(2)
魔法で暴れてほどよく疲れたクリストファーの昼寝の寝かしつけは旦那様がしてくれた。
今では、あの初夜の出来事は何だったんだろうと思うほどの愛妻家で子煩悩な旦那様だ。
テラスで旦那様とお茶を飲みながら大きく膨らんできたお腹を撫でる。
二人目を出産したらしばらくは忙しくなるだろうから、こうしてのんびり旦那様とお茶を楽しむ余裕もなくなるかもしれない。
「少々困ったことになったんだ」
そう言って顔をしかめる旦那様だが、声色から察すると大して困っていなさそうだ。
「ダンジョンのことですか?」
「ああ。実は……」
今日のマーシェスダンジョン地下60階のラスボス討伐を完了した後、討伐隊のリーダーがダンジョンの仕様変更で厄介な要望をしたらしい。
わたしが一線を退いてから、マーシェスダンジョンの冒険者たちの顔ぶれも様変わりした。
ロイパーティーは今でもハットリをリーダーに存続しているが、メンバーの半数以上は知らない冒険者だ。
ジ-クさんやユリウスさんは本人のダンジョン攻略よりも若手冒険者の育成に力を入れているらしい。
今日の討伐隊のリーダーを担った冒険者も、わたしの知らない名前だった。
「そいつが『次のラスボス戦は、伝説の冒険者ロイとガチで戦いたい』と要望して、システムがそれを受け入れたんだ」
なんと!
そんなことあるのね!?
マーシェスダンジョンの初代ラスボスだった謎多き冒険者ロイは、もはやレジェンドとしてあれこれ誇張されて語り継がれている伝説の存在だ。
「どうするんですか!?」
「どうするも何も、ロイがラスボスを担うのはもう決定だ」
旦那様、口元がニヤついていますよ。
迷惑そうな口ぶりとは裏腹に、さては楽しみなんですね?
「次のラスボス戦は二年後ぐらいか? そこで相談なんだが、クリストファーを参戦させるのはどうかと思ってね」
「え、どっち側に?」
「もちろん、俺と共にラスボス側として」
――――!
「そんな……」
ティーカップをソーサーに戻す手が若干震えてしまう。
「もちろん安全には十分配慮する。せっかくのご指名だから難攻不落のラスボスになってやろうかと思っているんだが、ヴィーが嫌なら……」
旦那様の言葉を途中で遮った。
「そんなのズルいです! わたしも一緒にラスボスやらせてくださいっ!」
二年後。
マーシェスダンジョン地下65階のラスボス「ロイファミリー」は、討伐隊をさんざん手こずらせて何度も撤退に追い込んだ。
特に、手練れの冒険者たちをして「あのチビ、ヤバすぎる!」「無理ゲーだ!」と言わしめたチビ悪魔は、また新たな伝説を生み出すことになるのだが、それはまた別のお話――。
【完】
これにて完結です。
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