まだ生きていたい
授業の内容はあんまり入って来なかった。ずっとユイナのことが心配だった。
幸いユイナは斜めの席なのですぐに見れる場所だった。
でも移動教室とかだと離れてしまうし、何より移動の時のユイナの顔は辛そうで、私の手の力を借りながら何とか行ける、という感じで、私は怖かった。
ユイナがいなくなっちゃうのではないかって……
放課後。今日はイラスト部がない。
2人で一緒に帰った。家でも大変ということで私もユイナの家に行った。
「……ピア、あのね……」
「うん、なぁに?」
「私の、両親の、こと、なんだけど……」
「うん。」
私は相槌を打ちながら話を聞く。
その方がああ、話聞いてるなっておもうから。
「私、両親が、居ないんだ。」
「……え……」
「……もともと、お父さんはいなくて、ママはシングルマザーだった。」
「……そうなんだ。」
「でも、ママが……病気で、倒れちゃって……」
自分も病気で、お母さんも病気で、しかも自分は中学生になったばかりで、もう、命がある時間も限られている。
そんなの、そんなの、ないよ……
酷いよ……
苦しみはどれだけ君を傷つけるのだろう。
私には、その気持ちがわからない。
私は君みたいに傷ついたことないのに。
周りだってこんなことを抱える子なんてここでは珍しいのに。
理不尽だ。
この世はあまりに理不尽すぎるよ……!
なんで、なんで!
ユイナは何もしてないのに!
ただ生きてるだけなのに
なんで君だけ……
不平等だよ……
ただ必死に生きてる。
私はハッとする。
「ずっと疑問に思ってたことがあるの」
「……なんで人間って生きてるのかなぁ」
前に言っていた。
ユイナは生きる意味を見失いそうになることも、あったんだ。
「君も、お母さんも、病気で……、戦ってきたんだ。病気と。」
「……戦った、うん、そうだね……」
気づけば、私はユイナを抱きしめていた。
「……ずっと、それから、1人で……頑張って来たんだ。」
ゆっくり話す。
トントンと背中をなでる。
「……頑張ったね、一人きりで、耐えたんだ……」
「……う、ん……」
「でも、これからは、大丈夫。」
私は続ける
「私がいるじゃんっ!これからは、ひとりじゃない」
「ピア、あり、がと……」
「大丈夫?救急車呼ぶ?」
「うん……ちょっと、苦しい……」
「うん、待ってて?」
ユイナが、笑った。にこって。
その笑顔はいつぶりだろう。
その笑顔が懐かしく思えた。
「私、その、言葉で……」
ユイナがゆっくり話す。
「もっと生きたくなっちゃった。」