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冒険者協会の会合に参加しました(1)

 ビアンカさんの酒場の二階、我がパーティーの拠点にしている部屋には今日もハットリがいた。


「ひっ!ど、どなたでしょうか!?」


「何びっくりしてるのよ、わたしよ、ヴィーよ」


 ハットリの視線はわたしの姿を頭のてっぺんからつま先まで三往復ぐらいして、ようやく納得したらしい。

 いつもカーゴパンツで髪をおさげにしているわたしが貴族の若奥様風の恰好をしているのだから、誰だかわからなくても無理はないのかもしれないけれど。


「何だよ、ビビらせんなよ。他にも土から出てくるメンバーがいるのかと思っただろ。今日は会合とやらのために、そんなおめかししてきたのか?」


 なわけないでしょう!




「ハットリ、そのほっかむりと服、貸して」


「はあっ!?」

 あまりにも唐突なお願いにハットリがたじろいでいる。

 しかしここで時間を食っている場合ではない。

 

「だから脱いで。お願い!説明している時間がないのよ、もう会合が始まってしまうわ」


「ほっかむりじゃなくて頭巾な」


「何でもいいわよう、早くしてっ!」

 わたしの剣幕に押されてハットリが戸惑いながらも服を脱ぎ始め、わたしはその服をひったくって隣の部屋で着替えた。

 ドロワーズの上からサロペットパンツのような下衣をはき、上衣を羽織ってハットリの元に戻ると「合わせが逆だ」と言われて直された。


「頭巾は洗いたてのきれいなやつがあるから」

 そう言われて出て来たのは1枚の布で、それを器用に巻いてくれたらあっという間にハットリとおそろいのほっかむりになった。


 ほっかむりには、顔を全て出す結び方のほかに鼻と口まで覆う結び方もある。

 今回はもちろん鼻と口も覆ってもらった。


 あら、すごい。

 髪もまとめて中に入れたし、目しか見えていないからこれだったらバレやしないわ。

 そう思いながら視線を何気なく下に向けて驚いた。


 白い…ひもパン?

「ハットリの下着、セクシーすぎない!?やだ、変態」


「あのなあ、おまえが脱げとか言うから俺がこんな格好になったんだからな。これは、ふんどしっつって俺の故郷では男はみんなこれだっつーの!」


 しまった、ハットリの攻めた下着なんてどうでもよかったわ。

 急がないと!


「じゃあ、行ってくるから。ありがとう、また後でね!」

 鉢植えに飛び込みながら手を振った。


 ハットリの大きなため息が聞こえた気がした。



 冒険者協会の敷地を囲む植栽の土までワープして走って建物の中に入り、少々遅刻して会議室の後ろの扉を開けた。

「遅れて申し訳ありません。ロイパーティーです」


 円卓にはすでにほかの参加者たちが着席している。

 開いている椅子に座ると、左隣が懇意にしてもらっているユリウスパーティーのリーダーだった。


「ヴィーちゃん、なにその恰好」

「知らないんですか?ニンジャスタイルですよ」


 なにそれと言いながらユリウスさんが笑うと、ゴージャスにカールしたハニーブロンドの長髪が揺れる。

 顔も中世的な美しさがあり、彼のことを女性だと勘違いしている人も多いようだ。

 物語によく登場する「エルフ」という種族がもしも実在するのなら、たぶんユリウスさんのような容姿に違いないと思う。


「そろそろ始めてもいいか」

 ユリウスさんと笑みを交わしていたら、旦那様のピリっとした声が聞こえた。


 姿勢を正して「お願いします」と一礼し、顔を上げた時に旦那様と一瞬目が合った。

 旦那様は眉間にしわを寄せて険しい顔をしている。

 遅刻してきてヘラヘラするなと思われただろうか。


 わたしの正体に気づかれてはいないと思う。

 気づかれるはずがない、目元以外は全部隠しているんだもの。

 


 今日の議題は、マーシェスダンジョン最下層のボス討伐の協力を仰ぎたいという我がロイパーティーからの要請で集まってもらっているため、座長である旦那様から「ではロイパーティーの代表者からひと言お願いします」と促されて立ち上がった。


「本日はお忙しい中ご足労いただきありがとうございます。地下48階のボスレイドでご一緒した方も、そうでない方も協力してマーシェスダンジョンの完全制覇を目指しましょう。どうぞよろしくお願いします」

 

 大きな声でハキハキと挨拶をして頭をぺこりと下げた。

 リアルでは旦那様の前で小さな声しか出していないため、そんなお飾り妻がこんな大きな声を出せるということを知らないだろう。

 

 着席しながらもう一度チラリと座長席を見ると、なぜか旦那様は笑っていた。




 我がパーティーが初めて他のパーティーに協力を仰いだのは地下48階のボス討伐だ。


 リーダーのロイさんは地下47階をクリアしたその日の酒場での祝杯の後、自分の武器である大剣をわたしに「磨いといて」と手渡し、ふらっと酒場を出て行った。

 まさかそれっきりロイさんが戻って来ないなんて思っていなかったわたしたちは、次の地下48階の攻略を進めてボス部屋まで辿り着き、そこから数日間ロイさんの帰還を待った。

 しかし何の音沙汰もなく、ロイさん抜きでボス討伐という難関に立ち向かうにあたり、話し合いを重ねた末に他のパーティーに協力してもらうこととなったのだ。

 合同討伐会への参加資格は、地下40階まで到達しているパーティーという条件付きで。


 それに手を挙げてくれたのは、ユリウスさんと、元ロイパーティーのメンバーでわたしの加入と入れ違いぐらいに「友人と新しいパーティーを結成することにした」という理由で脱退したトミーさんだけだった。


 BAN姉さんに手を焼き、そこで足止めを食っているパーティーは他にもたくさんある。

 ロイパーティーのビジター扱いで地下48階の討伐に参加してボスを倒せば、クリアできてないBAN姉さんをとりあえずスキップして次に進めるため、もっとたくさん集まることを期待していたのだけれど…。


 その理由は、あまりにもロイパーティーが嫌われていたためだ。

 リーダーのロイさんの、時にはライバルのパーティーを無理に押しのけてまでボス部屋一番乗りを果たさないと気が済まないという呆れるほどの負けず嫌いな性質や、暴言、粗野な振る舞いは、まるでガキ大将のようだった。

 しかも強いのだから、誰も文句が言えなかったのだ。


 だから、わたしが加入するまでは他のパーティーとの交流も一切なかった。

 そこに風穴を開けたのがわたしだと自負しているけれど、ロイさんがいなくなってしまった今となっては、それが良かったのかどうかわからない。


 秘密主義で、他のパーティーに有益な情報など教えてやるものか!と言い張るロイさんを説得してダンジョンの階層別の詳細な地図を作って売ろうと提案したのはわたしだった。


「装備を強化するお金ないんでしょう?だったらそれを稼ぐために地図を公表しましょうよ。絶対に売れます」

 地図を印刷するための初期費用はBAN姉さんのクリア報酬から自腹で出すからと言って、渋るロイさんの首をようやく縦に振らせたのだ。


 その商いを通じて、わたし個人は他のパーティーとも交流を持つようになった。

 何故あなたみたいな普通の愛想のいい女の子があんな乱暴なパーティーにいるのかと聞かれる度に「ロイさんは身内には優しいんですよ」と答えた。

 ロイさんの恋人なのかと聞かれた時は「いやいや、まさか!あの人はダンジョン一筋だからそういう目で女性を見ることは一切ありません」と答えた。


 ロイさんの粗野な振る舞いでよそのパーティーと揉めた時には、わたしが頭を下げて回った。

「もう、あんなヤツのそばにいないほうがいいよ。うちのパーティーに来ない?」

 そんな風に誘ってくれる人もいたし、ロイさんと大喧嘩するたびにもうこんなパーティーやめてやる!と思ったこともあったけれど、それでもやっぱりわたしはロイさんのそばにいたかった。


「それでもほっとけないんでしょう?それはもう恋だよ。だからどうしようもないよね」

 優しい笑顔で頭を撫でてくれたユリウスさんはよき理解者で、かといってロイパーティーの味方をしてくれるわけでもなく、毅然とした態度で中立の立場を貫いていた。


 その一方で、ロイさんと武器がかぶる同じ大剣使いのジークさんが率いるパーティーはとにかくロイパーティーを毛嫌いしていて(過去にさんざん揉めたらしい)、地下48階の討伐隊メンバー募集の呼びかけに対してもさんざん邪魔をしてくれた。


 パーティー単位でクリアするのが暗黙のルールのはずなのに、それを破って共闘したらBANされるかもしれないという嘘の情報を流したり、あんなパーティーの手助けなんてしないほうがいいと自分側に引き込んだりと、姑息なことをされた結果、手を挙げてくれたのがユリウスパーティーとトミーパーティーだけだったというわけだ。



 そして今日、この会合のテーブルには、その天敵ともいえるジークさんも座っている。

 これは間違いなく一波乱も二波乱もあるなと覚悟して気を引き締めた。



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