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一話 無理やりな旅の出発

私はトアル国の姫。


いつもフード付きの赤いマントを羽織っているので、皆からは親しみを込めて『赤ずきんの姫君』と呼ばれています。


王妃の母君は私が3歳の時に亡くなり、代わって父王は今の継母をめとりました。


いつも優しく笑っている継母。そんな継母が実は私の命を狙っていると気付いたのは6歳の時でした…


4歳の時、兄君が崖から落ちて亡くなり、王位継承者になった私。以来、自分の息子に王位を継がせたい継母は、折につけ私を危険に陥れようとするようになったのでした。


ある時は、階段で後から突き飛ばされました。反射神経で何とか姿勢を保ち、後を振り返ると、継母お付きのメイドのローザが走り去る姿が見えました。


またある時は、私が甲殻類アレルギーなのにも関わらず、食事にすり潰したエビの殻が混ぜてありました。瞬間的に吐き出して事なきを得ましたが、これも継母が故意にやった事だったのです。


それでも父王は継母の行動を怪しむ事は一切なく、私がそれとなく命を狙われている事を匂わせても何も察してくれない、呑気な人物でした。


そんな環境で育った為、いつしか私は驚異的な危険回避能力を身に付けるに至ったのでした。


「赤ずきん、先代王妃様がご病気になられたの。王家に伝わる秘薬を届けてちょうだい」


継母が私に告げました。先代王妃つまり私のお婆様が住んでおられる湖畔の村の別宅は、城から優に四日はかかる距離です。


「お継母(かあ)様、私が行く必要はあるのでしょうか?」


私の心のアラームが危険を告げています。私は何とかこのお役目を回避しようと思いました。


「そうじゃなあ…途中の森には盗賊や人喰い狼も出るというし、赤ずきんを行かせるのは危険じゃろう」


ナイス!珍しく父王が私の味方についてくれました。


「そうはいきませんわ!王家に伝わる秘薬は、本来、門外不出。それを持ち出すのですから誰か王家の物が帯同するのは当然です」


継母は譲りません。


(どんな理屈だよ。薬と娘の命とどっちが大事なんだーって言ってやれ、お父様!)


「言われてみればその通りじゃ。王家に伝わる秘薬を運ぶには、やはり王家の人間が帯同しなくてはならんな」


(お、お父様あぁー……こいつ、やっぱりポンコツだ!)


「王家の者で今自由に動けるのは赤ずきんのみ。そんな訳でこのお役目、よろしくお願いしますね」


継母はいつもの貼り付けたような笑顔で私に告げました。


「では、私が同行いたしましょう!」


名乗り出たのは騎士隊長のランスロットでした。


(キャー、ランスロット様!)私は心の中で叫んでいました。物心ついた頃からランスロットは私の憧れの人だったのです。


「ランスロット、お前には国の一大事に城を守るお役目があります。城を離れるなぞ許されませんよ」


継母はたしなめるようにランスロットを見て言いました。


「お城と同様に姫様を守る事も私の役目。今回ばかりは従う訳にはいきません!」


(じーん…ラ、ランスロット様…)私は感動していた。


「仕方ありませんね…ランスロットの帯同を許しましょう」


継母は渋々許可を出しました。


それから私の方に向き直って、


「それでは頼みましたよ赤ずきん。くれぐれも狼には気を付けて…」


と、心配するように言ましたが、その顔には不敵な笑みを浮かべていました。


 * * * * *


「それでは行きましょう。出発!」


私達を乗せて馬車は走り出しました。


御者台には使用人のガストンが、車内には騎士ランスロットとメイドのマリイと私が乗っています。


「ランスロット様、ありがとう、私について来てくれて」


「ランスロットとお呼びください。私は我が王より姫様をお守りするように仰せつかっています。ですから命をかけても姫様をお守りします」


「守ってくれるのは仕事だから?それだけ?」


私はちょっとだけ意地悪く訊いてみました。


「いえ…失礼な言い方かも知れませんが、姫様を見ていると故郷にいる妹を思い出すのです」


(い、妹ですか…)ランスロットの言葉で私は撃沈したのでした。



それでも、落ち込んでばかりもいられません。継母はきっと刺客を送り込んでくるはず。ランスロットが居るとはいえ、それだけでは対策不十分というものです。


何か相手の裏をかく方法を考えなくては…


「姫様、夕刻までには宿場町に着く予定です」


「ガストン、その前に寄ってほしいところがあるのだけれど」


私はある事を閃いたのでした。


 * * * * *


城下にあるトアル国で一番大きな市場、ここでは手に入らない物はないと言われています。


「これはこれは、赤ずきんの姫君様ではありませんか。本日はどんなご用件でございましょう」


店主はうやうやしい態度で私達を歓迎しました。


「今すぐに普通の馬車がほしいのだけれど」


私の言葉に店主は明らかに困惑しているようでした。


そうです、これこそ私の思い付いた作戦でした。王家の豪華な馬車では居場所を宣伝して回っているようなものです。私は極普通の馬車に乗り換える事で民間人に紛れ込もうと考えました。


「馬車は注文を受けてから職人が造りますので、今すぐにと言われましても…」


「新品でなくてもいいの、そこにある馬車でいいわ」


「これは売約済みですので、これを売ってしまってはお客様に迷惑がかかります」


「だったら、馬車を交換しましょう。私達がその馬車を使っている間、この馬車を自由に使っていいわ」


「王家の馬車を?滅相もありません!」


「湖畔の村まで往復する間だけよ。戻ってきたら言い値で買い戻しますから」


「どうしてそんなにお急ぎになられるのですか?」


「それは…国の大事な仕事としか言えません」


我ながら国の大事な仕事は言い過ぎだろうと思いましたが、この言葉に店主の気持ちは動いたようでした。


「分かりました。ではこの馬車はお貸しするという事で、どうぞお使いください」

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