4 海を瑞希とデート
車を止めた。うう…。やっぱ、いてもたっても、いられない。
靴を脱ぎ捨て、Gパンの裾をまくり、クロを連れて走り出した。クロもすげえ、喜びよう!
「ああ、気持ちいい~~~ってクロ!速すぎ!」
さすがに、犬!追いつけない~~~!
クロが波うち際まで、走っていった。バシャン!しょっからかったのか、ペッペッて吐き出していた。
「あははは、クロ、ばっかじゃん!」
後ろを見た。瑞希が、石段のところに座って、俺とクロを見ている。今日の瑞希は、これまた、すげえ可愛い!海が似合ってる。
真っ白なブラウスに、膝丈のジーンズ。瑞希の足首って細いって車に乗ってるとき、ドキドキした。
なんか松田聖子の歌で、あったよな。なんだっけ…?
ハアハア、ゼエゼエ、息が持たなくなってきた。それは、クロも同様。
水…!瑞希、さっき、自販機で水買ってたよな…。瑞希のところへクロと行くと、瑞希がクロに水をあげた。
ああ、水…美味しそう。
「プッ!」
「え?」
今、笑われた?俺…。
「はい」
瑞希が、水のペットボトルを渡してくれた。待ってましたとばかりに、ゴクンゴクン、飲んだ。
「うっめ~~~!」
瑞希が、水を飲んでる俺を見てた。なんか、また、子供っぽいとか思ってんのかな?
「何?」
いや、何って言われても、あ、そうだ。
「松田聖子の歌で、こういうのなかったですっけ?」
「え?」
「白いパラソルとかっていう歌」
「古い歌だよね。知ってるの?」
「はい、おふくろがカラオケで歌うから。瑞希さん、今日パラソルとか似合いそう」
「う~~ん、日傘考えたんだけどね…」
「帽子とかも似合いそうですよね。白とか、麦藁帽子とか」
「麦藁?」
「可愛いじゃないですか。似合いますよ。瑞希さん、可愛いもん」
って、俺、何言っちゃってんの?瑞希にまた、笑い飛ばされるよって、あれ?笑わないの?
っていうか、あれれ?なんか、赤くなってない?うそ。照れてる?もしかして…。やっべ~~~。超可愛すぎるでしょ。それ…。そんな反応されたら、俺、どうしたらいいんだよ?
思わず、くるって、海の方を向いた。
「やばいっすよね…」
って、わけもなくつぶやいてた。そんなの聞き逃すって思ったのに、
「何が?」
って、瑞希は聞いてきた。う~~わ~~。そこはスルーして欲しかった。
「なんていうか、その…」
なんて、説明したらいいんだ?
「すげえ、嬉しいっていうか、俺、はしゃぎすぎててやばいっていうか…」
「?」
瑞希の顔を見たら、わけわかんないって顔をした。ああ、わかんないのかな、俺が瑞希と一緒にいて、すげえ喜んでるの…。
「瑞希さんて、絶対に鈍いですよね。どっか抜けてる」
「ええ?悪かったわね。そっちこそ、いつもやばいやばいって何がやばいんだか、わからないわよ」
「俺があれです。やばいって言ったときはあれです…」
「あれって、何?」
だ~~か~~~ら~~。察してよ。
「だから、やばいときです」
「どうやばいの、なんでやばいの、何がやばいの」
ええ~?
「ん……。と……」
瑞希さんいて、嬉しいっていうか、嬉しすぎるっていうか、すげえ好きだっていうか…っていうのを、口の中だけで、もにょもにょと言った。
「え?」
聞き返してきたけど、また、言うつもりはなかった。
ドカ…って座って海を見た。っていうか、照れ隠しだ。
「海って6月ですっけ、解禁」
「そうだったかな」
「泳ぎに来ませんか?」
「…私、かなづち」
「え?」
「だから、泳げない…」
「まじっすか?」
瑞希、それ、可愛すぎる!なんで、クールな大人のところがあるのに、そういう、可愛いところがあるんだよ。そういうギャップに弱いんだよね。ああ、やべえ…。やばすぎて、なんか、また照れ隠しに大笑いをした。
でも、そんなに可愛いのに、なんで一人身なんだろうか。ふと、不思議になった。
「なんで、今まで一人身なの?」
なんか、以前すげえ好きな人がいて、ひきずっているとか、そういうのかな?それとも、すげえ理想が高いのかな?それとも?
「なんで、茂にいは、瑞希さんのことふっちゃったのかな?」
こんなに、可愛い人と見合いできたら、俺だったら絶対ふらない…ってか、あ、そっか。瑞希がふったのか?
「あ、でも、そっちの方が、俺にとっては、ラッキーだけど…」
って、また何を言ってるんだ、俺…。
あれ?何も反応がない…。俺、あほなこと言った?
しばらく下を向いたまま、瑞希は黙っていた。
「なんで黙ってんの?」
なんか、すんごい不安になってきた。
「ね。なんで?」
思わず、瑞希に近づいて顔を覗き込んだ。
「わ!」
瑞希が驚いて、顔をあげた。嘘!泣いてる…?なんで?俺、泣かせた…???
「ごめん、俺…」
頭の中フル回転中だ。どの俺の言葉で、傷つけたんだろう。茂にいのこと?
「ラッキーなんて言ってごめん…」
馬鹿じゃね~~の、俺。俺にとってラッキーでも、瑞希にとっちゃ、何も、ラッキーなことじゃないじゃんか。
「いいよ、冗談言って、励ましてくれようとしてるんでしょ?」
ええ?なんで、そんなこと言う?なんで、そんな簡単に許すの?俺、励ますどころか、喜んでたんだよ?
「俺、そういうところが鈍いって言うか、相手の気持ちも考えないで、自分の言いたいことだけ言っちゃうとこがあって、知らないうちに傷つけて。素直すぎるとか、正直すぎるとか、無邪気すぎるとか、元かのに言われた」
「そこが圭介の、1番いいところなのに?」
「え?」
「私は、そういう圭介の、無邪気さとかに救われてるよ」
まじで…?
なんか、びっくりした。そんなことを言ってくれるなんて、思ってもみなかった。胸の中がすんげえドキドキした。
「無邪気で、素直で、かわいい、人懐こくて、うん、犬みたいだね」
「あ、え?それ、ほめてんの?」
「ほめてるでしょ~~~」
瑞希が、思い切り笑った。
「あ、よかった、笑った」
俺のこと、子供って思ってるかもしれない。でも、瑞希は、俺のこと、嫌ったりはしてない。そんなことがはっきりと、わかった。
俺の、1番いいところって言ってくれた。その無邪気さに救われてるって言ってくれた。俺は、瑞希の何か、役に立ってる?支えとかになることもあるのかな?
なんだか、心の奥底が、喜んでいた。好きだって言われるより、なんか、このままの俺を、そのまま瑞希は見てくれてて、ちゃんと認めてくれてるってそんな気がして、すごく嬉しかった。
俺は、瑞希への思いが、今までとは違った思いに変わっていってることに、気がついた。今までは、恋だった。ときめいて、ドキドキして、俺のことをどう思っているのか、そんなことばかり気になってた。 でも、瑞希が、俺のことを認めてくれてるってわかったら、なんだか、だんだんと気持ちが落ち着いていった。
クロと、瑞希と海の見える和食屋さんで、昼ごはんを食べた。犬もOKの店で、クロは大人しく俺の足元にねっころがっていた。
俺は、どうも話しながら食べるっていうのが苦手で、食べるときには、食べることだけに集中してしまう。食べてるものを、味わいたいっていうのがあるのかな?
瑞希は、黙って、俺に合わせて、静かにご飯を食べる。時々、箸をとめて、俺の食べるところを見ていた。
なんていうか、がっついてるのが、幼いって思ってるのかな…とも思ったけど、でも、もう、子供って思われるのが嫌だとか、そういうのは、なくなっていた。
ふと、視線が合った。前ならすぐに瑞希は目をそらしてたけど、今日は、そのまんま、俺を見ていた。 その目が、やけに優しくて、あったかくって、俺のほうが、照れて目を合わせられなくなった。
そして、ふと、思い出した。さっき、海で俺を見てたときも、こんな目だった。あったかい、俺のこと包み込むような目だった。
食べ終えて、海を見て、それから、瑞希を見た。黙って、瑞希を見てた。なんか、あったかい、優しい気持ちになった。なんなんだろう?これ…。
店を出ると、瑞希が、
「コーヒーが飲みたいな」
と、言うので、クロと一緒に、そのへんをぶらついた。駅のほうに行くと、マックがあった。
「あ、ここなら、外にいすがあるから、クロがいても、大丈夫かな?」
そう言って、瑞希は、マックにコーヒーを買いに行った。それから、いすに座って、のんびりと、コーヒーを飲んだ。なんだか、瑞希とこうしているのが、とても自然のことのように思えて、いつの間にか、俺は敬語を使わなくなってた。
海に好きな子と、犬連れて来るって夢が叶ったと言うと、私も夢が叶ったと瑞希が言った。
「俺との、デート?」
茶化してそう言うと、あっさりと違うって否定された。
長年の夢らしいけど、いったいどんな夢なんだろう。内緒、そのうちに教えると言ってたけど、なんで、今、内緒で、そのうち教えてくれるんだろうか…。
すごく気になったけど、もう一つ、気になったのは、俺が、
「好きな子と、犬連れて海に来る」
の、「好きな子」のこと、わかってるのかなってこと。あ、そうだ。瑞希、
「半分叶ったね」
って、言ってた。半分って何?ああ、そこんとこ、聞き逃してた…。
瑞希の家には、日が沈み、辺りがうっすら暗くなったころに、着いた。
庭のウッドデッキには、すでにバーベキューが準備されていた。ああ、俺、手伝うとか言って、なんもできなかったな…。でも、焼くのはしっかりと手伝おうと、張り切って焼いた。
「圭介も、飲めよ」
瑞希の弟さんの修二さんが、やたらと酒を勧めてきた。
「でも、車なんで」
「泊まってけ、泊まってけ、明日の朝1番で帰りゃいいじゃん」
ああ、どうやら、断れそうもない…。ビールを少しだけ飲むことにしようかな。何せ、あまり俺は酒に強くない。過去、会社の人たちと飲んで、何回記憶をなくしたことか…。
だけど、修二さんはすごく楽しい人で、いつの間にかそのペースにはまり、一緒のスピードで、同じくらいビールを飲んでいた。
いつの間にか、お父さんも、お母さんもリビングからいなくなっていた。瑞希もいない。自分の部屋にでも行ったのかな?
「圭ちゃん、お風呂はいったら?今日は海で、よごれちゃったんじゃない?」
お母さんが、バスタオルを持ってやってきた。…圭ちゃん?親にも呼ばれたことがないので、なんかくすぐったかった。
「あ、はい。じゃ、入ってきます」
「え。お前そんなに飲んでて、入れんの?」
「はい、すげえ、しっかりしてるんで、平気です」
いや、足元は、すでにふらついてた。でも、まっすぐに俺は歩いてるぜって自分で思い込みながら、歩いてた。こういうときには、もうすでに、かなり酔っているときだ。
バスルームの前に、立った。ちょっと、頭がふらってしてたけど、ま、大丈夫だろうって、ドアを開けかけたとき、いきなり、ドアが勝手に開いた。
「わ。びっくりした!」
瑞希だ。パジャマ姿だ。かわいい~~~。ああ、すっぴんだ。すっぴんもかわいい~~。っていうか、もう少し早くに俺、ドア開けてたら、やばかったんじゃね?と、一瞬、もう少し早くにドアを開けてるところを、妄想してた。
ああ、パスパス!そんなの妄想したら、俺、絶対に風呂でゆであがる…。
妄想をパッパって頭から追い出して、きりりとした気持ちで、風呂に入る。でも、
「ああ~~~、さっきまで、瑞希が入ってたんだよね!」
って、デレデレになる。風呂中、瑞希の髪の毛の匂いがした。きっと、瑞希が使ってるシャンプーの匂いだ。
「これかな?」
ちょっと、高級そうなシャンプーの匂いを嗅いでみた。
「あ、これだ!」
思わず、そのシャンプーで自分の髪を洗った。洗っていると、瑞希の匂いで包まれ、それだけでドキドキした。
お風呂を出て、2階にあがった。階段を上がってすぐの部屋からは、大きな修二さんのいびきが聞こえた。ってことは、瑞希の部屋は、こっちかな?
「あの…」
声をかけてみた。
「おやすみなさい」
中から、瑞希の声がした。う~~わ~~~。なんか、それだけで、ドキドキする。
「うん、おやすみ」
って、言ったけど、どうにも瑞希の顔が見たい。
「今日は、すげえ楽しかったです」
ドア越しに話をした。開けてくれないかって期待しながら…。
「うん、私も…」
ドアは開かなかった。
俺は、そのまんま、もう一つのドアを開けた。お兄さんの部屋らしいその部屋は、綺麗に整頓されていた。
ベッドに横になる。本棚には、いろんな本が並んでいた。きっと、お兄さんのだ。本の題名だけを目で追っているうちに、知らない間に俺はぐうすか、寝ていたようだ。