23 奇跡が起きた
それから、一週間後、検査の結果を聞きに、また一人で病院に行った。
「今日も、一人で行くの?」
「うん。瑞希、実家に行ってれば?ご飯もまた、食べてくると思うしさ」
「そう…。わかった」
ちょっと瑞希の顔が、沈んでるように見えた。
「何?」
「ううん。なんか、いっつも圭介と一緒にいるから、一人になるの、不思議なだけ」
「ああ。そっか…。でも、瑞希には、おなかに赤ちゃんがいるじゃん」
「そうだね。赤ちゃんとお話でもするよ」
俺は、瑞希に見送られ、駅まで歩き、電車で病院に行った。
「いつも一緒にいるのに…か」
そうだ。本当にいっつも俺たちは一緒にいる。寝るときも隣にいて、秋になり、涼しくなってからは、風呂も一緒にはいっているし。あ、夏場は、シャワーだけだったから、一人で入って、さっさと出てきてたけど…。
風呂に入ると、よく瑞希のおなかにさわって、二人で赤ちゃんに話をした。まだ、あまり赤ちゃんがいるとはわからないほど、瑞希のおなかは出てなかったけど、それでも、確実にいるんだもんな。
それだけ、一緒にいる。トイレくらいだ、別々なの…。
なのに、突然俺がいなくなって、瑞希大丈夫なんだろうか…。いや、赤ちゃんがいる。いや、ショックで、赤ちゃん、どうにかなっちゃわないだろうか。いや、大丈夫だ。…そんなことを考えながら、俺は病院に向かっていた。
診察室に呼ばれて入ると、先生と婦長さんが、なんか、変な顔をしていた。神妙な顔つき…。え?なんか、悪い結果?でも、最近すごく調子がいいのに。
あ、そういえば、この前、瑞希となんとなく借りて観た洋画に、不思議な能力がついた男性の話の映画があった。
なんて題名だっけ?ジョン・トラボルタが出てるやつだ。あるとき、光を見たときから、その不思議な力がそなわるんだけど、実は、脳にできた腫瘍がどっかの神経を圧迫して、それで、いつもは眠っている能力が開花して、すごい力を発揮してたっていうそんな話だった。
光ってのも、UFOかなんかで、宇宙人からもらった力とかって主人公は思ってるんだけど、実は脳腫瘍が原因で見えてた、幻覚だったとかって…。
そんな感じ?なんか、どっかの神経圧迫して、調子がいいように感じてるだけとか、その逆で、どっかの神経がおかしくなって、気持ち悪いのも頭痛も、感じなくなっちゃったとか…?
「圭介君。真剣に聞いてくれ」
「あ。はい…」
やっぱり、かなり深刻な話?
「実はだね。検査の結果なんだが…」
「はい…」
ゴク…。なんか緊張…。
何を言われるんだ…?これ以上、どんなショックなことがあるっていうんだ?
「消えてしまったんだよ…」
「何がですか…?なんかの神経とかですか?」
「いやいや…。がん細胞が、まったく消えてなくなっている」
「……。…え?」
「奇跡としか言いようがない…」
「…?」
今…、なんて言った?先生…。え?消えた?
「圭介君、信じられないかもしれないけど、事実なんだよ」
「私たちも、はじめは信じられなかったけど…。奇跡が起きたのね!」
婦長は、涙ぐんでいた。
「え?がん細胞が?」
俺は耳を疑った。
それから、これが夢じゃないかって、疑った。
それから、幻覚や幻聴じゃないかって疑った。
「いや、これは、奇跡なんだが、でもがん細胞が消えたとか、奇跡が起きたとは、医者の立場からは、言えないんだよ。いや、君や、君のご両親には、消えたとお伝えするが、でも、公の場では、誤診だったとしか…」
「は?誤診?」
「誤診だったとしか言えないんだよ…」
「誤診だったんすか…?」
俺の頭は、なんか働かなくなってて、さっぱりわけがわからなくなっていた。
「いや、そうじゃなくて…」
「がん細胞はあったのよ。転移もしていたの。でもね、転移していた箇所もまったくなくなっていたの」
婦長がそう、付け加えた。
「……?」
「数値で見てもだね…。あ。詳しいことを説明するよ。レントゲン写真と、これが検査の結果だ。こっちは、先月の…」
竹内先生は、説明をしだした。でも、まったく頭に入らないし、聞いててもちんぷんかんぷんだった。
説明が終わると、検査の結果やレントゲン写真を封筒に入れてくれた。
「奥様や、ご両親にこれを持って、報告するといい。それから、また、来月検査をしよう」
「あ…、はい…」
「じゃあ、会計の待合室でお待ちください」
婦長さんにそう言われて、椅子から立ち上がり、なんかやっとこ、頭が回転しだして、
「え?じゃ、俺、死なないってこと?」
と、先生に向かって聞いた。
「そうだよ。圭介君」
「え…?だって、余命3ヶ月って…」
「そうだ。7月の時点ではね」
「……。…俺、脳腫瘍じゃないってこと?え…?治ったってこと…?」
「……。奇跡だよ、良かった…」
竹内先生が俺の、両手を持って、ぎゅって握ってきた。目をうるませながら。婦長は泣いていた。
「ま…じで?」
「早くに、ご家族にもお伝えしてあげたら?」
「あ。はい…!」
そう言って、俺はありがとうございました!と頭を下げ、診察室を出た。
会計を待っている間、瑞希に電話をしにいった。
病院の中では、電話はできないよなって外に出て、そこで初めて、携帯の充電切れに気づいた。
「ああ!」
公衆電話のところに行き、家に電話した。瑞希は出なかった。
ああ、実家か!実家の電話番号は携帯にははいっているものの、どこにも控えてない。それに、瑞希の携帯の番号も、覚えていなかった。
「くそ。こうなったら、早くに帰って、瑞希に知らせないと!」
会計を今か今かと待ち、会計が済んで、病院を出て、タクシーに乗り込んだ。絶対、電車よりもタクシーのほうが早いとふんだからだ。
信号待ちも、ちょっとした渋滞も、いらだった。
瑞希に早く知らせたくて、いてもたってもいられなかった。
道路がすきだして、タクシーがスムーズに走り出した。瑞希の家にどんどん近づく景色を見ながら、俺はだんだんと喜びが、溢れてきた。
俺…、生きられる…!
俺…、ずっと瑞希の隣にいられる…!
赤ちゃんにも会える…!会える…!会える…!!
そこで、夢の赤ちゃんを思い出した。いや、赤ちゃんっていうより、小さな子。色が白く、黒い髪。俺のことをパパと呼んだ…。あの子、俺の子だよ、絶対。あれは正夢なんだ!
おなかの子が見せてくれた夢かもしれない!
いや、おなかの子が奇跡を起こしてくれたのかもしれない!俺と、いっぱい遊びたくって、奇跡を起こしたのかも…!
タクシーを降りて慌てて、チャイムを鳴らす。待っていられず、ドアもドンドンたたいて、
「瑞希?いる?」
と、叫んだ。瑞希と、お母さんが、驚いた表情でドアを開けた。
「瑞希!」
俺は、靴をはいたまま、家にあがって瑞希を抱きしめていた。
「瑞希!やったよ!やったよ!」
「何が?」
「無くなってた。がん細胞全部消えてた!」
俺はそう叫んで、もう一回瑞希を力いっぱい抱きしめた。そして、
「本当に?圭ちゃん」
という、お母さんの声で、我に返り、瑞希を抱きしめた腕をゆるませた。あ、赤ちゃんがいるんだった!
「本当です」
手にした封筒を、渡そうとして、手にないことに気がついた。
あれ?落とした?足元を見ると、封筒が落ちてて、慌ててそれを拾い上げた。その瞬間、瑞希がへなへなと座り込もうとしてて、
「あ…!」
俺は、とっさにまた、封筒を投げ、瑞希の体を支えた。瑞希は、腰を抜かしたように、体に力が入らないようだった。
「それ、見てください。って言っても、見てもよくわかんないんですけど…」
お母さんが、封筒を拾って中からレントゲン写真と、検査の結果の用紙を出した。
瑞希を支えたまま、リビングに行こうとすると、お母さんから、
「圭ちゃん、靴は脱いで。」
と、言われて、初めて靴をはいたまま上がっていたことに気がついた。慌てて、靴を脱ぎ捨て、瑞希を支えて、リビングに入った。
瑞希をソファに座らせ、俺もその隣に座った。お母さんもソファに腰掛け、レントゲンの写真を見ていた。
「竹内先生が奇跡が起きたよって言ってくれました。でも、今の医療ではありえないことで、奇跡とか、がん細胞がまったく消えたとか、そういうふうには、公には言えない。癌であったことが誤診だったとしか言えないって、言ってました」
瑞希と、お母さんが顔を見合わせた。お母さんが、
「転移していた癌は?」
と聞いてきたので、
「それも消えました」
と、答えた。
「ひいいっく…」
瑞希が、いきなり声をあげて、泣き出した。俺は、瑞希をそっと抱きしめた。
「奇跡ね、まさに奇跡ね。ああ、信じられないけど、本当のことよね…」
お母さんが、涙を流しながらそう言った。
「はい…」
瑞希は、俺の胸の中で、泣いていた。
しばらくして、瑞希が落ち着くと、お母さんが、
「これ、検査の結果を持って、圭ちゃんの家に行ってきたら?」
と、言ってくれた。
「はい。じゃ、瑞希はここにいて」
「え?」
「大泣きして、大変そうだから。報告したら、すぐに戻るよ」
そう言って、俺は瑞希の実家を出た。
瑞希には申し訳なかったけど、走ってでも、すぐにうちに向かって、おふくろに報告がしたかった。瑞希と一緒じゃ急げなかったから、瑞希には、実家にいてもらった。
走りながら俺は、
「信じらんねえ。信じらんねえ。でも、本当のことだよな…」
と、何度も口走っていた。
家に着くと、俺はまた、チャイムを何回も押し、ドアをたたいた。
「圭介?どうしたの?」
「おふくろ!」
おふくろが玄関を開けたのと同時に俺は、おふくろに抱きついていた。
「奇跡!奇跡だよ!」
「え?何が?」
「俺の癌、消えちゃったよ!」
「え?」
おふくろは、目を真ん丸くして、それから、飛び跳ねた。
「ほ、本当なの?本当に?圭介!」
「ああ、これ、見て!」
俺が、封筒を渡すと、中からがさがさとレントゲン写真を出した。
「よ、よくわからないけど、本当のことなのね…?」
レントゲン写真を持つおふくろの手が、震えていた。それから、俺のことをぎゅうって抱きしめて、声を出して泣き出した。俺も、おふくろを抱きしめ、声をあげて泣いた。
家に入り、
「お父さんに電話しなくっちゃ!」
とおふくろは、震える指で受話器を手にしたが、指が震えて、番号を押すことすらままならなかった。
「貸して」
そう言って、俺は電話の子機を受け取り、番号をおふくろに聞きながら、電話した。
「はい、○○会社、榎本です」
「あ、親父?」
「圭介か?どうした?なんかあったのか!」
「ああ、検査の結果聞いてきたんだ」
「ああ。それで…?」
親父の声は、冷静だった。
「俺の、がん細胞、全部消えて無くなってた」
「えっ?!」
親父が、とんでもない声をあげた。
「なんだって?圭介、もう一回言ってくれ」
「だから、がん細胞が消えてた!」
「……!」
親父が無言になった。そのあと、小さな泣き声が聞こえた。
「そうか。そうか……」
そう言ったきり、親父は電話の向こうで泣いていた。おふくろも、俺の隣で、泣いていた。
それから、おふくろは、
「今日、お祝いをしたいわね。そうだ、瑞希さんのご家族も一緒に」
と提案した。
「うん。いいよ」
そして、すぐにおふくろが瑞希の家に電話をした。
瑞希のお母さんが出たようで、瑞希の実家でもお祝いをする準備をしているから、こちらにいらしてくださいと、言われたらしい。
親父が、仕事を途中で投げだし、早々と帰ってきた。それから、親父が酒を飲みたいからと言うので、3人で電車で、瑞希の実家に行った。
瑞希のお父さんも、修にいも、早めに帰宅して、みんなでお祝いをしてくれた。
瑞希は、ずっと、目をうるうるさせていて、時々、俺のそばに来ては、俺の腕を掴んだり、俺の背中を触ったりして、俺の名前を呼んだ。
「ん?」
返事をしても、目をうるませるだけで、何も言わなかった。ああ、俺の名前を呼びたいだけなんだってことがわかった。
クロは、俺があまりの勢いで、瑞希の家に来たので、びっくりしたのか、大人しかったが、今になって俺の足元に来て、じゃれついた。
クロをなでまくっていると、今度は、修にいが、ビール片手にやってきて、俺の背中をばんばんたたき、
「よかったな~、圭介、よかったな~~」
と、目をうるませてそう言ってくれた。
9時を過ぎ、おふくろと親父が、帰っていった。それから、俺を瑞希も、俺たちのアパートに帰った。
瑞希は、家に帰ってくる途中も、俺の腕にしっかりと腕をからませ、家についても離れようとはしなかった。
「夢じゃないよね…」
瑞希がぽつりと言った。
「夢じゃないよ…」
「これ、現実だよね…?」
「うん。そうだよ…」
瑞希は、また泣き出した。俺に抱きつき、嬉しいって言いながら、泣いていた。瑞希のことを優しく抱きしめ、俺も泣いた。
「赤ちゃんに俺、会えるんだね…」
「…うん」
「ずっと、瑞希といられるんだ…」
「…うん」
「なんか、信じられないけど…。俺も…」
「でも、本当のことだよね?これ…」
瑞希はそう言って、俺の目を見た。涙で濡れたまつげで、俺のことをじっと見ている。瑞希にキスをした。長い長いキスをして、また抱き寄せた。
赤ちゃんがいると、駄目なのかなって思ってたけど、瑞希とその日は、抱き合った。そっと、赤ちゃんが苦しむことがないよう、気を使いながら。
瑞希は、俺の腕の中で、涙をまた流した。そして、俺の首に両腕をまわして、俺を引き寄せ、
「圭介、大好き…」
って、耳元で、ささやいた。
「ずっと、一緒にいられるね」
「うん…」
「圭介のこと、こうやって、ずっと、感じていられるんだね…」
「うん…」
瑞希はそう言ってから、おなかに手を当てた。
「赤ちゃんも、きっと、喜んでる」
「うん」
「パパに会えるって、喜んでるね…」
「……。うん!」
俺も、瑞希のおなかに手を当てた。俺に奇跡を起こしてくれてありがとうって、心の中で、赤ちゃんにそう言った。
翌朝、順平と兄貴が電話をくれた。昨日遅くに帰ってきたらしく、それから、親父に、話を聞いたようだった。
「よかったな、圭介!」
そう二人とも、喜んでくれ、週末遊びに来いよと、言ってくれた。
しばらくして、笹おじさんにも報告をすると、いつでも、会社に戻って来いと言ってくれた。
10月の終わり、俺は会社に復帰した。みんな、俺の病気を知っていたから、すごく喜んでくれた。
俺は、仕事に復帰はしても、前のように会社に泊まるようなことはせず、一人で家で待ってる瑞希のことを思い、残業しても、10時には家に帰ることにした。
11月になると、秋も深まり、近くの公園のもみじやイチョウが、色づき始めた。それを、写真に撮り、日記に貼った。
日記はもう、2冊目だった。春になれば、生まれてくる赤ちゃんに会えるんだけど、それでも、日記は完成させたいねって瑞希と話し、生まれるまで、日記をつけ続けることにしていた。
12月、クリスマスには、シャンパンを飲んだ。瑞希は、ほんの少し飲み、二人でクリスマスを祝った。
検診に俺は時々、ついて行った。エコーで赤ちゃんを見ると、心臓の動いているのが見えて、まじで俺は感動した。
「すげえ、心臓、動いてる…!」
生きてるって言うのが、すごく嬉しくて、思わず、感動して泣いていた。
先生や看護士さんは、俺の感動している様子がめずらしいのか、面白いのか、くすくすと笑っていた。 でも、瑞希を見ると、瑞希も目をうるませていて、二人で、おなかの中の赤ちゃんの鼓動に感動した。
瑞希の背中に耳を当てて、鼓動を聞くことが、たまにある。瑞希も俺の胸に耳を当て、鼓動を聞いた。
でも、だんだんと、瑞希のおなかが大きくなるにつれ、一緒の布団で寝ることもできなくなり、一緒にお風呂に入ることもできなくなった。
「なんか、そのへんが、ちょっと寂しい」
って言うと、瑞希はおなかの子に向かって、
「さびしんぼうの、パパですね~~」
って、言った。
「あ、ちょっと、そういうこと、赤ちゃんに教えないで!」
「なんで?」
「なんでって、そりゃあ父親の威厳がさ~~」
「くす…。でも、事実じゃない?」
「う…。瑞希だって、寂しがりやじゃんか」
「そうだよ~~。認めるよ。圭介がそばにいないと、寂しくて、泣いてるよ」
「え?俺が会社に行ってる間?」
「…っていうのは嘘だけど!」
「なんだよ~~~!」
「あはは…」
瑞希は俺がいない間、実家に行ったり、俺のおふくろが遊びに来てたり、ヨガで一緒だった友達が尋ねてきたりと、意外と一人でいることもなく、楽しんでいるようだった。
でも、俺が仕事から帰ってくると、しばらくは俺にべったりくっついて、離れなかった。
「瑞希は、さびしがりやじゃなくって、甘えん坊だね」
「え?そう?」
あれ?自覚してないの?
「俺に、べったりくっついてるじゃん」
「それは、甘えてるっていうか…」
「うん?」
「う~~ん。いちゃいちゃしてるの」
「ええ?何それ?」
「だって、私たち、まだまだ新婚でしょ?」
「新婚?」
「うん」
「あ、それで思い出した。新婚旅行行ってないね。俺たち」
「じゃ、2月に温泉旅行っていうのはどう?」
「桐子さんの結婚式…。でしょ?」
「そう、招待状が来たの!」
「おお!行くよ!じゃ、それが新婚旅行かな」
「うん!」
俺は仕事をしているとはいえ、やっぱり、瑞希といろんなことを、楽しんでいた。冬はこたつを出し、みかんを食べたり、じんべえを着たりした。
「日本人の冬って感じ~~」
「あはは。何それ?圭介って、和が好きだよね」
「そりゃ、日本人だからね」
大晦日はもちろん、年越しそばに、紅白歌合戦。除夜の鐘もテレビでだけど、聞いてて、でも、途中で俺は獏睡してた。
お正月は、俺の実家にも、瑞希の実家にも行ってきた。
おふくろは、こんな正月が迎えられるなんてと、泣いていた。なんか泣き上戸になったよな~~。
で、そんなおふくろを、決まって親父が、慰める。背中を優しく抱いてることもあれば、さすってあげてることもあって、今まではそんな光景見たことなかった俺や兄貴は、なんか、見てはいけないような、テレがあった。でも、順平だけは、堂々とひやかしていた。
そう、順平は前に言ってたように、家のいい潤滑油っていうのかな、明るくいつも盛り上げてくれていた。
瑞希と、近くの神社に行き、お参りをして、安産のお守りを買った。
俺はよく瑞希のおなかにさわりながら、元気に生まれて来いよ。ママのことは絶対に、苦しめるなよ…と話していた。
「大丈夫よ~」
瑞希はそう言って、笑っていた。