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旦那様Side

 頑張ったご褒美に好きなことを言えばいいと言ったのは確かだが、まさか「おさげ」とは……。もっと他に、BAN姉さんをチェンジしろとか、ペットが入手できる階層を増やしてほしいとかあるだろうが!


「これでもうミミックにおさげを食べられても取り戻せますね!」

 嬉しそうに笑うヴィーを前に怒る気も失せてしまったが。


 鈍くて天然が過ぎるヴィーに期待したのが間違いだったのだ。

 しかも、彼女のそういうところに惚れているのだからどうしようもない。


 お客様のご要望の反映は、次は新実装される5階層のラスボスを倒せばまたアップデートされる。

 その時こそは、ペット入手の難易度を下げてもらおうじゃないか。


「またおさげにできるぐらい伸びるまでずっと冒険者を続けるつもりなのか?」


 肩の上で切りそろえられた髪を撫でるとヴィーは少しくすぐったそうに首をすくめた。

「ラスボスはもう旦那様の務めではなくなったのでしょう? だったらまた一緒に冒険しましょう。これからはのんびりと趣味程度に。クラーケンの討伐会にももちろん参加します」


「可愛い」

 弾ける笑顔を見て思わず本音が漏れてしまい、気恥ずかしさを隠すためにヴィーを抱きしめたのだった。


 

 ヴィーと共にビアンカの酒場に遅れて到着すると、すでにワイワイガヤガヤと大盛り上がりだった。

 大皿に盛られた料理や酒瓶がカウンターにずらりと並べられていてセルフサービスとなっており、皆思い思いに飲み食いしている様子だ。


「みなさーん、改めてお礼を言わせてください!」

 ヴィーが元気よく呼びかけると酒場は静かになった。


「至らない点も多々ありましたし、ラスボスがまさかの相手で想定外でしたが、一人も欠けることなく無事に初回のマーシェスダンジョン踏破を終えられたことにホッとしています。皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。そして、お疲れさまでした」


 最後は涙声になって頭を下げるヴィーに労いの言葉がやんやと掛けられ、乾杯が行われた。


 それが落ち着くと、次は事務的な説明を冒険者協会長である俺がする番だった。


「お疲れさまでした。ヴィーさんのご要望により、ラスボスは人間以外の魔物でということになりましたので次回はもっとハードモードの魔物が登場することになると思います。当ダンジョンは二日間のアップデート休暇をいただいてリニューアルオープンしますので、今後ともご贔屓のほどよろしくお願いいたします」


 拍手が沸き起こる中で、ユリウスだけはじとりとした目でこちらを見ている。

 勘のいい男なだけに、あの戦闘のさなかでも俺がロイに変わるところを見ていたのかもしれない。

 しかしエリックと同様、きちんとわきまえている人間でもあるから、そのことを大っぴらに言い触らしたりはしないだろう。


「結局ロイさんて、何だったんでしょう?」

 質問が上がる。

「守秘義務がありますので詳細は申し上げられませんが、ダンジョンのプログラムに不具合が発生していたわけではなく、あれで仕様通りだったとだけお伝えしておます。当ダンジョンのアーカイブには、初回のラスボスはロイという名前の元冒険者だったと公式に記録されるでしょう」


 すでにアルコールが入っていることもあり、なんとなくな説明で大半が納得してくれたようだ。


 おっと、大事なことを失念していた。


「最後に、私事ではありますが、実はヴィーは私の妻です。公私ともに今後ともどうぞよろしくお願いします」


 ヴィーの肩を抱いてにっこり笑うと、酒場全体に「ええーっ!」という驚愕の叫びが溢れたのだった。



 会長とヴィーが夫婦ってどういうことだとか、馴れ初めはとか、さんざん冷やかされた後に宴会がお開きになったが、ビアンカの負担を考慮してロイパーティーメンバーおよび旧メンバーたちは総出で片づけや皿洗いを手伝った。


 明朝には大樹に花が咲くはずだ。

 今ここに残っているメンバーたちは、このまま夜通し飲み明かして開花を見届ける気なのかもしれない。


「まさかロイさんがラスボスだったとはな」

 グラスを傾けながら旧メンバーのトミーがしみじみつぶやいた。


「踏破したら一緒に花見しようぜって言ってたの何だったんスかね?」

 他のメンバーたちも遠い目をしている。

 

「破天荒な人だったから、自分がラスボスだって気づいてなかったんじゃねえか?」

「あははっ、言えてる」


 ああ、まったくもってその通りだとも言えず、表向きロイパーティーのメンバーでもない部外者の自分がこの場にいつまでも残っているのは野暮だろうと酒場を出た。


 すると

「旦那様!」

 ヴィーが背中に飛びついて来た。


 驚いて振り返ると、ヴィーが泣きそうな顔でむくれている。

「どこに行く気ですか! またわたしのこと置いていく気だったでしょう」


「え?」

 何のことかわからず困惑していると、ヴィーが唇を尖らせて小声で言った。

「だってこのパターン、ロイさんがいなくなった時と一緒じゃないですか。全部終わったら、話せなかったことも話してくれる約束でしたよね?」


 その可愛らしい上目遣いは反則だ。

 

「わかった。じゃあ屋敷に帰ってベッドの中でゆっくり弁明するから、今夜は眠れないと思ってくれ」


 月明りでもはっきりとわかるぐらいにヴィーの顔が瞬く間に真っ赤に染まる。


 そんな可愛い妻にそっと口づけたのだった。

 


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