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旦那様Side

 クラリッド男爵家に到着すると、ヴィーの両親は青ざめた顔で頭を下げた。


 娘がまだダンジョンに行っているとは知らなかった、申し訳ないとしきりに謝罪を繰り返しながらヴィーの寝室へと案内してくれた。


 いいえ、そもそもお嬢さんをダンジョン馬鹿の道へと引き込んだのも、結婚後もダンジョン攻略を続けられるようにお膳立てしていたのも私です――とは言いにくい。

 もごもごと適当な相槌を打ったため、ヴィーの両親はきっと俺が怒っていると思っているだろう。


 ベッドに横たわるヴィーは、顔色は若干悪いもののただ眠っているように見えた。

 神官はすでに治療を終えて帰ったという。

 神官の見立てでは、後頭部強打による脳震盪と軽度の窒息。魔力切れによる虚脱。窒息は脳に悪影響がでるほどの長時間ではなく、おそらく明朝には目を覚ますだろうとのことだった。


 

「夜は私がヴィクトリアに付き添います。何かあれば呼びますので、どうぞお休みください」

 一緒に付き添うと言い張る義母をどうにか宥めた。


 ヴィーが目を覚ました時に二人きりのほうが話しやすいと思ったからだ。


 ベッドの横に座り眠る顔を眺めているところへ、エリックからの書簡が届いた。

 これは魔法で送られてきたもので、丸めた書簡のみが突然目の前の空間に出現し手の中にストンと落ちた。


 広げてみると、ハットリに聞いたという今日の出来事の詳細が書かれていた。


 なるほど、ジークに挑発されて一緒に地下49階へ行ったわけか。


 随分と無謀なチーム編成だったらしい。

 そして最後は、HPが半分以上残っていたであろうボススライムをヴィーが一人で地面の割れ目に沈めて倒したようだ。

 ダンジョン内で大怪我を負ったり意識を失って一定時間経過すると、強制的にダンジョンの外へ出されてリタイヤ扱いになってしまうのだが、ヴィーがリタイヤ認定される寸前にボスの討伐が完了したとのこと。


 その時点でボス部屋に残っていたのがヴィーとハットリのみということは、報酬は二人で山分けになったはずだが、ジークパーティーのビジター扱いで入場しているため、これでジークパーティーはヴィーがつきつけた地下49階クリアというミッションを達成したことになる。


 これでまた会合を招集することになるだろうが、ジークは今回の件についてどう思っているだろうか。

 曲がりなりにもパーティーのリーダーとして数年間活動しているのだ、その矜持があればもう一度自分たちの力で挑戦し直すのが筋だと思うが、下衆なジークのことだからパーティーでクリアしたのは間違いないのだからと正当性を主張する可能性も大いにある。


 ただそれで最下層の討伐隊のリーダーになったとしても、ユリウスやトミー、そしてロイパーティーの面々は参加しないだろう。

 今回のジークパーティーの無謀な挑戦はすでにあの街で大きな話題になっているに違いない。

 

 ヴィーが逃げ遅れた冒険者たちを助けるために一人でボスに立ちはだかったのは立派だが、あまり無茶をするなと言いたい。


 自分がそばにいればこんなことにはならなかったのに、どうして……やり場のない怒りとやるせなさが募り、大きなため息が漏れる。


 すると突然ヴィーがガバっと上半身を越したものだから驚きのあまり「うわっ!」と妙な声が出た。

 

「ヴィー! 大丈夫か!?」

 そんなに勢いよく体を起こしたらまた脳震盪でも起こすんじゃないかと心配で、いつもの「ヴィクトリア」ではなく思わず「ヴィー」と呼んでしまった。

 

「ロイさん?」

 そう呼ばれて体が先に反応した。

 ぎゅっと強くヴィーを抱きしめて、目を覚ましてくれた安堵とようやくロイの正体に気づいてくれた喜びに浸る。

「ああそうだ、俺だよ、ヴィー」


 まったく、気づくのに随分遠回りしたな。

 そう思っていたのだが、目が良く見えないと訴えるヴィーの顔を覗き込むとカピカピになったゼリーがべったりと張り付いていて、しかも会話が噛み合わなかった。


 結婚したのだと告げられてようやく理解した。


 声でロイだと思っただけで、まだ気づいていなかったのか――。



 ロイが好きだったのだと秘密の告白を聞いて、嬉しいような嬉しくないような何とも複雑な気持ちになった。

 

 ヴィーにとってはロナルド・マーシェスとの結婚は不本意で、本気で二年後に離婚するつもりなんだろうか。今なら本音を聞き出せるかもしれないと思って、どんな夫なのかと質問してみた。


 かっこいいと言われて少し浮かれながら他にはと聞いたら、クズだと言われて落ち込んだ。

 さらに聞いてみたらそれ以上の表現は出てこなくて、ヴィーは夫のことを「見てくれはいいけど中身はクズ」としか思っていないことがわかった。


 これは確かに夫婦の危機だ。

 早くそのカピカピなゼリーを取り除いて目視で確認させなければと部屋を出た。


 しかし、別室で待機していたメイドに湯とガーゼを持ってくるように頼み、部屋に戻った時にはヴィーは再び眠っていて、朝まで目を覚ますことはなかった。



 

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