物語No.92『魔女の真実』
病室を抜け出し、ある女性は戦場に向かっていた。
真実、ギルド第三師団師団長は全身に火傷を負った身体で歩き、戦場へ赴いた。
丁度その時、愛六の刃が百へ振り下ろされようかとしていた。
「虚構超越」
真実は神速の速さで愛六の懐まで移動し、彼女が今にも振り下ろそうとしていた刃を弾き飛ばした。
危機一髪の状況に驚きつつ、愛六の行動に全員が思考停止する。
全員に魔女の魔法が効かない中、なぜ愛六がこのような行動に出たのか。
問い詰めようと皆が駆け寄ったところ、愛六は逃亡を図る。琉球は追いかけるが、間に割って入ったのは魔女エンリだった。
「……っ!」
琉球は妨害を受けた。
「どういうことだ。愛六」
琉球は愛六の行動の意味が分からず、叫んで問いかけた。
愛六は足を止め、魔女の微笑みを浮かべて振り返る。
目はアーチを作り、口は三日月を作る。
「お前ら全員私に騙されていたんだよ。ずっと気付かなかったな」
愛六は残酷にも言った。
誰もその言葉が事実ではないと思いたかった。
だが愛六は続ける。
「私は私より目立つお前らが嫌いだった。特に三世、今までお前のことは散々見下していたのに、急に台頭した。私はそれに腹が立って仕方がなかったんだ」
愛六は本音を叫んだ。
事実、過去に似たようなことを愛六は言っている。
「私の思春期が魔女を産み出した。いや、私自身が魔女だった」
愛六は自分を理解していた。
「私は自己中心的な乙女だ。だが仕方ないだろ。お前らは私より断然活躍していた。私が主人公のはずなのに、お前らは私の邪魔をした。だからもう、全部壊してやりたかった」
愛六の表情は変貌していく。
狂気をまとい始めた。
「魔女は私の嫉妬そのもの。理解している。だから、この感情のままに私はお前らを殺そうと思ったんだよ」
暦は思い出す。
これまでのループの中で、常に狙われていたのは琉球と三世。
最初の世界線を思い出してみると、不可解なことが幾つかあった。あの時、魔女が出現した時、愛六の姿はどこにも見えなかった。代わりにフードで顔を隠した女性が魔女と名乗って現れ、琉球と三世を蹂躙した。
今思えば、簡単なことだった。
魔女の正体、そんなことは簡単に見破れた。
愛六は何度も三世を嫉妬の瞳で睨んでいたし、口にしたこともあった。そして魔女はこれまで愛六単体を狙ったことはなかった。
暦は頭を抱え、しゃがみこんだ。
これまで護ろうとしてきたものの常識が根底から壊されたのだから。
「間違っていようと構わない。私は鬱憤を晴らすため、異世界を終わらせる。ーーこれが私の思春期だ」
魔女はーー愛六は叫んだ。
彼女が口に出した言葉を、三世と琉球は声も出ず聞いていた。
告げられた真実は残酷で、受け止めきれないものだった。
魔女は止まらない。
異世界を壊すまで、彼女は破壊衝動をぶつける。
「真実も判然としたわけだし、最終決戦を始めようよ」
愛六と魔女は一つになった。
一心同体。
魔女の顔は愛六の顔へと変貌していく。
「お前らが私を殺すことができれば異世界は救われる。だが私がお前らを殺せば異世界は終わる。結末は二つに一つ」
魔女は告げる。
「さあ、殺し合おう」
そう叫ぶ愛六の表情は、これまでに見たことがないほどいびつに歪み、悪意を体現していた。