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番外編 後日談(1)

「奥様ああぁぁぁぁっ!」


 裏庭から庭師のマックの悲痛な叫び声が聞こえた。


 バラの手入れをしていた手を止めて、よいしょと立ち上がる。

 どうせまたクリストファーがやらかしたのだろうと思いながら裏庭に回ると、予想を遥かに上回る光景に唖然とした。


 火球が空から降り注ぎ、裏庭が穴ぼこだらけになっているではないか!


「奥様、申し訳ございませんっ」

 マックが涙声で平身低頭謝罪しているが、マックのせいでないことはよくわかっている。


 クリストファーは三歳になる息子だ。

 艶やかな栗毛もアイスブルーの瞳も父親譲りで天使のような見た目であるのはいいとして、とんでもない魔力を秘めていて手に負えない。

 

「かあさま! 隕石弾(メテオ)だよ♡」

 そう言って嬉しそうに手を振るクリストファーの後ろではいまだに火球がドカドカ落ち続けている。


 メテオだよ♡ じゃないでしょうがっ!


 わたし譲りの土・岩石系魔法と旦那様譲りの攻撃系高火力魔法の融合。

 天使の皮をかぶった悪魔という表現はこの子のためにあるのかもしれない。


「奥様、お坊ちゃまは私の手に負えるレベルではございませんっ!」

 青ざめた顔で首を垂れるのは、今日雇ったばかりのクリストファーの家庭教師だ。


 まずはクリストファーの力量を確認するためにどんな魔法が使えるのか披露してみてと言ったら、こうなったらしい。


「どうにか魔法を制御する方法をあの子に教えていただけないでしょうか」

 魔術師としても家庭教師としても経験豊富だという人物を紹介してもらって今度こそと思ったのだけれど……。


「無理です! 申し訳ございませんが今日限りで辞めさせていただきます!」

 そう言うや否や、家庭教師は転移魔法で止める間もなく逃げて行った。


 ああ、これで何人目だろう。

 クリストファーとまともに渡り合える魔術師なんて、エルさんか旦那様ぐらいしかいないんじゃないかしら。


 ここが王都の本宅の庭園でなかっただけマシだと思うことにしよう。


 遠い目で見上げる空から、いまだに火球が降り注いでいた。


 

「悲惨なことになっているな」


 背後から低い声が聞こえて振り返ると、旦那様がアイスブルーの瞳を冷ややかに光らせて苦笑いしていた。


 わたしがリーダーを務めた最初のラスボス戦から五年経ち、マーシェスダンジョンは地下60階の巨大なダンジョンへと成長している。

 そして今日は、その地下60階のラスボス戦を見届けるためにダンジョンへと赴いていたはずだが、帰って来たということは無事に討伐が終了したんだろうか。


 そのことを尋ねる前に、明るい声が響いた。


「とうさま! メテオだよ♡」

 先程と同じ天使の笑顔で父親に手を振るクリストファーがいる。


 旦那様は手袋を外しながらゆっくりと前へ進み出て両手を空にかざした。


 空が一瞬凍りついたように見えた後、火球が消え去っていつもの青空が広がった。


 

 これは後からエルさんに聞いて知ったことだが、旦那様は宮廷魔術師になれと言われるのが嫌で、学生時代に魔法科の試験でいつもかなり手を抜いていたらしい。

 

 稀代の魔術師と謳われるエルさんはオールマイティーに全ての魔法を失敗することなく無詠唱で発動できるが、攻撃的な魔法に限定すると旦那様には全く敵わなかったんだとか。


「高火力の殲滅魔法を使うあいつはね、悪魔のようだったよ。しかもそれが本気じゃないっていうんだから、本気になったら小さな国をひとつ滅ぼすぐらい楽勝だと思うよ」


 そう語るエルさんのことを、大げさなこと言っちゃって! と思っていたが、今ならよくわかる。

 この親子にかかれば国どころか、世界を滅ぼすことだって可能かもしれない。


「とうさま、すごい! いまのどうやったの?」


 足元にまとわりつくクリストファーを抱き上げた旦那様は、優しい笑顔で愛息の額にキスしながらこちらへ戻って来た。


「それを教える前に、まず庭にたくさん空いた穴を埋めないといけないな。土魔法が得意な母さまに教えてもらって一緒に直そうか」

「うん!」


 瓜二つの笑顔がわたしを捉え

「ヴィー」

「かあさま」

と呼ぶ。


 しょうがないわねとわたしも釣られて笑った時、お腹の小さな命がポコっと動いた。



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