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五話(最終回) 意外すぎる再会 

ランスロットは剣を振り上げました。


「姫様、あなたの命を私に下さい!」


慈悲深いヒロインなら素直に受け入れたかも知れません、でも私は誰かの犠牲になるなんてまっぴらです。


「嫌よ、私は生きる!」


「御免…」


ランスロットは剣を振り下ろしました。


カキーン


一瞬の火花。


私の前には、火かき棒で剣を受け止める少年がいました。


少年は剣を払いのけると、私をかばいながらランスロットと間合いを取りました。


「ここは僕に任せて逃げてください」


「でも…」


「大丈夫、僕は強いので」


少年はウインクしました。


「薬を届けたら戻ってきます!」


私はそう言うと、お婆様のいる湖畔の村に向かって走り出しました。


 * * * * *


夜の森は何が出るか分からない魔の領域です。でも今はそんな事、気にしていられません。


私は破裂しそうな心臓を抱えたまま走り続けました。


 * * * * *


幸運にも何も起きないまま湖畔の村に到着しました。


私は記憶を頼りにお婆様の家に辿り着きました。


お婆様はメイドと二人暮らしです。私を迎えたメイドは憔悴した顔で、お婆様は突き当りの部屋にいると告げました。


「お婆様、赤ずきんです」


部屋に入るとお婆様はベッドで頭から布団を被っていました。


「お婆様、薬をお持ちしました」


声を掛けても返事はありません。


「グルルル…」


くぐもった唸り声を上げながらベッドから何かが這い出してきました。


それは、狼でした。


獲物を狙うようなその目を見た時、私は直感しました、手遅れだったのだと…


 * * * * *


トアル城、王妃の間。私は帰ってきました。


「赤ずきん、ご苦労様でした。先代王妃様の容態はどうでした?」


私は継母の質問を無視しました。


「お継母さま、訊きたい事があります。前王妃、私のお母様を殺したのはあなたですね?」


「何を言い出すのです。そんな訳無いでしょう!」


「ローザが告白しましたよ。親友だったお母様から王妃の座を奪う為に、隠し持った狼の血を注射し人狼病に感染させ、更に秘薬を偽物にすり替えたと」


「たかがメイドの言葉なぞ誰が信じるでしょう」


継母は開き直りました。


「じゃあ、俺の事は覚えているか?」


「お前は何者です?先程から気にはなっていましたが…」


私の隣には、あの猟師が立っていました。


 * * * * *


狼になってしまったお婆様に襲われた私を救ったのは猟師でした。


森の中で私を見つけた猟師は、秘かに私を護衛してくれていたのです。


それから私は猟師の馬に乗せられて、野営していた馬車の元に戻りました。


しかし、そこにはランスロットの姿も少年の姿もありませんでした…


 * * * * *


猟師は継母に向かって歩を進めました。


「何なのですお前は、出て行きなさい!」


「俺か…俺はあんたに崖から突き落とされたウイリアムだよ」


継母は驚きを隠せませんでした。


そう、猟師は死んだと思われていた兄君のウイリアムだったのです。


一命を取り留めたウイリアムは前王妃派の手によって匿われ、成長してからは猟師に扮して街に潜伏し、復讐の機会を伺っていました。


ウイリアムは、城の内と外を結ぶ秘密の地下通路の存在を知っていました。


私が秘薬をお婆様に届けるという情報を得たウイリアムは、過去の出来事から秘薬が偽物である可能性が高いと推測しました。そこで、地下通路を使って城に潜入すると、秘薬を盗んで私の後を追いかけたのでした。


 * * * * *


「悪事の証拠は掴んでる、覚悟しろ!」


ウイリアムは継母を指差しました。


「認めません、認めませんよ私は…」


継母の悪あがき、これは私の想定した通りの反応です。


私は継母に詰め寄り、


「お婆様は手遅れでした…あなたにとってはどうでもいい事かもしれませんけど」


と言って右の袖をまくり上げました。そこには、はっきりとした噛み傷がありました。


「お婆様だった狼に噛まれた傷です。痛かったあ…」


「まさか…赤ずきん、感染したのですか!」


継母の顔色が変わりました。


遂に復讐の時が来たのです。私の筋肉は盛り上がり、全身を毛が覆い…そして私は、狼に変身しました―


顔面蒼白の継母に向かって、私は喉の奥から唸り上げるように言いました。


「判決を言い渡します、あなたは……死刑!」


私は大きな口を開き、継母の首筋に牙を立てました。


「ヒィィィィ…」


継母は死の恐怖に失禁し、白目を剥いて気を失いました。


 * * * * *


結局、私は継母を殺しませんでした。死をもって罪を帳消しにはしたくなかったからです。


それから、本当の母君は生きていました。完全に狼となり人としての記憶はありませんが、地下牢で鎖に繋がれながら生きながらえていたのです。


母君の為に柵に囲われた庭園を用意し、その面倒を一生を賭けて継母に見させる事にしました。それが因果応報というものです。


私は秘薬を使って自分の人狼病を治すと共に、緑の里にいるランスロットの妹も治療しました。


それから方々探し回りましたが、ランスロットも少年も行方は分からないまま時は過ぎていきました…


 * * * * *


あれから3年が過ぎました。


のんびり者の父王が早めの退位を希望した為、ウイリアムが王位を継ぐことになり、今日はその戴冠式です。


王の間でウイリアムと私は来賓を迎えては挨拶するという作業を繰り返していました。


「退屈ですね兄君…」


「退屈だな赤ずきん…」


私達は朝からこんな事ばかり話していました。


「リン国のナイジェル王子、ご来場ー!」衛兵が告げました。


「リン国の王子?」


私が訊くと、ウイリアムは首を横に振りました。


「俺も会った事が無いな」


大扉が開かれ、そこに立つ人物を見た私は目を疑いました。


「あなたは…」


「言ったでしょう?僕は強いと」


その人は、立派な青年に成長した、あの少年でした。


「もっと早く参上したかったのですが、しばらくの間、ランスロットを連れて辺境を旅していたので。勝手ながらランスロットは改心したと判断して故郷に帰しました。マズかったですか?」


「いいえ、それで…それが良いと思います」


運命の出会い、なんて信じてはいなかったけれど、もし万が一そんなものが存在するとしたら、きっとこれがそうなのだろうと私は思いました。


「ナイジェル様、辺境を旅した時の話、聞かせていただけますか?」


「はい喜んで!これがもう驚きの連続で、始まりは…」


     (完)

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