、そんな顔になる。くそ。そんな顔も好きだからまいっちゃうよな。
「それ、結構重要っすよね。相当なこと、俺言ったんすか?」
「言ったというか、聞いたというか…」
「瑞希さんも、何か話したんすか?何か大事なこと」
コクン。瑞希が、黙ってうなずいた。少し、恥ずかしそうに…。
あれ?この顔見覚えある。そうだ、夢でだ。夢の中で、瑞希がまったく同じ表情をしてた。ほら、瑞希の好きな人って、俺?って聞いたときの…、あのときの、顔…。
「それ、俺が、喜ぶこと?」
まさか…ね。
「さあ、どうかな」
ああ。まだ、しらを切る…。
「俺が、ショックなこと?」
「どうだろう、たいしたことないかもね、だって、忘れちゃうくらいだし」
「ま、待ってください」
ドクン、ドクン、心臓が爆発しそうになった。瑞希が平然を装って、意地悪く言う。でも、少し目が、優しくなってる。
慌ててコーラを飲んだ。のどがカラカラだった。げほ…。慌て過ぎて、むせた。
「俺、夢だと思ってたんですけど、ずっと…」
も、もしかして、夢じゃないのか?
「え?」
こんなこと言って、引かれる?笑われる?それとも、夢じゃなくて、現実だったとかってそんなことある?
「瑞希さんに、こくられてる夢です」
すんげえ、勇気をふりしぼって言ってみた。
「なんて?」
「う…。その、はっきりと言葉までは覚えてないんすけど」
瑞希の顔が、真剣だった。笑いもしなけりゃ、あきれてもいない。えええ?
「告白されて、俺がすげえ嬉しくって。それで、俺も瑞希さんのこと好きだって言ってて」
「それで?」
「それだけなんすけど。こう、もやがかかった感じで、はっきりとしないんすけど、でも、とにかく俺が喜んでるのは確かなんです。で、朝起きて、すんげえラッキーな夢見たなって」
「いつ?」
「え、瑞希さんの家に泊まった、翌朝」
「ああ、ああ、そっか~~~」
瑞希が、頭を抱え込んだ。
「あ、あれ、現実?」
なわけ、ないよね…?
コクン。瑞希が黙ってうなづいた。
「まじで?」
……。まじで~~~~~~~?
「あ~~~、なんだよ。俺一ヶ月もいい夢見たって思い込んでたの?」
うっそだろう~~~~!
「え?じゃ、そこんとこ、俺が忘れてて、瑞希怒ってたの?」
コクン。瑞希は、また黙って、恥ずかしそうにうなづく…。何それ、可愛すぎるよ、瑞希。
「可愛い…」
って、俺、声に出てるし…。っていうか、そこじゃなくって、えっと、あ、そうだよ、夢じゃないってことは何?
「両思いなんだ、俺…」
「うん」
「まじ?」
「…まじ」
ぐ…わ~~~~~!やった!!!!!ってか、ってか、
「これも夢ってことないよね?」
これも夢でしたなんて、そんな結末嫌だよ、俺。って思い切りほっぺをつねる。
「いて~~~。まじだよ!」
「あの、圭介、声のトーンを下げようよ。みんな見てるよ」
「え?」
周りを見たら、店の中にいた人みんなが、こっちを向いてた。やべ~~。って、コーラももうないし…。慌てて、コップに入ってた、氷をほおばる。
ガリガリ…。冷たいのが、俺ののぼせあがった頭も冷ましていく…。
「店、出ましょうか?」
外に出ると、雨が降ってて、会社に傘忘れたって言うと、瑞希が傘に入れてくれた。
俺のほうが背もあるし、傘を持つことにした。でも、女物の傘で小さくて、瑞希の反対側の肩が濡れそうになってた。瑞希が濡れないように、傘を瑞希の方に向ける。そうすると、肩が当たる。肩が当たるたびに、俺の胸がドクンってなる。
ああ~~。なんか、まだ夢心地だ。
「夢じゃ、なかったんだ」
そう言って、かみしめる。
「夢だって思ってた。だってそんなことありえないって…。12も年下だし、ありえないって…」
「私も思ってたよ。12も上で、好きになってもらえるわけないって」
「そうなんすか?」
そんなこと、瑞希も思ってたの?
「だから、絶対に思いを告げることもないって、思ってたんだけどね」
「はい」
「でも、やっぱり、きちんと気持ちを伝えたくなったんだよね」
そっか…。瑞希も、勇気出してくれたんだ。
「ありがとうございます」
「え?」
「きちんと、気持ち伝えてくれて」
伝えてくれなかったら、俺、いつまでうじうじしてたんだろうか…。
「すみません、それなのに俺、覚えてなくて」
「覚えてたじゃない。ただ、夢だって勘違いしてたけど」
瑞希、俺がずっと忘れてたんだもんな、そりゃあ、怒るよ。無理ないよな。
「怒るの、無理ないですよね」
「まあ、ね」
「あ、すみません、ほんと、俺、馬鹿ですよね」
「ふふ、もういいよ」
ああ、それ。その笑い方…。瑞希の隣にいて、ドキドキしながら、それと同時にあったかい気持ちになる。瑞希の優しさに包まれて、あったかくなる。
「今度は、あれですよ。瑞希さんが夢だったとかって思わないでくださいよ」
「あはは。大丈夫、そんなに飲んでないし」
「じゃあ、ここで」
「はい、お疲れ様」
瑞希が改札に入っていった。その姿をずっと見ていたくて、瑞希のことをずっと、見ていた。ふと、俺の視線に気づいたのか、俺の方を瑞希が見た。なんか、その顔も姿もすんげえ、愛しく思えた。瑞希って、呼んでもいいかな。もう、俺、恋人気取りしてもいいのかな…。
その帰りは、雨に濡れて帰った。
ふわふわ夢心地のまま、風呂に入って、そのまんまベッドに入った。今頃、瑞希も俺のこと思ってるかな…なんてすげえ、あほなことを考えてたら、なかなか寝れなくなった。
瑞希も、俺のこと、思っててくれたんだ。でも、いつから?もしかして、そういうの、きちんと瑞希の部屋で教えてくれたんだろうか?ああ、しっかりと告白の言葉も、思い出さなくちゃって思ったら、そのとたんに、眠ってたみたいだ。