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(3)

 実際、ジークパーティーが地下49階をクリアするのにどれぐらいの日数がかかるのかは見当もつかない。

 もしかすると明日かもしれないし一年先かもしれない。

 でもロイさんが戻って来ないことが確定したことで、正直もうどうでもよかった。

 

 わたしもこのまま引退してしまおうかと思ったが、ここまで首を突っ込んだ手前「やーめた!」という訳にもいかないだろう。

 その落としどころとして、大きな責任がのしかかる討伐隊のリーダーを本人の希望通りジークさんに譲ることにしたのだ。

 ただし以前ユリウスさんに言われた通り、自分のパーティーメンバーが命の危険に晒されるのは御免こうむりたいから、リーダーを担う統率力や戦略を立てる能力があるのか証明してもらいたいだけだ。



 次回の会合はジークパーティーが地下49階をクリアした後でということを申し合わせて散会となった。


 帰り際にユリウスさんに「提案があるんだけど」と小声で言われた。

「協会長さんの魔力すごくない?あの人パーティーにスカウトしてみたら?」


「ええっ!? でもあの人、ダンジョンの運営側でしょう?そんな人が冒険者になっていいんですか?」

「やっぱりダメか」


 それ以前に、わたしの旦那様っていう時点でアウトです。魔法は嫌いだって言ってたし。

 そう思いながら、あははっと笑ってごまかしておいた。



 会合の後、酒場に戻って着替えたが、ハットリはソロでダンジョンに潜っているのか不在だった。


 パーティーの連絡係であるビアンカさんに今回の会合の内容を伝えてから待ち合わせ場所の広場へと向かった。

 到着したのは約束の時間ちょうどぐらいで、旦那様は先に来ていたらしくベンチに座っていた。


「お待たせして申し訳ありません」

 駆け寄っていくと、旦那様はにっこり笑って立ち上がった。

「私もついさっき来たところだ。お疲れ様」


 え、なぜわたしのほうが労われているの?

 そんなに疲れた顔でもしているのかしら。


「旦那様こそお疲れ様です」


「今日は私がイカ焼きを食べたい気分なんだ。付き合ってくれないか」

「はい。そうしましょう!」

 今日はわたしもイカ焼きを食べたいと思っていたところだ。


 旦那様が歩き出すと同時に自然に手を繋いできた。

 冷たくてピリッとする感触で旦那様が手袋をしていないことに気づいて手元をじっと見てしまった。


 さっきこの手でわたしたちを氷漬けにしようとしたのよねえ。怖い人だわ。

 でも今日の旦那様はいつもより上機嫌だ。

 わたしを気遣ってのことなのか、単純に機嫌がいいだけなのかはよくわからない。


 髪が突然短くなったのは心を病んでいるせいではなくて、ダンジョンでミミックに食べられちゃっただけですから安心してくださいと言えたらいいのだけど、言ったら言ったで大変なことになるだろう。



「来月、ダンジョンでクラーケンの討伐会を予定しているんだ」

 香ばしい焦げ目のついたイカ焼きを二人で頬張っていると、旦那様がおもむろに話し始めた。

「一緒に来るか?」


「え……っと、わたしがクラーケンの討伐会にですか?」

「前にクラーケンの話をした時に興味深そうに聞いていたから、どうかと思ってね」

「いいえ、わたしは何の役にも立たないどころか足手まといになるでしょうから遠慮しておきます」


 突然何を言い出すのやら、そんな身バレの危機は御免です。

 実際、海上では土魔法は全く使いようがなくて、以前クラーケン討伐会に参加した時もわたしは浮かれてキャーキャーはしゃいでいただけだった。


 そうだった、あの時もわたしは、一緒に行こうと誘ってくれたロイさんに「何の役にも立たないから」と言った記憶がある。

 それでも当日になって「ここにいる全員、強制参加な」と言われて結局参加したんだっけ。


 次もまた一緒に参加しようぜと言って満足げに笑っていたロイさんはもういない。

 目の前にそびえる大樹を見上げているうちに何とも言えない虚しさが込み上げてきて涙がほろりとこぼれ、旦那様には見つからないようにそっと拭ったのだった。

 


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