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(3)

 さてと、それじゃあ美味しいという噂のイカ焼きを食べてから帰ろうと思って、ダンジョンで拾った金貨ってどこで換金するのかしらとつぶやいた独り言を聞いたくまーが、メル紙幣を出してくれた。


「ええっ!もしかしてくまーって、換金機能も備えてるの!?」


 くまーが得意げな顔で頷く。

 凄い、便利過ぎるっ!


「乗れたりもする?」

 恐る恐る尋ねると、直立をやめて四つん這いになったクマーが背中に乗れと促してくれた。

 のそのそと歩くくまーに跨ったまま「山分けスペース」を出た。

 乗り心地は悪くない。


 そのままダンジョンの出口へと向かう。

 先程のエルさんの説明では、ペットを召喚できるのはダンジョン内と冒険者協会の敷地内のみとのことだから、出口に着いたらくまーとはしばしお別れだと思っていたら「あの…」と声を掛けられた。


 声のする方向に目を向けると三歳ぐらいの男の子と母親が立っていて、男の子が「くまさんだー!」と言って喜んでいる。

「そのクマの乗り物はどこで乗れるんですか?」

 母親はくまーをレジャー施設の乗り物だと思っているらしい。


 いや、これは私物です…と言うのも何だか夢がない気がして、男の子に「乗りたいの?」と聞くと、元気よく頷いた。

 仕方あるまい、少しだけ乗せてあげよう。

 そう思ったのが失敗だった。


 僕も乗りたい、わたしも乗りたいと、あっという間に人だかりができてしまったのだ。

 どうしましょう!?とレジャー施設の係員のお姉さんに助けを求める視線を送ると、すぐにやって来てくれたのだが…。


「はい、良い子のみなさーん。順番に並びましょうね!」

 お姉さんの誘導に従って、子供たちは何ともお利口なことにおとなしく並び始めた。


 いやいや、違うから!

 

 

 子供たちを順番に乗せて歩くくまーは、疲れた様子も見せずに淡々と引き受けてくれているけれど、並んで一緒に歩いているわたしのほうが疲れてきた。

 最初に断るべきだった。というか、くまーに跨って出口まで行こうだなんて子供っぽいことをしなければよかったという後悔が押し寄せて来る。


 エンドレスになりそうな様相にどこで終わりにしたらいいのか決めあぐねて、まだ列に並ぶワクワク顔の子供たちを見てため息をついた時、聞いたことのある声が聞こえた。


「だから言ったじゃんか。あそこでペットが報酬になっているのは、次の階でペットが必要だからだよ。どうすんの、ロイの態度のせいであの子のこと怒らせちゃったんだからね?」

「はいはい、どーせ俺のせいですよー」


 どうやら地下41階から戻って来たところらしい。

 あの子とはもちろん、わたしのことだろう。


 この状況を見られたらマズいんじゃなかろうか…と思って離れようとしたのに、すぐに見つかってしまった。


「おいコラ、てめえ貴重なペットをレジャー施設の乗り物にしてんじゃねえよ!」

 ほんわかムードの広場に似つかわしくない怒声が響き渡る。


 もう二度と会いたくもないと思っていたロイさんと、ものの三十分で再会してしまったのだった。




 とまあ、そんな経緯があってね、結局わたしはロイパーティーに加入することになったの。


 ダンジョンからの帰り道、ハットリにロイさんたちとの出会いを語り、最後にそう締めくくった。

 横で聞いていたエルさんも頷いたり、わたしの記憶違いを訂正してくれたりしていたけれど、金貨をネコババするつもりなんて毛頭なかったというエルさんの主張が正しいかは疑わしい。


「いや、待て。最後のほう話が飛びすぎてないか?レジャー施設の乗り物になったくまーを見咎められて、そっからどうなったんだ?」


「ふふっ、それはまた今度ね。だって夕食の時間だからわたし帰らないと」

 もう時間が無いからきょうはここまでだ。

 

「お疲れさまでした。エルさん、明日の話し合いで最下層のボスの討伐日程が決まるかもしれないんで、そのときはビアンカさんに言づけますね」


「うん、ありがとう。じゃあまたね」



「あの光景、なかなか慣れないんすけど」

「あははっ、そのうち慣れるよ」

 土にボコボコと沈んでいくわたしを指さして、ハットリとエルさんがそんな会話をしているのが聞こえたが、わたしはそれよりも、その直前に自分が発した言葉に何か引っかかるものを感じて、その正体が何なのかを考えていた。


 エルさんがサイクロプスの討伐に参加できるか否かが気になっている…わけでもないし、話し合いの時間は午後からにしてもらったから問題なく出席できるはずだ。

 場所は、冒険者協会本部の会議室で———!わかった!


 そう思った時に、自宅の図書室に到着していた。



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