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(2)

「手続きはこれで完了しました。ハットリ様は本日からロイパーティーのメンバーであることが正式に認められました。今後も良いダンジョンライフをお過ごしください」


 冒険者協会のパーティー統括課窓口の職員から返却された冒険者登録カードの裏面を、ハットリが感無量といった様子で眺めている。


「おめでとう。では早速そのカードで地下40階に行ってみようか!」

 エルさんがノリノリだ。

 ハットリなら攻略できると踏んでいるのだろう。


 それに対しハットリは浮かない顔をしている。

「あのう…実はさ…」

 言いにくそうに口をもごもごさせながら、昨日の加入テストで張り切りすぎて手持ちの手裏剣が底をついてしまったから、今日は戦えないという。


 確かに昨日、惜しげもなく手裏剣投げまくってものねえ。

 パーティーの加入テストだったんだから、もったいぶってる場合じゃなかったんだろうけどね。


「あら、ちょうどよかったわ」

 わざとらしく手をポンと合わせてにっこり笑う。


「地下40階には敵がいないのよ。入ってすぐの部屋でお姉さまから鍵を受け取ればいいだけなの」


「ほえ?」

 間抜けな声をあげるハットリを引っ張ってダンジョンに入る。

「だから丸腰で問題なし!さ、行きましょ!」


 転移水晶で地下40階まで行き、目の前の扉を開けると狭い部屋の中に椅子に座るボスがいる。

 このフロアは、たったのこれだけの空間しかないとても奇妙な構造なのだ。


 椅子に座るボスは、真っ白な肌と真っ白な長い髪から淡い光をぼうっと放つ人の形をした発光体で、小さな顔には不釣り合いなほどに大きくて不気味な深紅の瞳を真っすぐにこちらに向けている。


 通称「BAN(バ ン)姉さん」、その名前の由来は後程説明するとして、わたしとエルさん、トールさんはBAN姉さんと目を合わせないように扉の陰に隠れた。


「あの光ってるお姉さまから鍵をもらってきて」

「おう」


 やはりハットリは素直なのだろう。

 詳しい説明を求めることなく、ボス部屋へと入っていく。


「あのう、鍵もらえます?」

 ハットリの声が聞こえる。


「ありがとうございます」

 鍵を手に戻って来たハットリは、扉に隠れているわたしたちを見て「何してんすか」と首を傾げた。


 やった!

 ボスクリア!討伐完了!


 扉をお尻でドンと突いて閉めながらエルさんと抱き合って喜んだ。

 トールさんも無言で手をパチパチ叩いている。


「は?何?」

 何もわかっていない様子で戸惑うハットリにもエルさんが抱き着く。


「すごいね、ハットリくん。頼りにしてるよ」

「だから、何?」


 クスクス笑って再び扉を開けながら説明する。

「さっきのBAN姉さんなんだけどね、実はこの階層のボスなの」


 小部屋にはBAN姉さんの姿はなく、先ほどまでBAN姉さんが座っていたはずの木製の椅子の座面に宝箱があった。


 この階層はBAN姉さんから鍵を受け取ることでクリアとなり、その戦利品がこの宝箱なのだが、このボスの厄介なところは、人の悪意を敏感に感じ取りそれを跳ね返すだけでなく、悪意を向けられたと感じるとその対象者をダンジョンからも冒険者協会からもBANするというペナルティーを与えるのだ。


 BAN(バ ン)とは強制的かつ一方的な登録抹消のことで、このペナルティーをくらうと当然ながらこれまでの登録カードが使えなくなり、冒険者登録手続きやパーティー加入手続きがやり直しとなる上、一旦登録を抹消すると三日間は再登録できないという規定まであるため非常に厄介なのだ。


 ロイパーティーが初めてこの地下40階に到達した時、何も情報がない状態でいきなりロイさんがボスに斬りかかり、その直後に姿を消したという。

 それに驚いたエルさんが魔法によって紡いだ強力な衝撃波を叩きこもうとしてまた姿を消し、慌てたトールさんが斧を振り下ろして姿を消した。


 ほかのメンバーも似たような状況で、最後に残った一人は扉の外から見ていただけだったにも関わらず、ボスの深紅の目を見ているだけで恐怖心が倍増していき、その場に倒れそうになったところでダンジョンからBANされて外に放り出されていたという。

 そしてそこには、先に姿を消したメンバーたち全員が倒れていたらしい。

 

 ロイさんの利き腕は肘から先が大剣を握ったままの状態で少し離れた場所に落ちており、エルさんはお腹に大きな穴が開いていて瀕死、トールさんも頭に斧が刺さっているという、何とも凄惨な状態だったようだ。


 ちなみにこの街には優秀な神官が常駐している治療院があり、ダンジョンで命を落とすことは滅多にない。

 処置が早ければほぼ死んでいる状態だって生き返る。

 ただし蘇生や大怪我の治療には相当な苦痛が伴う上に膨大なお金がかかるため、死なないに越したことはない。


 しかも、発見が遅れてミイラ化・白骨化していたり腐乱していた場合や、魔物に食べられて消化されてしまったとか、灼熱の炎で一瞬にして灰になってしまったとか、粉々に爆散した場合はさすがの腕利きの神官でも蘇生・再生は不可能だ。


 この地下40階のボスの噂はロイパーティーが全滅したという衝撃的なニュースとともにダンジョンマニアの間で拡散され、その噂を聞きつけてよそのダンジョンのベテラン有名パーティーまで駆けつける事態となった。


 最初に箝口令を敷いたところで無駄だったのかもしれないが、実はこれが大失敗だった。


 ボスに攻撃を仕掛けたらそっくりそのまま跳ね返される、おまけに登録抹消までされるということで、このボスは誰が命名したのか「BAN姉さん」と呼ばれるようになったのだが、それだけではなかった。

 

 このボスを攻略しなければ先には進めない。倒すべき憎らしいボス。

 そんなことを心の中で思っただけでBANされるということも判明したのだ。

 最初にロイパーティーが全滅した時、最後の一人が何もしていないのにBANされたのはこのためだった。

 だから、姉さんがボスであるということを意識してはならないということだ。


 ロイさんは冒険者協会に「仕様がおかしい!こんなの無理ゲーだろ」と猛抗議したようだが、冒険者協会がダンジョンを作っているわけではなくダンジョンマスターから運営委託を受けているだけであるため、攻略に関する質問や苦情を寄せられてもお答えしかねると一蹴されたんだとか。

 おまけに、再登録手続きが殺到するせいで通常業務が滞るという理由で、地下40階の攻略は原則1パーティーにつき週1回までとするという規定まで設けられてしまった。


 もしやBAN姉さんはダンジョンマスターなのかもしれない。

 マーシェスダンジョンは地下40階が最下層なのか。

 そんな憶測が流れ始めた頃、初めて攻略に成功したパーティーが出た。


 BAN姉さんの攻略に成功したのは、南方から噂を聞きつけてやって来たパーティーで、地下40階までをたったの一週間で駆け抜けて到達したらしい。

 成功者はパーティーのリーダー……が飼っているリスザルだった。

 

 扉が開くと同時にリーダーの肩から飛び降りて制止も聞かずに駆けだしたリスザルが、BAN姉さんの膝に飛び乗り、何かを語り掛けるようにキキッと鳴くと、BAN姉さんは姿を消して宝箱が現れリスザルの手にはその箱を開けるための鍵が握られていたという。




余談ですが、某MMORPGでBOTと間違われてBANされたことがありますww

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