表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/58

(2)

 ダンジョンはどうしてこんなにも冒険者たちを魅了するのだろう。


 マーシェスダンジョンが「レジャー施設」なのは地下3階まで。

 そこから下は、進めば進むほどに難易度が上がり、現在最前線で攻略しているパーティーは最下層まで到達している。


 冒険者は大きく二種類に分かれる。

 冒険者を本業にしてそれを生業にしている者と、本業は別にあり趣味として冒険を楽しんでいる者だ。

 もちろん、趣味が高じて本業に鞍替えしたという冒険者も多いし、冒険者を引退してからもダンジョンの魅力に囚われ続けて冒険者協会の一員になったり、街で商店を経営してダンジョンに携わり続けようとする者も多い。


 ダンジョンでしか手に入らない希少価値の高いお宝や素材を求める者、純粋に魔物狩りを楽しむ者、誰よりも早く踏破することを目標にする名声を求める者、楽しみ方は人それぞれだ。


 わたしの所属する攻略パーティーのリーダー、ロイさんもまた、自他ともに認める「ダンジョン沼にはまったダンジョン馬鹿」の一人だった。

 ご本人は「俺はこれでも一応いいとこの坊ちゃんなんだぜ?」とか言っていたが、パーティーが拠点としている酒場の二階に入り浸って家に帰っている様子はなく、マーシェスダンジョンの最前線を突っ走るパーティーのリーダーとして「うらあっ!」だの「おりゃあぁぁっ!」だの雄たけびをあげながら毎日大剣を振り回し、どんな魔物でもなぎ倒していく最強の冒険者だった。


 粗野で言葉遣いも乱暴で、短気で喧嘩っ早いところがあって、とてもじゃないけれど「いいとこの坊ちゃん」には見えなかった。

 

 そんな人のどこにどう惹かれたのかわからないけれど、いつの間にか好きになっていた。

 ずっとそばに居て、ずっと一緒に冒険したいと思っていた。


 それなのに彼は、突然姿を消してしまった。


 マーシェスダンジョンは地下50階が最下層だと言われている。

 そのラスボスを倒すのを誰よりも楽しみにして張り切っていたのはロイさんだったはずなのに…。


 パーティーの解散やメンバーの入れ替え、引退はよくある話だけれど、攻略を牽引していたロイさんを失ったことは、我がパーティーだけでなくマーシェスダンジョン完全制覇を目指していた全パーティーの士気低下につながった。

 

 それでもロイさんがいつ戻って来てもいいようにと、我がパーティーはペースダウンしながらも懸命に前進を続けている。


 だからわたしは、本来ならば結婚どころではないのだ。


 子作りは待ってほしい——旦那様にそう告げれば、理由を問われるだろう。


 正直にマーシェスダンジョンの完全制覇を目指しているからだと答えたら、旦那様はどんな顔をするだろうか。

 身勝手な人間だと呆れられ、もう結婚したのだからそんな夢を追うのはよせと叱責されるに違いない。


 今すぐに冒険者を引退するという選択肢はない。

 そのことをどう切り出そうか。どう納得してもらおうか。

 あるいは、どうやって誤魔化せばいいのかと、いくら考えても良い案が浮かばないまま初夜を迎えてしまったから、旦那様からのまさかの白い結婚宣言と別居宣言は、今のわたしにとって願ってもない好待遇だ。


 旦那様、ありがとうございます!

 わたし、ダンジョン攻略を頑張りますねっ!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ