5 幸せな夢を見た
朝…。
ドンドン!!
「起きて、圭ちゃん。早くに起きて、家に一回帰るんでしょ?」
って、お母さんの声で目が覚めた。ぼけ~~ってしながら、しばらくベッドでぼんやりした。
あ…。なんかすげえ幸せな夢見てた。俺…。そして、夢を思い出した。すげえ、ハッピーな夢だ。
瑞希が俺のことを、好きだって言ってる。俺も、同じ気持ちでいることを瑞希に告げてた。ドキドキしながら、俺は瑞希に告白してた。
「ああ~~~~。夢か~~~」
夢でも、嬉しかった。
一階におりた。瑞希はまだ、いなかった。
「圭ちゃん、トーストでいいかしら?あと、スクランブルエッグと、目玉焼き、どっちがいい?」
「あ…。目玉焼き…」
まだ、頭の中がぼ~~ってしてる。少し、ゆらすと痛い…。二日酔いだ…。
トーストを食べ始めると、瑞希がダイニングに来た。
「おはようございまふ…」
トーストにくいついたまま、挨拶をすると、
「おはよう…」
と、返事をしたが、そのまま目も合わさず、瑞希は席に座った。
「ぐ~~~~~わ~~~~~。あったまいて~~」
修二さんが、ダイニングに来た。そうだよな、あんだけ飲んでりゃ、二日酔いにならないほうがおかしいよな。
瑞希が、トーストにジャムをぬって、食べ始めた。それから、コーヒーを飲む。なんつうか、それだけの瑞希の仕草に、つい見とれてしまう。
ああ、結婚とかして一緒に住んだら、いつでも、こんな光景目にするんだ、俺…。
「圭ちゃん、うちの子になっちゃいなさいよ」
と、いきなりお母さんが言い出した。
「養子にでもなるんですか?」
ああ、そうすりゃ、瑞希のこういう姿、いつでも見れるな~~、ってあほなことを考えながらそう答えた。
「違うわよ。圭ちゃんが瑞希と結婚するの。そうしたら、息子になるわけ」
ぶ~~。瑞希が、コーヒーをふき出した。俺も、おんなじタイミングで、食べてたオレンジが、器官の方に入ったかも。
げほ、げほ…!なんつう冗談を言うんだ。どう答えたらいいんだ。どうリアクションをとったらいいんだ。
「そんなのありえないっつ~~の。なあ、圭介」
修二さんが、あきれた顔で、そう言った。瑞希はというと、黙っていた。そこへ、お父さんが来た。
「おはようございます」
「あ、おはよう」
お父さんはいつも、温和な感じの優しい静かな、印象がある。でも、怒ると怖いんだろうな~…。
「圭ちゃん、昨日は寝れた?」
お母さんが、聞いてきた。
「はい。獏睡しました」
「それは良かった」
「あ、でも髪乾かさないで、寝たみたいで、すみません。シーツとか枕、ぬらしちゃったかもしれない」
さっき、トイレに行って、出たところにある鏡で見たら、髪の毛爆発してた。ああ、この寝癖からして、濡れたまんま寝たなっていうのがわかった。
「俺、風呂はいったんですよね。で、髪洗ったんですよね。そのへんは覚えてるんです。でも、そのあとの記憶が無くて…」
「ええっ?!」
すごい大きな声を、瑞希があげた。
「どうしたの?」
お母さんが、その声にびっくりしてた。俺も、びびった。
「風呂場の前で、会いませんでしたっけ?」
瑞希に聞いてみた。その辺はなんとなく、覚えてる。
「会った…」
瑞希が、そう答えた。その辺、ちゃんと思い出さないと、やばいんじゃないかって、そんな気する。
確か…。ああ、そうだ。風呂はいろうって思ったら、ドアが開いて、瑞希が出てきた…。あ、そうだ。もう、パジャマだった。で…。で…?風呂に入った。
瑞希の匂いがした。そうそう。それで、俺、喜んで…。で…?
そのあと、部屋に戻った。いや、その前に瑞希におやすみって言ったような気がする。
…あれ?瑞希の部屋、なんで、俺知ってるの?すごく落ち着いてる部屋。ああ、瑞希がお休みって言ったとき、開けてくれて、それで、挨拶したんだっけか?
何か、大事なことが、ぼこって抜け落ちてる気もする。だけど、幸せな夢を思い出し、また、ぼ~~ってした。
って、そんなぼ~~ってしてる場合じゃない。慌てて髪をとかし、顔を洗い、車に乗り込む。だけど、車の中で、また、夢を思い出す。なんて言ってた?夢の中の瑞希…。
そうだ、すごく好きな人がいるって言ってて、俺が、
「それ、俺だよね」
って、言ったら、コクンってうなずいたんだ。って、ずいぶんと、自意識過剰な夢じゃね?
ま、夢なんてそんなもんか。そんで、俺も、瑞希が好きって、言ったんだよね。って、あんまり覚えてないけど。そうだ、最後にキスをしようとしたんだ…。で…?目が覚めたのかな?
ああ。くそ、いい夢だったのに、なんでそこで終わるわけ?
道が混んでいて、家に着くのが遅くなった。急いで、スーツを着て、ネクタイを結ぶ。
「圭介、ご飯は?」
「ああ、食べてきた。んじゃ、行ってきます」
おふくろがなんか、言ってた気もするけど、聞いてる暇はない。駅までダッジュ。電車に乗り、横浜に着き、またダッシュ。うう、くらくらする。二日酔いだよ…。
10分遅刻して、会社に着く。そおっと入ったけど、やっぱ、社長に見つかった。
瑞希はもう、来ていた。なんか、すごい涼しい顔で、席に座ってた。
その日の午後、瑞希が、昼から戻ってきたらいきなり、聞いてきた。
「あのね、昨日のシャンプー」
「はい?」
「本当に高いの。美容院でしか売ってないのよ」
……?
「なんのことっすか?」
「え?だから昨日圭介が使った私のシャンプー…」
「え?俺が?使ってないっすよ」
何言っちゃってんの?瑞希。
「髪から、匂わないかな?」
瑞希の…?じゃないよね。
「誰のですか?」
「いや、君の髪から、その…」
「自分の髪の匂いなんてかげないっすよ。短いし」
「え?そうなの?」
何を言っちゃってんの、瑞希~~~…。
「だいたい、かいでる男がいたら変態ですよ」
…俺の、髪の匂い?
しばらくして、トイレに行くふりをして、廊下に出た。ブルブルブル!頭を左右に思い切り振った。
クラ…。
「う、頭いて…」
でも、その場に残る、瑞希のシャンプーの匂い…。あれ?
……。ああ!!!!思い出した。俺、使った!瑞希のシャンプー!
が~~~ん。
っていうか、それを瑞希、知ってんの?あれ?いつ?いつわかった?俺の髪から匂ったの?
それから、なんとなく瑞希が冷たくなった気がする。いや、俺の気のせいかって思ったりもしたけど、話し方がつっけんどんだったり、わざと、冷ややかに言ってきたり…。
「なんか、嫌われてる?俺…」
瑞希のシャンプー使ったから?まさか、それだけのことで、怒んないよね…。
それとも、それとも…?なんか、とんでもないことをしてしまったのか。記憶がないその時間帯。俺は瑞希を怒らせるようなことをしてしまったんじゃないだろうか?
どうにか思い出そうとする。でも、思い出せない。だけど、鮮明に思い出すのは、瑞希の部屋。部屋…。入ったのかな俺…。
くっそ~~~!思い出せ!俺。って、頭を抱え込んで、無理やり思い出そうとしても、思い出すのは、夢のほう。ああ、幸せだったよな…。って、夢だから、それ!
瑞希に、冗談を言ってみても、
「ふうん」
って、返ってくる。目が合うと、あからさまに避ける…。
や、やばいんじゃないの?なんで、怒ってるの?俺のこと、避けてない?何か、やばいこと俺しちゃった?
何回も聞いてみようとした。でも、勇気が出ない。嫌いだとか言われたら、俺、それこそ、立ち直れそうもない…。
もう少し様子を見よう、そのうちに、瑞希もとに戻るかもしれないと、思っているうちに、6月も半ばになった。
「契約社員にもボーナスが出るそうですよ」
さすがに、瑞希もボーナスの話は喜ぶよね。
「あ、そう」
「え?嬉しくないんですか?」
「……」
なんで、なんで無言?あああ、どうするよ、俺…。
あ!そうだ!ボーナス出たら、奮発して食事誘うか!それだ、それ!
ボーナスの日、早速銀行でお金をおろした。どう誘おうか…。今日はどうも、早くに終わりそうもないから、明日か、あさってか…。
そんなこと考えながら、トイレから出てくると、瑞希がエレベーターを待っていた。ああ。チャンス到来!
「今帰り?」
「うん」
「ボーナスでたし、今度一緒にご飯でも…」
「ああ、柴田さん、待たせたね」
…え?社長?
「笹おじさんとお出かけっすか?」
あ…。あまりの驚きで、社長を笹おじさんって呼んでるよ。俺。そう、社長は親父の大学時代の後輩で、よく、家に遊びに来てて、笹おじさんって呼んでたんだ。
「ああ、食事にね」
ふ、二人でかよ~~。
「今度、俺も連れてってください、社長」
「ああ、また飲みにでも行くか」
ああ、またわざと、明るくしてるよ、俺…。
「じゃ、お先にな」
何が?二人で食事に行くのが?
そうじゃん…。笹おじさんも独身じゃん。俺よりも、釣り合ってるんじゃね?
「はい、お疲れ様です」
さすがに、声が沈んだ…。ガク~~~…。
いろんな悪いことが、頭の中をぐるぐる回りだす。パソコン打ってても、今頃、社長と瑞希がどんな話をしているのかが、すんごい気になる。
俺を避けてる理由が、社長ってわけないよね。俺の気持ち知ってて、わざと、避けてるんじゃないよね。
ああ!ちきしょう!思い切りそういう考えを、頭から追い出しては、仕事に集中する。
時計を見ると、8時半を過ぎてた。6時半には出てたし、もうご飯終わってるかな。気になってしょうがない。瑞希の携帯に電話をする。でも、何て言う?お疲れ様とだけ、言ってみるか?
プルルル…プルルル…。5回、6回、出ない…。
「auお留守番サービスです」
なんだよ…。あ~~あ…。
仕事が一区切りつき、残りは明日にするとして、会社を出た。まだ、社長といるのかな…。大人同士だもんな。お酒でも飲みに行ってるのかな…。
ああ、俺、ものすごいやきもち妬いてる。やきもち妬くような、立場じゃないのに…。
ブルルル、携帯が振動した。あ、瑞希だ!
「もしもし」
なんとなく、声が沈んだままになった。
「あ、柴田です。電話くれた?」
「……。社長は?」
「今、別れたところ」
「ふうん」
やっぱ、今まで一緒だったんだ。あ…。ビルのガラスのドアから、瑞希の姿が見えた。会社に戻ってこようとしてた?
「圭介は、まだ仕事?」
「もう、終わりました」
「今、圭介どこ?」
「え?」
瑞希の方からは、見えてないの?
「今、どこにいるの?」
「ここ」
瑞希のまん前のドアを開けた。
「わあ。びっくりした!」
電話をしたまま、瑞希がでかい声をだしたから、耳がき~~んってした。
「声、でかすぎっすよ」
「あ、ごめん…」
瑞希も俺も、電話を切った。
瑞希の顔が、ほんのり赤かった。
「顔赤いっすね、酔ってますか?」
「わかる?」
「飲んでたんだ、社長と」
やっぱり…。なんか、腹が立ってきて、つっけんどんな態度をしてたら、
「もしや、妬いてる?」
って、瑞希が、言った。その言葉にまた、むかってきた。
「妬いちゃ悪いっすか?」
「え?」
「冗談ですよ」
あ~~あ。そうだよな。妬くような立場じゃないもんな、俺…。
「だけどさ、妬くようなこと、な~~んもなかったけど」
そう言われると、それはそれで、なんかしゃくにさわる。
「社長に口説かれて、喜んでたんじゃないですか?」
「……」
あれ?なんで、黙るの?え?図星じゃないよね、それ。
「今のも、冗談ですよ。そんなわけないですよね、いくらなんでも…」
そうだよ、そんなことあってたまるかよ…。
「社長は最近、私が元気がなくて、お見合いを断られたからって、心配してくれてただけです」
「え?」
「それから、私の好みの男性を聞いてきて、誰か紹介してくれるって」
好みの男性を、紹介?冗談じゃない。そんなの大きなお世話じゃん。笹おじさん!
「それだけ」
「それだけって…。で、なんて言ったんですか?」
「は?」
「だから、好みの男性」
「ああ、そうね、渋くって、年上で、頼りがいがある紳士」
「……」
嘘…。なんか、それって笹おじさん?ってか、俺と正反対?きっつ~~。ああ、やば…。俺が落ち込んでるの、ばれる。笑わなきゃ…。
「で、社長はなんて?そんな男紹介してくれるって?」
「そうね…」
そうね…?
「……」
だから、なんで黙るわけ?笑ってるのも、限界あるよ、俺…。
「嘘だよ、嘘」
「え?」
「好みの男性、まったく逆」
「え?え?え?え?じゃ、渋くなくて、年上じゃなくて、頼りにならない、そんなやつ?」
「ふふふ、そんなやつよ」
んだよ、それ、ふざけてんじゃん。
「それ、冗談っすよね」
「…そうね、本当は好きなタイプなんてないですって答えました。好きになった人が、タイプ」
「ああ、そうっすか」
なんか、どこまで、本当で嘘かわかんねえよ、もう…。