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(旧)一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3.4『VS魔女』編
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物語No.89『逆襲』

 魔女は、降霊術によって銀冰に死者を降臨させた。

 それは魔法警察を同じ時期に合格した同期の関係に当たる人物ーー銀狐。

 銀冰の意識が半分以上奪われ、銀狐に渡る。

 目覚めた銀狐は、目の前の状況に理解が追いつかなかった。結果、魔女は無慈悲に稲妻を浴びせた。


「……ああ、そうだったな。二階堂しいな」


 寸前でしいなが銀冰をかばい、稲妻を浴びた。

 即死に至る『致命的な流電デッドリー・エレクトロ』を浴びてもしいなは死ななかった。

 それはしいなの潜在能力『魔法無効化』によるものだった。

 自分が受けたあらゆる魔法を無効化する、魔女にとっては天敵となり得る潜在能力。


 銀狐は状況を完璧には理解できなかったものの、自分の置かれた状況を十数秒で感じ取った。

 自分が銀冰の身体に乗り移っていること。

 自分の命、つまりは銀冰の身体が命の危機に瀕していること。

 銀冰を護る人物が一人いるということ。その人物が魔法を無効化するということ。


 銀狐は状況を理解し、あることを思いつく。

 この身体には自分と銀冰の魂があるのではないか。だとすれば身体の制御を銀冰に返すことは可能ではないか、と。


「銀冰」


 心の中で、心臓の鼓動に乗せるように名前を呟き続ける。

 銀冰が目を覚ますまで、何度でも声をかけ続ける。


 その間にも、銀狐は銀冰の身体を動かし、魔女を討とうとしていた。

 魔女が敵であることは生きている間に知っていた。状況を鑑みて、魔女が世界を破壊しようとしているのだと考察し、魔女が行おうとしていることを阻止するべきだと動いた。


 剣と槍が交差する場所へ、攻撃を仕掛けようとしていた。

 銀狐は魔法を放ち、妨害を図る。


「ああもう邪魔」


 風に乗せて飛ばした氷は魔女の腕の一振りで掻き消えた。


「脆弱な魔法ね。そんなものじゃ自動で抵抗(レジスト)されるのよ」


 激情に駆られ、思わず口にした。

 自分の優位を明確に示すことで相手の動きは止まると、突発的な言動が走った。

 間違いだった。


 銀冰は魔法警察。

 武器は魔法だけじゃない。


「くらえ」


 魔女は咄嗟の反射神経で銃弾をかわす。だが銃弾は僅かに頬を掠めた。

 魔女が自分にかけていた強化魔法が強制解除される。浮遊魔法も消え、背中から落下する。


 銃弾は追撃する。

 二発目、三発目、銃弾が魔女へと放たれた。


 魔女は背中から突風を放ち、なんとか空中へ這い上がることで銃弾を回避した。

 左目を失い、左腕を失っている状況で魔法警察の銃弾は受けたくなかった。


 その間にも剣と槍は回転力を高めている。

 勇者が目覚めるまで時間はかからない。

 血が首もとへ逆転し、まるで時間が遡るかのように勇者の傷は消えていく。


「また勇者と戦うなんて冗談じゃないわ」


 勇者との戦いで負った傷が深い以上、これ以上勇者の相手をすることは望ましくない。

 再び勇者を倒した魔法、『身代わり人形は死んだ』を使うとしても、勇者は魔法に対する抵抗力を高める。

 その上、今回は歪みが発生したために魔法に支障が出やすい。


 先ほどは即死ではなかったために『身代わり人形は死んだ』が発動したが、勇者がこの魔法の特性を読み、対応すれば防げてしまう。

 魔女は苛立つ中、何度か剣に魔法を当てるも触れる直前に霧散する。


「まあそうよね。あらゆる理を壊す剣なのだから、仕方ないわよね」


 魔女は浮遊しつつ、高速移動していた。

 魔法警察コンビも魔女の高速移動に翻弄され、的を絞れずにいた。


「何を惑わされていた。私は魔女。全力を出してさえしていれば攻撃なんて当たらない」


(それとも……()()が来ると本当に思っているの。彼らに力を温存しようとしているとでも)


 魔女は焦っていた。迷っていた。


「そのことを考えるのは今はいい。今はただ……」


 魔女は勇者に雷を飛ばす。雷は勇者に直撃する、と明らかにその軌道だった。だが雷は当たる直前で霧散した。


「歪み……というより違うな。終わりの樹は終わりへ、始まりの樹は始まりへと向かう。つまり、私の魔法が発動する前の状態に戻されたか」


 魔法は無駄に終わった。

 だが気付く。

 勇者の傷の再生が遅れている。


「そうか。さっきの魔法は微かに当たっていたというわけか。それが再生したせいで、傷の逆転が遅れたってことね」


 魔女は思いつく。


「じゃあ攻撃を浴びせ続ければあなたは蘇ることはない。じゃあ、あなたへ無限の魔力の恐ろしさを教えてあげるわ」


 魔女は発動した。

 彼女の悪意が詰まった災厄を。


「星九下位モンスター魔法を喰らふ天空龍、並びに再び廻逆龍、そして星六相当のモンスター百体を召喚」


 一瞬でその場が魔に、恐怖に包まれた。

 星六モンスターは冒険者が千人から五千人で戦うべき相手。


 暦は一瞬で場を埋め尽くした大量のモンスターを見て騒然とする。


「そうよね暦。あなたは槍がないんだから、この子たちを出し惜しむ必要はないわよね」


 魔女の言う通りだった。

 暦は一切の魔法が使えない。その分槍術を淡々と鍛えてきた。武器を失った暦はモンスターにとっては好機の餌となる。


 しいな、銀冰もまた星六モンスターを討てるほど強くはない。

 魔法を使えるとしても、星六モンスターは一人で討てるほど弱くはない。

 潜在能力なし、始まりの樹から生まれた剣なしの勇者がギリギリ倒すことが出来る強さ。


 そもそも魔法警察は対人向きであってもモンスター相手では不利となる。


「星六って……」


「どう勝てっていうのよ」


 冷静になった魔女の前では、どんな相手も敵わない。


「焦って自分の強さを忘れていたわ。本当に馬鹿なことをしたわ。でももうそれも終わり」


 魔女は微笑む。


「左腕を失ったからって焦っていたけれど、もう大丈夫よね。私は最強」


 魔女の逆襲が始まる。

 無数の恐怖を引き連れて。

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