3 わ・か・れ・た!
その日は、浮かれててなかなか、仕事がはかどらず、結局終わったのは翌朝の5時。
「徹夜か。ふわ~~。でも、少し寝れるかな…」
会議室のソファで、ほんの少し寝る。
「おお、圭介。やっぱ、昨日泊まったのか?」
2時間くらい寝れたかな?社長が会議室で寝てる俺に気づいて、声をかけてきた。
「あ…。おはようございまふ。ふあ~~~」
「これ、サンドイッチ。こんなこともあるかと思って、買ってきたぞ」
「あ!すんません!」
応接コーナーに移り、サンドイッチと缶コーヒーで、朝食を済ます…。っていうところに、瑞希が来た。良かった。元気になったんだ!
「もう、大丈夫っすか?」
なんか、俺の顔見て驚いてる。やばい。顔も洗ってなかったっけ…。よだれとかついてる…?
「寝てないの?」
「いや、寝ました。2時間くらい…」
「ええ~~~?」
ああ、会社で寝たりしたのを驚いてるのか…。
「こんなのざらですから、そんなにびっくりしないでください」
「あ、じゃあ、これからお弁当とか作ってこようか?」
まじ?瑞希の手作り?って。そこまで甘えるわけにいかないだろ…。
「いえ、いいっす。適当におなかすいたら、コンビに行くから」
「……」
あ、黙ってる。気悪くしたかな?
「俺、顔洗ってきます…」
顔を洗ってる間、考えた。これが彼女とかなら、お弁当も作ってもらっても、全然おかしくないけど、瑞希は、俺の従兄弟の彼女なんだ…。だよなあ~~。はあ…。
あ、また、これを考え出すと、暗くなる。顔洗って、すっきりして、しっかりしろ!俺。
デスクに戻って、仕事を始めようとしたら、瑞希が話しかけてきた。
「圭介も1日たつと、ひげはえるんだ…」
え?ひげ…?
「それ、俺が子供だとでも思ってたってことですか?」
「あはは。違うけど、あまりひげ濃くないから」
ひげが濃い方が、好きとか?
「はやそうと思えば、はえますよ。もっと、こう…」
「似合いそうにないよね」
あ、そうなの…?
「そうすか…。じゃ、ひげはやすのは、やめとこう…」
あああ。俺、もう瑞希の言葉一つ一つに振り回されてるじゃん。パソコンに向かって、頭ん中ぐるぐるしてるのを、全部消し去って、仕事に集中した。
あ、まただ。俺がパソコン打ってると、瑞希が俺のキーボードたたく手を時々、見てるんだよね…。ちょっと、緊張する。
それから、瑞希はパソコンをぼ~~ってながめて、しばらく何もしない…。いったい、何を考えているんだろう?何も考えてないのかな。それとも、仕事のこと?
あ!俺のキーボードを打つ速さに、見とれてるとか?ああ、私もこんなふうに、打てたらいいな~~とか…?
う!やべ!思い切り間違ってるよ。何を打ってるんだ…。ああ、仕事に集中、集中!
あ、瑞希も仕事に集中しだした。パソコンを軽快に打ち始める。真剣に、パソコンの画面を見てる瑞希の目、好きだな。無表情になるんだけど、その顔が綺麗なんだよね…。髪をかきあげる仕草は、すげえ女っぽい。う、やられた~~!
って、ばっかじゃないの?俺…。なんて、一人であほなことを思ってると、瑞希の手が止まった。
「熱、下がってよかったですね」
「うん」
「病院行きましたか?」
「ううん、寝てただけだよ」
「ああ、なんだ、茂にいの病院にでも行ったかと思った」
「小児科でしょ~~。私子供じゃないし…」
「はは、じゃ、俺が風邪ひいたら、茂にいのとこ、いかなきゃ、子供だから」
「ふうん、子供だって自覚してるんだ」
「え?やっぱ俺、子供~~?」
「くすくす…」
あ。それ、その笑い方がすげえ、好き…。
ああ、でもやっぱり、瑞希にとったら俺って、子供?
「瑞希さん、いくつくらい年下でもOK?」
「へ?」
「なんでもない…」
やべえ。俺、何聞いてんの?口走ってんの…?
もし俺が、瑞希のこと好きって言ったらどうするかなって何回か、空想したことがある。
「ごめんね、茂さんがいるし…」
って言って、困惑した表情をする瑞希。
「何冗談言ってるの?まだ、子供のくせに!」
って、笑い飛ばす瑞希。それか、
「冗談はやめてね」
って、くすくす笑う瑞希…。どれをとっても、いい結果の空想じゃあない。はあ…。そんな空想をしては、勝手に落ち込む俺…。
「私も、圭介のことが大好きだったの!」
ないない。ありえないっつ~の。そんなことがもしあったら、天と地がひっくりかえるんじゃね?俺、嬉しさのあまり、おかしくなっちゃうかも…。
6時、定時にだいたい、瑞希は仕事を終える。
「おつかれっす」
正社員の俺らは、今日はまた、夜中近くまでかかりそうだ。眠い目をこすり、パソコンに向かう。ああ、そういえば、昨日非常食のカップラーメン食っちゃったし、何も無いな~~。
「あ!」
瑞希、今帰るところじゃん!
「コンビ二行くんで一緒して、いいっすか?」
「うん」
やった…。って何がやったなのかわかんないけど、まだ、一緒にいられるのが嬉しい。
エレベーターに乗り、あ、昨日風呂はいってないじゃん、着替えもしてないしって、いきなり気になった。
「俺、汗臭くないですか?」
「大丈夫、圭介の匂いはするけど」
え?俺の…?
「なんすか?俺の匂いって…」
「わかんない~」
わかんないって…。俺、なんか匂う?クンクン、嗅いでみたけど、なんか、汗臭いだけで…。やっぱ、汗臭いんじゃね?
「臭いすか?」
「ううん、前にね、テレビ観たけど、10人くらいの男性が1日Tシャツを着て、それをそれぞれ、ビンの中に入れるの。それを10人の女性が匂いを嗅いで、1番いい匂いのTシャツを選ぶんだ」
「げ?くさそ~~」
「それが、いい匂いがするって言うんだよ。草原のような匂いとかって…」
「へええ!」
「DNAが近い人は、臭く感じて、遠い人は、いい匂いがするんだって」
「まじっすか!あ、じゃ、俺が臭くないなら、遠いってことじゃないっすか?」
「そうだね、そういえば、草原の匂いがするよ」
「え?まじっすか?」
「うそ」
……。って、なんだよ~~~~!ぬか喜び?俺…。
「なんだよ、喜んだのに」
「あはは、草原の匂いって言われて喜ぶの?」
「そうじゃなくて、瑞希さんと相性がいいのかなって…」
瑞希、やっぱ、ずれてるよ…。
「より遠い方がいいんでしょ?強い子孫残せそうじゃないっすか…」
「くす…」
あ、笑った…。
「圭介は、どんな相手でも強い遺伝子残せそうだよ」
カク…。何それ…?俺ってどんなやつよっていうか、誰とでもって、なんかひどくね?
さっきから、また、落ち込んでるよ、俺。でも、そういうのを隠して、明るくするいつもの癖、出るんだよね。だけど、さすがにへこむことを、瑞希はズバズバ言ってくる…。
「圭介の好きな人は、圭介のこと…」
「え?」
ドキ!好きな人?
「その人も、いい匂いがするって言ってくれたらいいのにね」
何…?それ…。ああ、クラってきた。明るくするのも、限界がある。
「うちの近くに住んでるって言ったでしょ?その人に会いに来たりしないの?もう…」
「もう行ってません、っていうか、一回だけっすよ、行ったの」
「そうなんだ…。会えたの?そのとき」
「いえ、ずっと待ってたらまじ、ストーカーですよね」
「じゃあ、会えずじまい?」
瑞希、やっぱり瑞希のことだって、わかってないんだ…。
「いいんです。もう…」
「いいの?あきらめたとか?」
「いえ、会えてるからいいんです、もう…」
ここまで言ったら、いい加減気づくかな?って、いきなり恥ずかしくなって、その辺の雑誌を適当に取り、ペラペラめくった。
瑞希は、急に黙りこくった。私のことかなとか、気づいたのかな…?
レジで支払いを済ませると、外で待ってた瑞希が、
「じゃ、仕事頑張って」
と、ちょっとクールにそう言った。そして、くるりと後ろを向き、さっさと歩いていってしまった。
あ~~あ。これ、気がついてて、わざと、冷たくしてたり、知らない振りしてたりしてるんじゃないかな…って、また、俺の心は沈んでいった。
土曜の夜。俺にとって、いきなりのビッグチャンスが訪れた。ビッグチャンスっていうかなんていうか、すげえ、嬉しいことだ!
親父が夕飯も終わって、風呂から出て、ビールを飲みながら、ダイニングでおふくろと話し出した。俺は、何も用がないと、リビングのソファで、ねっころがってテレビを観てることが多い。部屋に行ってもテレビもないし、家でまで、パソコンに向かうのも嫌だったし…。
「あら…。残念だわ。姉さんがっかりしてるわね」
ピク!俺の耳が確実に動いた気がする。それまで、テレビの方ばかりに夢中になり、親父とおふくろの会話は入ってこなかったけど…。今度はテレビでなく、親父たちの会話に耳が、集中した。
「理由はなんなの?茂、何て言ってた?」
「結婚観が違うとかなんとか…。まあ、きっと、断られたんだろうな~。それも、仕方がない。何しろ、しょっぱなのデートからして、すっぽかしたんだからな…」
やっぱ、茂にいのこと!
「別れたの?!」
思わず、でかい声で、聞いてた。
「あ、圭介、あまりこれは人には言うなよ」
「うん。言わない。で、別れたの?茂にい」
「うん、駄目だったようだな。まあ、見合いをする前から、駄目になるだろうって思ってはいたけど…」
っていう、親父の言葉を半分も聞かないうちに、俺は有頂天になり、自分の部屋へと駆け上がった。
別れた!なんだよ!瑞希、フリーになったんじゃんか!!!障害はもうないよ!ガンガンにアタックしても、いいんじゃね?
いや、待てよ…。でも、12歳も年下の俺なんて、やっぱ、なんとも思ってくれないか?
いや、待てよ…!そんなの決め付けてもしょうがないんじゃね?当たって砕けろだよ。こんなチャンスねえだろ?
そうだ!よっしゃ~~~!明日は、瑞希をデートに誘うぞ~~~~!
すげえ張り切って、ワクワクしたり、また、不安になったりしながら、その夜はなかなか寝れなかった。
朝、ドキドキしながら瑞希に電話をした。
「もしもし…」
「あ、俺!」
うう、ハイテンションだ俺…。でも、瑞希の反応が鈍い…。
「寝てた…?」
って、瑞希に聞くと、
「早いね…」
って答えが、返ってきた。早い?でも、もう8時過ぎてるし…。早かったかな?
「今日、暇してますか?」
「はい、暇してますよ」
「ですよね」
そうじゃなきゃ、困る!
「ドライブしませんか?車で迎えに行きます」
ああ、言っちまったよ。俺!
「え、うん、いいよ」
「じゃ、10時でいいっすか?」
「はい。こっちも支度したらそのくらいの時間になるかな」
やっり~~~~!デートじゃん!
急いで、バスルームに行く。昨日風呂に入ったけど、一応またシャワーを浴びる。髪を整え、歯を念入りに磨く。いや、別に下心はない。
うん。いきなり、茂にいと別れたからって、俺、そこまで、せめまくるつもりもない。って自分に言い聞かせながら、内心、ドキドキしてる。
Tシャツにパーカーをはおう。あ、でも、もう少しあれかな、大人っぽい服がいいかな。って服をあれこれ出したけど、どれも、似たようなものだった。まさか、休みの日にスーツはないだろうし…。
ま、いっかって時間に間に合うよう、慌てて車に乗り込む。
「え?圭介!どっか行くのか?」
「ああ、わりい、兄貴。車今日、使うよ!」
「ま、いいけどさ…。俺は仕事でこもるし…」
「んじゃ、行ってきます」
俺の車は、兄貴の正吾と共有している。早く自分だけの車が欲しいけど、でも、買っても駐車場がない。
今日は、どうどうと瑞希の家に行ける!すげえ、ドキドキしてる、っていうか興奮状態なんじゃね?これ…。
デート!やっぱ、海っしょ!ドライブって言ったら、海しかないっしょ!
いつか、犬とか連れて、好きな子と海を散歩…ってなんとなく妄想してたことなんだよね。
瑞希と、海。犬もいたら最高!
瑞希の家に着いた。さすがに緊張する。バックミラーを見て髪を直し、車を降りて、チャイムを鳴らす。
「は~~い」
あ、え?男の人の声?お父さん?にしては若いような…。
ガチャ…。
「え?」
誰?起きたての、ぼさぼさ頭に、よれたスエット…。
「おはようございます。俺、いえ僕は柴田瑞希さんと同じ会社の、榎本圭介といいまして…」
「ああ、おはよう」
ほ…、瑞希だ。瑞希が奥から顔を出した…と思ったら、ワンワン!え?犬…?奥から瑞希を追い越して、犬がやってきた!
うわ…!ドッスン…!それも、いきなり抱きついてきた。
「あら、まあ、クロちゃん。すごい喜びよう」
あ、お母さんかな。瑞希にちょっと似てる…。
「クロっていうんですか?すげえ、可愛い」
ボーダーコリーだ。黒いからクロか…。わかりやすい。俺は、可愛い~って思わず、ぎゅって抱きしめてた。
3年前にうちで飼ってた、柴犬が死んで依頼、犬を飼ってなかった。なんか、犬臭さも、あったかさも、久しぶりだ。
「俺、散歩連れてっちゃ駄目っすか?今日ドライブ連れてったら駄目っすかね?」
「あ、いいけど、海とか好きだし、こいつ」
名前聞いてないけど、多分、瑞希の弟だろうな。そう言ってくれた。
海!犬と、瑞希と、ドライブ!すげえ!!!!
「じゃあ、クロ借りますね。あまり遅くならないうちに帰ります」
「今日、外でバーべキューするのよ、よかったら一緒にどうかしら」
ええええ?バーベキューを家で?あ!すげえ!
「あ、ウッドデッキあるじゃないすか!」
そういうのも、すげえ、あこがれてたんだよね!うちは、家の中でこじゃれた食事をするけど、(何せ、母親が料理教室の先生だし…)でも、こういう庭で、バーベキューとかっていうのは、したことがない。嬉しすぎる!
「はい、早めに帰って、俺、手伝います」
俄然、張り切るぞ!
「それじゃ、クロ行こうか!」
クロは、尻尾をぐるぐる回して、喜んで車に乗った。俺にすっかりなついてる。可愛いよな~~。…って、後ろを振り返ったら、あれ?瑞希がいない?
「あ、すみません。瑞希さんもお借りします」
「ぶぶ~~」
え?弟さんが大笑いをした。なんで?あ。借りるって、何言ってんの、俺。やべえ…。
「えっと、あの瑞希さんとドライブ行ってきます。いいでしょうか…?」
「ぷぷっ」
え?なんで、お母さんまで笑う?俺、また変なこと言った?
「榎本部長の息子さんなんだって?部長によろしくお伝えください」
ああ!お父さんだ!なんか、優しそうな人だな~~。
「はい」
でも、すげえ緊張。これ、瑞希の一家がそろってるってことかな…?
「行ってきます!」
車に乗り込んで、発進した。バックミラーを見ると、みんなが手を振って見送ってる…。
「素敵な家族ですね」
「圭介がいたからじゃない?」
「え?」
「それか、もしかすると、みんなで気を使って…」
「それ、茂にいのこと?」
「あ、やっぱり部長から聞いた?」
「はい、昨日の夜」
「それでまた、部長から頼まれた?」
「何をですか?」
「今日のドライブ」
ええ?親父に言われて来たとか思ってんの?
「頼まれてじゃないですよ。俺の意思で決めたことです!」
きっぱりと言ってみた。
「なんで?」
「なんでって…」
ここまで、言ってもわからないの?
「もしかして、落ち込んでるとでも思った?」
「…はい」
って、いや、そうじゃないだろう、俺。
「で、慰めようとか、元気出そうとか…」
ああ、違うって!
「違いますよ、これはチャンス到来って、デートに誘ったんじゃないっすか!」
ああ、ここまで、言わないとわかんないのかな?
「あはははは、何それ~~」
って、笑われてるし、落ち込むな~~。
あ!落ち込んでなんていられないじゃん。
「海だよ!海!」
海が見えてきたよ!
「すげえ、海だ。やった、犬と海を散歩だよ!」
それも、瑞希と一緒だよ!すげえ~~~~!
超ハイテンションな俺!横を見ると瑞希が、少しクールに笑っていた。あ、やべ…。またやった。子供だって思われた…?